本記事では、三相多重インバータとその回路例として「12パルスインバータ」について解説する。
12パルスインバータの回路構成
三相多重インバータの例として、12パルスインバータの回路構成を図1に示す。
図1 12パルスインバータ
図1の回路は、三相電圧形インバータ(2レベルインバータ)を2台用いており、それぞれのインバータを結線の異なる変圧器を介して直列接続された構成となっている。
このように複数台のインバータを接続することで出力の増大が可能になるとともに、後述するように特定の次数の高調波成分を除去することができる。
図1において、変圧器$\mathrm{Tr_A}$は$\Delta-\mathrm{Y}$結線、$\mathrm{Tr_B}$は$\Delta-$千鳥結線である。
千鳥結線(ジグザグ結線)は図1のように他相の巻線同士を直列に接続する結線方式となる。
なお同図において、上側のインバータ$\mathrm{A}$,下側のインバータ$\mathrm{B}$に直結する変圧器$\mathrm{Tr_A}$および$\mathrm{Tr_B}$の二次巻線の巻回数をそれぞれ$N_\mathrm{A},\ N_\mathrm{B}$とすると、これらの比は、
$$N_\mathrm{A}:N_\mathrm{B}=1:\frac{1}{\sqrt{3}}$$
となるよう設定されている(ただし、一次巻線の巻回数は同一としている)。
本記事では、直流を三相交流に変換する回路の一種である「三相電圧形インバータ(2レベルインバータ)」について解説する。三相電圧形インバータの回路構成三相電圧形インバータの回路構成を図1に示す。 図[…]
12パルスインバータの出力波形
図2に12パルスインバータの出力電圧波形(図1のうち、インバータ$\mathrm{A}$の出力電圧(変圧器$\mathrm{Tr_A}$の巻線電圧)$v_\mathrm{Au}$,インバータ$\mathrm{B}$の出力電圧(変圧器$\mathrm{Tr_B}$の巻線電圧)$v_\mathrm{Bu},\ -v_\mathrm{Bv}$,および回路の$\mathrm{u}$相出力電圧$v_\mathrm{u}$)の一例を示す。
今回、各インバータのそれぞれの三相出力電圧$v_\mathrm{Au},\ v_\mathrm{Av},\ v_\mathrm{Aw}$間および$v_\mathrm{Bu},\ v_\mathrm{Bv},\ v_\mathrm{Bw}$間の位相差は互いに$\displaystyle{\frac{2}{3}\pi}$とする。
また、インバータ$\mathrm{A}$に対するインバータ$\mathrm{B}$の対応する部分の出力電圧(例えば、$v_\mathrm{Au}$に対する$v_\mathrm{Bu}$)の位相が$\displaystyle{\frac{\pi}{6}}$遅れるよう調整するものとする。
図2 12パルスインバータの出力波形
同図では、インバータ$\mathrm{A}$の出力電圧$v_\mathrm{Au}$に対し、インバータ$\mathrm{B}$の出力電圧$v_\mathrm{Bu}$は位相$\displaystyle{\frac{\pi}{6}}$遅れで、大きさは変圧器の巻数比により$\displaystyle{\frac{1}{\sqrt{3}}}$倍となる。
また、インバータ$\mathrm{B}$の出力電圧$v_\mathrm{Bv}$は、$v_\mathrm{Au}$に対し位相$\displaystyle{\frac{\pi}{6}\pi+\frac{2}{3}\pi=\frac{5}{6}\pi}$遅れであるから、極性を反転させた$-v_\mathrm{Bv}$は位相$\pi+\displaystyle\frac{5}{6}\pi=\frac{11}{6}\pi$遅れ$\rightarrow\displaystyle\frac{\pi}{6}$進みとなり、大きさは$v_\mathrm{Bu}$と同じく$\displaystyle{\frac{1}{\sqrt{3}}}$倍となる。
そして、これらの電圧を合成した回路の$\mathrm{u}$相出力電圧$v_\mathrm{u}=v_\mathrm{Au}+v_\mathrm{Bu}-v_\mathrm{Bv}$は、階段状の交流波形となる。
なお、交流波形1周期あたりのスイッチング回数はパルス数ともいう。
図2の波形ではスイッチングが位相$\displaystyle{\frac{\pi}{6}}$ごと、すなわち一周期$2\pi$あたりパルス数は12回であるため、「12パルスインバータ」という名前の由来になっている。
12パルスインバータの出力電圧
出力電圧の式(フーリエ級数展開)
図1に示すインバータ$\mathrm{A}$の出力電圧$v_\mathrm{Au}$のフーリエ級数展開した式は、
計算の簡略化のため、上記では三相電圧形インバータの記事における「自身を位相の基準とした場合の出力線間電圧の式」を用いている。
(同記事「出力線間電圧のフーリエ級数展開の計算に関する補足」を参照のこと)
同様に、図1に示すインバータ$\mathrm{B}$の出力電圧$v_\mathrm{Bu},\ -v_\mathrm{Bv}$のフーリエ級数展開した式は、前項で示した位相の条件より、
v_\mathrm{Bu}&=\displaystyle \frac{1}{\sqrt{3}}\sum_{n=1}^\infty\frac{4E}{n\pi}\cos\frac{n\pi}{6}\sin n\left(\omega t-\frac{\pi}{6}\right)\\\\
-v_\mathrm{Bv}&=\displaystyle \frac{1}{\sqrt{3}}\sum_{n=1}^\infty\frac{4E}{n\pi}\cos\frac{n\pi}{6}\sin n\left(\omega t+\frac{\pi}{6}\right)
\end{cases} \left(n=1,\ 5,\ 7,\ 11,\cdots\right) ・・・(2)$$
したがって、図1の12パルスインバータの$\mathrm{u}$相電圧$v_\mathrm{u}$は、図1の変圧器の極性に注意して、$(1),\ (2)$式より、
v_\mathrm{u}&=v_\mathrm{Au}+v_\mathrm{Bu}-v_\mathrm{Bv}\\\\
&=\displaystyle \sum_{n=1}^\infty\frac{4E}{n\pi}\cos\frac{n\pi}{6}\sin n\omega t+\frac{1}{\sqrt{3}}\displaystyle \sum_{n=1}^\infty\frac{4E}{n\pi}\cos\frac{n\pi}{6}\sin n\left(\omega t-\frac{\pi}{6}\right)+\frac{1}{\sqrt{3}}\displaystyle \sum_{n=1}^\infty\frac{4E}{n\pi}\cos\frac{n\pi}{6}\sin n\left(\omega t+\frac{\pi}{6}\right)\\\\
&=\displaystyle \sum_{n=1}^\infty\frac{4E}{n\pi}\cos\frac{n\pi}{6}\left\{\sin n\omega t+\frac{1}{\sqrt{3}}\sin n\left(\omega t-\frac{\pi}{6}\right)+\frac{1}{\sqrt{3}}\sin n\left(\omega t+\frac{\pi}{6}\right)\right\}\\\\
&=\displaystyle \sum_{n=1}^\infty\frac{4E}{n\pi}\cos\frac{n\pi}{6}\left(\sin n\omega t+\frac{2}{\sqrt{3}}\cos\left(-\frac{n\pi}{6}\right)\sin n\omega t\right)\\\\
&=\displaystyle \sum_{n=1}^\infty\frac{4E}{n\pi}\cos\frac{n\pi}{6}\left(1+\frac{2}{\sqrt{3}}\cos\frac{n\pi}{6}\right)\sin n\omega t ・・・(3)
\end{align*}$$
ここで$(3)$式のうち、$\displaystyle\cos\frac{n\pi}{6}$の値について考える。
$n=6k\pm1\left(k=1,2,3\cdots\right)$とおくと、
\cos\frac{n\pi}{6}&=\cos\frac{\left(6k\pm1\right)\pi}{6}\\\\
&=\cos\left(k\pi\pm\frac{\pi}{6}\right)\\\\
&=\cos k\pi\cos\frac{\pi}{6}\mp\sin k\pi\sin\frac{\pi}{6}\\\\
&=\frac{\sqrt{3}}{2}\cdot\left(-1\right)^k
\end{align*}$$
上式の結果を、さらに整数$K=1,2,3\cdots$を用いて場合分けすると、
-\displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2} &\left(k=2K-1\right)\\\\
\displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2} &\left(k=2K\right)
\end{cases}$$
上式より、$k$が奇数$\left(k=2K-1\right)$で、$n$が例えば$n=6\cdot1\pm1=5,\ 7$となるとき、$(3)$式の$v_\mathrm{u}$のうち対応する成分$v_{\mathrm{u}\left(2K-1\right)}$は、
v_{\mathrm{u}\left(2K-1\right)}&=\frac{4E}{n\pi}\cdot\left(-\frac{\sqrt{3}}{2}\right)\cdot\left(1-\frac{2}{\sqrt{3}}\cdot\frac{\sqrt{3}}{2}\right)\sin n\omega t\\\\
&=0
\end{align*}$$
一方、$k$が偶数$\left(k=2K\right)$で、$n$が例えば$n=6\cdot2\pm1=11,\ 13$となるとき、$(3)$式の$v_\mathrm{u}$のうち対応する成分$v_{\mathrm{u}\left(2K\right)}$は、
v_{\mathrm{u}\left(2K\right)}&=\frac{4E}{n\pi}\cdot\frac{\sqrt{3}}{2}\cdot\left(1+\frac{2}{\sqrt{3}}\cdot\frac{\sqrt{3}}{2}\right)\sin n\omega t\\\\
&=\frac{4\sqrt{3}E}{n\pi}\sin n\omega t
\end{align*}$$
以上を踏まえると、$(3)$式は、
v_\mathrm{u}&=\displaystyle \sum_{n=1}^\infty\frac{4E}{n\pi}\cos\frac{n\pi}{6}\left(1+\frac{2}{\sqrt{3}}\cos\frac{n\pi}{6}\right)\sin n\omega t\\\\
&=\frac{4\sqrt{3}E}{\pi}\left(\sin\omega t+\frac{1}{11}\sin11\omega t+\frac{1}{13}\sin13\omega t+\cdots\right) ・・・(4)
\end{align*}$$
$(4)$式より、12パルスインバータの出力電圧には、基本波および$n=6\left(2K\right)\pm1=12K\pm1=11,13,23,25\cdots$以外の高調波成分は含まれない(すべて除去される)。
なお、基本波および高調波成分の実効値$V_\mathrm{rms1},\ V_\mathrm{rmsn}$は、$(4)$式より、
V_\mathrm{rms1}&=\frac{4\sqrt{3}E}{\sqrt{2}\pi}=\frac{2\sqrt{6}E}{\pi}\\\\
V_\mathrm{rmsn}&=\frac{4\sqrt{3}E}{\sqrt{2}n\pi}=\frac{2\sqrt{6}E}{n\pi}
\end{align*}$$
出力電圧のフェーザ図
12パルスインバータの出力電圧に高調波成分が含まれないことについて、フェーザ図を用いて考えてみる。
まず、インバータ$\mathrm{A}$の三相出力電圧の基本波成分を$\dot{V}_\mathrm{Au},\ \dot{V}_\mathrm{Av},\ \dot{V}_\mathrm{Aw}$,インバータ$\mathrm{B}$の三相出力電圧の基本波成分を$\dot{V}_\mathrm{Bu},\ \dot{V}_\mathrm{Bv},\ \dot{V}_\mathrm{Bw}$,回路の各相の出力電圧の基本波成分を$\dot{V}_\mathrm{u},\ \dot{V}_\mathrm{v},\ \dot{V}_\mathrm{w}$としたときのフェーザ図を図3に示す。
図3 12パルスインバータの出力電圧のフェーザ図(基本波成分)
同図より、各インバータで対応する電圧$\dot{V}_\mathrm{Au}$と$\dot{V}_\mathrm{Bu}$の位相差は$\displaystyle\frac{\pi}{6}$であり、同一インバータにおける電圧$\dot{V}_\mathrm{Au},\ \dot{V}_\mathrm{Av},\ \dot{V}_\mathrm{Aw}$間および$\dot{V}_\mathrm{Bu},\ \dot{V}_\mathrm{Bv},\ \dot{V}_\mathrm{Bw}$間の位相差はそれぞれ$\displaystyle\frac{2}{3}\pi$となる。
そして、回路の各相の出力電圧を$\dot{V}_\mathrm{u},\ \dot{V}_\mathrm{v},\ \dot{V}_\mathrm{w}$は、図1より次のように表される。
\dot{V}_\mathrm{u}&=\dot{V}_\mathrm{Au}+\dot{V}_\mathrm{Bu}-\dot{V}_\mathrm{Bv}\\\\
\dot{V}_\mathrm{v}&=\dot{V}_\mathrm{Av}+\dot{V}_\mathrm{Bv}-\dot{V}_\mathrm{Bw}\\\\
\dot{V}_\mathrm{w}&=\dot{V}_\mathrm{Aw}+\dot{V}_\mathrm{Bw}-\dot{V}_\mathrm{Bu}
\end{cases}$$
ここで、電圧の$n$次の高調波成分については、各電圧の位相差はそれぞれ基本波のものに対し$n$倍される。
例えば第5高調波であれば$n=5$であり、各インバータで対応する部分から出力される電圧$\dot{V}_\mathrm{Au5}$と$\dot{V}_\mathrm{Bu5}$の位相差は$\displaystyle\frac{\pi}{6}\times5=\displaystyle\frac{5}{6}\pi$,同一インバータにおける電圧の位相差はそれぞれ$\displaystyle\frac{2}{3}\pi\times5=\frac{10}{3}\pi\equiv\frac{4}{3}\pi$となる。
同様に、第7高調波であれば$n=7$であるから、$\dot{V}_\mathrm{Au7}$と$\dot{V}_\mathrm{Bu7}$の位相差は$\displaystyle\frac{\pi}{6}\times7=\displaystyle\frac{7}{6}\pi$,同一インバータにおける電圧の位相差はそれぞれ$\displaystyle\frac{2}{3}\pi\times7=\frac{14}{3}\pi\equiv\frac{2}{3}\pi$となる。
これらの位相差を踏まえて、電圧の高調波成分のフェーザを図示する。
各インバータおよび回路の出力電圧の第5高調波、および第7高調波成分のフェーザ図を、それぞれ図4および図5に示す(各フェーザの添え字は、その次数の高調波成分であることを示す)。
図4 12パルスインバータの出力電圧のフェーザ図(第5高調波成分)
図5 12パルスインバータの出力電圧のフェーザ図(第7高調波成分)
図4より、各インバータ電圧の第5高調波成分$\dot{V}_\mathrm{Au5},\ \dot{V}_\mathrm{Av5},\ \dot{V}_\mathrm{Aw5}$および$\dot{V}_\mathrm{Bu5},\ \dot{V}_\mathrm{Bv5},\ \dot{V}_\mathrm{Bw5}$の相回転は、図3の基本波のものとは逆になっている(基本波に対して逆相となる)ことがわかる。
一方、図5より、各インバータ電圧の第7高調波成分$\dot{V}_\mathrm{Au7},\ \dot{V}_\mathrm{Av7},\ \dot{V}_\mathrm{Aw7}$および$\dot{V}_\mathrm{Bu7},\ \dot{V}_\mathrm{Bv7},\ \dot{V}_\mathrm{Bw7}$の相回転は、図3の基本波のものと同一になっている(基本波に対して正相となる)。
そして、回路の各相の出力電圧の各高調波成分$\dot{V}_\mathrm{u5},\ \dot{V}_\mathrm{v5},\ \dot{V}_\mathrm{w5}$および$\dot{V}_\mathrm{u7},\ \dot{V}_\mathrm{v7},\ \dot{V}_\mathrm{w7}$は、次の式で求められる。
\dot{V}_\mathrm{u5}&=\dot{V}_\mathrm{Au5}+\dot{V}_\mathrm{Bu5}-\dot{V}_\mathrm{Bv5}\\\\
\dot{V}_\mathrm{v5}&=\dot{V}_\mathrm{Av5}+\dot{V}_\mathrm{Bv5}-\dot{V}_\mathrm{Bw5}\\\\
\dot{V}_\mathrm{w5}&=\dot{V}_\mathrm{Aw5}+\dot{V}_\mathrm{Bw5}-\dot{V}_\mathrm{Bu5}
\end{cases}$$
\dot{V}_\mathrm{u7}&=\dot{V}_\mathrm{Au7}+\dot{V}_\mathrm{Bu7}-\dot{V}_\mathrm{Bv7}\\\\
\dot{V}_\mathrm{v7}&=\dot{V}_\mathrm{Av7}+\dot{V}_\mathrm{Bv7}-\dot{V}_\mathrm{Bw7}\\\\
\dot{V}_\mathrm{w7}&=\dot{V}_\mathrm{Aw7}+\dot{V}_\mathrm{Bw7}-\dot{V}_\mathrm{Bu7}
\end{cases}$$
上式で求められる各高調波成分は、図4および図5に示すようにフェーザの合成によって打ち消し合ってゼロになる。
すなわち、フェーザ図で見ても特定の次数(この場合は$n=5,7$)の高調波成分が除去されていることがわかる。
- フェーザの計算による検討
- 各インバータ電圧の基本波成分のフェーザ$\dot{V}_\mathrm{Au},\ \dot{V}_\mathrm{Bu},\ \dot{V}_\mathrm{Bv}$は、$\dot{V}_\mathrm{Au}$を位相の基準とし、その大きさを$V_1$とすると、$$\begin{align*}
\dot{V}_\mathrm{Au}&=V_1\angle0,\\\\
\dot{V}_\mathrm{Bu}&=\frac{V_1}{\sqrt{3}}\angle-\frac{\pi}{6}\\\\
\dot{V}_\mathrm{Bv}&=\frac{V_1}{\sqrt{3}}\angle-\left(\frac{\pi}{6}+\frac{2}{3}\pi\right)\\\\
&=\frac{V_1}{\sqrt{3}}\angle-\frac{5}{6}\pi
\end{align*}$$上式より、各インバータ電圧の$n$次高調波成分のフェーザ$\dot{V}_\mathrm{Aun},\ \dot{V}_\mathrm{Bun},\ \dot{V}_\mathrm{Bvn}$は、$\dot{V}_\mathrm{Aun}$の大きさを$V_\mathrm{n}$とすると、
$$\begin{align*}
\dot{V}_\mathrm{Aun}&=V_\mathrm{n}\angle0,\\\\
\dot{V}_\mathrm{Bun}&=\frac{V_\mathrm{n}}{\sqrt{3}}\angle-\frac{n\pi}{6}\\\\
\dot{V}_\mathrm{Bvn}&=\frac{V_\mathrm{n}}{\sqrt{3}}\angle-\frac{5n}{6}\pi
\end{align*}$$したがって、回路の$\mathrm{u}$相電圧の$n$次高調波成分のフェーザ$\dot{V}_\mathrm{un}$は、
$$\begin{align*}
\dot{V}_\mathrm{un}&=\dot{V}_\mathrm{Aun}+\dot{V}_\mathrm{Bun}-\dot{V}_\mathrm{Bvn}\\\\
&=V_\mathrm{n}\angle0+\frac{V_\mathrm{n}}{\sqrt{3}}\angle-\frac{n\pi}{6}-\frac{V_\mathrm{n}}{\sqrt{3}}\angle-\frac{5n}{6}\pi\\\\
&=V_\mathrm{n}\left\{1+\frac{1}{\sqrt{3}}\left(\cos\frac{n\pi}{6}-j\sin\frac{n\pi}{6}\right)-\frac{1}{\sqrt{3}}\left(\cos\frac{5n}{6}\pi-j\sin\frac{5n}{6}\pi\right)\right\}\\\\
&=V_\mathrm{n}\left\{1+\frac{1}{\sqrt{3}}\left(\cos\frac{n\pi}{6}-\cos\frac{5n}{6}\pi\right)-\frac{j}{\sqrt{3}}\left(\sin\frac{n\pi}{6}-\sin\frac{5n}{6}\pi\right)\right\}\\\\
&=V_\mathrm{n}\left\{1-\frac{2}{\sqrt{3}}\sin\frac{n\pi}{2}\sin\left(-\frac{n\pi}{3}\right)-\frac{j2}{\sqrt{3}}\cos\frac{n\pi}{2}\sin\left(-\frac{n\pi}{3}\right)\right\}\\\\
&=V_\mathrm{n}\left(1+\frac{2}{\sqrt{3}}\sin\frac{n\pi}{2}\sin\frac{n\pi}{3}+\frac{j2}{\sqrt{3}}\cos\frac{n\pi}{2}\sin\frac{n\pi}{3}\right)
\end{align*}$$ここで、$n=6k\pm1\left(k=1,2,3,\cdots\right)$(偶数でも3の倍数でもない整数)とおくと、
$$\begin{align*}
\dot{V}_\mathrm{un}&=V_\mathrm{n}\left\{1+\frac{2}{\sqrt{3}}\sin\frac{\left(6k\pm1\right)\pi}{2}\sin\frac{\left(6k\pm1\right)\pi}{3}+\frac{j2}{\sqrt{3}}\cos\frac{\left(6k\pm1\right)\pi}{2}\sin\frac{\left(6k\pm1\right)\pi}{3}\right\}\\\\
&=V_\mathrm{n}\left\{1+\frac{2}{\sqrt{3}}\sin\left(3k\pi\pm\frac{\pi}{2}\right)\sin\left(2k\pi\pm\frac{\pi}{3}\right)+\frac{j2}{\sqrt{3}}\cos\left(3k\pi\pm\frac{\pi}{2}\right)\sin\left(2k\pi\pm\frac{\pi}{3}\right)\right\}\\\\
&=V_\mathrm{n}\left\{1+\frac{2}{\sqrt{3}}\cos3k\pi\left(\pm\sin\frac{\pi}{2}\right)\left(\pm\sin\frac{\pi}{3}\right)\right\}\\\\
&=V_\mathrm{n}\left(1+\cos3k\pi\right)
\end{align*}$$上式で、さらに$K=1,2,3,\cdots$を用いて、$k$で場合分けすると、
$$\dot{V}_\mathrm{un}=\begin{cases}
2V_\mathrm{n} &\left(k=2K\right)\\\\
0 &\left(k=2K-1\right)
\end{cases}$$上記より、$k$が奇数、すなわち$n=6\left(2K-1\right)\pm1=5,7,17,19,\cdots$のとき、$\dot{V}_\mathrm{un}=0$,すなわちこの次数の高調波成分は電圧に現れない。
逆に、電圧に含まれるのは$n=12K\pm1=11,13,23,25,\cdots$の次数成分のみとなる。
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参考文献
- パワーエレクトロニクスハンドブック編集委員会『パワーエレクトロニクスハンドブック』オーム社,2010
- 松瀬,齋藤『基本から学ぶパワーエレクトロニクス』電気学会,2012
- 金東海『パワースイッチング工学―パワーエレクトロニクスの基礎理論』電気学会,2003
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