四端子回路の例題(変圧器およびT形等価回路)

本記事では、これまでの例題と同様に、系統の各要素ごとに四端子定数を設定し、接続順で掛け合わせるごとで系統全体の四端子定数を算出する問題を解いていく。

四端子回路:例題

出典:電験一種二次試験「電力・管理」H19問3
(問題の記述を一部変更しています)

よくねん架された三相送電線1回線とタップ付き変圧器からなる送電系統がある。

 

図1に示すように、送電線はT形等価回路で表され、そのインピーダンスを$\dot{Z}[\mathrm{p.u.}]$, アドミタンスを$\dot{Y}[\mathrm{p.u.}]$, タップ付き変圧器はタップ比を$1:n$とし、漏れインピーダンスを$X[\mathrm{p.u.}]$とする。

送電線及びタップ付き変庄器の抵抗は無視でき、送電端の電圧は大きさが常に$1.00\mathrm{p.u.}$に保たれているものとする。

 

図1 送電線と変圧器で構成された系統

 

$(1)$
タップ比$n$を$1.05$とし、受電端を開放したとき、受電端電圧$\dot{V_r}$および送電端電流$\dot{I_s}$の大きさはそれぞれ$1.13\mathrm{p.u.}$および$0.39\mathrm{p.u.}$(進み)であった。

次に受電端を短絡したとき、受電端電流$\dot{I_r}$の大きさは$1.88\mathrm{p.u.}$(遅れ)であった。

この送電系統の四端子定数$\dot{A},\ \dot{B},\ \dot{C},\ \dot{D}$を求めよ。

 

$(2)$
このとき、$\dot{Z}$,$\dot{Y}$および$X$の値$[\mathrm{p.u.}]$はいくつか。

 

$(3)$
次にタップ比$n$を$0.95$に変更し、受電端を開放したとき、受電端の電圧が$1.00\mathrm{p.u.}$となるように適切な容量の調相設備をタップ付き変圧器の一次側(送電線側)に並列に入れた。

この調相設備に流れ込む無効電力$\mathrm{p.u.}$(遅れ)を求めよ。

 

四端子定数の算出

$(1)$
送電端・受電端電圧および電流と四端子定数との関係を式にすると、「四端子定数のまとめ」式$(1),\ (2)$より、

$$\begin{cases}
\dot{V_s}=\dot{A}\dot{V_r}+\dot{B}\dot{I_r} &・・・(1)\\
\dot{I_s}=\dot{C}\dot{V_r}+\dot{D}\dot{I_r} &・・・(2)
\end{cases}$$

 

まず、受電端解放時、$\dot{I_r}=0$であるから、$(1),\ (2)$式に代入して、

$$\begin{align*}
\dot{V_s}&=\dot{A}\dot{V_r}\\\\
\therefore\dot{A}&=\frac{\dot{V_s}}{\dot{V_r}}=\frac{1.00}{1.13}=0.8850\\\\\\
\dot{I_s}&=\dot{C}\dot{V_r}\\\\
\therefore\dot{C}&=\frac{\dot{I_s}}{\dot{V_r}}=\frac{j0.39}{1.13}=j0.3451
\end{align*}$$

 

次に、受電端短絡時、$\dot{V_r}=0$であるから、$(1),\ (2)$式に代入して、

$$\begin{align*}
\dot{V_s}&=\dot{B}\dot{I_r}\\\\
\therefore\dot{B}&=\frac{\dot{V_s}}{\dot{I_r}}=\frac{1.00}{-j1.88}=j0.5319
\end{align*}$$

 

さらに、この系統の回路は「T形等価回路」と「変圧器」が接続された形になるので、$\dot{A}\dot{D}-\dot{B}\dot{C}=1$が成り立つことより、同式から$\dot{D}$を求めると、

$$\begin{align*}
&0.8850\cdot\dot{D}-j0.5319\cdot j0.3451=1\\\\
\therefore&\dot{D}=\frac{1-0.5319\cdot0.3451}{0.8850}=0.9225
\end{align*}$$

 

以上より、

$$\left(\begin{array}{cc} \dot{A}& \dot{B} \\ \dot{C}& \dot{D} \end{array}\right) = \left(\begin{array}{cc} 0.885 & j0.532 \\ j0.345 & 0.923 \end{array}\right)$$

 

 

線路定数の算出

$(2)$
題意から図1の送電線はT形等価回路で表されることより、四端子定数を$\dot{A_1},\ \dot{B_1},\ \dot{C_1},\ \dot{D_1}$とすると、「T形等価回路の四端子定数」より、

$$\left(\begin{array}{cc} \dot{A_1} & \dot{B_1} \\ \dot{C_1}& \dot{D_1} \end{array}\right) = \left(\begin{array}{cc} \displaystyle{1+\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{2}} & \displaystyle{\dot{Z}}\left( 1+\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{4}\right) \\ \displaystyle {\dot{Y}} & \displaystyle {1+\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{2}} \end{array}\right)$$

 

次に、変圧器について、図1より理想変圧器が漏れリアクタンスの右側に接続されているため、四端子定数を$\dot{A_2},\ \dot{B_2},\ \dot{C_2},\ \dot{D_2}$とすると、 「変圧器の四端子定数(特殊パターン(一次側換算)」より、

$$\left(\begin{array}{cc} \dot{A_2} & \dot{B_2} \\ \dot{C_2}& \dot{D_2} \end{array}\right)= \left(\begin{array}{cc} \displaystyle{ \frac{1}{n}} & jnX \\ 0 & n \end{array}\right) $$

 

これらを接続順に掛け合わせたものが系統全体の四端子定数$\dot{A},\ \dot{B},\ \dot{C},\ \dot{D}$になることより、

$$\begin{align*}
\left(\begin{array}{cc} \dot{A} & \dot{B} \\ \dot{C}& \dot{D} \end{array}\right)&= \left(\begin{array}{cc} \dot{A_1} & \dot{B_1} \\ \dot{C_1}& \dot{D_1} \end{array}\right)\left(\begin{array}{cc} \dot{A_2} & \dot{B_2} \\ \dot{C_2}& \dot{D_2} \end{array}\right) \\\\
&=\left(\begin{array}{cc} \displaystyle{1+\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{2}} & \displaystyle{\dot{Z}}\left( 1+\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{4}\right) \\ \displaystyle {\dot{Y}} & \displaystyle {1+\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{2}} \end{array}\right)\left(\begin{array}{cc} \displaystyle{ \frac{1}{n}} & jnX \\ 0 & n \end{array}\right) \\\\&=\left(\begin{array}{cc} \displaystyle{\frac{1}{n}\left(1+\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{2}\right)} & \displaystyle{jnX\left(1+\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{2}\right)}+\displaystyle{n\dot{Z}}\left( 1+\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{4}\right) \\ \displaystyle {\frac{\dot{Y}}{n}} & jnX\dot{Y}+\displaystyle{n\left(1+\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{2}\right)} \end{array}\right)
\end{align*}$$

 

これと前項の計算結果より、

$$\begin{align*}
\dot{C}&=\frac{\dot{Y}}{n}=j0.3451\\\\
\therefore\dot{Y}&=j0.3451\times1.05=j0.3624\\\\\\
\dot{A}&=\frac{1}{n}\left(1+\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{2}\right)\\\\
\therefore\dot{Z}&=\frac{2\left(n\dot{A}-1\right)}{\dot{Y}}\\\\
&=\frac{2\left(1.05\times0.8850-1\right)}{j0.3624}=j0.3905\\\\\\
\dot{D}&=jnX\dot{Y}+\displaystyle{n\left(1+\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{2}\right)}\\\\
\therefore X&=\frac{\dot{D}-n\left(1+\displaystyle{\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{2}}\right)}{jn\dot{Y}}\\\\
&=\frac{0.9225-1.05\left(1+\displaystyle{\frac{j0.3905\times j0.3624}{2}}\right)}{j1.05\times j0.3624}\\\\
&=0.1398
\end{align*}$$

 

調相設備に流れ込む無効電力の算出

$(3)$
変圧器一次側の端子電圧を$\dot{V_{T}}$, 変圧器に流入する電流を$\dot{I_T}$, 調相設備に流入する電流を$\dot{I_C}$として、前項で用いた送電線および変圧器の四端子定数を用いて関係性を示すと、題意より受電端開放であることに注意して、

$$\begin{align*}
\left(\begin{array}{c} \dot{V_s} \\ \dot{I_s} \end{array}\right)&= \left(\begin{array}{cc} \dot{A_1} & \dot{B_1} \\ \dot{C_1}& \dot{D_1} \end{array}\right)\left(\begin{array}{c} \dot{V_T} \\ \dot{I_T}+\dot{I_C} \end{array}\right) ・・・(3)\\\\
\left(\begin{array}{c} \dot{V_T} \\ \dot{I_T} \end{array}\right)&= \left(\begin{array}{cc} \dot{A_2} & \dot{B_2} \\ \dot{C_2}& \dot{D_2} \end{array}\right) \left(\begin{array}{c} \dot{V_r} \\ 0 \end{array}\right) ・・・(4)
\end{align*}$$

 

まず、$(4)$式より、$\dot{V_T}$および$\dot{I_T}$を求めると、

$$\begin{align*}
\dot{V_T}&=\dot{A_2}\dot{V_r}=\frac{1.00}{0.95}=1.0526\\\\
\dot{I_T}&=\dot{C_2}\dot{V_r}=0
\end{align*}$$

 

この結果を$(3)$式に代入して、

$$\begin{align*}
\dot{V_s}&=\dot{A_1}\dot{V_T}+\dot{B_1}\dot{I_C}\\\\
\therefore\dot{I_C}&=\frac{\dot{V_s}-\dot{A_1}\dot{V_T}}{\dot{B_1}}=\frac{\dot{V_s}-\left(1+\displaystyle{\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{2}}\right)\dot{V_T}}{\dot{Z}\left( 1+\displaystyle{\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{4}}\right)}\\\\
&=\frac{1.00-\left(1+\displaystyle{\frac{j0.3905\times j0.3624}{2}}\right)\times1.0526}{j0.3905\left(1+\displaystyle{\frac{j0.3905\times j0.3624}{4}}\right)}\\\\
&=\frac{0.02188}{j0.3767}\\\\
&=-j0.05808
\end{align*}$$

 

したがって、調相設備に流れ込む遅れ無効電力(=流れ出す進み無効電力)$Q_C$は、

$$\begin{align*}
Q_C&=\dot{V_T}\overline{\dot{I_C}}\\\\
&=1.0526\times\dot{j0.05808}\\\\
&=j0.06114\rightarrow\boldsymbol{\underline{j0.611\mathrm{p.u.}}}
\end{align*}$$

 

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