短絡事故時の過電流継電器(OCR)入力

本記事では、過電流継電器(OCR)の概要と短絡事故時のOCR入力について、例題を交えて解説する。

過電流継電器(OCR)とは

過電流継電器(OCR)とは、電路に短絡や過負荷により過電流が生じたとき変流器(CT)を介して異常電流を検出し、遮断器や開閉器を動作させるための装置である。

 

保護要素には瞬時要素と限時要素がある。

  • 瞬時要素は、契約最大電力の$500\sim1500\%$の短絡電流などを検出して動作し、短時間の定限時特性をもっている。
  • 限時要素は、過負荷電流などを検出し、電流が大きくなるに従って早い時間で動作するように反限時特性をもっている。

 

動作電流値について、設備容量から定格電流を計算し、CT比から二次側電流値を求め、直近上位のタップを整定する。

 

たとえば一次側の定格電流が$85\mathrm{A}$、CT比$100/5$の場合の二次電流値は、

$$85/100×5=4.25$$

となるため、タップ$5$に整定する。

 

また、主遮断装置に設置する過電流継電器は、電力会社の配電用OCRとの動作協調もとる必要があり、電力会社のOCRが先に動作すると波及事故となるので注意が必要である。

 

 

短絡事故時のOCR入力

例題

出典:平成29年度電験三種 「法規」問12
(問題文の記述を一部変更しています)

図1に示す自家用電気設備で変圧器二次側($210\mathrm{V}$側)$\mathrm{F}$点において三相短絡事故が発生した。

次の$(\mathrm{a})$および$(\mathrm{b})$の問に答えよ。

ただし、高圧配電線路の送り出し電圧は$6.6\mathrm{kV}$とし、変圧器の仕様および高圧配電線路のインピーダンスは表1のとおりとする。

なお、変圧器二次側から$\mathrm{F}$点までのインピーダンス、その他記載の無いインピーダンスは無視するものとする。

 

図1 自家用発電設備における三相短絡事故

 

表1 変圧器の仕様および高圧配電線路のインピーダンス

変圧器定格容量/相数$300\mathrm{kVA}$/三相
変圧器定格電圧一次$6.6\mathrm{kV}/$二次$210\mathrm{V}$
変圧器百分率抵抗降下$2\%$ (基準容量$300\mathrm{kVA}$)
変圧器百分率リアクタンス降下$4\%$ (基準容量$300\mathrm{kVA}$)
高圧配電線路百分率抵抗降下$20\%$ (基準容量$10\mathrm{MVA}$)
高圧配電線路百分率リアクタンス降下$40\%$(基準容量$10\mathrm{MVA}$)

 

$(a)$
$\mathrm{F}$点における三相短絡電流の値$[\mathrm{kA}]$として、最も近いものを次の$(1)\sim(5)$のうちから一つ選べ。

$(1) 1.2  (2) 1.7  (3) 5.2  (4) 11.7  (5) 14.2$

 

$(b)$
変圧器一次側($6.6\mathrm{kV}$側)に変流器CTが接続されており、CT二次電流が過電流継電器OCRに入力されているとする。

三相短絡事故発生時のOCR入力電流の値$[\mathrm{A}]$として,最も近いものを次の$(1)\sim(5)$のうちから一つ選べ。

ただし、CTの変流比は$75\mathrm{A}/5\mathrm{A}$とする。

$(1) 12  (2) 18  (3) 26  (4) 30  (5) 42$

 

解答

$(a)$
図1の系統において三相短絡電流を計算する際、考慮すべきインピーダンスは高圧配電線路および変圧器である。

 

まず、基準電圧を$6.6\mathrm{kV}$,基準容量を変圧器の$300\mathrm{kVA}$に合わせ、高圧配電線路および変圧器の%インピーダンス$\%Z_\mathrm{L}[\%]$および$\%Z_\mathrm{T}[\%]$を表1の値を用いて計算すると、

$$\begin{cases}
\%Z_\mathrm{L}=20+j40\times\displaystyle{\frac{300}{10000}}=0.6+j1.2\%\\\\
\%Z_\mathrm{T}=2+j4\%
\end{cases}$$

 

図1より、高圧配電線路および変圧器は直列接続されているため、短絡事故点$\mathrm{F}$からみた系統全体の%インピーダンス$\%Z[\%]$は、

$$\begin{align*}
\%Z&=\left(0.6+j1.2\right)+\left(2+j4\right)\\\\
&=2.6+j5.2
\end{align*}$$

 

一方、系統の基準電流の大きさ$I_\mathrm{B}[\mathrm{A}]$は、

$$I_\mathrm{B}=\frac{300\times10^3}{\sqrt{3}\times6.6\times10^3}=26.244\mathrm{A}$$

 

したがって、三相短絡電流$I_\mathrm{S}\mathrm{A}$の大きさは、基準電流$I_\mathrm{B}[\mathrm{A}]$を%インピーダンス$\%Z[\%]$の大きさで割ることによって求められるので、

$$I_\mathrm{S}=\frac{26.244}{\sqrt{0.026^2+0.052^2}}=451.4\mathrm{A}$$

 

$\mathrm{F}$点は電圧$210\mathrm{V}$側にあるため、これに換算した三相短絡電流の値$I_\mathrm{S2}[\mathrm{A}]$は、

$$I_\mathrm{S2}=\frac{6600}{210}=14187\rightarrow\boldsymbol{\underline{14.2\mathrm{kA}}}$$

解答は$(5)$となる。

 

$(b)$
OCRは電圧$6.6\mathrm{kV}$側にあり、かつCTの変流比は問題文より$75\mathrm{A}/5\mathrm{A}$であるから、(a)の三相短絡事故時のOCRの入力電流の値$I_\mathrm{OCR}[\mathrm{A}]$は、

$$I_\mathrm{OCR}=451.4\times\frac{5}{75}=30.09\rightarrow\boldsymbol{\underline{30\mathrm{A}}}$$

解答は$(4)$となる。

 

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