本記事では、四端子定数の概要と、各頻出回路における四端子定数について導出する。
四端子回路の概要
図1のように、入力端子および出力端子を各2端子備えた回路網を四端子回路という。
図1 四端子回路
図1の四端子回路において、送電端電圧・電流をそれぞれ$\dot{V}_s,\ \dot{I}_s$および受電端電圧・電流をそれぞれ$\dot{V}_r,\ \dot{I}_r$とすると、下記の式が成り立つ。
$$\begin{cases}
\dot{V}_s&=\dot{A}\dot{V}_r+\dot{B}\dot{I}_r &・・・(1.1)\\\\
\dot{I}_s&=\dot{C}\dot{V}_r+\dot{D}\dot{I}_r &・・・(1.2)
\end{cases}$$
$(1.1)$および$(1.2)$を行列表記にすると、
$$\left(\begin{array}{c} \dot{V}_s \\ \dot{I}_s \end{array}\right)=\left(\begin{array}{cc} \dot{A} & \dot{B} \\ \dot{C} & \dot{D} \end{array}\right)\left(\begin{array}{c} \dot{V}_r \\ \dot{I}_r \end{array}\right) ・・・(1)$$
$(1)$式において、電圧・電流の相互関係を表す$\dot{A},\ \dot{B},\ \dot{C},\ \dot{D}$を四端子定数という。
本記事では電力系統の模擬によく用いられる回路において、四端子定数を導出する。
本記事では、四端子回路に関する相反定理について解説する。相反定理図1のような四端子回路において、下記の条件を考える。図1の四端子回路は内部に電源がなく、かつ受動線形素子(抵抗、インダクタンス、[…]
頻出回路の四端子定数
T形等価回路
図2の四端子回路はT形等価回路と呼ばれる。
図2 T形等価回路
図2のT形等価回路の四端子定数を導出する。
まず、受電端開放時、$\dot{I}_r=0$であるから、図2の回路における$\dot{V}_s$と$\dot{V}_r$の関係は、
$$\begin{align*}
\dot{V}_r=\frac{\displaystyle{\frac{1}{\dot{Y}}}}{\displaystyle{\frac{\dot{Z}}{2}}+\displaystyle {\frac{1}{\dot{Y}}}}\dot{V}_s
\end{align*}$$
上式右辺の分母および分子に$2\dot{Y}$をかけると、
$$\begin{align*}
\dot{V}_r&=\frac{2}{2+\dot{Z}\dot{Y}}\dot{V}_s\\\\
\therefore\dot{A}&=\frac{\dot{V}_s}{\dot{V}_r}=1+\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{2}
\end{align*}$$
同様の条件で、図2の回路における$\dot{I}_s$と$\dot{V}_r$の関係は、
$$\begin{align*}
\dot{I}_s&=\dot{Y}\dot{V}_r\\\\
\therefore\dot{C}&=\frac{\dot{I}_s}{\dot{V}_r}=\dot{Y}
\end{align*}$$
次に、受電端短絡時、$\dot{V}_r=0$であるから、図2の回路における$\dot{I}_s$と$\dot{I}_r$の関係は、
$$\dot{I}_r=\frac{\displaystyle{\frac{1}{\dot{Y}}}}{\displaystyle{\frac{\dot{Z}}{2}}+\displaystyle{\frac{1}{\dot{Y}}}}\dot{I}_s$$
上式右辺の分母および分子に$2\dot{Y}$をかけると、
$$\begin{align*}
\dot{I}_r&=\frac{2}{2+\dot{Z}\dot{Y}}\dot{I}_s\\\\
\therefore\dot{D}&=\frac{\dot{I}_s}{\dot{I}_r}\\\\
&=1+\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{2}(=\dot{A})
\end{align*}$$
また、同条件下において、$\dot{V}_s$を$\dot{I}_s$および$\dot{I}_r$を用いて表すと、
$$\dot{V}_s=\frac{\dot{Z}}{2}\dot{I}_s+\frac{\dot{Z}}{2}\dot{I}_r$$
上式に$\dot{I}_s=\dot{D}\dot{I}_r=\displaystyle{\left(1+\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{2}\right)}\dot{I}_r$を代入すれば、
$$\begin{align*}
\dot{V}_s&=\left\{\frac{\dot{Z}}{2}\left(1+\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{2}\right)+\frac{\dot{Z}}{2}\right\}\dot{I}_r\\\\
\therefore\dot{B}&=\frac{\dot{V}_s}{\dot{I}_r}\\\\
&=\frac{\dot{Z}}{2}\left(2+\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{2}\right)\\\\
&=\dot{Z}\left(1+\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{4}\right)
\end{align*}$$
以上より、T形等価回路の四端子定数は、
$$\left(\begin{array}{cc} \dot{A} & \dot{B} \\ \dot{C} & \dot{D} \end{array}\right)=\left(\begin{array}{cc} \displaystyle{1+\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{2}} & \displaystyle{\dot{Z}}\left(1+\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{4}\right) \\ \displaystyle {\dot{Y}} & \displaystyle{1+\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{2}} \end{array}\right)$$
アドミタンス回路
図3は回路にアドミタンス$\dot{Y}$しか接続されていないシンプルな回路となる。
同図の回路は、図2のT形等価回路の左右の$\displaystyle{\frac{\dot{Z}}{2}}$が接続されない場合(図では点線としている)と考えることができる。
図3 アドミタンス回路
したがって、アドミタンス回路の四端子定数は、T形等価回路の四端子定数に$\dot{Z}=0$を代入すればよく、
$$\left(\begin{array}{cc} \dot{A} & \dot{B} \\ \dot{C} & \dot{D} \end{array}\right)= \left(\begin{array}{cc} 1 & 0 \\ \displaystyle {\dot{Y}} & 1 \end{array}\right)$$
π形等価回路
図4の四端子回路は$\pi$形等価回路と呼ばれる。
図4 $\pi$形等価回路
図4の$\pi$形等価回路の四端子定数を導出する。
まず、受電端開放時、$\dot{I}_r=0$であるから、図4の回路における$\dot{V}_s$と$\dot{V}_r$の関係は、
$$\dot{V_r}=\frac{\displaystyle {\frac{2}{\dot{Y}}}}{\displaystyle{\dot{Z}}+\displaystyle{\frac{2}{\dot{Y}}}}\dot{V_s}$$
上式右辺の分母および分子に$\dot{Y}$をかけると、
$$\begin{align*}
\dot{V}_r&=\frac{2}{2+\dot{Z}\dot{Y}}\dot{V}_s\\\\
\therefore\dot{A}&=\frac{\dot{V}_s}{\dot{V}_r}=1+\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{2}
\end{align*}$$
また、同条件下において、$\dot{I_s}$を$\dot{V_s}$および$\dot{V_r}$で表すと、
$$\begin{align*}
\dot{I}_s&=\frac{\dot{Y}}{2}\dot{V}_s+\frac{\dot{V}_s-\dot{V}_r}{\dot{Z}}\\\\
&=\left(\frac{\dot{Y}}{2}+\frac{1}{\dot{Z}}\right)\dot{V}_s-\frac{1}{\dot{Z}}\dot{V}_r
\end{align*}$$
上式に$\dot{V}_s=\dot{A}\dot{V}_r=\displaystyle{\left(1+\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{2}\right)}\dot{V}_r$を代入すれば、
$$\begin{align*}
\dot{I}_s&=\left\{\left(\frac{\dot{Y}}{2}+\frac{1}{\dot{Z}}\right)\left(1+\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{2}\right)-\frac{1}{\dot{Z}}\right\}\dot{V}_r\\\\
&=\dot{Y}\left(1+\frac{\dot{Z\dot{Y}}}{4}\right)\dot{V}_r\\\\
\therefore\dot{C}&=\frac{\dot{I}_s}{\dot{V}_r}=\dot{Y}\left(1+\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{4}\right)
\end{align*}$$
次に、受電端短絡時、$\dot{V_r}=0$であるから、図4の回路における$\dot{I}_s$と$\dot{I}_r$の関係は、
$$\begin{align*}
\dot{I}_r=\frac{\displaystyle{\frac{2}{\dot{Y}}}}{\dot{Z}+\displaystyle{\frac{2}{\dot{Y}}}}\dot{I}_s
\end{align*}$$
上式右辺の分母および分子に$\dot{Y}$をかけると、
$$\begin{align*}
\dot{I}_r&=\frac{2}{2+\dot{Z}\dot{Y}}\dot{I}_s\\\\
\therefore\dot{D}&=\frac{\dot{I}_s}{\dot{I}_r}=1+\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{2} (=\dot{A})
\end{align*}$$
同様の条件で、図4の回路における$\dot{V}_s$と$\dot{I}_r$の関係は、
$$\begin{align*}
\dot{V}_s&=\dot{Z}\dot{I}_r\\\\
\therefore\dot{B}&=\frac{\dot{V}_s}{\dot{I}_r}=\dot{Z}
\end{align*}$$
以上より、$\pi$形等価回路の四端子定数は、
$$\left(\begin{array}{cc} \dot{A} & \dot{B} \\ \dot{C} & \dot{D} \end{array}\right)= \left(\begin{array}{cc} \displaystyle{1+\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{2}} & \dot{Z} \\ \displaystyle{\dot{Y}\left(1+\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{4}\right)} & \displaystyle{1+\frac{\dot{Z}\dot{Y}}{2}} \end{array}\right)$$
インピーダンス回路
図5の回路はインピーダンス$\dot{Z}$しか接続されていない構成をしている。
同図の回路は、図4の$\pi$形等価回路の左右の$\displaystyle{\frac{\dot{Y}}{2}}$が接続されない場合(図では点線としている)と考えることができる。
図5 インピーダンス回路
したがって、インピーダンス回路の四端子定数は、$\pi$形等価回路の四端子定数に$\dot{Y}=0$を代入すればよく、
$$\left(\begin{array}{cc} \dot{A} & \dot{B} \\ \dot{C} & \dot{D} \end{array}\right)= \left(\begin{array}{cc} 1 & \dot{Z} \\ 0 & 1 \end{array}\right) $$
変圧器
標準パターン(一次側換算)
変圧器の四端子定数を考える場合、図6の$1:n$の理想変圧器と漏れリアクタンス$X$が直列接続された回路を用いる。
図6 変圧器 標準パターン(一次側換算)
まず、受電端開放時、$\dot{I}_r=0$であるから、図6の回路における$\dot{V}_s$と$\dot{V}_r$の関係は、
$$\begin{align*}
\dot{V}_s&=\frac{1}{n}\dot{V}_r\\\\
\therefore\dot{A}&=\frac{\dot{V}_s}{\dot{V_r}}=\frac{1}{n}
\end{align*}$$
また、同条件下において、$\dot{I}_s$は、
$$\begin{align*}
\dot{I}_s&=0\\\\
\therefore\dot{C}&=0
\end{align*}$$
次に、受電端短絡時、$\dot{V_r}=0$であるから、図6の回路における$\dot{V}_s$と$\dot{I}_r$の関係は、
$$\begin{align*}
\dot{V}_s&=n\dot{I}_r\cdot\frac{jX}{n^2}\\\\
\therefore\dot{B}&=\frac{\dot{V}_s}{\dot{I}_r}=\frac{jX}{n}
\end{align*}$$
また、同条件下において、$\dot{I}_s$は、
$$\begin{align*}
\dot{I}_s&=n\dot{I}_r\\\\
\therefore\dot{D}&=n
\end{align*}$$
以上より、図6の変圧器の四端子定数は、
$$\left(\begin{array}{cc} \dot{A} & \dot{B} \\ \dot{C} & \dot{D} \end{array}\right)=\left(\begin{array}{cc} \displaystyle{\frac{1}{n}} & \displaystyle{\frac{jX}{n}} \\ 0 & n \end{array}\right)$$
特殊パターン(一次側換算)
平成19年度電験一種二次試験「電力・管理」問3において、図7のように、理想変圧器が漏れリアクタンス$X$の右側に接続されているパターンで出題されている。
知りうる限りこの時一回のみ。
その他の年度は前項の標準パターンで出題されている。
図7 変圧器 特殊パターン(一次側換算)
図7の場合、一次側に漏れリアクタンス$X$があるため、そもそも回路定数を換算する必要がない。
したがって、前項の標準パターンにおける$\dot{B}$を求める場合の式が異なってきて、
$$\begin{align*}
\dot{V}_s&=n\dot{I}_r\cdot jX\\\\
\therefore\dot{B}&=\frac{\dot{V}_s}{\dot{I}_r}= jnX
\end{align*}$$
以上より、 図7の変圧器(理想変圧器が漏れリアクタンス$X$の右側の場合)の四端子定数は、
$$\left(\begin{array}{cc} \dot{A} & \dot{B} \\ \dot{C} & \dot{D} \end{array}\right)=\left(\begin{array}{cc} \displaystyle{ \frac{1}{n}} & jnX \\ 0 & n \end{array}\right)$$
分布定数回路
図8 分布定数回路
図8の分布定数回路における四端子定数は、
$$\begin{align*}
\left(\begin{array}{cc} \dot{A} & \dot{B} \\ \dot{C} & \dot{D} \end{array}\right)=\left(\begin{array}{cc} \cosh\dot{\gamma}l & \dot{Z}_0\sinh\dot{\gamma}l \\ \displaystyle{\frac{1}{\dot{Z}_0}}\sinh\dot{\gamma}l & \cosh\dot{\gamma}l \end{array}\right)
\end{align*}$$
ただし、
$$\begin{cases}
\dot{\gamma}=\sqrt{\left(j\omega L+R\right)\left(j\omega C+G\right)}\\\\
\dot{Z}_0=\displaystyle{\sqrt{\frac{j\omega L+R}{j\omega C+G}}}
\end{cases}$$
導出は下記の記事を参照のこと。
本記事では、任意の分布定数回路における電圧・電流について、四端子定数を用いた式として導出する。基礎方程式のラプラス変換図1の送電線の分布定数回路における基礎方程式は、分布定数回路の記事の$(5)$,$(6)$式より、[…]
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