本記事では、定格容量が異なる2台の単相変圧器をV-V結線接続した「異容量V結線方式」について記載する。
V結線(V-connectionまたはOpen delta connection)とは、Δ結線の一相分を取り除いたものであり、2台の単相変圧器で構成される。本記事では、そんなV結線された変圧器の理論について解説する。V-[…]
異容量V結線方式の構成
単相変圧器2台を用いた異容量V結線変圧器(負荷側のみ)を図1に示す。
図1 異容量$\mathrm{V}$結線変圧器(進み接続)
同図の変圧器は、単相負荷$P_1$(電灯)および三相負荷$P_3$(動力)の両方に電力を供給している。
なお、フォロワーのあきら先生より、下記の解説もいただいた。
電力会社の柱上変圧器から一般家庭に供給している配線方式なんです。
道を歩いていて柱上に大小の単相変圧器があれば異容量V結線です。
意外に身近にあります。
過負荷判定は変圧器内部巻線に流れる電流がいくらになるか考えると簡単です。 https://t.co/BVdbToDfBH— あきら@電気主任技術者系行政書士 (@ttusin) September 7, 2019
構成としては、単相および三相負荷の両方へ供給する共用変圧器$S_A$と、三相負荷にのみ供給する専用変圧器$S_B$がある。
図1では、単相負荷$P_1$から中性線を介して$S_A$の中点に接続されているが、中性線に流れる電流$I_n$はゼロとなる。
また、図1のように端子$a-b$間に単相負荷$P_1$を接続する方式を進み接続というが、端子$b-c$間に接続したものを遅れ接続といい、図2に示す。
図2 異容量$\mathrm{V}$結線変圧器(遅れ接続)
図2の場合、$S_A$が専用変圧器、$S_B$が共用変圧器となる。
後に示すベクトル図で分かるが、端子電圧$\dot{V_{ab}}$と$\dot{V_{bc}}$では相対的に$\dot{V_{ab}}$の方が位相が進んでいるため、接続する端子における電圧の位相によって名称が異なる。
異容量V結線におけるベクトル図
図1の進み接続において、変圧器の電圧・電流のベクトル図を図3に示す。
なお、先の図には記載されていないが、各相電圧を$\dot{V_a},\ \dot{V_b},\ \dot{V_c}$,相回転は$a\rightarrow b\rightarrow c$とし、単相負荷$P_1$および三相負荷$P_3$の力率角を$\theta_1$および$\theta_3$とする。
図3 異容量$\mathrm{V}$結線変圧器(進み接続)のベクトル図
また、図2の遅れ接続において、変圧器の電圧・電流のベクトル図を図4に示す。
図4 異容量$\mathrm{V}$結線変圧器(遅れ接続)のベクトル図
変圧器の定格容量と負荷容量の関係
進み接続における関係
図3の進み接続におけるベクトル図から、各負荷容量を用いて、各変圧器の容量$S_A$および$S_B$の式を導く。
図1および図3より、共用変圧器に流れる電流$\dot{I_a}$は、各負荷に流れる電流$\dot{I_1}$および$\dot{I_{3a}}$の和であるから、
\dot{I_a}&=\dot{I_1}+\dot{I_{3a}}\\\\
&=I_1\angle\left(\frac{\pi}{6}-\theta_1\right)+I_{3a}\angle\left(-\theta_3\right)\\\\
&=I_1\left\{\cos\left(\frac{\pi}{6}-\theta_1\right)+j\sin\left(\frac{\pi}{6}-\theta_1\right)\right\}+I_{3a}\left(\cos\theta_3-j\sin\theta_3\right)\\\\
&=I_1\cos\left(\frac{\pi}{6}-\theta_1\right)+I_{3a}\cos\theta_3+j\left\{I_1\sin\left(\frac{\pi}{6}-\theta_1\right)-I_{3a}\sin\theta_3\right\} ・・・(1)
\end{align*}$$
したがって、電流の大きさ$I_a$は、
I_a&=\sqrt{\left\{I_1\cos\left(\frac{\pi}{6}-\theta_1\right)+I_{3a}\cos\theta_3\right\}^2+\left\{I_1\sin\left(\frac{\pi}{6}-\theta_1\right)-I_{3a}\sin\theta_3\right\}^2}\\\\
&=\sqrt{I^2_1+I^2_{3a}+2I_1I_{3a}\left\{\cos\left(\frac{\pi}{6}-\theta_1\right)\cos\theta_3-\sin\left(\frac{\pi}{6}-\theta_1\right)\sin\theta_3\right\}}\\\\
&=\sqrt{I^2_1+I^2_{3a}+2I_1I_{3a}\cos\left(\frac{\pi}{6}-\theta_1+\theta_3\right)} ・・・(2)
\end{align*}$$
共用変圧器の容量$S_A=V_{ab}I_{a}$は、$(2)$式の両辺に$V_{ab}$をかけて、
S_A=V_{ab}I_{a}&=V_{ab}\sqrt{I^2_1+I^2_{3a}+2I_1I_{3a}\cos\left(\frac{\pi}{6}-\theta_1+\theta_3\right)}\\\\
&=\sqrt{\left(V_{ab}I_1\right)^2+\left(V_{ab}I_{3a}\right)^2+2\left(V_{ab}I_1\right)\left(V_{ab}I_{3a}\right)\cos\left(\frac{\pi}{6}-\theta_1+\theta_3\right)} ・・・(3)
\end{align*}$$
ここで、各負荷の皮相電力を$S_1=V_{ab}I_{1}$,$S_3=\sqrt{3}V_{ab}I_{3a}$とすると、$(3)$式は、
S_A=\sqrt{S_1^2+\frac{S^2_3}{3}+\frac{2}{\sqrt{3}}S_1S_3\cos\left(\frac{\pi}{6}-\theta_1+\theta_3\right)} ・・・(4)
\end{align*}$$
なお、$\displaystyle{\cos\left(\frac{\pi}{6}-\theta_1+\theta_3\right)}\leq1$より、
\sqrt{S_1^2+\frac{S^2_3}{3}+\frac{2}{\sqrt{3}}S_1S_3\cos\left(\frac{\pi}{6}-\theta_1+\theta_3\right)}&\leq\sqrt{S_1^2+\frac{S^2_3}{3}+\frac{2}{\sqrt{3}}S_1S_3}\\\\
&=\sqrt{\left(S_1+\frac{S_3}{\sqrt{3}}\right)^2}=S_1+\frac{S_3}{\sqrt{3}}
\end{align*}$$
また、専用変圧器の容量$S_B$は、
S_B=V_{bc}I_{3c}&=\frac{\sqrt{3}V_{bc}I_{3c}}{\sqrt{3}}\\\\
&=\frac{S_3}{\sqrt{3}} ・・・(5)
\end{align*}$$
遅れ接続における関係
次に、図2の遅れ接続におけるベクトル図から、同様に$S_A$および$S_B$の式を導く。
図2および図4より、共用変圧器に流れる電流$\dot{I_c}$は、各負荷に流れる電流$-\dot{I_1}$および$\dot{I_{3c}}$の和であるから、
\dot{I_c}&=-\dot{I_1}+\dot{I_{3c}}\\\\
&=-I_1\angle\left(\frac{3}{2}\pi-\theta_1\right)+I_{3c}\angle\left(\frac{2}{3}\pi-\theta_3\right)\\\\
&=-I_1\left\{\cos\left(\frac{3}{2}\pi-\theta_1\right)+j\sin\left(\frac{3}{2}\pi-\theta_1\right)\right\}+I_{3c}\left\{\cos\left(\frac{2}{3}\pi-\theta_3\right)+j\sin\left(\frac{2}{3}\pi-\theta_3\right)\right\}\\\\
&=-I_1\left[\cos\left\{\pi+\left(\frac{\pi}{2}-\theta_1\right)\right\}+j\sin\left\{\pi+\left(\frac{\pi}{2}-\theta_1\right)\right\}\right]+I_{3c}\left[\cos\left\{\frac{\pi}{2}+\left(\frac{\pi}{6}-\theta_3\right)\right\}+j\sin\left\{\frac{\pi}{2}+\left(\frac{\pi}{6}-\theta_3\right)\right\}\right]\\\\
&=I_1\left(\sin\theta_1+j\cos\theta_1\right)+I_{3c}\left\{\sin\left(\frac{\pi}{6}-\theta_3\right)+j\cos\left(\frac{\pi}{6}-\theta_3\right)\right\}\\\\
&=I_1\sin\theta_1+I_{3c}\sin\left(\frac{\pi}{6}-\theta_3\right)+j\left\{I_1\cos\theta_1+I_{3c}\cos\left(\frac{\pi}{6}-\theta_3\right)\right\} ・・・(6)
\end{align*}$$
$(6)$式の導出では、三角関数の余角の公式および補角の公式を用いている。なお、
\sin\left(\frac{3}{2}\pi-\theta\right)&=\sin\left\{\pi+\left(\displaystyle{\frac{\pi}{2}}-\theta\right)\right\}\\\\
&=-\sin\left(\displaystyle{\frac{\pi}{2}}-\theta\right)\\\\
&=-\cos\theta
\end{align*}$$
\cos\left(\frac{3}{2}\pi-\theta\right)&=\cos\left\{\pi+\left(\displaystyle{\frac{\pi}{2}}-\theta\right)\right\}\\\\
&=-\cos\left(\displaystyle{\frac{\pi}{2}}-\theta\right)\\\\
&=-\sin\theta
\end{align*}$$
の変換を行っている。あとは$\theta=\theta_1$と置き換えればよい。
したがって、電流の大きさ$I_c$は、
I_c&=\sqrt{\left\{I_1\sin\theta_1+I_{3c}\sin\left(\frac{\pi}{6}-\theta_3\right)\right\}^2+\left\{I_1\cos\theta_1+I_{3c}\cos\left(\frac{\pi}{6}-\theta_3\right)\right\}^2}\\\\
&=\sqrt{I^2_1+I^2_{3a}+2I_1I_{3a}\left\{\cos\left(\frac{\pi}{6}-\theta_3\right)\cos\theta_1+\sin\left(\frac{\pi}{6}-\theta_3\right)\sin\theta_1\right\}}\\\\
&=\sqrt{I^2_1+I^2_{3a}+2I_1I_{3a}\cos\left(\frac{\pi}{6}-\theta_3+\theta_1\right)} ・・・(7)
\end{align*}$$
共用変圧器の容量$S_B=V_{bc}I_{c}$は、$(7)$式の両辺に$V_{bc}$をかけて、
S_B=V_{bc}I_{c}&=V_{bc}\sqrt{I^2_1+I^2_{3a}+2I_1I_{3a}\cos\left(\frac{\pi}{6}-\theta_3+\theta_1\right)}\\\\
&=\sqrt{\left(V_{bc}I_1\right)^2+\left(V_{bc}I_{3c}\right)^2+2\left(V_{bc}I_1\right)\left(V_{bc}I_{3c}\right)\cos\left(\frac{\pi}{6}-\theta_3+\theta_1\right)} ・・・(8)
\end{align*}$$
ここで、$(8)$式を$S_1=V_{bc}I_{1}$,$S_3=\sqrt{3}V_{bc}I_{3c}$を用いて表すと、
S_B=\sqrt{S_1^2+\frac{S^2_3}{3}+\frac{2}{\sqrt{3}}S_1S_3\cos\left(\frac{\pi}{6}-\theta_3+\theta_1\right)} ・・・(9)
\end{align*}$$
$(4)$式と比較すると、$\theta_1$と$\theta_3$の符号が逆になっていることがわかる。
なお、$\displaystyle{\cos\left(\frac{\pi}{6}-\theta_3+\theta_1\right)}\leq1$より、
\sqrt{S_1^2+\frac{S^2_3}{3}+\frac{2}{\sqrt{3}}S_1S_3\cos\left(\frac{\pi}{6}-\theta_3+\theta_1\right)}&\leq\sqrt{S_1^2+\frac{S^2_3}{3}+\frac{2}{\sqrt{3}}S_1S_3}\\\\
&=\sqrt{\left(S_1+\frac{S_3}{\sqrt{3}}\right)^2}=S_1+\frac{S_3}{\sqrt{3}}
\end{align*}$$
上記は進み接続の場合と同じ結果である。
また、専用変圧器の容量$S_A$は、
S_A=V_{ab}I_{3a}&=\frac{\sqrt{3}V_{ab}I_{3a}}{\sqrt{3}}\\\\
&=\frac{S_3}{\sqrt{3}} ・・・(10)
\end{align*}$$
供給可能な最大負荷容量
図1の進み接続の場合において、各変圧器が供給できる各最大負荷容量について考える。
三相最大負荷
まず、専用変圧器$S_B$が電力供給する三相負荷$P_3=\sqrt{3}V_{ab}I_{3a}\cos\theta_3$が最大となる場合は、力率$\cos\theta_3=1$となるときであり、下記の関係が成り立つ。
P_3=\sqrt{3}V_{ab}I_{3a}=\sqrt{3}S_B ・・・(11)
\end{align*}$$
単相最大負荷
次に、共用変圧器$S_A$が供給できる最大負荷は、図2のベクトル図のうち$\dot{V_{ab}}$と$\dot{I_a}$が同相となるときを考えればよい。
このとき、$a$相電圧$\dot{V_a}$と$a-b$間端子電圧$\dot{V_{ab}}$との位相差は$\displaystyle{\frac{\pi}{6}}$であるため、$\dot{V_a}$と$\dot{I_a}$との位相差も$\displaystyle{\frac{\pi}{6}}$である。
図2のベクトル図は$\dot{V_a}$が基準であるため、$\dot{I_a}$の位相角$\psi_a$は、$(1)$式より、
\psi_a=\tan^{-1}\frac{I_1\sin\left(\displaystyle{\frac{\pi}{6}}-\theta_1\right)-I_{3a}\sin\theta_3}{I_1\cos\left(\displaystyle{\frac{\pi}{6}}-\theta_1\right)+I_{3a}\cos\theta_3}
\end{align*}$$
先の検討より$\cos\theta_3=1,\ \sin\theta_3=0$であり、$\tan\displaystyle{\frac{\pi}{6}}=\displaystyle{\frac{1}{\sqrt{3}}}$であるから、
\tan\psi_a=\frac{I_1\sin\left(\displaystyle{\frac{\pi}{6}}-\theta_1\right)}{I_1\cos\left(\displaystyle{\frac{\pi}{6}}-\theta_1\right)+I_{3a}}&=\frac{1}{\sqrt{3}}\\\\
\sqrt{3}I_1\sin\left(\displaystyle{\frac{\pi}{6}}-\theta_1\right)&=I_1\cos\left(\displaystyle{\frac{\pi}{6}}-\theta_1\right)+I_{3a}\\\\
\sqrt{3}I_1\left(\frac{1}{2}\cos\theta_1-\frac{\sqrt{3}}{2}\sin\theta_1\right)&=I_1\left(\frac{\sqrt{3}}{2}\cos\theta_1+\frac{1}{2}\sin\theta_1\right)+I_{3a}\\\\
-2I_1\sin\theta_1&=I_{3a}\\\\
I_1\sin\theta_1+\frac{1}{2}I_{3a}&=0\\\\
\therefore I_1\sin\theta_1+I_{3a}\sin\frac{\pi}{6}&=0 ・・・(12)
\end{align*}$$
$(12)$式を、ベクトル図において図示してみると、図5のようになる。
図5 共用変圧器の最大負荷時におけるベクトル図
図5より、$\dot{I_1}$および$\dot{I_{3a}}$の$\dot{I_a}$と垂直になる成分同士が同じ大きさで、かつ$\dot{I_a}$を基準としたときに互いに反対側にあるため、同成分は打ち消し合うことがわかる。
したがって、$\dot{I_a}$の大きさは、
I_a&=I_1\cos\theta_1+I_{3a}\cos\frac{\pi}{6}\\\\
&=I_1\cos\theta_1+\frac{\sqrt{3}}{2}I_{3a} ・・・(13)
\end{align*}$$
$(12)$式の両辺に$V_{ab}$をかけると、
S_A=V_{ab}I_a&=V_{ab}I_1\cos\theta_1+\frac{\sqrt{3}}{2}V_{ab}I_{3a}\\\\
&=V_{ab}I_1\cos\theta_1+\frac{\sqrt{3}}{2}S_B
\end{align*}$$
単相最大負荷$P_1=V_{ab}I_1\cos\theta_1$は、
最大負荷容量と利用率
合計の最大負荷$P_{max}$は、$(11),\ (13)$式より、
P_{max}&=P_3+P_1\\\\
&=\sqrt{3}S_B+S_A-\frac{\sqrt{3}}{2}S_B\\\\
&=S_A+\frac{\sqrt{3}}{2}S_B ・・・(14)
\end{align*}$$
2台の変圧器の合計容量は$S_A+S_B$であるから、利用率は$(14)$式より、
利用率$=\displaystyle{\frac{S_A+\displaystyle{\frac{\sqrt{3}}{2}S_B}}{S_A+S_B}} ・・・(15)$
例として、電験二種二次試験「電力・管理」平成23年度問4の値を用いて、利用率を計算する。
この問題の場合、$S_A=50\mathrm{kV\cdot A},\ S_B=30\mathrm{kV\cdot A}$であり、$(15)$式に代入すると、
利用率$=\displaystyle{\frac{50+\displaystyle{\frac{\sqrt{3}}{2}\times30}}{50+30}}=0.9498\rightarrow95\%$
となり、変圧器の合計容量の$95\%$が負荷への供給に使用されている形になる。
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