四端子回路の例題(変圧器およびインピーダンス回路)

四端子回路および四端子定数を扱う問題について解説する。

四端子定数は使いこなせれば系統の電圧・電力計算を機械的な計算で済ますことができる強力なツールとなり得る。

四端子回路:例題

出典:電験一種二次試験「電力・管理」H10問4
(問題の記述を一部変更しています)

図1のようなタップ付き変圧器を途中の地点にもつ送電系統があり、負荷に複素電力$1.00+j0.20\ \mathrm{p.u.}$を供給しているとのときのタップ比$n$を求めよ。

 

ただし、送受電端の電圧$\dot{V_s}$および$\dot{V_r}$の大きさは$1.00\ \mathrm{p.u.}$に維持されているものとする。

なお,送電線定数はりアクタンス分のみで表されており、変圧器の励磁インピーダンスおよび漏れインピーダンスは無視するものとする。

 

図1 タップ付き変圧器をもつ系統(単位:$[\mathrm{p.u.}]$)

 

系統の各要素の「四端子定数化」

図1の系統について、各要素を「四端子定数化」してみる。

 

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まず、リアクタンス$X_1$および$X_2$を含む部分については、「インピーダンス回路の四端子定数」より、それぞれの四端子定数を表すと、

$$\begin{align*}
\left(\begin{array}{cc}\dot{A_1}&\dot{B_1}\\\dot{C_1}&\dot{D_1}\end{array}\right)&=\left(\begin{array}{cc}1&jX_1\\0&1\end{array}\right)=\left(\begin{array}{cc}1&j0.20\\0&1\end{array}\right)\\\\
\left(\begin{array}{cc}\dot{A_2}&\dot{B_2}\\\dot{C_2}&\dot{D_2}\end{array}\right)&=\left(\begin{array}{cc}1&jX_2\\0&1\end{array}\right)=\left(\begin{array}{cc}1&j0.10\\0&1\end{array}\right)\\\\
\end{align*}$$

 

次に、タップ比$1:n$の変圧器を含む部分については、題意より「励磁インピーダンスおよび漏れインピーダンスは無視する」ことに気を付けて、「変圧器標準パターン(一次側換算)回路の四端子定数」より、

$$\begin{align*}
\left(\begin{array}{cc}\dot{A_T}&\dot{B_T}\\\dot{C_T}&\dot{D_T}\end{array}\right)&=\left(\begin{array}{cc} \displaystyle{\frac{1}{n}}&\displaystyle{\frac{jX}{n}}\\0&n\end{array}\right)=\left(\begin{array}{cc} \displaystyle{\frac{1}{n}}&0\\0&n\end{array}\right)
\end{align*}$$

 

したがって、系統全体の四端子定数は、これらの行列を接続順に掛け合わせて、

$$\begin{align*}
\left(\begin{array}{cc}\dot{A}&\dot{B}\\\dot{C}&\dot{D}\end{array}\right)&= \left(\begin{array}{cc}\dot{A_1}&\dot{B_1}\\\dot{C_1}&\dot{D_1}\end{array}\right) \left(\begin{array}{cc}\dot{A_T}&\dot{B_T}\\\dot{C_T}&\dot{D_T}\end{array}\right) \left(\begin{array}{cc}\dot{A_2}&\dot{B_2}\\\dot{C_2}&\dot{D_2}\end{array}\right)\\\\
&=\left(\begin{array}{cc}1&j0.20\\0&1\end{array}\right) \left(\begin{array}{cc} \displaystyle{\frac{1}{n}}&0\\0&n\end{array}\right) \left(\begin{array}{cc}1&j0.10\\0&1\end{array}\right)\\\\
&=\left(\begin{array}{cc} \displaystyle{\frac{1}{n}}&j0.20n\\0&n\end{array}\right) \left(\begin{array}{cc}1&j0.10\\0&1\end{array}\right)\\\\
&=\left(\begin{array}{cc} \displaystyle{\frac{1}{n}}& \displaystyle{j\frac{0.10}{n}} +j0.20n\\0&n\end{array}\right)
\end{align*}$$

 

 

系統の電流・電圧計算

受電端の電流を$\dot{I_r}$とすると、四端子定数の定義より、送受電端電圧との関係は、

$$\dot{V_s}=\dot{A}\dot{V_r}+\dot{B}\dot{I_r}=\frac{1}{n}\dot{V_r}+j\left(\frac{0.10}{n} +0.20n\right)\dot{I_r} ・・・(1)$$

 

一方、受電端の複素電力$P_r+jQ_r$との関係は、

$$\begin{align*}
P_r+jQ_r&=\dot{V_r}\overline{\dot{I_r}}\\\\
\therefore\dot{I_r}&=\frac{P_r-jQ_r}{\overline{\dot{V_r}}}=\frac{1.00-j0.20}{1.00}=1.00-j0.20 ・・・(2)
\end{align*}$$

 

よって、$(2)$およびを$(1)$に代入して整理すると、$\left|\dot{V_s}\right|=1.00$と合わせて、

$$\begin{align*}
\dot{V_s}&=\frac{1}{n}\times1.00+j\left(\frac{0.10}{n}+0.20n\right)(1.00-j0.20)\\\\
&=\frac{1}{n}+\frac{j0.10}{n}+j0.20n+\frac{0.02}{n}+0.04n\\\\
&=\left(\frac{1.02}{n}+0.04n\right)+j\left(\frac{0.10}{n}+0.20n\right)\\\\
\left|\dot{V_s}\right|^2=1.00^2&=\left(\frac{1.02}{n}+0.04n\right)^2+\left(\frac{0.10}{n}+0.20n\right)^2\\\\
&=\left(\frac{1.0404}{n^2}+0.0816+0.0016n^2\right)+\left(\frac{0.01}{n^2}+0.04+0.04n^2\right)\\\\
&0.0416n^2-0.8784+\frac{1.0504}{n^2}=0\\\\
&0.0416n^4-0.8784n^2+1.0504=0\\\\
\therefore n&=\sqrt{\frac{0.8784\pm\sqrt{0.8784^2-4\times0.0416\times1.0504}}{2\times0.0416}}\\\\
&=4.455,\ 1.128
\end{align*}$$

$n=4.455$は不適であり、求めるべきタップ比$n$は、$n=1.128\rightarrow\underline{ \textbf{1.13}}$

 

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