本記事では、変圧器の効率について解説する。
規約効率
効率は(変圧器に限らず)「(出力)/(入力)」という形式で表される。
JEC規格においては、変圧器の効率は「(有効出力)/(有効出力+全損失)」という形式で表され、このように求められる効率を規約効率という。
単相変圧器の規約効率$\eta[\%]$は、下式にて表される。
$$\begin{align*}
\eta&=\frac{V_2I_2\cos\theta}{V_2I_2\cos\theta+W_N+W_L}\times100\\\\
&=\frac{V_2I_2\cos\theta}{V_2I_2\cos\theta+W_N+I_2^2r}\times100 ・・・(1)
\end{align*}$$
$(1)$式において、
- $V_2$:定格二次電圧$[\mathrm{V}]$
- $I_2$:二次負荷電流$[\mathrm{A}]$
- $\cos\theta$:負荷力率
- $W_N$:無負荷損$[\mathrm{W}]$
- $W_L=I_2^2r$:負荷損$[\mathrm{W}]$,$r$は実効抵抗$[\Omega]$
ここで、負荷率が$m$(ただし、$0<m\leq 1$)のときの効率を$\eta_m[\%]$とすると、$(1)$式より、
$$\begin{align*}
\eta_m&=\frac{V_2\left(mI_2\right)\cos\theta}{V_2\left(mI_2\right)\cos\theta+W_N+\left(mI_2\right)^2r}\times100\\\\
&=\frac{mV_2I_2\cos\theta}{mV_2I_2\cos\theta+W_N+m^2I_2^2r}\times100 ・・・(2)
\end{align*}$$
IECにおける効率の定義式
国際規格IECにおける効率は、IEC60076-20で下記のように規定されている。
Energy Efficiency Index Method A
the ratio of the transmitted apparent power of a transformer minus electrical losses including the power consumed by the cooling to the transmitted apparent power of the transformer for a given load factor
出典:Angelo Baggini, “Overview of IEC/TS 60076-20 Ed. 1.0: Power Transformers – Part 20: Energy Efficiency”, Reducing Losses in Power Distribution through Improved Efficiency of Distribution Transformers (2017)
上の文章を和訳すると、下記となる。
方式Aによる電力効率
変圧器の所定の負荷率において、供給される皮相電力から補機損を含む電気的損失を引いたものと、供給される皮相電力との比
上記を式で表すと、下記となる。
$$\eta=\frac{S-W}{S} ・・・(3)$$
$(3)$式において、$S$は入力となる皮相電力、$W$は補機損を含む全損失である。
$(3)$式のように、IEC規格では効率の計算式が「(入力-損失)/(入力)」となり、電源側からの入力値を基準として効率が計算される。
なお、方式Bとして、JEC規格と同様の計算方式が用いられることもある。
Energy efficiency index Method B
the ratio of the transmitted apparent power of a transformer to the transmitted apparent power of the transformer plus electrical losses for a given load factor
出典:Angelo Baggini, “Overview of IEC/TS 60076-20 Ed. 1.0: Power Transformers – Part 20: Energy Efficiency”, Reducing Losses in Power Distribution through Improved Efficiency of Distribution Transformers (2017)
最大効率と損失率
最大効率となる条件
$(1)$式で計算される効率が最大となる条件を考える。
$(1)$式を変形して、
$$\begin{align*}
\eta&=\frac{V_2I_2\cos\theta}{V_2I_2\cos\theta+W_N+I_2^2r}\times100\\\\
&=\frac{V_2\cos\theta}{V_2\cos\theta+\displaystyle{\frac{W_N}{I_2}}+I_2r}\times100 ・・・(4)
\end{align*}$$
$(4)$式において、$\eta$が最大となるとき、同式右辺の分母は最小となる。
ここで、$(4)$式の分母を$f(I_2)=V_2\cos\theta+\displaystyle{\frac{W_N}{I_2}}+I_2r$とすると、両辺を$I_2$で微分して、
$$\begin{align*}
\frac{df(I_2)}{dI_2}=-\frac{W_N}{I^2_2}+r ・・・(5)
\end{align*}$$
$(5)$式$=0$となる場合を考えると、
$$\begin{align*}
-\frac{W_N}{I^2_2}+r&=0\\\\
\therefore W_N&=I^2_2r ・・・(6)
\end{align*}$$
また、$(5)$式の両辺をさらに$I_2$で微分すると、
$$\frac{d^2f(I_2)}{dI^2_2}=\frac{2W_N}{I^3_2}>0 ・・・(7)$$
$(6),\ (7)$式より、$W_N=I^2_2r$,すなわち無負荷損と負荷損が等しいとき、$\eta$は最大値をとる。
ここで、図1に負荷率に対する効率と各損失のグラフを示す。
図1 負荷率に対する効率と損失
同図のように、無負荷損と負荷損が等しい値をとる負荷率で、効率は最大値$\eta_\mathrm{max}$をとる。
最大効率をとる負荷率
次に、最大効率をとる負荷率$m$(ただし、$0<m\leq 1$)を求める。
定格二次負荷電流を$I_{2n}$とすると、$I_2=mI_{2n}$の関係があり、$(6)$式は、
$$\begin{align*}
W_N&=m^2I^2_{2n}r\\\\
\therefore m&=\sqrt{\frac{W_N}{I^2_{2n}r}} ・・・(8)
\end{align*}$$
ここで、無負荷損$W_N$と負荷損$W_L$の比を損失比といい、損失比$\mathrm{LR}=\displaystyle{\frac{W_N}{W_L}}$で定義される。
これと$(8)$式から、負荷率$m$と損失比$\mathrm{LR}$との関係は、
$$m=\sqrt{\frac{1}{\mathrm{LR}}} ・・・(9)$$
$(9)$式より、損失率と最大値をとる負荷率は反比例の関係にあるため、損失比の大きい変圧器ほど、図1の効率が最大となる点は軽負荷率側に移動する。
全日効率の計算
常時負荷に電力供給している変圧器について、1日における出力電力量と入力電力量の比を全日効率という。
例として、「電験一種二次試験 機械・制御 平成26年度問2」の値を用いて、全日効率を求めてみる。
変圧器における諸元は下記とする。
- 定格容量:$100\mathrm{kV\cdot A}$
- 負荷力率:$85\%$
- 無負荷損:$571\mathrm{W}$
- 負荷損:$288\mathrm{W}$
この変圧器を図2のように、全負荷で$6$時間、$\displaystyle{\frac{1}{2}}$負荷で$8$時間、無負荷で合計$10$時間運転した場合の全日効率を考える。
図2 1日における変圧器の出力と損失
図2の運転条件における全日効率$\eta_d[\%]$は、
$$\begin{align*}
\eta_d&=\frac{\left(6+\displaystyle{\frac{1}{2}}\times 8\right)\times100\times0.85}{\left(6+\displaystyle{\frac{1}{2}}\times 8\right)\times100\times0.85+24\times0.571+\left\{6+\left(\displaystyle{\frac{1}{2}}\right)^2\times 8\right\}\times0.288}\\\\
&=\frac{850}{850+13.704+2.304}\\\\
&=98.15\%
\end{align*}$$
負荷率が低い場合、負荷率によらない無負荷損が小さいほど、全日効率は向上する。
本記事では、変圧器の無負荷損の種類とその発生要因について記述する。無負荷損の概要無負荷損の定義変圧器の無負荷損は、「変圧器が無負荷のとき、定格周波数・定格電圧を一次側に加えたときの入力」である。 無負荷[…]
本記事では、変圧器の負荷損の種類と発生要因について記述する。負荷損の概要変圧器の負荷損は、「変圧器の一方の巻線を短絡し、他方の巻線に定格周波数の電圧を加えたときの入力」である。 一方の巻線に換算した[…]
関連する例題(「電験王」へのリンク)
電験一種
電験二種
電験三種
参考文献
- JEC-2200『変圧器』,2014
- IEC60076-20 “Power Transformers-Part 20 : Energy efficiency”, 2017
- 浅川ほか『電力機器講座5 変圧器』日刊工業新聞社, 1966
- 坪島茂彦『図解 変圧器―基礎から応用まで』東京電機大学出版局,1981
著書・製品のご紹介
『書籍×動画』が織り成す、未だかつてない最高の学習体験があなたを待っている!
※本ページはプロモーションが含まれています。―『書籍×動画』が織り成す、未だかつてない最高の学習体験があなたを待っている― 当サイト「電気の神髄」をいつもご利用ありがとうございます。管理人の摺り足の加藤です。[…]
この講座との出会いは、数学が苦手なあなたを救う!
電験アカデミアにテキストを書き下ろしてもらい、電験どうでしょうの川尻将先生により動画解説を行ない、電験3種受験予定者が電…
すべての電験二種受験生の方に向けて「最強の対策教材」作りました!
※本ページはプロモーションが含まれています。すべての電験二種受験生の方に向けて「最強の対策教材」作りました! 当サイト「電気の神髄」をいつもご愛読ありがとうございます。管理人の摺り足の加藤です。 […]
初学者が躓きがちなギモンを、電験アカデミアがスッキリ解決します!
※本ページはプロモーションが含まれています。 当サイト「電気の神髄」をいつもご利用ありがとうございます。管理人の摺り足の加藤です。 2022年5月18日、オーム社より「電験カフェへようこそ[…]