単相電圧形フルブリッジインバータ

本記事では、直流を交流に変換する回路の一種である単相電圧形フルブリッジインバータについて解説する。

単相電圧形フルブリッジインバータの回路構成

単相電圧形フルブリッジインバータの回路構成を図1に示す。

 

図1 単相電圧計フルブリッジインバータ

 

図1の回路は、スイッチ(図ではトランジスタ)$\mathrm{S}_1\sim\mathrm{S}_4$および逆並列ダイオード$\mathrm{D}_1\sim\mathrm{D}_4$を組み合わせたアームを4セット用いて構成されており、単相ハーフブリッジインバータを2つ重ねたような回路となる。

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図1の単相フルブリッジインバータは4象限チョッパ回路と同じ構成をしているが、後者は負荷に直列に平滑リアクトルが挿入されているのが特徴である。
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図1では、電源側は電圧$\displaystyle{\frac{E}{2}}$の直流電源を2つ用いており、各アーム間の端子$\mathrm{A},\ \mathrm{B}$に誘導性負荷が接続されている。

また、電源の中性点$\mathrm{O}$を基準としたときの端子$\mathrm{A},\ \mathrm{B}$の電位を$v_\mathrm{A},\ v_\mathrm{B},\ $出力電圧を$v_\mathrm{o}=v_\mathrm{A}-v_\mathrm{B}$,出力電流を$i_\mathrm{o}$とし、それぞれ図1の方向を正とする。

 

回路の動作と出力波形

回路の動作モード(位相シフトなし)

最初に、スイッチ$\mathrm{S}_1\sim\mathrm{S}_4$のオン・オフ信号の位相をずらさない場合を考える。

具体的には後述する図3のような信号を与えるものとするが、このとき上下位置に存在するアームのスイッチ($\mathrm{S}_1$と$\mathrm{S}_2$,$\mathrm{S}_3$と$\mathrm{S}_4$)は同時にオンにはならないものとする。

この場合、出力電圧$v_\mathrm{o}$は後述のように$E$または$-E$の2通りの値をとることになる。

 

このときの図1のフルブリッジインバータの動作モードを図2$(\mathrm{a})\sim(\mathrm{d})$に示す。

これらの動作モードは出力$i_\mathrm{o}$および$v_\mathrm{o}$の正負によって分類されている。

 

$(\mathrm{a})i_\mathrm{o}>0,\ v_\mathrm{o}=E$($\mathrm{S_1},\ \mathrm{S_4}$オン・$\mathrm{S_2},\ \mathrm{S_3}$オフ)

 

$(\mathrm{b})i_\mathrm{o}>0,\ v_\mathrm{o}=-E$($\mathrm{S_1},\ \mathrm{S_4}$オフ・$\mathrm{S_2},\ \mathrm{S_3}$オン)

 

$(\mathrm{c})i_\mathrm{o}<0,\ v_\mathrm{o}=-E$($\mathrm{S_1},\ \mathrm{S_4}$オフ・$\mathrm{S_2},\ \mathrm{S_3}$オン)

 

$(\mathrm{d})i_\mathrm{o}<0,\ v_\mathrm{o}=E$($\mathrm{S_1},\ \mathrm{S_4}$オン・$\mathrm{S_2},\ \mathrm{S_3}$オフ)

図2 単相電圧形ハーフブリッジインバータの動作モード①

 

回路の出力波形(位相シフトなし)

図1の回路のスイッチについて、$\mathrm{S}_1$と$\mathrm{S}_4$,$\mathrm{S}_2$と$\mathrm{S}_3$の組み合わせでそれぞれ同時にオン・オフしたときの、各電圧および電流の波形を図3に示す。

同図ではスイッチング周期を$2\pi$,各スイッチの通流率を等しく$\displaystyle{\frac{1}{2}}$であるとする(すなわち、各スイッチがオンになる位相幅は$\pi$となる)。

また、同図下の$(\mathrm{a})\sim(\mathrm{d})$は図2の記号に対応しており、各動作モードにおける挙動であることを示している。

 

なお、$\omega t=0$の時点でスイッチ$\mathrm{S}_1$および$\mathrm{S}_4$がオフ、かつ$\mathrm{S}_2$および$\mathrm{S}_3$がオンの状態であり、回路は定常状態であったものとする。

(図2でいうと$(\mathrm{c})$の状態であったとする)

 

図3 単相電圧形フルブリッジインバータの出力波形(位相シフトなし)

 

図3では、まず$\omega t=0$でスイッチ$\mathrm{S}_1$および$\mathrm{S}_4$がオン、かつ$\mathrm{S}_2$および$\mathrm{S}_3$がオフになったとすると、オン・オフが切り換わった直後は負荷のインダクタンス成分の影響により電流$i_\mathrm{o}$の向き($\mathrm{B}\rightarrow\mathrm{A}$の向き)はすぐには反転せず、逆並列ダイオード$\mathrm{D}_1$および$\mathrm{D}_4$を流れることになる(図2$(\mathrm{d})$)。

そして、しばらく時間が経過すると電流$i_\mathrm{o}$の向きは反転($\mathrm{A}\rightarrow\mathrm{B}$の向き)し、スイッチ$\mathrm{S}_1$および$\mathrm{S}_4$を流れるようになる(図2$(\mathrm{a})$)。

さらに時間が経過すると、電流$i_\mathrm{o}$は定常値に落ち着く。

 

次に、$\omega t=\pi$でスイッチ$\mathrm{S}_1$および$\mathrm{S}_4$がオフ、かつかつ$\mathrm{S}_2$および$\mathrm{S}_3$がオンになっても、同様に負荷のインダクタンス成分の影響により電流$i_\mathrm{o}$の向き($\mathrm{A}\rightarrow\mathrm{B}$の向き)はすぐには反転せず、逆並列ダイオード$\mathrm{D}_2$および$\mathrm{D}_3$を流れることになる(図2$(\mathrm{b})$)。

そして、しばらく時間が経過すると電流$i_\mathrm{o}$の向きは反転($\mathrm{B}\rightarrow\mathrm{A}$の向き)し、スイッチ$\mathrm{S}_2$および$\mathrm{S}_3$を流れるようになる(図2$(\mathrm{c})$)。

さらに時間が経過すると、電流$i_\mathrm{o}$は定常値に落ち着く。

 

以上の動作が周期$2\pi$で繰り返されることにより、電流$i_\mathrm{o}$の波形は図3のようになる。

また、$\mathrm{O}$点を基準とした端子$\mathrm{A},\ \mathrm{B}$の電位$v_\mathrm{A},\ v_\mathrm{B}$は、図3のように振幅$\pm\displaystyle{\frac{E}{2}}$の方形波となるため、その差をとった出力電圧$v_\mathrm{o}=v_\mathrm{A}-v_\mathrm{B}$は、振幅$\pm E$の方形波となる。

 

電圧形インバータと双対な回路として、電流形インバータがある。

図3の波形と、電流形インバータの出力波形を比較すると、対応関係があることがわかる。

 

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回路の動作モード(位相シフトあり)

次に、スイッチ$\mathrm{S}_1\sim\mathrm{S}_4$のオン・オフ信号の位相をずらす(位相シフトする)場合を考える。

具体的には後述する図5のような信号を与えるものとするが、上下位置に存在するアームのスイッチ($\mathrm{S}_1$と$\mathrm{S}_2$,$\mathrm{S}_3$と$\mathrm{S}_4$)は同時にオンにはならないことにするのは位相シフトがない場合と共通している。

この場合、出力電圧$v_\mathrm{o}$は後述のように$E,\ 0,\ -E$の3通りの値をとることになる。

 

このような位相シフトを行う場合は、図2$(\mathrm{a})\sim(\mathrm{d})$に加え、次の図4$(\mathrm{e}),\ (\mathrm{f})$の動作モードが追加される。

これらは同図からもわかるように、対応するスイッチおよびダイオードを介して負荷を含む閉回路を還流するモードである。

 

$(\mathrm{e})i_\mathrm{o}>0,\ v_\mathrm{o}=0$($\mathrm{S_1},\ \mathrm{S_3}$オン・$\mathrm{S_2},\ \mathrm{S_4}$オフ)

 

$(\mathrm{f})i_\mathrm{o}<0,\ v_\mathrm{o}=0$($\mathrm{S_1},\ \mathrm{S_3}$オフ・$\mathrm{S_2},\ \mathrm{S_4}$オン)

図4 単相電圧形ハーフブリッジインバータの動作モード②

 

図4のいずれの場合も、端子$\mathrm{A},\ \mathrm{B}$の電位はともに$v_\mathrm{A}=v_\mathrm{B}=\displaystyle{\frac{E}{2}}$であり、出力電圧$v_\mathrm{o}=0$となる。

 

回路の出力波形(位相シフトあり)

図1の回路のスイッチについて、$\mathrm{S}_1$と$\mathrm{S}_4$,$\mathrm{S}_2$と$\mathrm{S}_3$の組み合わせで位相シフトをしながらオン・オフしたときの、各電圧および電流の波形を図5に示す。

同図では各スイッチの通流率は等しく$\displaystyle{\frac{1}{2}}$,スイッチング周期が$2\pi$であることは図3と変わらないが、$\mathrm{S}_3,\ \mathrm{S}_4$がオンになるタイミングが組になっている$\mathrm{S}_1,\ \mathrm{S}_2$よりも位相$\alpha$進んでいる(この$\alpha$を位相シフト量という)。

また、同図下の$(\mathrm{a})\sim(\mathrm{f})$は図2および図4の記号に対応しており、各動作モードにおける挙動であることを示している。

 

なお、$\omega t=0$の時点ではスイッチ$\mathrm{S}_1$および$\mathrm{S}_3$がオフ、かつ$\mathrm{S}_2$および$\mathrm{S}_4$がオンの状態であり、回路は定常状態であったものとする。

(図4$(\mathrm{f})$の状態であったとする)

 

図5 単相電圧形フルブリッジインバータの出力波形(位相シフトあり)

 

図5で、まず$\omega t=0$でスイッチ$\mathrm{S}_1$および$\mathrm{S}_4$がオン、かつ$\mathrm{S}_2$および$\mathrm{S}_3$がオフの状態になったとすると、オン・オフが切り換わった直後は負荷のインダクタンス成分の影響により電流$i_\mathrm{o}$の向き($\mathrm{B}\rightarrow\mathrm{A}$の向き)はすぐには反転せず、逆並列ダイオード$\mathrm{D}_1$および$\mathrm{D}_4$を流れる(図2$(\mathrm{d})$)。

その後、しばらく時間が経過すると電流$i_\mathrm{o}$の向きは反転($\mathrm{A}\rightarrow\mathrm{B}$の向き)し、スイッチ$\mathrm{S}_1$および$\mathrm{S}_4$を流れるようになる(図2$(\mathrm{a})$)。

 

次に、$\omega t=\pi-\alpha$でスイッチ$\mathrm{S}_1$がオン、$\mathrm{S}_2$はオフのまま、$\mathrm{S}_3$がオン、$\mathrm{S}_4$がオフになったとすると、電流$i_\mathrm{o}$の向きは変わらず($\mathrm{A}\rightarrow\mathrm{B}$の向き)、$\mathrm{S}_1,\ \mathrm{D}_3$および負荷で構成される閉回路を還流する。

このとき、出力電圧$v_\mathrm{o}=0$となる(図4$(\mathrm{e})$)。

 

そして、$\omega t=\pi$でスイッチ$\mathrm{S}_3$がオン、$\mathrm{S}_4$はオフのまま、$\mathrm{S}_1$がオフ、$\mathrm{S}_2$がオンになると、負荷のインダクタンス成分の影響により$i_\mathrm{o}$の向き($\mathrm{A}\rightarrow\mathrm{B}$の向き)はすぐには反転せず、逆並列ダイオード$\mathrm{D}_2$および$\mathrm{D}_3$を流れた後(図2$(\mathrm{b})$)、$i_\mathrm{o}$の向きは反転($\mathrm{B}\rightarrow\mathrm{A}$の向き)し、スイッチ$\mathrm{S}_2$および$\mathrm{S}_3$を流れるようになる(図2$(\mathrm{c})$)。

 

続いて、$\omega t=2\pi-\alpha$でスイッチ$\mathrm{S}_1$がオフ、$\mathrm{S}_2$はオンのまま、$\mathrm{S}_3$がオフ、$\mathrm{S}_4$がオンになると、$i_\mathrm{o}$の向きは変わらず($\mathrm{B}\rightarrow\mathrm{A}$の向き)、$\mathrm{S}_2,\ \mathrm{D}_4$および負荷で構成される閉回路を還流する。

このとき、出力電圧$v_\mathrm{o}=0$となる(図4$(\mathrm{f})$)。

 

以上の動作が周期$2\pi$で繰り返されることにより、電流$i_\mathrm{o}$の波形は図5のようになる。

また、$\mathrm{O}$点を基準とした端子$\mathrm{A},\ \mathrm{B}$の電位$v_\mathrm{A},\ v_\mathrm{B}$は、図5のように振幅$\pm\displaystyle{\frac{E}{2}}$の方形波となる。

ただし、それらがピークをとるタイミングは位相シフトにより図3とは異なっており、その差をとった出力電圧$v_\mathrm{o}=v_\mathrm{A}-v_\mathrm{B}$は、振幅$\pm E$で、$E,\ 0,\ -E$の3通りの値をとる方形波となる。

 

 

回路の出力電圧とひずみ率

出力電圧のフーリエ級数展開

フーリエ級数展開とは、複雑な周期関数を、三角関数といった単純な周期関数の和で表すことである。

 

周期$T$である$x$の関数$f\left(x\right)$のフーリエ級数展開は、次式で表される。

$$\begin{align*}
f\left(x\right)&=\frac{a_0}{2}+\displaystyle \sum_{n=1}^\infty a_n\cos\frac{2\pi nx}{T}+\displaystyle \sum_{n=1}^\infty b_n\sin\frac{2\pi nx}{T} ・・・(1)\\\\
a_n&=\frac{2}{T}\int^{T}_{0}f\left(x\right)\cos\frac{2\pi nx}{T}\mathrm{d}x \left(n=0,1,2,\cdots\right) ・・・(2)\\\\
b_n&=\frac{2}{T}\int^{T}_{0}f\left(x\right)\sin\frac{2\pi nx}{T}\mathrm{d}x \left(n=1,2,3,\cdots\right) ・・・(3)
\end{align*}$$

 

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一方、図1の回路の出力電圧$v_\mathrm{o}$(位相シフトあり)は図5のように振幅$\pm E,\ $周期$2\pi$のパルス波で表されることがわかった。

ここで、フーリエ級数展開を適用するため、出力電圧$v_\mathrm{o}$の波形を図6のような位相幅$\pi-\alpha$、周期$2\pi$のパルス波として考える。

 

図6 単相電圧形フルブリッジインバータの出力電圧波形

 

図6のように対象の関数が原点対称である奇関数であるとき、$(1)$式で$a_0=0,\ a_n=0$となる。

また、このときの係数$b_n$は、次式で表される。

$$b_n=\frac{4}{T}\int^{\frac{T}{2}}_{0}f\left(x\right)\sin\frac{2\pi nx}{T}\mathrm{d}x \left(n=1,2,3,\cdots\right) ・・・(3)’$$

 

図6の$v_\mathrm{o}$の波形にフーリエ級数展開を適用し、係数$b_n$を求める。

$(3)’$式で$x\rightarrow\omega t,\ f\left(x\right)=E$に置き換え、$T=2\pi,\ \omega=\displaystyle{\frac{2\pi}{T}}$であることも考慮すると、$b_n$は、

$$\begin{align*}
b_n&=\frac{4}{2\pi}\int^{\pi}_{0}E\sin n\omega t\ \mathrm{d}\omega t\\\\
&=\frac{2}{\pi}\int^{\pi-\frac{\alpha}{2}}_{\frac{\alpha}{2}}E\sin n\omega t\ \mathrm{d}\omega t\\\\
&=\frac{2E}{\pi}\left[-\frac{1}{n}\cos n\omega t\right]^{\pi-\frac{\alpha}{2}}_{\frac{\alpha}{2}}\\\\
&=\frac{2E}{n\pi}\left\{-\cos n\left(\pi-\frac{\alpha}{2}\right)+\cos\frac{n\alpha}{2}\right\} ・・・(4)
\end{align*}$$

 

ここで、$(4)$式のカッコ内の第1項は、加法定理より、

$$\begin{align*}
\cos n\left(\pi-\frac{\alpha}{2}\right)&=\cos n\pi\cos\frac{n\alpha}{2}+\sin n\pi\sin\frac{n\alpha}{2}\\\\
&=\left(-1\right)^n\cos\frac{n\alpha}{2} \left(\because \cos n\pi=\left(-1\right)^n,\ \sin n\pi=0\right)
\end{align*}$$

 

したがって、$(4)$式は、

$$\begin{align*}
b_n&=\frac{2E}{n\pi}\left\{-\left(-1\right)^n\cos\frac{n\alpha}{2}+\cos\frac{n\alpha}{2}\right\}\\\\
&=\frac{2E}{n\pi}\cos\frac{n\alpha}{2}\left\{1-\left(-1\right)^n\right\} ・・・(5)
\end{align*}$$

 

ここで、$n$が偶数のとき、$(5)$式より$b_n=0$となる。

一方、$n$が奇数のとき、$(5)$式は、

$$b_n=\frac{4E}{n\pi}\cos\frac{n\alpha}{2}$$

 

以上より、図6の出力電圧$v_\mathrm{o}$をフーリエ級数展開した式は、$n=2k-1\left(k=1,2,\cdots\right)$とすると、

$$\begin{align*}
v_\mathrm{o}=\displaystyle \sum_{k=1}^\infty\frac{4E}{\left(2k-1\right)\pi}\cos\frac{\left(2k-1\right)\alpha}{2}\sin\left(2k-1\right)\omega t ・・・(6)
\end{align*}$$

 

出力電圧の実効値とひずみ率

フーリエ級数展開後の$v_\mathrm{o}$において、$n=2k-1\left(k=1,2,\cdots\right)$は各高調波成分の次数に等しくなる。

ここで、図6の出力電圧$v_\mathrm{o}$の実効値$V_\mathrm{rms}$を、実効値の定義式に基づいて計算すると、

$$\begin{align*}
V_\mathrm{rms}&=\sqrt{\frac{1}{\pi}\int^{\pi-\frac{\alpha}{2}}_{\frac{\alpha}{2}}E^2\mathrm{d}\omega t}\\\\
&=\sqrt{\frac{E^2}{\pi}\left[\omega t\right]^{\pi-\frac{\alpha}{2}}_{\frac{\alpha}{2}}}\\\\
&=\sqrt{\frac{E^2}{\pi}\left(\pi-\frac{\alpha}{2}\right)-\frac{\alpha}{2}}\\\\
&=\sqrt{\frac{\pi-\alpha}{\pi}}E ・・・(7)\\\\
\end{align*}$$

 

一方、$v_\mathrm{o}$の基本波成分$v_\mathrm{1}$は、$(6)$式で$k=1\left(n=1\right)$の成分のみを考え、

$$v_\mathrm{o1}=\frac{4E}{\pi}\cos\frac{\alpha}{2}\sin\omega t ・・・(8)$$

 

$(8)$式の$v_\mathrm{o1}$の実効値$V_\mathrm{1rms}$は、

$$\begin{align*}
V_\mathrm{1rms}&=\frac{1}{\sqrt{2}}\cdot\frac{4E}{\pi}\cos\frac{\alpha}{2}\\\\
&=\frac{2\sqrt{2}E}{\pi}\cos\frac{\alpha}{2} ・・・(9)
\end{align*}$$

 

したがって、$v_\mathrm{o}$の高調波成分の実効値を$V_\mathrm{krms}$として、ひずみ率$\mathrm{THD}$を求めると、$(8),\ (9)$式より、

$$\begin{align*}
\mathrm{THD}&=\frac{V_\mathrm{krms}}{V_\mathrm{1rms}}\\\\
&=\frac{\sqrt{V^2_\mathrm{rms}-V^2_\mathrm{1rms}}}{V_\mathrm{1rms}}\\\\
&=\frac{\sqrt{\left(\sqrt{\displaystyle{\frac{\pi-\alpha}{\pi}}}E\right)^2-\left(\displaystyle{\frac{2\sqrt{2}E}{\pi}\cos\frac{\alpha}{2}}\right)^2}}{\displaystyle{\frac{2\sqrt{2}E}{\pi}\cos\frac{\alpha}{2}}}\\\\
&=\frac{\sqrt{\displaystyle{\frac{\pi-\alpha}{\pi}}-\left(\displaystyle{\frac{2\sqrt{2}}{\pi}\cos\frac{\alpha}{2}}\right)^2}}{\displaystyle{\frac{2\sqrt{2}}{\pi}\cos\frac{\alpha}{2}}} ・・・(10)
\end{align*}$$

 

$(8)$および$(10)$式に基づき、位相シフト量$\alpha$に対する出力電圧$v_\mathrm{o}$の実効値$V_\mathrm{rms}$およびひずみ率$\mathrm{THD}$について、単位$[\mathrm{p.u.}]$で表したグラフ($V_\mathrm{rms}$に関しては$E$を単位法の基準とした)を図7に示す。

 

図7 単相フルブリッジインバータの出力電圧実効値とひずみ率

 

図7より、位相シフト量$\alpha$を調整することにより、出力電圧の実効値$V_\mathrm{rms}$を可変とすることができる。

一方、$\alpha$を大きくとりすぎると、高調波成分の実効値も同時に変化するため、ひずみ率$\mathrm{THD}$も増大してしまうため、注意が必要である。

 

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