転流の重なり現象

本記事では、整流回路の「転流の重なり現象」について解説する。

転流の重なりとは

整流回路において、整流素子のオン・オフにより電流の経路が切り換わることを転流という。

 

整流回路の直流電圧・電流の式を導く際は、転流は瞬時に行われると仮定するのが一般的である。

しかし実際には、電源側に直列にごく小さなリアクタンス成分(変圧器の漏れリアクタンスなど)が存在するため、各電流$i_1,\ i_2,\ i_3$に位相差が生じ、転流にわずかながらオーバーラップする時間が生じる。

そのため、直流電圧・電流の波形および直流電圧の平均値は、転流が瞬時に行われると仮定した場合とは異なってくる。

これを転流重なり現象という。

 

今回は、図1のサイリスタを用いた三相半波整流回路における転流の重なり現象を考える。

同図において、変圧器の漏れリアクタンス$X$を考慮するものとする。

 

なお、転流は2つの相のリアクタンス$X$を介して行われるため、「転流リアクタンス」は$2X$となる。

 

図1 三相半波整流回路(直列リアクタンス考慮)

 

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リアクタンスによる電圧降下

図1の回路において、負荷のインダクタンス成分は十分に大きいとして、オンになる素子が$\mathrm{Th}_3$から$\mathrm{Th}_1$に切り換わる場合を考える。

 

負荷電圧$e_\mathrm{d}$は、リアクタンス$X$における電圧降下を考慮すると、

$$\begin{align*}
e_\mathrm{d}&=v_1-X\frac{\mathrm{d}i_1}{\mathrm{d}\omega t}\\\\
&=v_3-X\frac{\mathrm{d}i_3}{\mathrm{d}\omega t} ・・・(1)
\end{align*}$$

 

また、負荷に流れる電流$i_\mathrm{d}$は、転流期間中の電流(の合計値)が一定で$I_\mathrm{d}$になるとすると、

$$\begin{align*}
i_\mathrm{d}&=i_1+i_3\\\\
&=I_\mathrm{d} ・・・(2)
\end{align*}$$

 

$(2)$式の両辺を$\omega t$で微分して、

$$\begin{align*}
\frac{\mathrm{d}i_1}{\mathrm{d}\omega t}+\frac{\mathrm{d}i_3}{\mathrm{d}\omega t}&=0\\\\
\therefore\frac{\mathrm{d}i_3}{\mathrm{d}\omega t}&=-\frac{\mathrm{d}i_1}{\mathrm{d}\omega t} ・・・(3)
\end{align*}$$

 

$(1)$式の$\displaystyle{\frac{\mathrm{d}i_3}{\mathrm{d}\omega t}}$に$(3)$式を代入して、

$$\begin{align*}
v_1-X\frac{\mathrm{d}i_1}{\mathrm{d}\omega t}&=v_3+X\frac{\mathrm{d}i_1}{\mathrm{d}\omega t}\\\\
\therefore X\frac{\mathrm{d}i_1}{\mathrm{d}\omega t}&=\frac{v_1-v_3}{2} ・・・(4)
\end{align*}$$

となり、リアクタンス$X$による電圧降下は$v_1$と$v_3$の差の$\displaystyle{\frac{1}{2}}$で表される。

 

また、負荷電圧$e_\mathrm{d}$は、$(1)$式より、

$$\begin{align*}
e_\mathrm{d}&=v_1-X\frac{\mathrm{d}i_1}{\mathrm{d}\omega t}\\\\
&=v_1-\frac{v_1-v_3}{2}\\\\
&=\frac{v_1+v_3}{2}
\end{align*}$$

 

さらに、電源電圧は三相平衡電圧で、$v_1+v_2+v_3=0$が成り立つことより、

$$\begin{align*}
e_\mathrm{d}&=\frac{v_1+v_3}{2}=-\frac{v_2}{2}
\end{align*}$$

となり、負荷電圧$e_\mathrm{d}$はそのとき転流に関係していない相の電圧$v_2$で表すことができる。

 

 

電圧・電流波形と直流平均電圧

前項のような計算を各転流時において行うと、負荷電圧$e_\mathrm{d}$および電流$i_\mathrm{d}$は図2のような波形となる。

 

図2 転流の重なり現象

 

サイリスタの点弧角を$\alpha$とすると、図2の電流波形に示されるように整流素子のオンオフが切り換わる際、リアクタンス$X$の効果によりわずかながら減衰に時間がかかる。

また、例えば$\omega t=\alpha$の$\mathrm{Th}_3$から$\mathrm{Th}_1$への転流時において、電圧$v_3$から$v_1$の波形に切り換わる前に、オーバーラップ期間$u$の間だけ$\displaystyle{-\frac{v_2}{2}}$の波形に一旦移るような波形となっている。

このとき、サイリスタ$\mathrm{Th}_3$および$\mathrm{Th}_1$は同時に導通していることになる。

 

これが転流の度に対応する素子間で起こり、負荷電圧$e_\mathrm{d}$はリアクタンス$X$による電圧降下の分だけ欠けた形になる。

 

さらに、リアクタンス$X$による電圧降下を考慮した場合の直流平均電圧$E_\mathrm{d}$は、図2より波形の周期が$\displaystyle{\frac{2}{3}}\pi$,積分区間が$\displaystyle{\frac{\pi}{6}}+\alpha\sim\displaystyle{\frac{5}{6}\pi}+\alpha$であることを考慮して、

$$\begin{align*}
E_\mathrm{d}&=\frac{1}{\displaystyle{\frac{2}{3}}\pi}\int e_\mathrm{d}\mathrm{d}\omega t\\\\
&=\frac{1}{\displaystyle{\frac{2}{3}}\pi}\int \left(v_1-X\frac{\mathrm{d}i_1}{\mathrm{d}\omega t}\right)\mathrm{d}\omega t\\\\
&=\frac{1}{\displaystyle{\frac{2}{3}}\pi}\left[\int^{\omega t=\frac{5}{6}\pi+\alpha}_{\omega t=\frac{\pi}{6}+\alpha}\sqrt{2}V\sin{\omega t}\ \mathrm{d}\omega t-X\int^{i_1=I_\mathrm{d}}_{i_1=0}\mathrm{d}i_1\right]\\\\
&=\frac{3\sqrt{2}V}{2\pi}\left[-\cos{\omega t}\right]^{\frac{5}{6}\pi+\alpha}_{\frac{\pi}{6}+\alpha}-\frac{3X}{2\pi}\left[i_1\right]^{I_\mathrm{d}}_{0}\\\\
&=\frac{3\sqrt{2}V}{2\pi}\left\{-\cos\left(\frac{5}{6}\pi+\alpha\right)+\cos\left(\frac{\pi}{6}+\alpha\right)\right\}-\frac{3XI_\mathrm{d}}{2\pi}\\\\
&=\frac{3\sqrt{2}V}{\pi}\sin\left(\frac{\pi}{2}+\alpha\right)\sin\frac{2}{3}\pi-\frac{3XI_\mathrm{d}}{2\pi}\\\\
&=\frac{3\sqrt{2}V}{\pi}\cos\alpha\cdot\frac{\sqrt{3}}{2}-\frac{3XI_\mathrm{d}}{2\pi}\\\\
&=\frac{3\sqrt{6}V}{2\pi}\cos\alpha-\frac{3XI_\mathrm{d}}{2\pi}\\\\
&\equiv E_\mathrm{d0}\cos\alpha-\frac{3XI_\mathrm{d}}{2\pi}
\end{align*}$$

ただし、$E_\mathrm{d0}=\displaystyle{\frac{3\sqrt{6}V}{2\pi}}$であり、点弧角$\alpha=0$の場合の電圧の値である。

 

上式の導出では、三角関数の変形について

を用いている。

 

上式より、転流リアクタンス電圧降下$V_\mathrm{x}$の式は次のようになる。

$$V_\mathrm{x}=\frac{3XI_\mathrm{d}}{2\pi} ・・・(5)$$

 

なお、電源の1周期中の転流回数をパルス数(転流数)という。

パルス数$p$は、(特殊な回路を除いて)整流回路で用いられる整流素子数に一致し、図1の回路の場合は$p=3$である。

 

パルス数$p$のときの転流リアクタンス電圧降下$V_\mathrm{xp}$の式は、転流回数が$p$回となるゆえ、次のようになる。

$$V_\mathrm{x}=\frac{pXI_\mathrm{d}}{2\pi}$$

 

転流重なり角の式

転流時のオーバーラップ期間を角度で表したものを転流重なり角$u$という。

この転流重なり角$u$の式を導出する。

 

$(4)$式で表されるリアクタンス$X$による電圧降下について変形すると、

$$\begin{align*}
X\frac{\mathrm{d}i_1}{\mathrm{d}\omega t}&=\frac{v_1-v_3}{2}\\\\
&=\frac{1}{2}\left\{\sqrt{2}V\sin\omega t-\sqrt{2}V\sin\left(\omega t+\displaystyle{\frac{2}{3}\pi}\right)\right\}\\\\
&=\frac{\sqrt{2}V}{2}\cdot 2\cos\left(\omega t+\displaystyle{\frac{\pi}{3}}\right)\sin\left(-\frac{\pi}{3}\right)\\\\
&=-\frac{\sqrt{6}V}{2}\cos\left(\omega t+\displaystyle{\frac{\pi}{3}}\right)\\\\
&=\frac{\sqrt{6}V}{2}\sin\left(\omega t-\displaystyle{\frac{\pi}{6}}\right)
\end{align*}$$

 

これを波形の周期$\displaystyle{\frac{2}{3}}\pi$,区間$\displaystyle{\frac{\pi}{6}}+\alpha\sim\displaystyle{\frac{5}{6}\pi}+\alpha$で積分すると、

$$\begin{align*}
\int\frac{v_1-v_3}{2}\mathrm{d}\omega t&=\frac{\displaystyle{\frac{\sqrt{6}V}{2}}}{\displaystyle{\frac{2}{3}}\pi}\int^{\omega t=\frac{\pi}{6}+\alpha+u}_{\omega t=\frac{\pi}{6}+\alpha}\sin\left(\omega t-\displaystyle{\frac{\pi}{6}}\right)\mathrm{d}\omega t\\\\
&=\frac{3\sqrt{6}V}{4\pi}\left[-\cos{\omega t}\right]^{\frac{\pi}{6}+\alpha+u}_{\frac{\pi}{6}+\alpha}\\\\
&=\frac{3\sqrt{6}V}{4\pi}\left\{-\cos\left(\alpha+u\right)+\cos\alpha\right\}\\\\
&=\frac{E_\mathrm{d0}}{2}\left\{\cos\alpha-\cos\left(\alpha+u\right)\right\} ・・・(6)
\end{align*}$$

 

上の式は、前項の$V_\mathrm{x}$に等しくなる。

前項の計算では、第2項について電流$\mathrm{d}i_1$を積分することにより求めており、純粋に位相$\omega t$のみを扱い計算すると上式のようになる。

 

したがって、$(6)=(5)$式とすると、

$$\begin{align*}
\frac{E_\mathrm{d0}}{2}\left\{\cos\alpha-\cos\left(\alpha+u\right)\right\}&=\frac{3XI_\mathrm{d}}{2\pi}\\\\
\cos\alpha-\cos\left(\alpha+u\right)&=\frac{3XI_\mathrm{d}}{\pi E_\mathrm{d0}} ・・・(7)
\end{align*}$$

$(7)$式が転流重なり角$u$に関する式となる。

 

なお、パルス数が$p$の整流回路の転流重なり角$u$は次式で表される。

$$\begin{align*}
\cos\alpha-\cos\left(\alpha+u\right)&=\frac{pXI_\mathrm{d}}{\pi E_\mathrm{d0}}
\end{align*}$$

 

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