本記事では、電気回路の計算には必須となる「重ね合わせの理」について、この理論が成立する理由を考察する。
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重ね合わせの理とは
重ね合わせの理(または重ねの理、重畳の理)という原理の内容は下記となる。
「複数の電源を持つ線形回路において、任意の点における電流および任意の点の間の電圧は、各電源が単独に存在していた場合の電流および電圧の和に等しい」
つまり、図1のような電源が複数ある場合の回路計算においては、電源を一つだけ残して取り除いた場合でそれぞれ電圧・電流を計算し、最後にそれぞれの計算値を「重ね合わせる」ことにより、最初の回路における値を求めることができる。
なお、電圧源を取り除く場合は当該回路部分を短絡、電流源を取り除く場合は当該回路部分を開放したものとして考える。
図1の回路に重ね合わせの理を適用する場合、電圧源$E_1,\ E_2$は短絡、電流源$J$は開放して考えるので、図2のようにそれぞれの電源が単独で存在する3つの回路に分離することができる。
図2 図1の回路の「各電源が単独で存在する回路」への分離
(点線は回路が繋がっていないことを示す)
複数の電圧源がある回路
$n$個の電圧源$E_1$, $E_2$, …, $E_n$が存在する線形回路において、各閉路に電流$I_1$, $I_2$, …, $I_n$が流れていたとする。
このときの回路内の電圧と電流の関係は、回路のインピーダンス行列を用いると、
\left(\begin{array}{c} E_1 \\ E_2 \\ \vdots \\ E_n \end{array}\right) = \left( \begin{array}{cccc} Z_{ 11 } & Z_{ 12 } & \ldots & Z_{ 1n } \\ Z_{ 21 } & Z_{ 22 } & \ldots & Z_{ 2n } \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ Z_{ n1 } & Z_{ n2 } & \ldots & Z_{ nn } \end{array}\right) \left( \begin{array}{c} I_1 \\ I_2 \\ \vdots \\ I_n \end{array}\right) ・・・(1)
\end{eqnarray}$$
次に、電圧源$E_1$のみが存在する場合の各閉路の電流を${_1}I_1$, $ {_1} I_2$, …, $ {_1} I_n$とすると、このときの回路内の電圧・電流の関係は、
同様に、電圧源$E_2$のみが存在する場合の各閉路の電流を${_2}I_1$, $ {_2} I_2$, …, $ {_2} I_n$とすると、このときの回路内の電圧・電流の関係は、
これを$n$個の電圧源ごとに考えていくと、$n$番目の電圧源$E_n$についての式は、
ここで、単独で各電圧源$E_1$, $E_2$, …, $E_n$が存在する場合の式$(2.1),\ (2.2),\ \ldots,\ (2.n)$式を全て足し合わせると、
$(1)$式と$(3)$式について、右辺の電流の項を比較すると、
$(4)$式から結局、最初の回路の電流($(1)$式)は、各電圧源が単独に存在する場合の電流の総和($(3)$式)に等しい。
すなわち、回路の電流について重ね合わせの理が成り立つことを表している。
複数の電流源がある回路
$n$個の電流源$J_1$, $J_2$, …, $J_n$が存在する線形回路において、各閉路間に電圧$V_1$, $V_2$, …, $V_n$が発生するとする。
このときの回路内の電圧と電流の関係は、回路のアドミタンス行列を用いると、
電圧源の場合と同様に、単独で各電流源$J_1$, $J_2$, …, $J_n$が存在する場合の電流・電圧の関係式は、
\left(\begin{array}{c} J_1 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \end{array}\right)&= \left(\begin{array}{cccc} Y_{ 11 } & Y_{ 12 } & \ldots & Y_{ 1n } \\ Y_{ 21 } & Y_{ 22 } & \ldots & Y_{ 2n } \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ Y_{ n1 } & Y_{ n2 } & \ldots & Y_{ nn } \end{array}\right) \left( \begin{array}{c} {_1}V_1 \\ {_1}V_2 \\ \vdots \\ {_1}V_n \end{array}\right) ・・・(6.1)\\\\\\ \left(\begin{array}{c} 0 \\ J_2 \\ \vdots \\ 0 \end{array}\right)&= \left(\begin{array}{cccc} Y_{ 11 } & Y_{ 12 } & \ldots & Y_{ 1n } \\ Y_{ 21 } & Y_{ 22 } & \ldots & Y_{ 2n } \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ Y_{ n1 } & Y_{ n2 } & \ldots & Y_{ nn } \end{array}\right) \left( \begin{array}{c} {_2}V_1 \\ {_2}V_2 \\ \vdots \\ {_2}V_n \end{array}\right) ・・・(6.2) \\\\\\
\vdots\\\\\\
\left(\begin{array}{c} 0 \\ 0 \\ \vdots \\ J_n \end{array}\right)&= \left(\begin{array}{cccc} Y_{ 11 } & Y_{ 12 } & \ldots & Y_{ 1n } \\ Y_{ 21 } & Y_{ 22 } & \ldots & Y_{ 2n } \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ Y_{ n1 } & Y_{ n2 } & \ldots & Y_{ nn } \end{array}\right) \left( \begin{array}{c} {_n}V_1 \\ {_n}V_2 \\ \vdots \\ {_n}V_n \end{array}\right) ・・・(6.n)
\end{align*}$$
$(6.1),\ (6.2),\ \ldots(6.n)$式を全て足し合わせると、
$(5)$式と$(7)$式について、右辺の電圧の項を比較すると、
$(8)$式から結局、最初の回路に発生する電圧($(5)$式)は、各電流源が単独に存在する場合に回路内に発生する電圧の総和($(7)$式)に等しい。
すなわち、回路の電圧についても重ね合わせの理が成り立つといえる。
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電圧源と電流源が混在している回路
前項までは、電圧源または電流源のどちらか1種類のみ存在する場合を考えてきたが、両方が混在する場合を考える。
電圧源と電流源を含む回路
図3左のような内部抵抗$R$の電圧源$E$を含む回路を、同図右の内部コンダクタンス$G$の電流源$J$を含む回路に変換する。
図3 電圧源⇔電流源の変換
まず、図3の左右の回路は等価であるから、端子間に発生する電圧を$V$,端子間に流れる電流を$I$とすると、
$$\begin{cases}
V=E-RI ・・・(9)\\\\
I=J-GV ・・・(10)
\end{cases}$$
が成り立つ。
端子間を短絡した場合
図3の回路の端子間を短絡した場合、同図右の回路において$V=0$となるから、$(9)$式より、
$$E-RI=0 ・・・(11)$$
また、回路全体の電流については、$(10)$式より、
$$I=J ・・・(12)$$
したがって、$(11),\ (12)$式より、
$$E-RJ=0 ・・・(13)$$
端子間を開放した場合
一方、図3の回路の端子間を開放した場合、 左の回路において$I=0$となるから、$(10)$式より、
$$J-GV=0 ・・・(14)$$
また、回路の電圧については、$(9)$式より、
$$E=V ・・・(15)$$
したがって、$(14),\ (15)$式より、
$$J-GE=0 ・・・(16)$$
電圧源⇔電流源の変換式
$(13),\ (16)$式を比較すると、
$$R=\frac{1}{G} ・・・(17)$$
すなわち、図3の回路の電圧源⇔電流源の変換式は、$(17)$式より、
$$\begin{cases}
J=\displaystyle{\frac{E}{R}} ・・・(18)\\\\
E=\displaystyle{\frac{J}{G}} ・・・(19)
\end{cases}$$
$(17),\ (18),\ (19)$式を用いれば、電圧源と電流源が混在する回路においても、どちらか片方の種類に統一することができるため、重ね合わせの理による計算が可能となる。
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