単相多重インバータ(直列単相二重インバータ)

本記事では、単相多重インバータとその回路例として「直列単相二重インバータ」について解説する。

多重インバータとは

同じ出力が可能な複数台の変換装置を、それぞれの出力波形の位相をずらして合成することにより、新たな出力を得る手法を多重化という。

インバータを複数台使用した多重インバータの場合、複数の出力を組み合わせることで大容量化できることに加え、出力波形に含まれる高調波成分を除去し、波形改善を行うことができる(後述)。

 

なお、本記事で扱う直列単相二重インバータのように、入力となる直流電源を共通とする場合、負荷を介さない短絡回路が形成されてしまう。

そのため、インバータ1台につき別々の変圧器を介して出力することで、直流側と交流側を絶縁している。

 

また、多重化の構成方法としては、電圧形インバータを直列接続する直列多重化と、電流形インバータを並列接続する並列多重化がある。

前者は出力側に、後者は入力側に絶縁用の変圧器の設置が必要となる。

 

関連記事

本記事では、三相多重インバータとその回路例として「12パルスインバータ」について解説する。12パルスインバータの回路構成三相多重インバータの例として、12パルスインバータの回路構成を図1に示す。 図1 […]

 

直列単相二重インバータ

回路構成

直列単相二重インバータの回路構成を図1に示す。

 

図1 直列単相二重インバータ

 

図1の回路は、単相(電圧形)フルブリッジインバータを2台用いており、変圧器を介して直列接続された構成となっている。

図1のインバータは共通の直流電源$E$を用いた構成例であるが、各インバータで独立した電源を用いて、変圧器を介さない回路パターンもある。

 

関連記事

本記事では、直流を交流に変換する回路の一種である単相電圧形フルブリッジインバータについて解説する。単相電圧形フルブリッジインバータの回路構成単相電圧形フルブリッジインバータの回路構成を図1に示す。 図1[…]

 

出力電圧の式

単相フルブリッジインバータの1台あたりの出力電圧$v_\mathrm{o}$(位相シフトあり)をフーリエ級数展開した式は、$n=2k-1\left(k=1,2,\cdots\right)$とすると、

$$v_\mathrm{o}=\displaystyle \sum_{k=1}^\infty\frac{4E}{\left(2k-1\right)\pi}\cos\frac{\left(2k-1\right)\alpha}{2}\sin\left(2k-1\right)\omega t ・・・(1)$$

 

ただし、$(1)$式において$\alpha$は位相シフト量を表す。

 

ここで図1の回路において、2台のインバータの出力電圧$v_\mathrm{oA}$および$v_\mathrm{oB}$の位相差が$\phi$になるように設定する、すなわち$(1)$式から、

$$\begin{cases}
v_\mathrm{oA}&=\displaystyle \sum_{k=1}^\infty\frac{4E}{\left(2k-1\right)\pi}\cos\frac{\left(2k-1\right)\alpha}{2}\sin\left(2k-1\right)\left(\omega t-\frac{\phi}{2}\right)\\\\
v_\mathrm{oB}&=\displaystyle \sum_{k=1}^\infty\frac{4E}{\left(2k-1\right)\pi}\cos\frac{\left(2k-1\right)\alpha}{2}\sin\left(2k-1\right)\left(\omega t+\frac{\phi}{2}\right)
\end{cases} ・・・(2)$$

であるとする。

 

このとき、直列単相二重インバータの出力電圧$v_\mathrm{o}$は、$(2)$式より、

$$\begin{align*}
v_\mathrm{o}&=v_\mathrm{oA}+v_\mathrm{oB}\\\\
&=\displaystyle \sum_{k=1}^\infty\frac{4E}{\left(2k-1\right)\pi}\cos\frac{\left(2k-1\right)\alpha}{2}\sin\left(2k-1\right)\left(\omega t-\frac{\phi}{2}\right)+\displaystyle \sum_{k=1}^\infty\frac{4E}{\left(2k-1\right)\pi}\cos\frac{\left(2k-1\right)\alpha}{2}\sin\left(2k-1\right)\left(\omega t+\frac{\phi}{2}\right)\\\\
&=\displaystyle \sum_{k=1}^\infty\frac{4E}{\left(2k-1\right)\pi}\cos\frac{\left(2k-1\right)\alpha}{2}\left\{\sin\left(2k-1\right)\left(\omega t-\frac{\phi}{2}\right)+\sin\left(2k-1\right)\left(\omega t+\frac{\phi}{2}\right)\right\} ・・・(3)
\end{align*}$$

 

$(3)$式のうち、カッコ{}内は三角関数の和積の公式を用いて、次のように計算できる。

$$\sin\left(2k-1\right)\left(\omega t-\frac{\phi}{2}\right)-\sin\left(2k-1\right)\left(\omega t+\frac{\phi}{2}\right)=2\sin\left(2k-1\right)\omega t\cos\frac{\left(2k-1\right)\phi}{2}$$

 

以上より、$v_\mathrm{o}$は、

$$v_\mathrm{o}=\displaystyle \sum_{k=1}^\infty\frac{8E}{\left(2k-1\right)\pi}\cos\frac{\left(2k-1\right)\alpha}{2}\cos\frac{\left(2k-1\right)\phi}{2}\sin\left(2k-1\right)\omega t ・・・(4)$$

 

高調波成分の除去

$(4)$式において、位相シフト量$\alpha$および位相差$\phi$を適当に設定すれば、出力電圧波形に含まれる高調波成分を除去することができる。

例えば、$n=2k-1$の次数の高調波成分を除去したいとき、$(4)$式において$\displaystyle\cos\frac{\left(2k-1\right)\alpha}{2}=0$とすればよく、

$$\begin{align*}
\frac{\left(2k-1\right)\alpha}{2}&=\frac{\pi}{2}\\\\
\therefore\alpha&=\frac{\pi}{2k-1}\left(k=1,2,\cdots\right) ・・・(5)
\end{align*}$$

となるような$\alpha$をとればよい。$\phi$についても同様となる。

 

そして、例えば$\alpha$については$n=3\left(k=2\right)$次、$\phi$については$n=5\left(k=3\right)$次高調波成分を除去したいとすれば、$(5)$式より、

$$\begin{align*}
\alpha=\frac{\pi}{2\cdot2-1}=\frac{\pi}{3}\\\\
\phi=\frac{\pi}{2\cdot3-1}=\frac{\pi}{5}
\end{align*}$$

となるように設定を行う。

他の次数の高調波成分、例えば$m$次高調波についても同様に、$\alpha$または$\phi=\displaystyle\frac{\pi}{m}$とすればよい。

 

なお、このときの出力電圧は、$(4)$式より、

$$\begin{align*}
v_\mathrm{o}&=\displaystyle \sum_{k=1}^\infty\frac{8E}{\left(2k-1\right)\pi}\cos\frac{\left(2k-1\right)\pi}{6}\cos\frac{\left(2k-1\right)\pi}{10}\sin\left(2k-1\right)\omega t\\\\
&=\frac{4\sqrt{3}E}{\pi}\left(\cos\frac{\pi}{10}\sin\omega t+\cos\frac{7}{10}\pi\sin7\omega t-\cos\frac{11}{10}\pi\sin11\omega t-\cdots\right)
\end{align*}$$

となり、3次および5次(さらにその倍数である9次、15次、….)の高調波成分が含まれない形になる。

 

図1の回路で制御できるのは$\alpha$および$\phi$の2変数であるため、2種類の高調波成分を除去できる。

さらに除去する成分を増やしたい場合は、インバータの台数を増やす(三重以上にする)必要がある。

 

出力電圧波形

図2に直列単相二重インバータの出力電圧波形(各インバータの出力電圧$v_\mathrm{oA},\ v_\mathrm{oB}$および回路の出力電圧$v_\mathrm{o}$)の一例を示す。

同図は、位相シフト量は$\alpha=\displaystyle\frac{\pi}{3}$で固定し、出力電圧の位相差$\phi$を$\left(\mathrm{a}\right),\ \left(\mathrm{b}\right)$で変化させている。

 

$\left(\mathrm{a}\right)$ 第3, 5高調波除去$\left(\alpha=\displaystyle\frac{\pi}{3},\ \phi=\displaystyle\frac{\pi}{5}\right)$

 

$\left(\mathrm{b}\right)$ 第3, 7高調波成分除去$\left(\alpha=\displaystyle\frac{\pi}{3},\ \phi=\displaystyle\frac{\pi}{7}\right)$

図2 直列単相二重インバータの出力波形

 

同図のいずれのパターンも、各インバータの出力電圧$v_\mathrm{oA},\ v_\mathrm{oB}$は$\pm E,\ 0$の3レベルの矩形波であり、位相差をずらして波形を重ねることにより、回路全体の出力電圧$v_\mathrm{o}$としては$\pm 2E,\ \pm E,\ 0$の階段状の波形が得られる。

 

これらは、三相3レベルインバータの出力線間電圧の波形と同様の形状となっていることがわかる。

多重インバータは複数台のインバータを接続する比較的簡単な構造ではあるが、変圧器を介するために大容量化する場合の小型化が難しくなる。

一方で(3レベルを含む)マルチレベルインバータは基本的にスイッチング素子のみで構成されているため、素子の数は多くなるものの、大容量化の際は小型化が可能となる。

 

関連記事

本記事では、インバータ出力の高調波抑制・大容量化を図るための構成となる「三相電圧形3レベルインバータ」について解説する。マルチレベルインバータとは直流電圧を交流電圧に変換するインバータの場合、回路の出力としては「直流電圧の値[…]

関連記事

本記事では、「直流-交流変換回路」として用いられるインバータ回路の概要と、各種回路についてまとめる。インバータの概要インバータの概要直流を交流に変換することを、整流動作(順変換)に対応して逆変換といい、逆変換を行う回路を[…]

 

参考文献

 

著書・製品のご紹介

『書籍×動画』が織り成す、未だかつてない最高の学習体験があなたを待っている!

電験戦士教本

※本ページはプロモーションが含まれています。―『書籍×動画』が織り成す、未だかつてない最高の学習体験があなたを待っている― 当サイト「電気の神髄」をいつもご利用ありがとうございます。管理人の摺り足の加藤です。[…]

 

この講座との出会いは、数学が苦手なあなたを救う!

一般社団法人 建設業教育協会

電験アカデミアにテキストを書き下ろしてもらい、電験どうでしょうの川尻将先生により動画解説を行ない、電験3種受験予定者が電…

 

すべての電験二種受験生の方に向けて「最強の対策教材」作りました!

SAT二種講座

※本ページはプロモーションが含まれています。すべての電験二種受験生の方に向けて「最強の対策教材」作りました! 当サイト「電気の神髄」をいつもご愛読ありがとうございます。管理人の摺り足の加藤です。 […]

 

初学者が躓きがちなギモンを、電験アカデミアがスッキリ解決します!

電験カフェ

※本ページはプロモーションが含まれています。 当サイト「電気の神髄」をいつもご利用ありがとうございます。管理人の摺り足の加藤です。 2022年5月18日、オーム社より「電験カフェへようこそ[…]