単相多重インバータ(直列単相二重インバータ)

本記事では、単相多重インバータとその回路例として「直列単相二重インバータ」について解説する。





多重インバータとは

同じ出力が可能な複数台の変換装置を、それぞれの出力波形の位相をずらして合成することにより、新たな出力を得る手法を多重化という。

インバータを複数台使用した多重インバータの場合、複数の出力を組み合わせることで大容量化できることに加え、出力波形に含まれる高調波成分を除去し、波形改善を行うことができる(後述)。

 

なお、本記事で扱う直列単相二重インバータのように、入力となる直流電源を共通とする場合、負荷を介さない短絡回路が形成されてしまう。

そのため、インバータ1台につき別々の変圧器を介して出力することで、直流側と交流側を絶縁している。

 

また、多重化の構成方法としては、電圧形インバータを直列接続する直列多重化と、電流形インバータを並列接続する並列多重化がある。

前者は出力側に、後者は入力側に絶縁用の変圧器の設置が必要となる。

 

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直列単相二重インバータ

回路構成

直列単相二重インバータの回路構成を図1に示す。

 

図1 直列単相二重インバータ

 

図1の回路は、単相(電圧形)フルブリッジインバータを2台用いており、変圧器を介して直列接続された構成となっている。

図1のインバータは共通の直流電源$E$を用いた構成例であるが、各インバータで独立した電源を用いて、変圧器を介さない回路パターンもある。

 

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出力電圧の式

単相フルブリッジインバータの1台あたりの出力電圧$v_\mathrm{o}$(位相シフトあり)をフーリエ級数展開した式は、$n=2k-1\left(k=1,2,\cdots\right)$とすると、

$$v_\mathrm{o}=\displaystyle \sum_{k=1}^\infty\frac{4E}{\left(2k-1\right)\pi}\cos\frac{\left(2k-1\right)\alpha}{2}\sin\left(2k-1\right)\omega t ・・・(1)$$

 

ただし、$(1)$式において$\alpha$は位相シフト量を表す。

 

ここで図1の回路において、2台のインバータの出力電圧$v_\mathrm{oA}$および$v_\mathrm{oB}$の位相差が$\phi$になるように設定する、すなわち$(1)$式から、

$$\begin{cases}
v_\mathrm{oA}&=\displaystyle \sum_{k=1}^\infty\frac{4E}{\left(2k-1\right)\pi}\cos\frac{\left(2k-1\right)\alpha}{2}\sin\left(2k-1\right)\left(\omega t-\frac{\phi}{2}\right)\\\\
v_\mathrm{oB}&=\displaystyle \sum_{k=1}^\infty\frac{4E}{\left(2k-1\right)\pi}\cos\frac{\left(2k-1\right)\alpha}{2}\sin\left(2k-1\right)\left(\omega t+\frac{\phi}{2}\right)
\end{cases} ・・・(2)$$

であるとする。

 

このとき、直列単相二重インバータの出力電圧$v_\mathrm{o}$は、$(2)$式より、

$$\begin{align*}
v_\mathrm{o}&=v_\mathrm{oA}+v_\mathrm{oB}\\\\
&=\displaystyle \sum_{k=1}^\infty\frac{4E}{\left(2k-1\right)\pi}\cos\frac{\left(2k-1\right)\alpha}{2}\sin\left(2k-1\right)\left(\omega t-\frac{\phi}{2}\right)+\displaystyle \sum_{k=1}^\infty\frac{4E}{\left(2k-1\right)\pi}\cos\frac{\left(2k-1\right)\alpha}{2}\sin\left(2k-1\right)\left(\omega t+\frac{\phi}{2}\right)\\\\
&=\displaystyle \sum_{k=1}^\infty\frac{4E}{\left(2k-1\right)\pi}\cos\frac{\left(2k-1\right)\alpha}{2}\left\{\sin\left(2k-1\right)\left(\omega t-\frac{\phi}{2}\right)+\sin\left(2k-1\right)\left(\omega t+\frac{\phi}{2}\right)\right\} ・・・(3)
\end{align*}$$

 

$(3)$式のうち、カッコ{}内は三角関数の和積の公式を用いて、次のように計算できる。

$$\sin\left(2k-1\right)\left(\omega t-\frac{\phi}{2}\right)-\sin\left(2k-1\right)\left(\omega t+\frac{\phi}{2}\right)=2\sin\left(2k-1\right)\omega t\cos\frac{\left(2k-1\right)\phi}{2}$$

 

以上より、$v_\mathrm{o}$は、

$$v_\mathrm{o}=\displaystyle \sum_{k=1}^\infty\frac{8E}{\left(2k-1\right)\pi}\cos\frac{\left(2k-1\right)\alpha}{2}\cos\frac{\left(2k-1\right)\phi}{2}\sin\left(2k-1\right)\omega t ・・・(4)$$

 

 

高調波成分の除去

$(4)$式において、位相シフト量$\alpha$および位相差$\phi$を適当に設定すれば、出力電圧波形に含まれる高調波成分を除去することができる。

例えば、$n=2k-1$の次数の高調波成分を除去したいとき、$(4)$式において$\displaystyle\cos\frac{\left(2k-1\right)\alpha}{2}=0$とすればよく、

$$\begin{align*}
\frac{\left(2k-1\right)\alpha}{2}&=\frac{\pi}{2}\\\\
\therefore\alpha&=\frac{\pi}{2k-1}\left(k=1,2,\cdots\right) ・・・(5)
\end{align*}$$

となるような$\alpha$をとればよい。$\phi$についても同様となる。

 

そして、例えば$\alpha$については$n=3\left(k=2\right)$次、$\phi$については$n=5\left(k=3\right)$次高調波成分を除去したいとすれば、$(5)$式より、

$$\begin{align*}
\alpha=\frac{\pi}{2\cdot2-1}=\frac{\pi}{3}\\\\
\phi=\frac{\pi}{2\cdot3-1}=\frac{\pi}{5}
\end{align*}$$

となるように設定を行う。

他の次数の高調波成分、例えば$m$次高調波についても同様に、$\alpha$または$\phi=\displaystyle\frac{\pi}{m}$とすればよい。

 

なお、このときの出力電圧は、$(4)$式より、

$$\begin{align*}
v_\mathrm{o}&=\displaystyle \sum_{k=1}^\infty\frac{8E}{\left(2k-1\right)\pi}\cos\frac{\left(2k-1\right)\pi}{6}\cos\frac{\left(2k-1\right)\pi}{10}\sin\left(2k-1\right)\omega t\\\\
&=\frac{4\sqrt{3}E}{\pi}\left(\cos\frac{\pi}{10}\sin\omega t+\cos\frac{7}{10}\pi\sin7\omega t-\cos\frac{11}{10}\pi\sin11\omega t-\cdots\right)
\end{align*}$$

となり、3次および5次(さらにその倍数である9次、15次、….)の高調波成分が含まれない形になる。

 

図1の回路で制御できるのは$\alpha$および$\phi$の2変数であるため、2種類の高調波成分を除去できる。

さらに除去する成分を増やしたい場合は、インバータの台数を増やす(三重以上にする)必要がある。

 

出力電圧波形

図2に直列単相二重インバータの出力電圧波形(各インバータの出力電圧$v_\mathrm{oA},\ v_\mathrm{oB}$および回路の出力電圧$v_\mathrm{o}$)の一例を示す。

同図は、位相シフト量は$\alpha=\displaystyle\frac{\pi}{3}$で固定し、出力電圧の位相差$\phi$を$\left(\mathrm{a}\right),\ \left(\mathrm{b}\right)$で変化させている。

 

$\left(\mathrm{a}\right)$ 第3, 5高調波除去$\left(\alpha=\displaystyle\frac{\pi}{3},\ \phi=\displaystyle\frac{\pi}{5}\right)$

 

$\left(\mathrm{b}\right)$ 第3, 7高調波成分除去$\left(\alpha=\displaystyle\frac{\pi}{3},\ \phi=\displaystyle\frac{\pi}{7}\right)$

図2 直列単相二重インバータの出力波形

 

同図のいずれのパターンも、各インバータの出力電圧$v_\mathrm{oA},\ v_\mathrm{oB}$は$\pm E,\ 0$の3レベルの矩形波であり、位相差をずらして波形を重ねることにより、回路全体の出力電圧$v_\mathrm{o}$としては$\pm 2E,\ \pm E,\ 0$の階段状の波形が得られる。

 

これらは、三相3レベルインバータの出力線間電圧の波形と同様の形状となっていることがわかる。

多重インバータは複数台のインバータを接続する比較的簡単な構造ではあるが、変圧器を介するために大容量化する場合の小型化が難しくなる。

一方で(3レベルを含む)マルチレベルインバータは基本的にスイッチング素子のみで構成されているため、素子の数は多くなるものの、大容量化の際は小型化が可能となる。

 

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