本記事では、直流を三相交流に変換する回路の一種である「三相電圧形インバータ(2レベルインバータ)」について解説する。
三相電圧形インバータの回路構成
三相電圧形インバータの回路構成を図1に示す。
図1 三相電圧形インバータ(2レベルインバータ)
図1の回路は、スイッチ(図ではトランジスタ)$\mathrm{S}_1\sim\mathrm{S}_6$および逆並列ダイオード$\mathrm{D}_1\sim\mathrm{D}_6$を組み合わせたアームを各相分2セットずつ、計6セット用いて構成されている。
本記事では、直流を交流に変換する回路の一種である単相電圧形フルブリッジインバータについて解説する。単相電圧形フルブリッジインバータの回路構成単相電圧形フルブリッジインバータの回路構成を図1に示す。 図1[…]
図1において、電源側には電圧$\displaystyle{\frac{E}{2}}$の直流電源を2つ用いており、電源側の中性点を$\mathrm{O}$とする。
一方、負荷側には各相のアーム間にある端子$\mathrm{u},\ \mathrm{v},\ \mathrm{w}$に誘導性の平衡負荷が接続されており、負荷側の中性点を$\mathrm{M}$とする。
そして、回路の電圧・電流については次のとおりとし、図1に示すものに関しては同図の方向を正とする。
- $v_\mathrm{uO},\ v_\mathrm{vO},\ v_\mathrm{wO}$:電源側の中性点$\mathrm{O}$を基準としたときの各相端子$\mathrm{u},\ \mathrm{v},\ \mathrm{w}$の電位(出力相電圧)
- $v_\mathrm{uv},\ v_\mathrm{vw},\ v_\mathrm{wu}$:各相端子$\mathrm{u},\ \mathrm{v},\ \mathrm{w}$間の電圧(出力線間電圧)
- $v_\mathrm{uM},\ v_\mathrm{vM},\ v_\mathrm{wM}$:負荷側の中性点$\mathrm{M}$を基準としたときの各相端子$\mathrm{u},\ \mathrm{v},\ \mathrm{w}$の電位(負荷相電圧)
- $v_\mathrm{MO}$:電源側の中性点$\mathrm{O}$を基準としたときの負荷側の中性点$\mathrm{M}$の電位(負荷中性点電圧)
- $i_\mathrm{u},\ i_\mathrm{v},\ i_\mathrm{w}$:各相の出力電流
- $i_\mathrm{d}$:電源に流れる電流
回路の動作と出力波形
回路の動作モード
図1の三相電圧形インバータの全ての動作モードを図2に示す。
図2 三相電圧形インバータ(2レベルインバータ)の動作モード
図2の動作モードは、次のルールに沿って基づいて構成されている。
- 上下アームのうち、片方がONの場合は、もう一方はOFFになる(例:$\mathrm{S}_1$がONのとき、$\mathrm{S}_2$は必ずOFFになる)。
- 各モードにおいて、アームの上側のスイッチがONになる場合を$1$,下側のスイッチがONになる場合を$0$と表記する(例:図2$\left(\mathrm{a}\right)$ モード1$\left(1,\ 0,\ 0\right)$の場合、ONになるスイッチは$\mathrm{S}_1,\ \mathrm{S}_4,\ \mathrm{S}_6$となる)。
上記のルールに基づくと、3セットの上下アームのON・OFFにより、動作モードとしては図2$(\mathrm{a})\sim(\mathrm{h})$のように$2^3=8$通りが存在する。
これらの動作モードの切り換えにより、図1の三相電圧形インバータは所定の出力を得ることができる。
回路の出力電圧波形
図3に三相電圧形インバータの出力電圧波形(出力相電圧$v_\mathrm{uO},\ v_\mathrm{vO},\ v_\mathrm{wO}$・出力線間電圧$v_\mathrm{uv},\ v_\mathrm{vw},\ v_\mathrm{wu}$)の一例を示す。
同図は、次のような条件で出力をさせた場合の波形となる。
- $\mathrm{u}$相には$\mathrm{S}_1,\ \mathrm{S}_2$,$\mathrm{v}$相には$\mathrm{S}_3,\ \mathrm{S}_4$,$\mathrm{w}$相には$\mathrm{S}_5,\ \mathrm{S}_6$がそれぞれ対応し、各ノッチ波(オン・オフ信号、図3の上側のグラフ)が$1$となったときに対応するアームの上側のスイッチが導通する。
- 各スイッチの通流率は$0.5$。
- 各スイッチのノッチ波の位相差はそれぞれ$\displaystyle{\frac{2}{3}\pi}$(スイッチ$\mathrm{S}_1,\ \mathrm{S}_2$のノッチ波を基準とすると$\mathrm{S}_3,\ \mathrm{S}_4$は$\displaystyle{\frac{2}{3}\pi}$,$\mathrm{S}_5,\ \mathrm{S}_6$は$\displaystyle{\frac{4}{3}\pi}$位相が遅れている)とする。
なお、グラフの点線間の位相差はそれぞれ$\displaystyle{\frac{\pi}{3}}$で区切られている。
図3 三相電圧形インバータ(2レベルインバータ)の出力電圧波形
図3では、図2$(\mathrm{a})\sim(\mathrm{f})$の動作モード1~6が順々に切り換わることにより出力がなされている。
(なお、図2$(\mathrm{g}),\ (\mathrm{h})$のモード7および0についてはここでは使用されない)
同図より、出力相電圧$v_\mathrm{uO},\ v_\mathrm{vO},\ v_\mathrm{wO}$は、対応するアームのうち上側がONの場合は$\displaystyle{\frac{E}{2}}$,下側がONの場合は$\displaystyle{-\frac{E}{2}}$となり、全体でみると振幅$\pm\displaystyle{\frac{E}{2}}$の方形波となることがわかる。
なお、各電圧の位相差はそれぞれ$\displaystyle{\frac{2}{3}\pi}$となる。
このように出力相電圧が$\displaystyle{\frac{E}{2}},\ \displaystyle{-\frac{E}{2}}$の2種類の値となることから、図1の三相電圧形インバータは「2レベルインバータ」とも呼ばれる。
また、出力線間電圧$v_\mathrm{uv}=v_\mathrm{uO}-v_\mathrm{vO},\ v_\mathrm{vw}=v_\mathrm{vO}-v_\mathrm{wO},\ v_\mathrm{wu}=v_\mathrm{wO}-v_\mathrm{uO}$は各位相における相電圧の差によって計算でき、$E$,$0$および$-E$の3種類の値をとる周期$2\pi$の方形波となる。
そして、これらの線間電圧の波形も位相差がそれぞれ$\displaystyle{\frac{2}{3}\pi}$となっており、三相平衡な電圧が出力されていることがわかる。
回路の負荷電圧波形
次に、図3の出力電圧の場合における、三相電圧形インバータの負荷電圧波形(負荷相電圧・負荷中性点電圧)を図4に示す。
図4 三相電圧形インバータ(2レベルインバータ)の負荷電圧波形
同図のうち、負荷側の中性点$\mathrm{M}$を基準とした負荷相電圧$v_\mathrm{uM},\ v_\mathrm{vM},\ v_\mathrm{wM}$は、値が$\displaystyle{\frac{E}{3}},\ \displaystyle{\frac{2}{3}E},\ \displaystyle{\frac{E}{3}},\ \displaystyle{-\frac{E}{3}},\ \cdots$と段階的に変化していく階段状の波形になる。
負荷相電圧の値の算出について
- 図2の各動作モードにおいて、電源と負荷のみで構成される等価回路を図4-1に示す。
図4-1 各動作モードにおける等価回路
図4-1より、各動作モードのうち今回使用されるモード1~6においては「2つの直流電源」「各相のうちいずれか1つの負荷」「残りの2つの負荷の並列接続」の直列接続で表せることがわかる。
(モード7,0においては3つの負荷の並列接続となるが、前述のように今回の場合は使用されない)
例えば、図4-1のうち$\left(\mathrm{a}\right)$モード1において、$\mathrm{u}$相電圧$v_\mathrm{uM}$と、$\mathrm{v,\ w}$相電圧$v_\mathrm{vM}=v_\mathrm{wM}$および2つの直流電圧$\displaystyle{\frac{E}{2}}$の関係は、キルヒホッフの電圧則より、その正負に注意して、
$$\begin{align*}
\frac{E}{2}+\frac{E}{2}-v_\mathrm{uM}+v_\mathrm{vM}&=0\\\\
\therefore v_\mathrm{uM}-v_\mathrm{vM}&=E
\end{align*}$$また、負荷のインピーダンスはいずれも等しいとすると、$v_\mathrm{uM}$と$v_\mathrm{vM}$の大きさの関係は、負荷への分圧を考えて、
$$\begin{align*}
\left|v_\mathrm{uM}\right|:\left|v_\mathrm{vM}\right|&=2:1\\\\
\therefore\left|v_\mathrm{vM}\right|&=\frac{1}{2}\left|v_\mathrm{uM}\right|
\end{align*}$$したがって、各電圧の向きに注意して、$\mathrm{u}$相電圧$v_\mathrm{uM}$を求めると、
$$\begin{align*}
v_\mathrm{uM}-\left(-\frac{1}{2}v_\mathrm{uM}\right)&=E\\\\
\therefore v_\mathrm{uM}&=\frac{2}{3}E
\end{align*}$$また、$\mathrm{u},\ \mathrm{v}$相電圧$v_\mathrm{vM},\ v_\mathrm{wM}$は、
$$v_\mathrm{vM}=v_\mathrm{wM}=-\frac{1}{2}v_\mathrm{uM}=-\frac{E}{3}$$
残りのモード2~6についても同様の計算ができるため、これらのモードが切り換わることで、結果的に負荷相電圧の波形は図4のようになる。
さらに、電源側と負荷側の中性点間の電圧$v_\mathrm{MO}$は、同じ位相タイミングにおける負荷相電圧(例えば$v_\mathrm{uM}$)と出力相電圧(例えば$v_\mathrm{uO}$)の差として計算することができ、例えば位相$\displaystyle{\frac{\pi}{3}}$における$v_\mathrm{MO}$は、
$$\begin{align*}
v_\mathrm{MO}&=v_\mathrm{uM}-v_\mathrm{uO}\\\\
&=\frac{2}{3}E-\frac{E}{2}\\\\
&=\frac{E}{6}
\end{align*}$$
同様にその他の位相についても計算していくと、$v_\mathrm{MO}$は図4のように振幅$\pm\displaystyle{\frac{E}{6}}$,周期$\displaystyle{\frac{2}{3}\pi}$(3倍周波数)の方形波となる。
回路の出力電流波形
さらに、図3の出力電圧の場合における、三相電圧形インバータの出力電流$i_\mathrm{u},\ i_\mathrm{v},\ i_\mathrm{w}$および電源電流$i_\mathrm{d}$の波形を図5に示す。
図5 三相電圧形インバータ(2レベルインバータ)の出力電流波形
これら出力電流$i_\mathrm{u},\ i_\mathrm{v},\ i_\mathrm{w}$の値は、それぞれ図4の負荷相電圧$v_\mathrm{uM},\ v_\mathrm{vM},\ v_\mathrm{wM}$および負荷のインピーダンスを用いて計算することができる。
図5より、図2に示した回路の動作モードが切り換わり、負荷相電圧の値が変化するたびに$i_\mathrm{u},\ i_\mathrm{v},\ i_\mathrm{w}$の波形は変化する。
このとき、誘導性負荷の作用により、各波形は徐々に立ち上がり/立ち下がりする正弦波のような形状となる。
特に、図4の負荷相電圧$v_\mathrm{uM},\ v_\mathrm{vM},\ v_\mathrm{wM}$の正負が切り換わる(例:$\displaystyle{\frac{E}{3}}\rightarrow\displaystyle{-\frac{E}{3}}$となる)タイミングでは、その変動の度合いは大きくなる。
そして、電源電流$i_\mathrm{d}$の値は$i_\mathrm{u},\ i_\mathrm{v},\ i_\mathrm{w}$の値から導かれるが、まず電流が流れる経路を考える。
例えば図5で位相が$0\sim\displaystyle{\frac{\pi}{3}}$の区間においては、動作モードは図2のモード6となる。
このとき、図1の回路における電流経路は電源→$\mathrm{u},\ \mathrm{w}$相負荷の並列回路→$\mathrm{v}$相負荷→電源となる。
ここで、電源電流$i_\mathrm{d}$の値は、$\mathrm{v}$相負荷に流れる電流、すなわち$i_\mathrm{v}$と等しくなる。
ただし、このときの$i_\mathrm{v}$の向きは負荷側から電源側であるため、図1の電流の向きを基準とすると$i_\mathrm{d}=-i_\mathrm{v}$となる。
すなわち、図5で位相が$0\sim\displaystyle{\frac{\pi}{3}}$における$i_\mathrm{d}$の波形は、$i_\mathrm{v}$の波形を正負反転したものに等しくなる。
上記と同様にすべての位相について検討すると、電源電流$i_\mathrm{d}$は図5のような周期$\displaystyle{\frac{\pi}{3}}$(6倍周波数)の波形となる。
この波形の形状から、図1の三相電圧形インバータは「6パルスインバータ」とも呼ばれる。
回路の電圧のフーリエ級数展開と実効値
ここでは、図3および図4で波形で示した各電圧について、フーリエ級数展開した式および実効値を算出する。
フーリエ級数展開の概要
フーリエ級数展開とは、複雑な周期関数を、三角関数といった単純な周期関数の和で表すことである。
周期$T$である$x$の関数$f\left(x\right)$のフーリエ級数展開は、次式で表される。
$$\begin{align*}
f\left(x\right)&=\frac{a_0}{2}+\displaystyle \sum_{n=1}^\infty a_n\cos\frac{2\pi nx}{T}+\displaystyle \sum_{n=1}^\infty b_n\sin\frac{2\pi nx}{T} ・・・(1)\\\\
a_n&=\frac{2}{T}\int^{T}_{0}f\left(x\right)\cos\frac{2\pi nx}{T}\mathrm{d}x \left(n=0,1,2,\cdots\right) ・・・(2)\\\\
b_n&=\frac{2}{T}\int^{T}_{0}f\left(x\right)\sin\frac{2\pi nx}{T}\mathrm{d}x \left(n=1,2,3,\cdots\right) ・・・(3)
\end{align*}$$
特に、対象の関数$f\left(x\right)$が奇関数$\left(f\left(-x\right)=-f\left(x\right)\right)$であるとき、$(1)$式で$a_0=0,\ a_n=0,\ $かつ$b_n$は次式で表される。
$$b_n=\frac{4}{T}\int^{\frac{T}{2}}_{0}f\left(x\right)\sin\frac{2\pi nx}{T}\mathrm{d}x \left(n=1,2,3,\cdots\right) ・・・(3)’$$
フーリエ級数展開(Fourier transform)とは、複雑な周期関数を、三角関数といった単純な周期関数の和で表すことである。本記事では、さまざまな交流波形のフーリエ級数展開の式を導出してまとめる。フーリエ級数展開の概要[…]
出力相電圧
フーリエ級数展開
図3の出力相電圧のうち、$\mathrm{u}$相電圧$v_\mathrm{uO}$についてフーリエ級数展開を行う。
図3より、$v_\mathrm{uO}$は奇関数であるため$a_0=0,\ a_n=0,\ b_n$は$(3)’$式で$x\rightarrow\omega t,\ f\left(x\right)=v_\mathrm{uO},\ T=2\pi,\ \omega=\displaystyle{\frac{2\pi}{T}}$として、
$$\begin{align*}
b_n&=\frac{4}{2\pi}\int^{\pi}_{0}v_\mathrm{uO}\sin n\omega t\ \mathrm{d}\omega t\\\\
&=\frac{2}{\pi}\int^{\pi}_{0}\frac{E}{2}\sin n\omega t\ \mathrm{d}\omega t\\\\
&=\frac{E}{\pi}\left[-\frac{1}{n}\cos n\omega t\right]^{\pi}_{0}\\\\
&=\frac{E}{n\pi}\left(\cos 0-\cos n\pi\right)\\\\
&=\frac{E}{n\pi}\left\{1-\left(-1\right)^n\right\} ・・・(4)
\end{align*}$$
ここで、$n$が偶数のとき、$(4)$式$=0$となる。
一方、$n$が奇数のとき、$(4)$式は、
$$b_n=\frac{2E}{n\pi} \left(n=1,\ 3,\ 5,\ 7,\cdots\right)$$
以上より、出力相電圧$v_\mathrm{uO}$のフーリエ級数展開は、
$$\begin{align*}
v_\mathrm{uO}&=\displaystyle \sum_{n=1}^\infty\frac{2E}{n\pi}\sin n\omega t \left(n=1,\ 3,\ 5,\ 7,\cdots\right)\\\\
&=\frac{2E}{\pi}\left(\sin \omega t+\frac{1}{3}\sin 3\omega t+\frac{1}{5}\sin5\omega t+\frac{1}{7}\sin7\omega t+\cdots\right) ・・・(5)
\end{align*}$$
なお、上式で$n=1$,すなわち$v_\mathrm{uO}$の基本波成分$v_\mathrm{uO1}$は、$(5)$式より、
$$v_\mathrm{uO1}=\frac{2E}{\pi}\sin\omega t ・・・(6)$$
実効値
次に、実効値の定義式より、$v_\mathrm{uO}$の実効値を計算する。
図3の$v_\mathrm{uO}$の波形は「正負で対称性があり、かつ最大値を通る縦軸に平行な直線に対して線対称な波形」であるため、$\displaystyle{\frac{1}{4}}$周期である位相$0\sim\displaystyle{\frac{\pi}{2}}$について計算を行うと、
$$\begin{align*}
\sqrt{\frac{1}{\displaystyle{\frac{\pi}{2}}}\int^{\frac{\pi}{2}}_{0}v^2\ \mathrm{d}\omega t}&=\sqrt{\frac{2}{\pi}\int^{\frac{\pi}{2}}_{0}\left(\frac{E}{2}\right)^2\ \mathrm{d}\omega t}\\\\
&=\sqrt{\frac{1}{2\pi}\left[E^2\omega t\right]^{\frac{\pi}{2}}_{0}}\\\\
&=\sqrt{\frac{E^2}{2\pi}\cdot\frac{\pi}{2}}\\\\
&=\sqrt{\frac{E^2}{4}}\\\\
&=\frac{E}{2}
\end{align*}$$
本記事では、さまざまな交流波形の平均値・実効値、およびそれらの値から導かれる波形率・波高率をまとめる。各指標の定義式平均値平均値は、1周期間でとりうる瞬時値の平均の値となる。周期$T$の交流波形$v\left(t[…]
出力線間電圧
フーリエ級数展開
図3の出力線間電圧のうち、$v_\mathrm{uv}$についてフーリエ級数展開を行う。
$(2)$および$(3)$式にて$x\rightarrow\omega t,\ f\left(x\right)=v_\mathrm{uv},\ T=2\pi,\ \omega=\displaystyle{\frac{2\pi}{T}}$として、係数$a_n$および$b_n$を求めると、
$$\begin{align*}
a_n&=\frac{2}{2\pi}\int^{2\pi}_{0}v_\mathrm{uv}\cos n\omega t\ \mathrm{d}\omega t\\\\
&=\frac{1}{\pi}\left\{\int^{\frac{2}{3}\pi}_{0}E\cos n\omega t\ \mathrm{d}\omega t+\int^{\frac{5}{3}\pi}_{\pi}\left(-E\right)\cos n\omega t\ \mathrm{d}\omega t\right\}\\\\
&=\frac{E}{\pi}\left\{\left[\frac{1}{n}\sin n\omega t\right]^{\frac{2}{3}\pi}_{0}-\left[\frac{1}{n}\sin n\omega t\right]^{\frac{5}{3}\pi}_{\pi}\right\}\\\\
&=\frac{E}{n\pi}\left(\sin\frac{2n\pi}{3}-\sin 0-\sin\frac{5n\pi}{3}+\sin n\pi\right)\\\\
&=\frac{E}{n\pi}\left(\sin\frac{2n\pi}{3}-\sin\frac{5n\pi}{3}\right)\\\\
&=-\frac{2E}{n\pi}\cos\frac{7n\pi}{6}\sin\frac{n\pi}{2} ・・・(7)
\end{align*}$$
$$\begin{align*}
b_n&=\frac{2}{2\pi}\int^{2\pi}_{0}v_\mathrm{u}\sin n\omega t\ \mathrm{d}\omega t\\\\
&=\frac{1}{\pi}\left\{\int^{\frac{2}{3}\pi}_{0}E\sin n\omega t\ \mathrm{d}\omega t+\int^{\frac{5}{3}\pi}_{\pi}\left(-E\right)\sin n\omega t\ \mathrm{d}\omega t\right\}\\\\
&=\frac{E}{\pi}\left\{\left[-\frac{1}{n}\cos n\omega t\right]^{\frac{2}{3}\pi}_{0}-\left[-\frac{1}{n}\cos n\omega t\right]^{\frac{5}{3}\pi}_{\pi}\right\}\\\\
&=\frac{E}{n\pi}\left(-\cos\frac{2n\pi}{3}+\cos 0+\cos\frac{5n\pi}{3}-\cos n\pi\right)\\\\
&=\frac{E}{n\pi}\left(2\sin^2\frac{n\pi}{3}-2\sin\frac{4n\pi}{3}\sin\frac{n\pi}{3}\right)\\\\
&=\frac{2E}{n\pi}\sin\frac{n\pi}{3}\left(\sin\frac{n\pi}{3}-\sin\frac{4n\pi}{3}\right)\\\\
&=-\frac{4E}{n\pi}\sin\frac{n\pi}{3}\cos\frac{5n\pi}{6}\sin\frac{n\pi}{2} ・・・(8)
\end{align*}$$
ここで、$n$が偶数のとき、$\sin\displaystyle{\frac{n\pi}{2}}=0$であることから、$(7)$式および$(8)$式はともに$0$となる。
また、$n$が3の倍数のとき、$\cos\displaystyle{\frac{7n\pi}{6}}=0,\ \sin\displaystyle{\frac{n\pi}{3}}=0$であることから、こちらも$(7)$式および$(8)$式はともに$0$となる。
以上より、出力線間電圧$v_\mathrm{uv}$のフーリエ級数展開は、
$$\begin{align*}
v_\mathrm{uv}&=\displaystyle \sum_{n=1}^\infty a_n\cos n\omega t+\displaystyle \sum_{n=1}^\infty b_n\sin n\omega t \left(n=1,\ 5,\ 7,\ 11,\cdots\right)\\\\
&=\frac{\sqrt{3}E}{\pi}\left(\cos \omega t-\frac{1}{5}\cos 5\omega t+\frac{1}{7}\cos 7\omega t-\frac{1}{11}\cos 11\omega t+\cdots\right)\\\\
&\quad+\frac{3E}{\pi}\left(\sin \omega t+\frac{1}{5}\sin 5\omega t+\frac{1}{7}\sin 7\omega t+\frac{1}{11}\sin 11\omega t+\cdots\right) ・・・(9)
\end{align*}$$
$(9)$式では$n$が3の倍数、すなわち第3高調波を含む3の倍数の周波数成分が含まれない形になる。
なお、$(9)$式で$n=1$,すなわち$v_\mathrm{uv}$の基本波成分$v_\mathrm{uv1}$は、
$$\begin{align*}
v_\mathrm{uv1}&=\frac{\sqrt{3}E}{\pi}\cos\omega t+\frac{3E}{\pi}\sin \omega t\\\\
&=\frac{2\sqrt{3}E}{\pi}\left(\frac{1}{2}\cos\omega t+\frac{\sqrt{3}}{2}\sin \omega t\right)\\\\
&=\frac{2\sqrt{3}E}{\pi}\left(\sin\frac{\pi}{6}\cos\omega t+\cos\frac{\pi}{6}\sin \omega t\right)\\\\
&=\frac{2\sqrt{3}E}{\pi}\sin\left(\omega t+\frac{\pi}{6}\right) ・・・(10)
\end{align*}$$
$(10)$式を先に算出した$(6)$式の$v_\mathrm{uO1}$と比較すると、大きさは$\sqrt{3}$倍、位相が$\displaystyle{\frac{\pi}{6}}$進んでおり、通常の三相交流における相電圧と線間電圧の関係が成り立っていることがわかる。
出力線間電圧のフーリエ級数展開の計算に関する補足
- 今回は$v_\mathrm{uO}$を基準とした$v_\mathrm{uv}$との位相差まで算出したが、図4の$v_\mathrm{uv}$の波形は「単相フルブリッジインバータ」の記事における図6と同一の形状(ただし位相は異なる)をしている。
そこで、同図のフーリエ級数展開を求めた同記事$(6)$式に位相幅$\alpha=\displaystyle{\frac{\pi}{3}}$を代入すると、係数$b_n$(ただし、$n$は偶数)は、
$$b_n=\frac{4E}{n\pi}\cos\frac{n\pi}{6}$$
上式で$n$が3の倍数であるとき、$\displaystyle{\cos\frac{n\pi}{6}}=0$となることより、$b_n=0$となる。
以上より、出力線間電圧を$v_\mathrm{l}$とすると、そのフーリエ級数展開した式は、
$$\begin{align*}
v_\mathrm{l}&=\displaystyle \sum_{n=1}^\infty\frac{4E}{n\pi}\cos\frac{n\pi}{6}\sin n\omega t \left(n=1,\ 5,\ 7,\ 11,\cdots\right)\\\\
&=\frac{2\sqrt{3}E}{\pi}\left(\sin \omega t-\frac{1}{5}\sin 5\omega t+\frac{1}{7}\sin 7\omega t-\frac{1}{11}\sin 11\omega t+\cdots\right)
\end{align*}$$上式は相電圧との位相差を考慮しない(自身が位相の基準となっている)出力線間電圧の式となる。
実効値
次に、実効値の定義式より、$v_\mathrm{uv}$の実効値を計算する。
図3の$v_\mathrm{uv}$の波形は「正負で同じ値をとり得る交流波形」であるため、$\displaystyle{\frac{1}{2}}$周期である位相$0\sim\pi$について計算を行うと、
$$\begin{align*}
\sqrt{\frac{1}{\pi}\int^{\pi}_{0}v_\mathrm{uv}^2\ \mathrm{d}\omega t}&=\sqrt{\frac{1}{\pi}\int^{\frac{2}{3}\pi}_{0}E^2\ \mathrm{d}\omega t}\\\\
&=\sqrt{\frac{1}{\pi}\left[E^2\omega t\right]^{\frac{2}{3}\pi}_{0}}\\\\
&=\sqrt{\frac{E^2}{\pi}\cdot\frac{2}{3}\pi}\\\\
&=\sqrt{\frac{2}{3}}E
\end{align*}$$
負荷相電圧
フーリエ級数展開
さらに、図4の負荷相電圧のうち、$v_\mathrm{uM}$についてフーリエ級数展開を行う。
図4より、$v_\mathrm{uM}$は奇関数であるため$a_0=0,\ a_n=0,\ b_n$は$(3)’$式で$x\rightarrow\omega t,\ f\left(x\right)=v_\mathrm{uO},\ T=2\pi,\ \omega=\displaystyle{\frac{2\pi}{T}}$として、
$$\begin{align*}
b_n&=\frac{4}{2\pi}\int^{\pi}_{0}v_\mathrm{uM}\sin n\omega t\ \mathrm{d}\omega t\\\\
&=\frac{2}{\pi}\left\{\int^{\frac{\pi}{3}}_{0}\frac{E}{3}\sin n\omega t\ \mathrm{d}\omega t+\int^{\frac{2}{3}\pi}_{\frac{\pi}{3}}\frac{2}{3}E\sin n\omega t\ \mathrm{d}\omega t+\int^{\pi}_{\frac{2}{3}\pi}\frac{E}{3}\sin n\omega t\ \mathrm{d}\omega t\right\}\\\\
&=\frac{2E}{3\pi}\left\{\left[-\frac{1}{n}\cos n\omega t\right]^{\frac{\pi}{3}}_{0}+\left[-\frac{2}{n}\cos n\omega t\right]^{\frac{2}{3}\pi}_{\frac{\pi}{3}}+\left[-\frac{1}{n}\cos n\omega t\right]^{\pi}_{\frac{2}{3}\pi}\right\}\\\\
&=\frac{2E}{3n\pi}\left\{-\left(\cos\frac{n\pi}{3}-\cos0\right)-2\left(\cos\frac{2n\pi}{3}-\cos\frac{n\pi}{3}\right)-\left(\cos n\pi-\cos\frac{2n\pi}{3}\right)\right\}\\\\
&=\frac{2E}{3n\pi}\left\{1-\cos n\pi-\left(\cos\frac{2n\pi}{3}-\cos\frac{n\pi}{3}\right)\right\}\\\\
&=\frac{4E}{3n\pi}\left(\sin^2\frac{n\pi}{2}+\sin\frac{n\pi}{2}\sin\frac{n\pi}{6}\right)\\\\
&=\frac{4E}{3n\pi}\sin\frac{n\pi}{2}\left(\sin\frac{n\pi}{2}+\sin\frac{n\pi}{6}\right)\\\\
&=\frac{8E}{3n\pi}\sin\frac{n\pi}{2}\sin\frac{n\pi}{3}\cos\frac{n\pi}{6} ・・・(11)
\end{align*}$$
ここで、$n$が偶数のとき、$\sin\displaystyle{\frac{n\pi}{2}}=0$であることから、$(11)$式$=0$となる。
また、$n$が3の倍数のとき、$\sin\displaystyle{\frac{n\pi}{3}}=0,\ \cos\displaystyle{\frac{n\pi}{6}}=0$であることから、こちらも$(11)$式$=0$となる。
以上より、負荷相電圧$v_\mathrm{uM}$のフーリエ級数展開は、
$$\begin{align*}
v_\mathrm{uM}&=\displaystyle \sum_{n=1}^\infty b_n\sin n\omega t \left(n=1,\ 5,\ 7,\ 11,\cdots\right)\\\\
&=\frac{2E}{\pi}\left(\sin \omega t+\frac{1}{5}\sin 5\omega t+\frac{1}{7}\sin 7\omega t+\frac{1}{11}\sin 11\omega t+\cdots\right) ・・・(12)
\end{align*}$$
$(12)$式は$(5)$式の$v_\mathrm{uO}$と一見同じ形であるが、こちらは$n$が3の倍数、すなわち第3高調波を含む3の倍数の周波数成分が含まれない形になる。
なお、$(12)$式で$n=1$,すなわち$v_\mathrm{uM}$の基本波成分$v_\mathrm{uM1}$は、
$$v_\mathrm{uM1}=\frac{2E}{\pi}\sin \omega t ・・・(13)$$
$(13)$式に関しては、$(6)$式の$v_\mathrm{uO1}$と等しくなる。
実効値
次に、実効値の定義式より、$v_\mathrm{uM}$の実効値を計算する。
図4の$v_\mathrm{uM}$の波形は「正負で対称性があり、かつ最大値を通る縦軸に平行な直線に対して線対称な波形」であるため、$\displaystyle{\frac{1}{4}}$周期である位相$0\sim\displaystyle{\frac{\pi}{2}}$について計算を行うと、
$$\begin{align*}
\sqrt{\frac{1}{\displaystyle{\frac{\pi}{2}}}\int^{\frac{\pi}{2}}_{0}v^2\ \mathrm{d}\omega t}&=\sqrt{\frac{2}{\pi}\left\{\int^{\frac{\pi}{3}}_{0}\left(\frac{E}{3}\right)^2\ \mathrm{d}\omega t+\int^{\frac{\pi}{2}}_{\frac{\pi}{3}}\left(\frac{2}{3}E\right)^2\ \mathrm{d}\omega t\right\}}\\\\
&=\sqrt{\frac{2}{9\pi}\left\{\left[E^2\omega t\right]^{\frac{\pi}{3}}_{0}+\left[4E^2\omega t\right]^{\frac{\pi}{2}}_{\frac{\pi}{3}}\right\}}\\\\
&=\sqrt{\frac{2E^2}{9\pi}\left\{\left(\frac{\pi}{3}-0\right)+4\left(\frac{\pi}{2}-\frac{\pi}{3}\right)\right\}}\\\\
&=\sqrt{\frac{2E^2}{9\pi}\cdot\pi}\\\\
&=\frac{\sqrt{2}}{3}E
\end{align*}$$
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参考文献
- 電気学会『電気工学ハンドブック 第7版』オーム社,2013
- パワーエレクトロニクスハンドブック編集委員会『パワーエレクトロニクスハンドブック』オーム社,2010
- 古橋武『パワーエレクトロニクスノート―工作と理論』コロナ社,2008
- 金東海『パワースイッチング工学―パワーエレクトロニクスの基礎理論』電気学会,2003
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