本記事では、整流回路の一種である「三相全波整流回路(三相ブリッジ整流回路)」について解説する。
三相ブリッジ整流回路の基本構成
三相全波整流回路は、整流素子(ダイオードまたはサイリスタ)を用いた、交流電圧から直流電圧を得るための整流作用をもつ回路の一種である。
三相半波整流回路を上下2組接続したような構成で、三相の正弦波交流電圧のうち高低2つの相の差電圧を整流するのが特徴である。
本記事では、整流回路の一種である「三相半波整流回路」について解説する。三相半波整流回路の基本構成三相半波整流回路は、整流素子(ダイオードまたはサイリスタ)を用いた、交流電圧から直流電圧を得るための整流作用をもつ回路の一種であ[…]
三相全波整流回路は、その回路の構成から三相ブリッジ整流回路ともいう。
図1にダイオード、図2にサイリスタを用いた三相ブリッジ整流回路の構成を示す。
三相変圧器を介し、各整流素子を特定のタイミングで導通させることで、整流された負荷電圧および直流電流を得る構成である。
整流回路の入力電圧波形
三相ブリッジ整流回路の入力となる三相平衡電圧の波形を図3に示す。
図3の各相の電圧$v_1,\ v_2,\ v_3$の式は、実効値$V$および位相$\omega t$を用いて次のように表される。
$$\begin{cases}
v_1&=\sqrt{2}V\sin\omega t\\\\
v_2&=\sqrt{2}V\sin\left(\omega t-\displaystyle{\frac{2}{3}\pi}\right)\\\\
v_3&=\sqrt{2}V\sin\left(\omega t+\displaystyle{\frac{2}{3}\pi}\right)
\end{cases}$$
また、各相の線間電圧の波形は図4のようになる。
図4 三相平衡電圧(相電圧(点線)および線間電圧(実線))
図4において、各電圧波形の添字は対応する相間を示している。
例えば、$v_{12}=v_1-v_2$となる。
なお、後の積分計算で用いるため、$v_{12}$の式を導出しておくと、
$$\begin{align*}
v_{12}&=v_1-v_2\\\\
&=\sqrt{2}V\sin\omega t-\sqrt{2}V\sin\left(\omega t-\frac{2}{3}\pi\right)\\\\
&=2\sqrt{2}V\cos\left(\omega t-\frac{\pi}{3}\right)\sin\frac{\pi}{3}\\\\
&=\sqrt{6}V\cos\left(\omega t-\frac{\pi}{3}\right)
\end{align*}$$
出力波形と直流平均電圧(純抵抗負荷)
三相ブリッジ整流回路に純抵抗負荷を接続し、図3および図4の三相平衡した正弦波交流電圧を印加した場合の出力電圧・電流波形および直流平均電圧を求める。
整流素子にダイオードを用いた場合
図1のダイオードによる三相ブリッジ整流回路に純抵抗負荷を接続し、三相平衡電圧を印加した場合の出力電圧$e_\mathrm{d}$および各相の電流$i_\mathrm{1},\ i_2,\ i_3$の波形を図5に示す。
図5 三相ブリッジ整流回路(ダイオード、純抵抗負荷)の電圧・電流波形
図1の三相ブリッジ整流回路の基本動作としては、
- 上段のダイオード$\mathrm{D}_1,\ \mathrm{D}_2,\ \mathrm{D}_3$のうち、最も電圧の高い相に接続しているものが導通する。
- 下段のダイオード$\mathrm{D}_4,\ \mathrm{D}_5,\ \mathrm{D}_6$のうち、最も電圧の低い相に接続しているものが導通する。
例えば、図5の相電圧波形の交点である位相$\omega t=\displaystyle{\frac{\pi}{6}}$付近では、最も高い電圧は$v_1$,最も低い電圧は$v_2$となる。
これらに対応する素子は上段は$\mathrm{D}_1$,下段は$\mathrm{D}_5$である。
そして、負荷にはこれらの電圧の差$v_{12}=v_1-v_2$が印加される。
この動作が周期的に繰り返され、各ダイオードの導通が切り換わることにより、負荷電圧$e_\mathrm{d}$は図4の線間電圧波形が整流された山なりの波形(図5)となる。
また、対応するダイオードが導通するタイミングで負荷に電流が流れる。
このとき、各ダイオードの導通する期間は$\displaystyle{\frac{2}{3}}\pi$である。
純抵抗負荷の場合、電流$i_1,\ i_2,\ i_3$は線間電圧波形と同位相となり、山が2つあるような波形で表される。
そして、ダイオードによる電圧降下の影響を無視すると、直流平均電圧$E_\mathrm{d}$は、図5より波形の周期が$\displaystyle{\frac{\pi}{3}}$,積分区間が$\displaystyle{\frac{\pi}{6}}\sim\displaystyle{\left(\frac{\pi}{6}+\frac{\pi}{3}\right)=\frac{\pi}{2}}$であることを考慮して、
$$\begin{align*}
E_\mathrm{d}&=\frac{1}{\displaystyle{\frac{\pi}{3}}}\int^{\frac{\pi}{2}}_{\frac{\pi}{6}}\sqrt{6}V\cos\left(\omega t-\frac{\pi}{3}\right)\ \mathrm{d}\omega t\\\\
&=\frac{3\sqrt{6}V}{\pi}\left[\sin\left(\omega t-\frac{\pi}{3}\right)\right]^{\frac{\pi}{2}}_{\frac{\pi}{6}}\\\\
&=\frac{3\sqrt{6}V}{\pi}\left\{\sin{\frac{\pi}{6}}-\sin\left({-\frac{\pi}{6}}\right)\right\}\\\\
&=\frac{3\sqrt{6}V}{\pi}\left\{\frac{1}{2}-\left(-\frac{1}{2}\right)\right\}\\\\
&=\frac{3\sqrt{6}V}{\pi}\equiv E_\mathrm{d0}\\\\
\end{align*}$$
ここで、線間電圧の大きさを$V_\mathrm{s}=\sqrt{3}V$とすると、上記の$E_\mathrm{d0}$は次のようにも表される。
$$\begin{align*}
E_\mathrm{d0}&=\frac{3\sqrt{2}}{\pi}\cdot\sqrt{3}V\\\\
&=\frac{3\sqrt{2}V_\mathrm{s}}{\pi}\\\\
&=1.35V_\mathrm{s}
\end{align*}$$
整流素子にサイリスタを用いた場合
0 ≤ α < π/3のとき
図2のサイリスタによる三相ブリッジ整流回路に純抵抗負荷を接続し、三相平衡電圧を印加した場合の出力電圧$e_\mathrm{d}$および各相の電流$i_\mathrm{1},\ i_2,\ i_3$の波形を図6に示す。
同図において、サイリスタ$\mathrm{Th_1}\sim\mathrm{Th_6}$の点弧角はすべて$\alpha$とし、かつ$0\leq\alpha<\displaystyle{\frac{\pi}{3}}$であるとする。
図6 三相ブリッジ整流回路(サイリスタ、純抵抗負荷、$0\leq\alpha<\displaystyle{\frac{\pi}{3}}$)の電圧・電流波形
図2の三相ブリッジ整流回路の基本動作は、図1のダイオードの場合と同様に、
- 上段のサイリスタ$\mathrm{Th}_1,\ \mathrm{Th}_2,\ \mathrm{Th}_3$のうち、最も電圧の高い相に接続しているものが導通する。
- 下段のサイリスタ$\mathrm{Th}_4,\ \mathrm{Th}_5,\ \mathrm{Th}_6$のうち、最も電圧の低い相に接続しているものが導通する。
図6のように、サイリスタが電圧波形の交点から位相$\alpha$でターンオンするのを境に、上段は最も高い値、下段は最も低い値をとる波形に切り換わる。
そして、負荷にはこれらの差となる電圧が印加される。
この動作が周期的に繰り返され、点弧角の範囲が$0\leq\alpha<\displaystyle{\frac{\pi}{3}}$であれば、負荷電圧$e_\mathrm{d}$は図4の線間電圧波形が整流され、欠けた山なりの波形(図6)になる。
また、対応するサイリスタが導通するタイミングで負荷に電流が流れる。
純抵抗負荷の場合、電流$i_1,\ i_2,\ i_3$は電圧波形と同位相となり、欠けた山が2つあるような波形で表される。
そして、サイリスタによる電圧降下の影響を無視すると、直流平均電圧$E_\mathrm{d}$は、図6より波形の周期が$\displaystyle{\frac{\pi}{3}}$,積分区間が$\displaystyle{\frac{\pi}{6}}+\alpha\sim\displaystyle{\frac{\pi}{2}}+\alpha$であることを考慮して、
$$\begin{align*}
E_\mathrm{d}&=\frac{1}{\displaystyle{\frac{\pi}{3}}}\int^{\frac{\pi}{2}+\alpha}_{\frac{\pi}{6}+\alpha}\sqrt{6}V\cos\left(\omega t-\frac{\pi}{3}\right)\ \mathrm{d}\omega t\\\\
&=\frac{3\sqrt{6}V}{\pi}\left[\sin\left(\omega t-\frac{\pi}{3}\right)\right]^{\frac{\pi}{2}+\alpha}_{\frac{\pi}{6}+\alpha}\\\\
&=\frac{3\sqrt{6}V}{\pi}\left\{\sin\left({\frac{\pi}{6}}+\alpha\right)-\sin\left({-\frac{\pi}{6}}+\alpha\right)\right\}\\\\
&=\frac{3\sqrt{6}V}{\pi}\cdot2\cos\alpha\sin\frac{\pi}{6}\\\\
&=\frac{3\sqrt{6}V}{\pi}\cos\alpha\\\\
&=E_\mathrm{d0}\cos\alpha
\end{align*}$$
π/3 ≤α≤ 2π/3のとき
前項の回路および入力で、サイリスタ$\mathrm{Th_1}\sim\mathrm{Th_6}$の点弧角$\alpha$の範囲が$\displaystyle{\frac{\pi}{3}}\leq\alpha\leq\displaystyle{\frac{2}{3}\pi}$である場合の出力電圧$e_\mathrm{d}$および各相の電流$i_\mathrm{1},\ i_2,\ i_3$の波形を図7に示す。
図7 三相ブリッジ整流回路(サイリスタ、純抵抗負荷、$\displaystyle{\frac{\pi}{3}}\leq\alpha\leq\displaystyle{\frac{2}{3}\pi}$)の電圧・電流波形
図7のように、点弧角の範囲が$\displaystyle{\frac{\pi}{3}}\leq\alpha\leq\displaystyle{\frac{2}{3}\pi}$であれば、線間電圧の波形のピーク値を過ぎた後に転流するため、出力電圧$e_\mathrm{d}$はのこぎり波のような波形になる。
なお、抵抗負荷の場合は負の値はとらない。
対応するサイリスタが導通するタイミングで負荷に電流が流れるのは同様で、こちらものこぎり波の山が2つあるような形状である。
また、サイリスタによる電圧降下の影響を無視すると、直流平均電圧$E_\mathrm{d}$は、図7より波形の周期が$\displaystyle{\frac{\pi}{3}}$,積分区間が$\displaystyle{\frac{\pi}{6}}+\alpha\sim\frac{5}{6}\pi$であることを考慮して、
$$\begin{align*}
E_\mathrm{d}&=\frac{1}{\displaystyle{\frac{\pi}{3}}}\int^{\frac{5}{6}\pi}_{\frac{\pi}{6}+\alpha}\sqrt{6}V\cos\left(\omega t-\frac{\pi}{3}\right)\ \mathrm{d}\omega t\\\\
&=\frac{3\sqrt{6}V}{\pi}\left[\sin\left(\omega t-\frac{\pi}{3}\right)\right]^{\frac{5}{6}\pi}_{\frac{\pi}{6}+\alpha}\\\\
&=\frac{3\sqrt{6}V}{\pi}\left\{\sin{\frac{\pi}{2}}-\sin\left({-\frac{\pi}{6}}+\alpha\right)\right\}\\\\
&=\frac{3\sqrt{6}V}{\pi}\left[1-\sin\left\{\left(\frac{\pi}{3}+\alpha\right)-\frac{\pi}{2}\right\}\right]\\\\
&=\frac{3\sqrt{6}V}{\pi}\left\{1+\cos\left(\frac{\pi}{3}+\alpha\right)\right\}\\\\
&=E_\mathrm{d0}\left\{1+\cos\left(\frac{\pi}{3}+\alpha\right)\right\}
\end{align*}$$
上式の導出では、三角関数の負角の公式および余角の公式を用いて、
$$\begin{align*}
\sin\left(\theta-\displaystyle{\frac{\pi}{2}}\right)&=\sin\left\{-\left(\displaystyle{\frac{\pi}{2}}-\theta\right)\right\}\\\\
&=-\sin\left(\displaystyle{\frac{\pi}{2}}-\theta\right)\\\\
&=-\cos\theta
\end{align*}$$
の変換を行っている。あとは$\theta=\displaystyle{\frac{\pi}{3}}+\alpha$とすればよい。
出力波形と直流平均電圧(誘導性負荷)
整流素子にダイオードを用いた場合
図1の回路のダイオードによる三相ブリッジ整流回路に誘導性負荷を接続し、三相平衡電圧を印加した場合の出力電圧$e_\mathrm{d}$および各相の電流$i_1,\ i_2,\ i_3$の波形を図8に示す。
図8 三相ブリッジ整流回路(ダイオード、誘導性負荷)の電圧・電流波形
図8のように、誘導性負荷の場合も純抵抗の場合と同様の動作をするため、出力電圧$e_\mathrm{d}$は山なりの出力波形になり、負の値はとらない。
また、対応するダイオードが導通するタイミングで負荷に電流が流れるが、負荷のインダクタンス成分の作用で波形は平滑化する。
各ダイオードの導通する期間が$\displaystyle{\frac{2}{3}}\pi$であるのも同様である。
このときの直流平均電圧$E_\mathrm{d0}$は、図5と同様の計算をすれば求めることができて、
$$\begin{align*}
E_\mathrm{d}=\frac{3\sqrt{6}V}{\pi}\equiv E_\mathrm{d0}
\end{align*}$$
整流素子にサイリスタを用いた場合
図2の回路のサイリスタによる三相ブリッジ整流回路に誘導性負荷を接続し、三相平衡電圧を印加した場合の出力電圧$e_\mathrm{d}$および各相の電流$i_1,\ i_2,\ i_3$の波形を図9に示す。
図9 三相ブリッジ整流回路(サイリスタ、誘導性負荷)の電圧・電流波形
誘導性負荷の場合も純抵抗の場合(図6)と同様の動作をするため、出力電圧$e_\mathrm{d}$は欠けた山なりの出力波形になり、負の値はとらない。
電流に関しては、対応するサイリスタが導通するタイミングで流れ、負荷のインダクタンス成分の作用で波形が平滑化する。
各サイリスタの導通する期間はこれまでと同様$\displaystyle{\frac{2}{3}}\pi$となる。
このときの直流平均電圧$E_\mathrm{d}$は、図6と同様の計算をすれば求めることができて、
$$\begin{align*}
E_\mathrm{d}&=\frac{3\sqrt{6}V}{\pi}\cos\alpha\\\\
&=E_\mathrm{d0}\cos\alpha
\end{align*}$$
整流器運転とインバータ運転
前項までのサイリスタを用いた三相ブリッジ整流回路(ここでは誘導性負荷の場合に限る)において、直流平均電圧$E_\mathrm{d}$の式には係数$\cos\alpha$がかかっている。
したがって、$\frac{\pi}{2}<\alpha<\pi$の領域では負荷電圧は$e_\mathrm{d}<0$となる。$0<\alpha<\frac{\pi}{2}$の波形も含め、各点弧角$\alpha$の値に対する電圧波形の切り換わりを図10に示す。
図10 各点弧角$\alpha$の範囲における出力電圧波形
ここで、図10の下の波形のように$e_\mathrm{d}<0$となっても、電流の向きは変わらないため、この場合の電力は負(「パワーフローが負」ともいう)となる。
このとき、負荷(直流)側から電源(交流)側に電力が供給される状態(回生運転)となる。
この運転状態は、整流回路がインバータ動作していることを意味する。
(ただし、このときサイリスタの転流に必要な電圧および電力を供給できる交流電圧源が必要となる)
また、図11に点弧角$\alpha$と直流平均電圧$E_\mathrm{d}$の関係を示す。
図11 直流平均電圧$E_\mathrm{d}$の点弧角$\alpha$に対する特性
図11より、$\alpha=\displaystyle{\frac{\pi}{2}}$を境に、整流器動作とインバータ動作が切り換わることがわかる。
このように、サイリスタを用いた整流回路は整流器とインバータ両方の動作が可能である。
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参考文献
- 電気学会『電気工学ハンドブック 第7版』オーム社,2013
- 長谷良秀『電力技術の実用理論 第3版 発電・送変電の基礎理論からパワーエレクトロニクス応用まで』丸善出版,2015
- 金東海『パワースイッチング工学―パワーエレクトロニクスの基礎理論』電気学会,2003
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