中性点接地方式の種類と特徴

本記事では、各種中性点接地方式の特徴を解説し、その中でも特に直接接地系統および抵抗接地系統における健全相電圧上昇および事故電流の大きさについて考察を行う。

各種中性点接地方式の概要

直接接地方式

直接接地方式は、変圧器中性点をインピーダンスを介さず直接大地に接続する方式である。

日本では公称電圧$187\mathrm{kV}$以上の超高圧送電系統に採用されている。

 

図1に直接接地方式を採用した系統の概略図を示す。

 

図1 直接接地方式

 

抵抗接地方式

抵抗接地方式は、変圧器中性点を抵抗器(NGR;Neutral Grounding Resistor)で接地する方式で、公称電圧$22\sim154\mathrm{kV}$の系統に採用される。

 

図2に抵抗接地方式を採用した系統の概略図を示す。

 

図2 抵抗接地方式

 

なお、$66\sim154\mathrm{kV}$系統には$200\sim$数百$\Omega,\ 22,33\mathrm{kV}$の配電系統には$10\sim20\Omega$程度の抵抗が用いられる。

 

また、この抵抗接地方式の一形式として、補償リアクトル接地方式がある。

この方式は$66\sim154\mathrm{kV}$系統のうち、地中ケーブル系統などで採用される。

 

図3に補償リアクトル接地方式を採用した系統の概略図を示す。

 

 

図3 補償リアクトル接地方式

 

図3のように、ケーブルなどの対地静電容量$C_s$を補償するため、中性点接地抵抗$R_N$と並列にリアクタンス$X_N$のリアクトルを挿入する。

 

消弧リアクトル接地方式

消弧リアクトル接地方式(またはペテルゼンコイル接地方式)は、一線地絡事故時の事故点のアーク電流を自然消弧させる目的で、中性点をリアクトルを介して接地する方式である。

 

図4に消弧リアクトル接地方式を採用した系統の概略図を示す。

 

図4 消弧リアクトル接地方式

 

図4で、消弧リアクトルのリアクタンスを$X_{PC}=j\omega L$,送電線1線あたりの対地静電容量を$C_s$とすると、三相一括した対地静電容量は$3C_s$となるため、一線地絡事故時に事故点からみた零相インピーダンス$\dot{Z_0}$は、

$$\dot{Z_0}=\frac{1}{\displaystyle{\frac{1}{j3\omega L}}+j\omega C_s}$$

 

このとき、消弧リアクトルにおいて$\omega L\fallingdotseq\displaystyle{\frac{1}{3\omega C_s}}$となるような$L$をとれば、$\dot{Z_0}\rightarrow\infty,\ $一線地絡電流$\dot{I_a}=3\dot{I_0}\rightarrow0$となって、自然消弧可能となる。

 

非接地方式

非接地方式は、変圧器中性点を非接地、または一次側からみて零相インピーダンスが非常に大きい計器用変圧器を通して接地する方式である。

 

この方式では、事故点における零相インピーダンス$\dot{Z_0}$は計算上$\dot{Z_0}\fallingdotseq\infty$とみなせるため、地絡電流が非常に小さいという利点があり、$30\mathrm{kV}$程度以下の小規模系統に採用されている。

 

図5に非接地方式を採用した系統の概略図を示す。

 

図5 非接地方式

 

 

一線地絡故障時の健全相電圧上昇

過電圧倍数の導出

系統の$a$相一線地絡時における事故点の$b$相対地電圧は、「一線地絡時の故障計算」$(31)$式より、

$$\dot{V}_b=\frac{(a^2-1)\dot{Z}_0+\left(a^2-a\right)\dot{Z}_2}{\dot{Z}_0+\dot{Z}_1+\dot{Z}_2}\dot{E}_a ・・・(1)$$

 

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$(1)$式について、$\dot{Z}_0=R_0+jX_0,\ \dot{Z}_1=\dot{Z}_2=R_1+jX_1$とおくと、健全相電圧$\dot{V}_b$の発電機誘導起電力$\dot{E}_a$に対する比$k$は、

$$\begin{align*}
k=\frac{\dot{V}_b}{\dot{E}_a}&=\frac{\left(a^2-1\right)\dot{Z}_0+\left(a^2-a\right)\dot{Z}_1}{\dot{Z}_0+2\dot{Z}_1}\\\\
&=\frac{\left(a^2-1\right)\times\displaystyle{\frac{\dot{Z}_0}{\dot{Z}_1}}+a^2-a}{\displaystyle{\frac{\dot{Z}_0}{\dot{Z}_1}}+2}\\\\
&=\frac{\left(a^2-1\right)\times\displaystyle{\frac{R_0+jX_0}{R_1+jX_1}}+a^2-a}{\displaystyle{\frac{R_0+jX_0}{R_1+jX_1}}+2}\\\\
&\equiv\frac{\left(\displaystyle{\frac{3}{2}}-j\displaystyle{\frac{\sqrt{3}}{2}}\right)\times\displaystyle{\frac{\delta+j\nu}{\sigma+j}-j\sqrt{3}}}{\displaystyle{\frac{\delta+j\nu}{\sigma+j}}+2} ・・・(2)
\end{align*}$$

ただし、

$$\delta=\frac{R_0}{X_1},\ \nu=\frac{X_0}{X_1},\ \sigma=\frac{R_1}{X_1}$$

 

この$k=\displaystyle{\frac{\dot{V}_b}{\dot{E}_a}}$とは、$a$相一線地絡事故が発生した場合に、健全相(この場合は$b$相)電圧が事故発生前の何倍になるかという指標であり、一時的過電圧(TOV;Top of Voltage)における過電圧倍数という。

なお、$c$相電圧$\dot{V}_c$に対する過電圧倍数$k$も同じ値となる。

 

ここで、$\sigma=0$,すなわち$R_1=0$としたときの、$\delta$および$\nu$に対する$k$のグラフを図6に示す。

 

図6 $a$相一線地絡時における健全相の過電圧倍数

 

図6のうち、$\delta=\displaystyle{\frac{R_0}{X_1}}=0\sim1$のときが直接接地系統の範囲であり、$\delta$がそれ以上の値になると抵抗接地系統の範囲となる。

 

同図より、$\delta$が$0$に近い直接接地系統の方が$k$が小さく、健全相の電圧上昇が抑えられていることがわかる。

(なお、$\nu=\displaystyle{\frac{X_0}{X_1}}>0$であるため、グラフは$\nu<0$における値は取り得ないが、参考に掲載する)

 

健全相電圧上昇が抑えられるメリットとしては、下記が挙げられる。

  • 多重事故などで地絡が継続する可能性が減少する
  • 中性点の絶縁レベルを低くとることができる

 

直接接地系統の健全相電圧上昇

実際の健全相電圧上昇を計算で求めてみる。

 

送電線の対称分インピーダンスについては$\dot{Z}_0\geq\dot{Z}_1=\dot{Z}_2$であり、一般的に$\dot{Z}_0=jX_0,\ \dot{Z}_1=\dot{Z}_2=jX_1\fallingdotseq\displaystyle{j\frac{X_0}{3}}$であるから、$(1)$式は、

$$\begin{align*}
\dot{V}_b&\fallingdotseq\frac{\{3(a^2-1)+a^2-a\}X_1}{(3+1+1)X_1}\dot{E_a}\\\\
&=\frac{4a^2-a-3}{5}\dot{E}_a\\\\
&=\frac{-5a-7}{5}\dot{E}_a \left(\because a^2=-1-a\right)
\end{align*}$$

 

したがって、健全相電圧の大きさ$\left|\dot{V}_b\right|$は、

$$\begin{align*}
\therefore\left|\dot{V}_b\right|&=\frac{\left|-5\left(-\displaystyle{\frac{1}{2}}+j\displaystyle{\frac{\sqrt{3}}{2}}\right)-7\right|}{5}\left|\dot{E}_a\right|\\\\
&=\frac{\left|9-j5\sqrt{3}\right|}{10}\left|\dot{E}_a\right|\\\\
&=1.25\left|\dot{E}_a\right|
\end{align*}$$

 

上式より、直接接地系統の健全相電圧上昇は、平常時の$\boldsymbol{1.25}$倍程度になる。

 

なお、$c$相電圧$\dot{V}_c$についても「一線地絡時の故障計算」$(32)$式を用いて、同様に$\left|\dot{V}_c\right|=1.25\left|\dot{E}_a\right|$と求められる。

 

抵抗接地系統の健全相電圧上昇

一方、$(1)$式を変形すると、

$$\begin{align*}
\dot{V}_b&=\frac{\left(a^2-1\right)\dot{Z}_0+\left(a^2-a\right)\dot{Z}_2}{\dot{Z}_0+\dot{Z}_1+\dot{Z}_2}\dot{E}_a\\\\
&=\frac{a^2-1+\left(a^2-a\right)\displaystyle{\frac{\dot{Z}_2}{\dot{Z}_0}}}{1+\displaystyle{\frac{\dot{Z}_1}{\dot{Z}_0}}+\displaystyle{\frac{\dot{Z}_2}{\dot{Z_0}}}}\dot{E_a} ・・・(3)
\end{align*}$$

 

抵抗接地方式では$\dot{Z_0}\gg\dot{Z_1}=\dot{Z_2}$であることから、$(3)$式は、

$$\begin{align*}
\dot{V}_b&\fallingdotseq(a^2-1)\dot{E}_a\\\\
&=\left(-\frac{3}{2}-j\frac{\sqrt{3}}{2}\right)\dot{E}_a\\\\
\therefore\left|\dot{V}_b\right|&=\left|-\frac{3}{2}-j\frac{\sqrt{3}}{2}\right|\left|\dot{E}_a\right|\\\\
&=\sqrt{3}\left|\dot{E}_a\right|
\end{align*}$$

 

上記より、抵抗接地系統の健全相電圧上昇は平常時の$\boldsymbol{\sqrt{3}}$倍と直接接地系($\boldsymbol{1.25}$倍)よりも高くなる。

 

 

事故電流の大きさ

本項では、直接接地系統および抵抗接地系統における事故発生時の短絡・地絡電流の大きさについて考察する。

 

直接接地系統の事故電流

図7のように、$275\mathrm{kV}$直接接地系統における各種の事故を考える。

同図において、事故点からみた正相・逆相インピーダンスを$\dot{Z_1}=\dot{Z_2}=j10\Omega,\ $零相インピーダンス$\dot{Z_0}$は変圧器の$\Delta$結線で回路が途切れるため、$\dot{Z_0}=j5\Omega$とする。

 

 

図7 $275\mathrm{kV}$系統の例

 

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三相短絡事故時

三相短絡事故時の短絡電流は、「三相短絡時の故障計算」の$(14)$式より、

$$\left|\dot{I}_a\right|=\left|\dot{I}_b\right|=\left|\dot{I}_c\right|=\left|\frac{275/\sqrt{3}}{j10}\right|=15.9\mathrm{kA}$$

 

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二相短絡事故時

二相短絡事故時の短絡電流は、「二相短絡時の故障計算」の$(20)$式より、

$$\left|\dot{I}_b\right|=\left|\dot{I}_c\right|=\left|\frac{\left(a^2-a\right)\times275/\sqrt{3}}{j10+j10}\right|=13.8\mathrm{kA}$$

 

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一線地絡事故時

一線地絡事故時の地絡電流は、「一線地絡時の故障計算」の$(17)$式より、

$$\left|\dot{I}_a\right|=\left|3\times\frac{275/\sqrt{3}}{j5+j10+j10}\right|=19.1\mathrm{kA}$$

 

二線地絡事故時

二線地絡事故時の地絡電流は、「二線地絡時の故障計算」の$(27)$式より、

$$\left|\dot{I}_b\right|=\left|\frac{\left(a^2-a\right)\times j5+\left(a^2-1\right)\times j10\times275/\sqrt{3}}{2\times j5\times j10+j10\times j10}\right|=27.5\mathrm{kA}$$

 

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以上より、直接接地系統の場合はいずれの事故パターンの場合も大電流が流れる。

 

抵抗接地系統の事故電流

抵抗接地系統の場合、例として$154\mathrm{kV}$系統で、定格電流$200\mathrm{A}$のNGRが接続されているとすると、その抵抗値$R_N[\Omega]$は、

$$R_N=\frac{154/\sqrt{3}\times10^3}{200}=445\Omega$$

 

このとき、事故点からみた対称分インピーダンス$\dot{Z}_0,\ \dot{Z}_1,\ \dot{Z}_2$の関係は、

$$\left|\dot{Z}_0\right|=\left|jX_0+3R_N\right|\fallingdotseq3R_N\gg\left|\dot{Z}_1\right|\fallingdotseq\left|\dot{Z}_2\right|$$

 

以降、地絡抵抗を無視した場合について考察する。

 

一線地絡事故時

一線地絡事故の場合、(事故電流)=(中性点に流れる電流)であり、「一線地絡時の故障計算」の$(17)$式より、地絡電流は、

$$\begin{align*}
\left|\dot{I}_a\right|=\left|\dot{I}_0\right|&\fallingdotseq\left|3\times\frac{\dot{E}_a}{\dot{Z}_0}\right|\\\\
&\fallingdotseq\left|\frac{\dot{E}_a}{R_N}\right|\\\\
&=\frac{154/\sqrt{3}}{200}\\\\
&=200\mathrm{A}
\end{align*}$$

 

上式の結果より、一線地絡事故時において、地絡電流は比較的小さな値となる。

 

二線地絡事故時

二線地絡事故時の地絡電流は、「二線地絡時の故障計算」の$(27)$式より、

$$\begin{align*}
\left|\dot{I}_b\right|&=\frac{\left(a^2-a\right)\dot{Z}_0+\left(a^2-1\right)\dot{Z}_2}{\dot{Z}_0\dot{Z}_1+\dot{Z}_1\dot{Z}_2+\dot{Z}_2\dot{Z}_0}\dot{E}_a\\\\
&\fallingdotseq\left|\frac{\left(a^2-a\right)\dot{Z}_0}{2\dot{Z}_0\dot{Z}_1}\dot{E}_a\right|\\\\
&=\left|\frac{a^2-a}{2\dot{Z}_1}\dot{E}_a\right|
\end{align*}$$

となり、地絡電流自体は$R_N$に依らない。

 

これは、「二線地絡時の故障計算」の図2の等価回路(零相回路と逆相回路が並列に接続された回路)で、$\left|\dot{Z}_0\right|\fallingdotseq3R_N\gg\left|\dot{Z}_2\right|$である故、正相回路から流れ出る電流の大部分が逆相回路に分流するため、$\boldsymbol{R_N}$の値に関係なく地絡電流は大きな値となる。

 

ただし、中性点接地抵抗$R_N$に流れる電流の大きさ$\left|3\dot{I_0}\right|$は、「二線地絡時の故障計算」の$(24)$式より、

$$\begin{align*}
\left|3\dot{I}_0\right|&=\left|-\frac{\dot{Z}_2}{\dot{Z}_0\dot{Z}_1+\dot{Z}_1\dot{Z}_2+\dot{Z}_2\dot{Z}_0}\dot{E}_a\right|\\\\
&\fallingdotseq\left|-\frac{\dot{Z}_1}{2\dot{Z}_0\dot{Z}_1}\dot{E}_a\right|\\\\
&=\left|-\frac{\dot{E}_a}{2R_N}\right|\\\\
&=\frac{154/\sqrt{3}}{2\times445}\\\\
&=100\mathrm{A}
\end{align*}$$

となり、NGRの定格値$200\mathrm{A}$以下の値となる。

 

中性点に流れる地絡電流$\left|3\dot{I_0}\right|$が大きいと、通信線に及ぼす電磁誘導障害の影響も大きい。

逆に、電流の値が小さいと、保護リレーによる安定した事故検出が難しくなる。

 

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