変圧器の電圧変動率

本記事では、変圧器の電圧変動率の式を導出し、IEC規格の定義についても紹介する。

電圧変動率の定義式

変圧器の電圧変動率とは、定格電圧(またはタップ電圧)に対して、ある巻線端子における「無負荷電圧と指定負荷・力率で発生する電圧との算術差」の比を百分率で表したものである。

 

変圧器の電圧変動率$\varepsilon[\%]$の定義は下式による。

$$\varepsilon=\frac{V_{20}-V_{2n}}{V_{2n}}\times100[\%] ・・・(1)$$

 

$(1)$式において、

  • $V_{20}$:無負荷時の二次端子電圧
  • $V_{2n}$:定格二次電圧

 

変圧器の一次側に電圧を印加すると、無負荷であった場合は二次端子電圧は$V_{20}$に等しくなるが、変圧器のインピーダンスによる電圧降下のため、端子電圧は変動する。

$(1)$式は、二次側に一定の負荷電流を流し、定格電圧$V_{2n}$となるよう一次側の電圧を調整した後、その一次電圧を保ったまま二次側を無負荷にしたときの電圧変動の割合を示している。

 

一般に、変圧器の電圧変動率は、電機子反作用の大きい発電機と比較すると、はるかに小さな値となる。

 

 

電圧変動率の計算

インピーダンス電圧

変圧器のL形等価回路(二次側換算)を図1に示す。

 

図1 変圧器のL形等価回路(二次側換算)

 

図1において、二次側には定格二次電流$\dot{I}_{2n}$が流れるような負荷が接続されており、

  • $\dot{V}_{20}$:無負荷時の二次端子電圧
  • $\dot{V}_{2n}$:定格二次電圧
  • $r$:一次側および二次側の巻線抵抗の合計
  • $x$:一次側および二次側の漏れリアクタンスの合計

 

このとき、巻線抵抗$r$による電圧降下の大きさは$rI_{2n}$,漏れリアクタンス$x$による電圧降下の大きさは$xI_{2n}$となる。

 

これらの定格二次電圧の大きさ$V_{2n}$に対する比を百分率で表すと、

$$\begin{cases}
p\equiv\displaystyle{\frac{rI_{2n}}{V_{2n}}}\times100[\%]\\\\
q\equiv\displaystyle{\frac{xI_{2n}}{V_{2n}}}\times100[\%]\end{cases} ・・・(2)$$

 

$(2)$式の$p$を%抵抗電圧、$q$を%リアクタンス電圧という。

 

また、漏れインピーダンスを$z\equiv\sqrt{r^2+x^2}$とすると、

$$\begin{align*}
\frac{zI_{2n}}{V_{2n}}\times100&=\frac{\sqrt{r^2+x^2}I_{2n}}{V_{2n}}\times100\\\\
&=\sqrt{p^2+q^2}[\%] ・・・(3)
\end{align*}$$

 

$(3)$は%インピーダンス電圧といい、$\%IX$と表すこともある。

 

電圧変動率の計算

図1の等価回路に基づいて作図したベクトル図を図2に示す。

ただし、$\theta$は接続する負荷の力率角を示す。

 

図2 変圧器のベクトル図

 

図2より、無負荷時の二次端子電圧の大きさ$V_{20}$は、

$$\begin{align*}
V_{20}&=\sqrt{\left(V_{2n}+rI_{2n}\cos\theta+xI_{2n}\sin\theta\right)^2+\left(xI_{2n}\cos\theta-rI_{2n}\sin\theta\right)^2}\\\\
&=V_{2n}\sqrt{\left(1+\frac{rI_{2n}}{V_{2n}}\cos\theta+\frac{xI_{2n}}{V_{2n}}\sin\theta\right)^2+\left(\frac{xI_{2n}}{V_{2n}}\cos\theta-\frac{rI_{2n}}{V_{2n}}\sin\theta\right)^2}\\\\
&=V_{2n}\left(1+\frac{rI_{2n}}{V_{2n}}\cos\theta+\frac{xI_{2n}}{V_{2n}}\sin\theta\right)\sqrt{1+\left(\frac{\displaystyle{\frac{xI_{2n}}{V_{2n}}}\cos\theta-\displaystyle{\frac{rI_{2n}}{V_{2n}}}\sin\theta}{1+\displaystyle{\frac{rI_{2n}}{V_{2n}}}\cos\theta+\displaystyle{\frac{xI_{2n}}{V_{2n}}}\sin\theta}\right)^2} ・・・(4)
\end{align*}$$

 

ここで、$x\ll1$のとき、

$$\left(1+x\right)^\frac{1}{2}\fallingdotseq 1+\frac{x}{2}$$

という近似式が成り立つ[参考]

 

したがって、$\left\{(4)\right.$式の平方根内の第2項$\left.\right\}\ll1$,かつ$\left(\displaystyle{\frac{rI_{2n}}{V_{2n}}}\cos\theta+\displaystyle{\frac{xI_{2n}}{V_{2n}}}\sin\theta\right)\ll1$であることも合わせて考えると、

$$\begin{align*}
V_{20}&\fallingdotseq V_{2n}\left(1+\displaystyle{\frac{rI_{2n}}{V_{2n}}}\cos\theta+\displaystyle{\frac{xI_{2n}}{V_{2n}}}\sin\theta\right)\left\{1+\frac{1}{2}\left(\frac{\displaystyle{\frac{xI_{2n}}{V_{2n}}}\cos\theta-\displaystyle{\frac{rI_{2n}}{V_{2n}}}\sin\theta}{1+\displaystyle{\frac{rI_{2n}}{V_{2n}}}\cos\theta+\displaystyle{\frac{xI_{2n}}{V_{2n}}}\sin\theta}\right)^2\right\}\\\\
&=V_{2n}\left\{1+\displaystyle{\frac{rI_{2n}}{V_{2n}}}\cos\theta+\displaystyle{\frac{xI_{2n}}{V_{2n}}}\sin\theta+\frac{1}{2}\frac{\left(\displaystyle{\frac{xI_{2n}}{V_{2n}}}\cos\theta-\displaystyle{\frac{rI_{2n}}{V_{2n}}}\sin\theta\right)^2}{1+\displaystyle{\frac{rI_{2n}}{V_{2n}}}\cos\theta+\displaystyle{\frac{xI_{2n}}{V_{2n}}}\sin\theta}\right\}\\\\
&\fallingdotseq V_{2n}\left\{1+\displaystyle{\frac{rI_{2n}}{V_{2n}}}\cos\theta+\displaystyle{\frac{xI_{2n}}{V_{2n}}}\sin\theta+\frac{\left(\displaystyle{\frac{xI_{2n}}{V_{2n}}}\cos\theta-\displaystyle{\frac{rI_{2n}}{V_{2n}}}\sin\theta\right)^2}{2}\right\}  ・・・(5)
\end{align*}$$

 

ゆえに$(2),\ (5)$式より、$(1)$式の電圧変動率$\varepsilon[\%]$は、

$$\begin{align*}
\varepsilon&=\frac{V_{20}-V_{2n}}{V_{2n}}\times100\\\\
&=\left(\frac{V_{20}}{V_{2n}}-1\right)\times100\\\\
&=\left\{1+\displaystyle{\frac{rI_{2n}}{V_{2n}}}\cos\theta+\displaystyle{\frac{xI_{2n}}{V_{2n}}}\sin\theta+\frac{\left(\displaystyle{\frac{xI_{2n}}{V_{2n}}}\cos\theta-\displaystyle{\frac{rI_{2n}}{V_{2n}}}\sin\theta\right)^2}{2}-1\right\}\times100\\\\
&\equiv p\cos\theta+q\sin\theta+\frac{\left(q\cos\theta-p\sin\theta\right)^2}{200}[\%] ・・・(6)
\end{align*}$$

 

$(6)$式が定格電流を流す負荷を接続した場合の電圧変動率の式となる。

 

なお、$(6)$式において、比較的容量が小さい変圧器の場合は、第2項は十分小さいため無視できて、

$$\varepsilon\fallingdotseq p\cos\theta+q\sin\theta[\%] ・・・(7)$$

 

$(7)$式の近似式は、図2において負荷角が$0$,すなわち$V_{2n}$に対し垂直な成分が$0$とみなして計算した場合に成り立つ。

 

電験などの問題を解く場合に$(5)$式を用いる場合、問題文に「近似式を用いて解いてもよい」という記述があるか注意すること。

 

 

IECにおける電圧変動率

国際規格IECにおける電圧変動率は、IEC60076-1で下記のように定義されている。

voltage drop or rise for a specified load condition
the arithmetic difference between the no-load voltage of a winding and the voltage developed at the terminals of the same winding at a specified load and power factor, the voltage supplied to (one of) the other winding(s) being equal to:
– its rated value if the transformer is connected on the principal tapping (the no-load voltage of the winding is then equal to its rated value);
– the tapping voltage if the transformer is connected on another tapping.
This difference is generally expressed as a percentage of the no-load voltage of the winding

出典:IEC 60076-1 Edition 3.0 2011-04″Power transformers –Part 1: General”, p16

 

上の文章を和訳すると、下記となる。

指定された負荷における電圧変動とは、対象の巻線の無負荷時の電圧と、指定された負荷と力率における端子電圧の算術差である。

このとき、他の巻線端子に印加する電圧は次のようにする。

  1. 基準タップに接続されている場合は定格電圧(このとき、無負荷時の電圧は定格電圧に等しくする)
  2. 他のタップに接続されている場合にはタップ電圧

通常、この差は巻線の無負荷時の電圧に対する百分率で表す。

 

上の文章を式で表すと、電圧変動率$\varepsilon[\%]$は、

$$\frac{V_{2N}-V_{2L}}{V_{2N}}\times100[\%] ・・・(8)$$

 

$(8)$式において、

  • $V_{2N}$:二次定格電圧
  • $V_{2L}$:負荷接続時の二次端子電圧

 

$(8)$式が$(1)$式と異なる点は、無負荷時の端子電圧を定格電圧とする点である。

このとき、(遅れ力率負荷ならば)二次端子電圧$V_{2L}$は定格電圧より低くなり、変圧器に印加される電圧は最大でも定格電圧となる。

 

なお、$(8)$式を用いた場合でも、図2において$V_{20}\rightarrow V_{2N},\ V_{2n}\rightarrow V_{2L}$と置き換えれば、$(6)$式と同様の結果が得られる。

 

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