本記事では、変圧器の負荷損の種類と発生要因について記述する。
負荷損の概要
変圧器の負荷損は、「変圧器の一方の巻線を短絡し、他方の巻線に定格周波数の電圧を加えたときの入力」である。
一方の巻線に換算した場合の負荷電流を$I[\mathrm{A}]$,各巻線の交流電流に対する実効抵抗を$r_1[\Omega],\ r_2[\Omega]$とすると、負荷損$W_{L}[\mathrm{W}]$は次式で与えられる。
$$W_{L}=I^2\left(r_1+r_2\right) ・・・(1)$$
負荷損の内訳としては、下記が挙げられる。
- 巻線抵抗による抵抗損
- 漏れ磁束による導体内の渦電流損
- 漂遊負荷損
巻線抵抗による抵抗損
巻線抵抗による抵抗損は負荷損の値の半分以上を占め、銅損ともいう。
直流電圧降下法などの方法で測定した巻線の抵抗(直流抵抗)を$r’_1[\Omega],\ r’_2[\Omega]$とすると、抵抗損$W_r[\mathrm{W}]$は次式で与えられる。
$$W_r=I^2\left(r’_1+r’_2\right) ・・・(2)$$
この直流抵抗$r’_1,\ r’_2$は、$(1)$式の実効抵抗$r_1,\ r_2$とは異なる。
負荷損を$(1)$式の形で表す場合に、抵抗損に加え後述する導体内の渦電流損および漂遊負荷損による損失増加分を込みとした値として、実効抵抗$r_1,\ r_2$が用いられる。
導体内の渦電流損
渦電流損の式
巻線に流れる電流がつくり出す漏れ磁束が、巻線の導体表面に鎖交することにより渦電流が流れ、渦電流損が生じる。
導体内の渦電流損$W_{ed}[\mathrm{W/kg}]$は、次式で与えられる。
$$\begin{align*}
W_{ed}=K\cdot f^2\cdot B^2_m\cdot t^2 ・・・(3)
\end{align*}$$
ただし、$(3)$式において、
- $K$:定数
- $f$:周波数$[\mathrm{Hz}]$
- $B_m$:最大磁束密度$[\mathrm{T}]$
- $t$:(鎖交磁束と直角方向の)導体の厚さ$[\mathrm{m}]$
渦電流の低減と転位銅線
導体内の渦電流を低減する方法としては、主に下記が挙げられる。
- 導体の厚さ$t$を低減する。
- 導体中の素線の位置を入れ替える転位を行う。
図1左に平行に設置した並列接続の2本の導体を、同図右に転位をした2本の導体を示す。
図1 並列接続した2本の導体
図1左のように、単純に平行に導体を設置した場合、磁束$\phi$が導体に鎖交すると、導体間に循環電流が流れ、損失が増加する。
一方、同図右のように導体を転位させた場合、各導体間の鎖交磁束の合計値は転位の前後位置で相殺されてゼロになるため、循環電流は流れず、損失を低減可能である。
転位の方法としては、巻線内の所定の位置(大抵は巻線の中央高さ)で図2のように素線の位置を入れ替えるようにして行う。
図2 素線間転位
また、図3のように幅の小さな素線を集めて撚り線とし、一定の間隔で素線の転位をさせる転位導線が使用される。
図3 転位導線
(引用元:無錫統力HP ※海外のサイトへのリンクのため注意)
漂遊負荷損
巻線電流による漏れ磁束は、タンク側板や鉄心を固定するクランプ等にも鎖交し、それらの部分に渦電流が流れることにより損失が生じる。
これを漂遊負荷損という。
本記事では巻線内の渦電流損と区別しているが、変圧器の試験時は外部入力に対して各損失を個別に測定することはできない。
このため、試験成績書等には両者を合算した「漂遊損」として記載される。
測定温度$\theta[^\circ\mathrm{C}]$における負荷損を$W_{L\theta}[\mathrm{W}]$,負荷電流を$I[\mathrm{A}]$,測定抵抗(直流抵抗)を$r_\theta[\Omega]$とすると、巻線の抵抗損$W_{r\theta}$は、$(2)$式より、
$$W_{r\theta}=I^2r_\theta ・・・(4)$$
同条件における漂遊負荷損$W_{s\theta}[\mathrm{W}]$は、負荷損$W_{L\theta}$から抵抗損$W_{r\theta}[\mathrm{W}]$を差し引くことで求めることができて、
$$\begin{align*}
W_{s\theta}&=W_{L\theta}-W_{r\theta}\\\\
&=W_{L\theta}-I^2r_\theta ・・・(5)
\end{align*}$$
負荷損の温度換算
変圧器の負荷損は温度によって変化するが、それは抵抗値の温度変化に起因する。
なお、基準温度はJECおよびIEC規格において$75^\circ\mathrm{C}$と定められている。
抵抗値の温度換算
銅の$20^\circ\mathrm{C}$における抵抗温度係数$\alpha_{20}$は、$\alpha_{20}=3.93\times10^{-3}[/^\circ\mathrm{C}]$である。
ある温度$\theta_1[^\circ\mathrm{C}]$および$\theta_2[^\circ\mathrm{C}]$における抵抗$r_1[\Omega],\ r_2[\Omega]$は、$20^\circ\mathrm{C}$における抵抗値$r_{20}[\Omega]$を用いて、
$$\begin{align*}
r_1&=r_{20}\left\{1+\alpha_{20}\left(\theta_1-20\right)\right\} ・・・(6)\\\\
r_2&=r_{20}\left\{1+\alpha_{20}\left(\theta_2-20\right)\right\} ・・・(7)
\end{align*}$$
$(6)$式$\div(7)$式として、
$$\begin{align*}
\frac{r_1}{r_2}&=\frac{1+\alpha_{20}\left(\theta_1-20\right)}{1+\alpha_{20}\left(\theta_2-20\right)}\\\\
&=\frac{\displaystyle{\frac{1}{\alpha_{20}}}+\theta_1-20}{\displaystyle{\frac{1}{\alpha_{20}}}+\theta_2-20}\\\\
&=\frac{\displaystyle{\frac{1}{3.93\times10^{-3}}}+\theta_1-20}{\displaystyle{\frac{1}{3.93\times10^{-3}}}+\theta_2-20}\\\\
&=\frac{254.5+\theta_1-20}{254.5+\theta_2-20}\\\\
&=\frac{234.5+\theta_1}{234.5+\theta_2} ・・・(8)
\end{align*}$$
測定温度が$\theta[^\circ\mathrm{C}]$のときの抵抗値$r_\theta[\Omega]$を$75^\circ\mathrm{C}$における値$r_{75}[\Omega]$に換算する場合の式は、$(8)$式で$\theta_1=75^\circ\mathrm{C},\ \theta_2=\theta$として、
$$\begin{align*}
r_{75}&=r_\theta\cdot\frac{234.5+75}{234.5+\theta}\\\\
&=r_\theta\cdot\frac{309.5}{234.5+\theta}\\\\
&\fallingdotseq r_\theta\cdot\frac{310}{235+\theta} ・・・(9)
\end{align*}$$
温度換算後の損失の式
抵抗損は$(4)$式より抵抗に比例することから、$(9)$式に基づき温度に比例する。
$75^\circ\mathrm{C}$に換算した抵抗損$W_{r75}[\mathrm{W}]$は、
$$W_{r75}=I^2r_\theta\cdot\frac{310}{235+\theta} ・・・(10)$$
逆に、導体内の渦電流損および漂遊負荷損は、「渦電流損の式の導出」より、誘導起電力の2乗に比例し、導体の表面抵抗に反比例する。
したがって、$75^\circ\mathrm{C}$に換算した漂遊負荷損(導体内の渦電流損を含む)$W_{s75}[\mathrm{W}]$は、
$$W_{s75}=\left(W_{L\theta}-I^2r_\theta\right)\frac{235+\theta}{310} ・・・(11)$$
以上より、基準温度$75^\circ\mathrm{C}$における負荷損$W_{L75}[\mathrm{W}]$は、$(10),\ (11)$式より、
$$\begin{align*}
W_{L75}&=W_{r75}+W_{s75}\\\\
&=I^2r_\theta\cdot\frac{310}{235+\theta}+\left(W_\theta-I^2r_\theta\right)\frac{235+\theta}{310} ・・・(12)
\end{align*}$$
$(12)$式は実際の負荷損測定値を補正する際に用いられる。
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参考文献
- JEC-2200『変圧器』,2014
- 浅川ほか『電力機器講座5 変圧器』日刊工業新聞社, 1966
- 坪島茂彦『図解 変圧器―基礎から応用まで』東京電機大学出版局,1981
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