4象限チョッパ回路

本記事では、電動機の駆動・ブレーキの各動作を正回転・逆回転両方で行うことのできる4象限チョッパ回路について解説する。

4象限チョッパ回路の構成

図1に4象限チョッパ回路の構成を示す。

 

図1 4象限チョッパ回路

 

図1の回路は、スイッチの切換により電動機に流れる出力電流および電圧の極性を正負のいずれにも変更可能である。

この回路は2象限チョッパ回路を2つ組み合わせたような構成になっている。

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なお、図1の4象限チョッパ回路は単相フルブリッジインバータと同じ構成をしているが、後者は負荷に直列に接続される平滑リアクトル$L$がないのが特徴である。
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図1の回路は、入力電圧$E$となる直流電源が、スイッチ$\mathrm{S_1},\ \mathrm{S_2},\ \mathrm{S_3},\ \mathrm{S_4}$(図1ではバイポーラトランジスタ)およびダイオード$\mathrm{D_1},\ \mathrm{D_2},\ \mathrm{D_3},\ \mathrm{D_4}$を介して、リアクトル$L$と電動機に接続されている。

 

同図において、リアクトル$L$および電動機の直列回路の両端の電圧を$v_\mathrm{m}$,電動機に流れる電流(電機子電流)を$i_\mathrm{a}$とする。

このとき、電動機のトルクは$i_\mathrm{a}$に、回転速度は$v_\mathrm{m}$に比例するので、これらの正負に対応して図2のような運転モードをとる。

このような運転方法を4象限運転という。

 

図2 4象限チョッパ回路の運転モード

 

4象限チョッパ回路の動作(2レベル制御)

図1の4象限チョッパ回路について、出力電圧が正・負の2段階となるような制御方法を2レベル制御という。

 

回路の運転モード

4象限チョッパ回路の2レベル制御における運転モードを図3$(\mathrm{a})\sim(\mathrm{d})$に示す。

これら4つの運転モードは図2の第1~第4象限に対応しており、出力電流$i_\mathrm{a}$および電圧$v_\mathrm{m}$の正負によって分類される。

 

$(\mathrm{a})i_\mathrm{a}>0,\ v_\mathrm{m}>0$(正回転・力行運転、$\mathrm{S_1},\ \mathrm{S_4}$オン・$\mathrm{S_2},\ \mathrm{S_3}$オフ)

 

$(\mathrm{b})i_\mathrm{a}<0,\ v_\mathrm{m}>0$(正回転・回生運転、$\mathrm{S_1},\ \mathrm{S_4}$オン・$\mathrm{S_2},\ \mathrm{S_3}$オフ)

 

$(\mathrm{c})i_\mathrm{a}<0,\ v_\mathrm{m}<0$(逆回転・力行運転、$\mathrm{S_1},\ \mathrm{S_4}$オフ・$\mathrm{S_2},\ \mathrm{S_3}$オン)

 

$(\mathrm{d})i_\mathrm{a}>0,\ v_\mathrm{m}<0$(逆回転・回生運転、$\mathrm{S_1},\ \mathrm{S_4}$オフ・$\mathrm{S_2},\ \mathrm{S_3}$オン)

図3 4象限チョッパ回路の運転モード(2レベル制御)

 

図3$(\mathrm{a})$および$(\mathrm{c})$では、オンになっている各スイッチを通して電源から電動機に電流が流れている力行運転のモードとなる。

一方、同図$(\mathrm{b})$および$(\mathrm{d})$では、各ダイオードを通して電動機から電源に電力を返還する回生運転のモードとなる。

力行か回生かが分かりづらい場合は、電力$i_\mathrm{a}\times v_\mathrm{m}$の正負を考えてみるとわかりやすい。

電力が正であれば力行運転、負であれば回生運転となる。

 

PWM制御による出力波形

スイッチのオンとオフの時間幅で出力値の制御を行う方法をPWM(Pulse Width Modulation;パルス幅変調)制御という。

PWM制御には、後述する図4のような信号波$v_\mathrm{o}$と三角搬送波$v_\mathrm{c}$の大小を比較して、スイッチへの制御信号を送るタイミングを決定する三角波比較法が用いられる。

 

ここで2レベル制御において、図1の回路には信号波$v_\mathrm{o}$と三角搬送波$v_\mathrm{c}$の大小に応じて、次のような信号を送ることとする。

  • $v_\mathrm{o}\geq v_\mathrm{c}$のとき、$\mathrm{S_1},\ \mathrm{S_4}$オン・$\mathrm{S_2},\ \mathrm{S_3}$オフ
  • $v_\mathrm{o}<v_\mathrm{c}$のとき、$\mathrm{S_1},\ \mathrm{S_4}$オフ・$\mathrm{S_2},\ \mathrm{S_3}$オン

 

上のような制御を行った場合の4象限チョッパの出力波形を図4に示す。

 

図4 2レベルPWM制御による4象限チョッパ回路の出力波形(左:$v_\mathrm{o}>0$,右:$v_\mathrm{o}<0$)

 

図4より、出力電圧$v_\mathrm{m}$はパルス状の波形になっており、同図下部の記号は図3の各動作モードに対応している。

このとき、信号波$v_\mathrm{o}$の大きさを変化させれば、$v_\mathrm{m}$のパルス幅を調整することができる。

また、電流$i_\mathrm{a}>0$の極性は信号波$v_\mathrm{o}$の正負に対応していることがわかる。

 

以上より、PWM制御により電動機の出力を調整し、その結果として回転速度およびトルクを制御することができる。

 

 

4象限チョッパ回路の動作(3レベル運転)

図1の4象限チョッパ回路について、出力電圧が正・0・負の3段階となるような制御方法を3レベル制御という。

 

回路の運転モード

4象限チョッパ回路の3レベル制御における運転モードを図5$(\mathrm{a})\sim(\mathrm{h})$に示す。

 

 

図5 4象限チョッパ回路の運転モード(3レベル制御)

 

なお、図5$(\mathrm{a})\sim(\mathrm{d})$は出力電流$i_\mathrm{a}>0$,$(\mathrm{e})\sim(\mathrm{h})$は$i_\mathrm{a}<0$の場合である。

同図より、図3の2レベル制御の場合と比較して、電流が電源を通過せずに電動機を含む閉回路を還流する(すなわち電源は接続されず、電動機の両端の電圧は0になる)モードが追加されている。

 

PWM制御による出力波形

3レベル制御において、図1の回路には2つの信号波$v_\mathrm{o}$と三角搬送波$v_\mathrm{c}$の大小に応じて、次のような信号を送ることとする。

  • $v_\mathrm{o}\geq v_\mathrm{c}$のとき、$\mathrm{S_1}$オン・$\mathrm{S_2}$オフ
  • $v_\mathrm{o}<v_\mathrm{c}$のとき、$\mathrm{S_1}$オフ・$\mathrm{S_2}$オン
  • $-v_\mathrm{o}\geq v_\mathrm{c}$のとき、$\mathrm{S_3}$オン・$\mathrm{S_4}$オフ
  • $-v_\mathrm{o}<v_\mathrm{c}$のとき、$\mathrm{S_3}$オフ・$\mathrm{S_4}$オン

 

上の制御方法からわかるように、信号波$v_\mathrm{o}$は図1の上段$\mathrm{S_1}$および$\mathrm{S_2}$に、それを反転させた$-v_\mathrm{o}$は同図下段$\mathrm{S_3}$および$\mathrm{S_4}$にそれぞれ対応している。

なお、3レベルPWM制御の方法として、信号波は1つにして、位相を$180^\circ$ずらした2つの三角搬送波を用いる方法もある。

 

上のような制御を行った場合の4象限チョッパの出力波形を図6に示す。

 

図6 3レベルPWM制御による4象限チョッパ回路の出力波形(左:$v_\mathrm{o}>0$,右:$v_\mathrm{o}<0$)

 

図6では、出力電圧$v_\mathrm{m}$を求めるために、図1の接続点である$\mathrm{A}$および$\mathrm{B}$点の電位$v_\mathrm{A}$および$v_\mathrm{B}$も示している。

また、同図下部の記号は図5の各動作モードに対応している。

 

同図より、2つの信号波$v_\mathrm{o}$および$-v_\mathrm{o}$と三角搬送波$-v_\mathrm{c}$の大小に合わせて$v_\mathrm{A}$および$v_\mathrm{B}$が決まるので、その差である出力電圧$v_\mathrm{m}=v_\mathrm{A}-v_\mathrm{B}$は、0となる期間をもつパルス状の波形となる。

このとき、$v_\mathrm{o}$の大きさを変化させれば、$v_\mathrm{m}$のパルス幅を調整することができ、かつ符号を変化させれば$v_\mathrm{m}$は正・0・負の3段階の値をとることができる。

また、図4と同様に電流$i_\mathrm{a}>0$の極性は信号波$v_\mathrm{o}$の正負に対応していることがわかる。

 

なお、図5の$(\mathrm{d})$および$(\mathrm{e})$は、ダイオードを通して電源に電力を返還する回生運転のモードになるが、図6の場合はそれらのモードになることはない。

 

3レベルPWM制御は2レベルと比較して、とることのできる値が多い分、安定した(高調波成分の少ない)出力電圧波形を得ることができる。

 

参考文献

 

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