本記事では、整流回路の一種である「単相半波整流回路」について解説する。
単相半波整流回路の基本構成
単相半波整流回路は、整流素子(ダイオードまたはサイリスタ)を用いた、交流電圧から直流電圧を得るための整流作用をもつ回路の一種であり、正弦波交流電圧のうち正の半波のみを整流するのが特徴である。
図1にダイオード、図2にサイリスタを用いた単相半波整流回路の構成を示す。
図1 ダイオードを用いた単相半波整流回路
図2 サイリスタを用いた単相半波整流回路
出力波形と直流平均電圧(純抵抗負荷)
単相半波整流回路に純抵抗負荷を接続し、正弦波交流電圧を印加した場合の出力電圧・電流波形および直流平均電圧を求める。
整流素子にダイオードを用いた場合
図1の回路のダイオードによる単相半波整流回路に純抵抗負荷を接続し、正弦波交流電圧$v=\sqrt{2}V\sin\omega t$を印加する場合を考える。
まず、交流電圧$v$が正のとき、ダイオード$\mathrm{D}$の両端には順方向電圧が加わる。
このとき、ダイオード$\mathrm{D}$は導通し、回路に電流が流れる。また、負荷の両端には正の正弦波電圧が現れる。
一方、交流電圧$v$が負のとき、ダイオード$\mathrm{D}$の両端には逆方向電圧が加わる。
このとき、ダイオード$\mathrm{D}$は非導通となり、回路に電流は流れない。また、負荷の両端にも電圧は現れない。
以上より、出力電圧$e_\mathrm{d}$および電流$i_\mathrm{d}$の波形は図3のようになる。
図3 単相半波整流回路(ダイオード)の電圧・電流波形
また、ダイオードによる電圧降下の影響を無視すると、直流平均電圧$E_\mathrm{d0}$は、波形の周期が$2\pi$,積分区間が$0\sim\pi$であることを考慮して、
$$\begin{align*}
E_\mathrm{d0}&=\frac{1}{2\pi}\int^{\pi}_{0}\sqrt{2}V\sin{\omega t}\ \mathrm{d}\omega t\\\\
&=\frac{\sqrt{2}V}{2\pi}\left[-\cos{\omega t}\right]^{\pi}_{0}\\\\
&=\frac{\sqrt{2}V}{2\pi}\left(-\cos{\pi}+\cos{0}\right)\\\\
&=\frac{\sqrt{2}V}{\pi}\\\\
&=0.45V
\end{align*}$$
整流素子にサイリスタを用いた場合
次に、図2の回路のサイリスタによる単相半波整流回路に純抵抗負荷を接続し、正弦波交流電圧$v=\sqrt{2}V\sin\omega t$を印加する場合を考える。
このとき、サイリスタ$\mathrm{Th}$の点弧角を$\alpha$とする。
まず、電圧$v$が正のとき、位相$\alpha$でサイリスタ$\mathrm{Th}$がターンオンする。
このとき、回路に電流が流れ、負荷の両端にはゼロ点から位相$\alpha$遅れて正の正弦波電圧が現れる。
一方、電圧$v$が負のとき、ダイオードと同様にサイリスタ$\mathrm{Th}$の両端には逆方向電圧がかかる。
このとき、サイリスタは非導通となるから、回路に電流は流れず、負荷の両端にも電圧は現れない。
以上より、出力電圧$e_\mathrm{d}$および電流$i_\mathrm{d}$の波形は図4のようになる。
図4 単相半波整流回路(サイリスタ)の電圧・電流波形
また、サイリスタによる電圧降下の影響を無視すると、直流平均電圧$E_\mathrm{d}$は、波形の周期が$2\pi$,積分区間が$\alpha\sim\pi$であることを考慮して、
$$\begin{align*}
E_\mathrm{d}&=\frac{1}{2\pi}\int^{\pi}_{\alpha}\sqrt{2}V\sin{\omega t}\ \mathrm{d}\omega t\\\\
&=\frac{\sqrt{2}V}{2\pi}\left[-\cos{\omega t}\right]^{\pi}_{\alpha}\\\\
&=\frac{\sqrt{2}V}{2\pi}\left(-\cos{\pi}+\cos{\alpha}\right)\\\\
&=\frac{\sqrt{2}V}{\pi}\cdot\frac{1+\cos{\alpha}}{2}\\\\
&=E_\mathrm{d0}\frac{1+\cos{\alpha}}{2}
\end{align*}$$
出力波形と直流平均電圧(誘導性負荷)
整流素子にサイリスタを用いた場合
図2のサイリスタ単相半波整流回路において、純抵抗負荷の代わりに誘導性負荷を接続した場合を図5に示す。
図5 サイリスタ単相半波整流回路(誘導性負荷接続)
図5の回路において、正弦波交流電圧$v=\sqrt{2}V\sin\omega t$を印加する場合を考える。
このとき、サイリスタ$\mathrm{Th}$の点弧角を$\alpha$とする。
まず、電圧$v$が正のとき、位相$\alpha$でサイリスタ$\mathrm{Th}$がターンオンする。
このとき、図2の場合と同様に回路に電流が流れ、負荷の両端にはゼロ点から位相$\alpha$遅れて正の正弦波電圧が現れる。
一方、電圧$v$が負となっても、負荷のインダクタンス成分の逆起電力により、一定の期間は電流を回路に流し続けようとする。この間は、負荷の両端に負の電圧が現れる。
以上より、出力電圧$e_\mathrm{d}$および電流$i_\mathrm{d}$の波形は図6のようになる。
図6 サイリスタ単相半波整流回路(誘導性負荷)の電圧・電流波形
また図6に示すように、電圧のゼロ点を基準としたときのターンオフする位相を$\beta$とすると、直流平均電圧$E_\mathrm{d}$は、波形の周期が$2\pi$,積分区間が$\alpha\sim\pi+\beta$であることを考慮して、
$$\begin{align*}
E_\mathrm{d}&=\frac{1}{2\pi}\int^{\pi+\beta}_{\alpha}\sqrt{2}V\sin{\omega t}\ \mathrm{d}\omega t\\\\
&=\frac{\sqrt{2}V}{2\pi}\left[-\cos{\omega t}\right]^{\pi+\beta}_{\alpha}\\\\
&=\frac{\sqrt{2}V}{2\pi}\left\{-\cos{\left(\pi+\beta\right)}+\cos{\alpha}\right\}\\\\
&=\frac{\sqrt{2}V}{\pi}\cdot\frac{\cos{\alpha}+\cos{\beta}}{2}\\\\
&=E_\mathrm{d0}\frac{\cos{\alpha}+\cos{\beta}}{2}
\end{align*}$$
還流ダイオードがある場合
図5の回路において、還流ダイオード(フリーホイーリングダイオード)$\mathrm{D_F}$を負荷に並列に接続したものを図7に示す。
図7 サイリスタ単相半波整流回路(誘導性負荷、還流ダイオード接続)
還流ダイオード$\mathrm{D_F}$により、負荷のインダクタンス成分の逆起電力により流し続けようとする電流を、負荷と$\mathrm{D_F}$で構成される閉回路内に還流させ、負荷の抵抗成分で消費させることができる。
このときの出力電圧$e_\mathrm{d}$および電流$i_\mathrm{d}$の波形を図8に示す。
図8 単相半波整流回路(誘導性負荷、還流ダイオード接続)の電圧・電流波形
図8より、出力電圧$e_\mathrm{d}$は$v$が負の範囲でも現れず、純抵抗負荷の場合と同じ波形となる。
一方、負荷のインダクタンス成分を$L$,抵抗成分を$R$とすると、出力電流$i_\mathrm{d}$はサイリスタ$\mathrm{Th}$のターンオンに合わせて立ち上がり、時定数$\displaystyle{\frac{L}{R}}$で減衰する波形となる。
このとき、インダクタンス成分$L$の値が大きいほど減衰がなだらかになるため、$i_\mathrm{d}$は図9のような平滑な直流の波形となる。
図9 単相半波整流回路(誘導性負荷、還流ダイオード接続)の電圧・電流波形(時定数が大きい場合)
また、サイリスタによる電圧降下の影響を無視すると、直流平均電圧$E_\mathrm{d}$は、純抵抗負荷の場合と同様の波形となるため(計算は中略して)、
$$\begin{align*}
E_\mathrm{d}&=\frac{1}{2\pi}\int^{\pi}_{\alpha}\sqrt{2}V\sin{\omega t}\ \mathrm{d}\omega t\\\\
&=E_\mathrm{d0}\frac{1+\cos{\alpha}}{2}
\end{align*}$$
コンデンサインプット整流回路
整流回路の負荷に並列にコンデンサを接続した回路をコンデンサインプット整流回路という。
図10にコンデンサインプット単相半波整流回路の構成を示す。
図10 コンデンサインプット単相半波整流回路
なお、一般に、単相の小電力回路にはコンデンサインプット回路を用いる。
一方、三相で大電力回路にはコンデンサの代わりにリアクトルを用いた平滑化回路が用いられる。
このような回路をチョークインプット回路(チョークはリアクトルの意味)という。
図10の回路の出力電圧$e_\mathrm{d}$および電流$i_\mathrm{d}$の波形を図11に示す。
図11 コンデンサインプット単相半波整流回路の電圧・電流波形
図11のように、並列コンデンサにより電圧$v$が正の範囲は充電、負の範囲は放電が行われ、電圧$e_\mathrm{d}$はゆっくりと減衰する波形となる。
コンデンサの静電容量を$C$とすると、時定数$CR$が大きいほど減衰はなだらかになり、より平滑化した直流電圧波形が得られる。
また、$v$が$e_\mathrm{d}$より高くなるタイミングで回路に電流$i_\mathrm{d}$が流れ、脈動するような波形となる。
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参考文献
- 電気学会『電気工学ハンドブック 第7版』オーム社,2013
- 古橋武『パワーエレクトロニクスノート―工作と理論』コロナ社,2008
- 金東海『パワースイッチング工学―パワーエレクトロニクスの基礎理論』電気学会,2003
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