本記事では、四端子回路および四端子定数を扱う例題として、電験一種の過去問を解いていく。
四端子回路:例題
出典:電験一種二次試験「電力・管理」平成20年度問4
(問題の記述を一部変更しています)図1のような電源、架空線、変圧器、地中線および負荷で構成される電力系統を考える。
架空線の公称電圧は$500\mathrm{kV},\ $架空線の長さは$100\mathrm{km},\ $地中線の公称電圧は$275\mathrm{kV},\ $地中線の長さは$50\mathrm{km}$とする。架空線、変圧器、地中線とも直列抵抗および分路コンダクタンスは無視する。
図1 対象の電力系統
また、架空線および地中線の各回路定数は、
- 架空線の直列リアクタンス:$j0.001\mathrm{p.u./km}$
- 架空線の静電容量による分路サセブタンス:$j0.001\mathrm{p.u./km}$
- 地中線の直列リアクタンス:$j0.002\mathrm{p.u./km}$
- 地中線の静電容量による分路サセブタンス:$j0.008\mathrm{p.u./km}$
変圧器については、
- 変圧器容量:$1000\mathrm{MVA}$
- 漏れリアクタンス:自己容量ベースで$15\%$
- タップ比:$1:1.1$
なお、単位法の系統基準容量を$1000\mathrm{MVA}$とし、基準電圧は架空線、地中線ともそれぞれの公称電圧とする。
数値はすべて単位法$\mathrm{p.u.}$で表すものとする。
この送電系統で,架空線送電端電圧を$525\mathrm{kV}$としたとき、次の問に答えよ。
$(1)$
架空線、変圧器、地中線を$\pi$形等価回路で表現し、それらを接続した送電系統全体の等価回路を表せ。なお、それぞれの直列リアクタンス、分路サセブタンスは単位法で表すものとする。
$(2)$
この送電系統の負荷端の短絡電流を表すアドミタンスと、無負荷時の負荷端電圧をそれぞれ単位法で計算せよ。ただし、電源の内部インピーダンスは無視する。
$(3)$
負荷として$1.0+j0.8\mathrm{p.u.}$のインピーダンスを接続したとき、負荷端の電圧$[\mathrm{p.u.}]$を求めよ。また、軽負荷時に負荷のインピーダンスが$4.0+j3.2\mathrm{p.u.}$まで上昇し、変圧器のタップ比をそのままとしたときの負荷端の電圧$[\mathrm{p.u.}]$を計算せよ。
回路全体の四端子定数
$(1)$
架空線および地中線を$\pi$形等価回路で表した時の、図1の電力系統全体の等価回路を図2に示す。
図2 図1の系統の等価回路
次に、各回路定数を問題文記載の値から求めていくと、
$$\begin{align*}
\dot{Z_1}&=j0.001\times100=j0.100\mathrm{p.u.}\\\\
\dot{Y_1}&=j0.001\times100=j0.100\mathrm{p.u.}\\\\
\dot{Z_2}&=j0.002\times50=j0.100\mathrm{p.u.}\\\\
\dot{Y_2}&=j0.008\times50=j0.400\mathrm{p.u.}\\\\
\end{align*}$$
したがって、架空線、変圧器、地中線の四端子定数は、「$\pi$形等価回路の四端子定数」および「変圧器(標準パターン、一次側換算)の四端子定数」を用いて、
$$\begin{align*}
\left(\begin{array}{cc} \dot{A_1}&\dot{B_1}\\\dot{C_1}&\dot{D_1}\end{array}\right)&=\left(\begin{array}{cc} 1+\displaystyle\frac{\dot{Z_1}\dot{Y_1}}{2}&\dot{Z_1}\\\dot{Y_1}\left(1+\displaystyle\frac{\dot{Z_1}\dot{Y_1}}{4}\right)& 1+\displaystyle\frac{\dot{Z_1}\dot{Y_1}}{2} \end{array}\right)\\\\
\left(\begin{array}{cc} \dot{A_T}&\dot{B_T}\\\dot{C_T}&\dot{D_T}\end{array}\right)&=\left(\begin{array}{cc} \displaystyle\frac{1}{n}&\displaystyle\frac{\dot{Z_T}}{n}\\0&n\end{array}\right)\\\\
\left(\begin{array}{cc} \dot{A_2}&\dot{B_2}\\\dot{C_2}&\dot{D_2}\end{array}\right)&=\left(\begin{array}{cc} 1+\displaystyle\frac{\dot{Z_2}\dot{Y_2}}{2}&\dot{Z_2}\\\dot{Y_2}\left(1+\displaystyle\frac{\dot{Z_2}\dot{Y_2}}{4}\right)& 1+\displaystyle\frac{\dot{Z_2}\dot{Y_2}}{2} \end{array}\right)\\\\
\end{align*}$$
系統全体の四端子定数は、上記を掛け合わせて、
$$\begin{align*}
&\left(\begin{array}{cc} \dot{A}&\dot{B}\\\dot{C}&\dot{D}\end{array}\right)= \left(\begin{array}{cc} \dot{A_1}&\dot{B_1}\\\dot{C_1}&\dot{D_1}\end{array}\right) \left(\begin{array}{cc} \dot{A_T}&\dot{B_T}\\\dot{C_T}&\dot{D_T}\end{array}\right) \left(\begin{array}{cc} \dot{A_2}&\dot{B_2}\\\dot{C_2}&\dot{D_2}\end{array}\right) \\\\&=\left(\begin{array}{cc} 1+\displaystyle\frac{\dot{Z_1}\dot{Y_1}}{2}&\dot{Z_1}\\\dot{Y_1}\left(1+\displaystyle\frac{\dot{Z_1}\dot{Y_1}}{4}\right)& 1+\displaystyle\frac{\dot{Z_1}\dot{Y_1}}{2} \end{array}\right)\left(\begin{array}{cc} \displaystyle\frac{1}{n}&\displaystyle\frac{\dot{Z_T}}{n}\\0&n\end{array}\right)\left(\begin{array}{cc} 1+\displaystyle\frac{\dot{Z_2}\dot{Y_2}}{2}&\dot{Z_2}\\\dot{Y_2}\left(1+\displaystyle\frac{\dot{Z_2}\dot{Y_2}}{4}\right)& 1+\displaystyle\frac{\dot{Z_2}\dot{Y_2}}{2} \end{array}\right)\\\\
\end{align*}$$
四端子定数の計算
前項で導出した四端子定数を、問題文の値を代入して計算する。
架空線の四端子定数の値
$$\begin{align*}
\dot{A_1}=\dot{D_1}&=1+\frac{\dot{Z_1}\dot{Y_1}}{2}=0.9950\\\\
\dot{B_1}&=j0.100\\\\
\dot{C_1}&=\dot{Y_1}\left(1+\frac{\dot{Z_1}\dot{Y_1}}{4}\right)=j0.09975
\end{align*}$$
変圧器の四端子定数の値
$$\begin{align*}
\dot{A_T}&=\frac{1}{n}=0.9091\\\\
\dot{B_T}&=\frac{\dot{Z_T}}{n}=j0.1364\\\\
\dot{C_T}&=0\\\\
\dot{D_T}&=n=1.1
\end{align*}$$
地中線の四端子定数の値
$$\begin{align*}
\dot{A_2}=\dot{D_2}&=1+\frac{\dot{Z_2}\dot{Y_2}}{2}=0.9800\\\\
\dot{B_2}&=j0.100\\\\
\dot{C_2}&=\dot{Y_2}\left(1+\frac{\dot{Z_2}\dot{Y_2}}{4}\right)=j0.3960
\end{align*}$$
系統全体の四端子定数の値
$$\begin{align*}
&\left(\begin{array}{cc} \dot{A}&\dot{B}\\\dot{C}&\dot{D}\end{array}\right)= \left(\begin{array}{cc} \dot{A_1}&\dot{B_1}\\\dot{C_1}&\dot{D_1}\end{array}\right) \left(\begin{array}{cc} \dot{A_T}&\dot{B_T}\\\dot{C_T}&\dot{D_T}\end{array}\right) \left(\begin{array}{cc} \dot{A_2}&\dot{B_2}\\\dot{C_2}&\dot{D_2}\end{array}\right) \\\\&=\left(\begin{array}{cc} 0.9950 & j0.100 \\ j0.09975 & 0.9950 \end{array}\right)\left(\begin{array}{cc} 0.9091 & j0.1364 \\0&1.1\end{array}\right)\left(\begin{array}{cc} 0.9800 & j0.100 \\ j0.3960 & 0.9800 \end{array}\right)\\\\
&=\left(\begin{array}{cc} 0.9046 & j0.2457 \\j0.09068&1.0809\end{array}\right)\left(\begin{array}{cc} 0.9800 & j0.100 \\ j0.3960 & 0.9800 \end{array}\right)\\\\
&=\left(\begin{array}{cc} 0.7892 & j0.3312 \\j0.5169&1.0502\end{array}\right)
\end{align*}$$
負荷の電圧・電流の計算
まず「負荷端の短絡電流を表すアドミタンス」について解説する。
無負荷端にある電圧$\dot{V_r}$があるとき、無負荷端を短絡した時点で流れる電流$\dot{I_r}$は、無負荷時($\dot{I_r}=0$)は$\dot{V_s}=\dot{A}\dot{V_r}\rightarrow\displaystyle\dot{V_r}=\frac{\dot{V_s}}{\dot{A}}$,短絡時($\dot{V_r}=0$)は$\dot{V_s}=\dot{B}\dot{I_r}\rightarrow\displaystyle\dot{I_r}=\frac{\dot{V_s}}{\dot{B}}$が成り立つから、
$$\begin{align*}
\dot{I_r}&=\frac{\dot{V_r}}{\dot{Z_s}}=\dot{Y_s}\dot{V_r}\\\\
\therefore\dot{Y_s}&=\frac{\dot{I_r}}{\dot{V_r}}=\frac{\displaystyle\frac{\dot{V_s}}{\dot{B}}}{\displaystyle\frac{\dot{V_s}}{\dot{A}}}=\frac{\dot{A}}{\dot{B}}
\end{align*}$$
ここで、$\dot{Z_s}$は無負荷端から電源側を見たインピーダンス、$\dot{Y_s}$は無負荷端から電源側をみたアドミタンスとなる。
したがって、今回求めるべきアドミタンスの値は、
$$\dot{Y_s}=\frac{\dot{A}}{\dot{B}}=\frac{0.7892}{j0.3312}=-j2.3829\rightarrow\boldsymbol{\underline{-j2.38\mathrm{p.u.}}}$$
次に、送電端電圧$\dot{V_s}$は、題意より基準電圧は$500\mathrm{kV}$であることより、
$$\dot{V_s}=\frac{525\mathrm{kV}}{500\mathrm{kV}}=1.05\mathrm{p.u.}$$
したがって、受電端電流$\dot{I_r}=0$と求めた四端子定数を用いて、無負荷時の負荷端電圧$\dot{V_r}$を求めると、
$$\begin{align*}
\dot{V_s}&=\dot{A}\dot{V_r}+\dot{B}\dot{I_r}=\dot{A}\dot{V_r}\\\\
\therefore\dot{V_r}&=\frac{\dot{V_s}}{\dot{A}}=\frac{1.05}{0.7892}\\\\
&=1.3304\rightarrow\boldsymbol{\underline{1.33\mathrm{p.u.}}}
\end{align*}$$
負荷接続時の負荷端電圧
$(3)$
負荷として$\dot{Z_{L1}}=1.0+j0.8$を接続した場合の負荷端電圧$\dot{V_{r1}}$は、負荷端電流$\dot{I_{r1}}$が$\dot{I_{r1}}=\dot{V_{r1}}/\dot{Z_{L1}}$であることより、
$$\begin{align*}
\dot{V_s}&=\dot{A}\dot{V_{r1}}+\dot{B}\dot{I_{r1}}=0.7892\dot{V_{r1}}+j0.3312\times\frac{\dot{V_{r1}}}{1.0+j0.8}\\\\
1.05&=0.9508\dot{V_{r1}}+j0.2020\dot{V_{r1}}\\\\
\therefore\dot{V_{r1}}&=\frac{1.05}{0.9508+j0.2020}\\\\
\left|\dot{V_{r1}}\right|&=\left|\frac{1.05}{0.9508+j0.2020}\right|=1.0802\rightarrow\boldsymbol{\underline{1.08\mathrm{p.u.}}}
\end{align*}$$
同様に、負荷として$\dot{Z_{L2}}=4.0+j3.2$を接続した場合の負荷端電圧$\dot{V_{r2}}$ は、負荷端電流$\dot{I_{r2}}$が$\dot{I_{r2}}=\dot{V_{r2}}/\dot{Z_{L2}}$であることより、
$$\begin{align*}
\dot{V_s}&=\dot{A}\dot{V_{r2}}+\dot{B}\dot{I_{r2}}=0.7892\dot{V_{r2}}+j0.3312\times\frac{\dot{V_{r2}}}{4.0+j3.2}\\\\
1.05&=0.8296\dot{V_{r2}}+j0.05049\dot{V_{r2}}\\\\
\therefore\dot{V_{r2}}&=\frac{1.05}{0.8296+j0.05049}\\\\
\left|\dot{V_{r2}}\right|&=\left|\frac{1.05}{0.8296+j0.05049}\right|=1.2633\rightarrow\boldsymbol{\underline{1.26\mathrm{p.u.}}}
\end{align*}$$
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