一線地絡故障計算の例題

本記事では、一線地絡時の故障計算について、例題として電験一種の過去問を解いていく。

一線地絡故障計算:例題

出典:電験一種二次試験「電力・管理」平成24年度問3
(※問題の記述を一部変更しています)

図1に示すように,送電線両端の変圧器の中性点が直接接地されている。

 

こう長$200\mathrm{km}$の$500\mathrm{kV}$並行2回線送電線を考える。

この送電線の中間地点において、片方の回線に$a$相一線地絡事故が発生した。

なお、地絡インピーダンスは$0\mathrm{p.u.}$とし、送電系統の各構成機器の定数は次の値とする。

また、単位法における基準値は、電圧:$500\mathrm{kV}$、容量:$1000\mathrm{MVA}$を用いる。

  • 送電線の正相および逆相リアクタンス(1回線当たり):$0.1\mathrm{p.u./100km}$
  • 送電線の零相リアクタンス(1回線当たり):$0.3\mathrm{p.u./100km}$
  • 送電部および受電部の変圧器漏れリアクタンス:$0.1\mathrm{p.u.}$
  • 発電機のリアクタンス:正相$0.05\mathrm{p.u.}$, 逆相$0.02\mathrm{p.u.}$, 零相$0.01\mathrm{p.u.}$
  • 負荷:負荷端電圧$1.0\mathrm{p.u.}$のとき遅れ力率$0.9$で皮相電力$0.5\mathrm{p.u.}$をとる三相平衡の定インピーダンス負荷

 

また、送電系統の抵抗成分、静電容量成分、回線問の相互誘導は無視する。

 

図1 送電系統図

$(1)$
事故前は負荷端の電圧の大きさが$1.0\mathrm{p.u.}$で運用されている。

このときの発電機の正相リアクタンス背後電圧の大きさおよび送電線の中間地点の電圧の大きさを$\mathrm{p.u.}$値で求めよ。

なお,変圧器の巻数比はすべて基準状態$(\mathrm{p.u.}$にて$1:1)$とする。

 

$(2)$
送電線の事故点からみた送電系統の、対称座標法における正相・逆相・零相回路をそのインピーダンス値を含めて示せ。

 

$(3)$
$(2)$で求めた正相・逆相・零相回路を鳳・テブナンの等価回路で表せ。

 

$(4)$
図1に示すように片方の回線の中間地点で$a$相一線地絡事故が発生したとき,その状態を表す正相・逆相・零相回路を接続した図をその理由と共に示せ。

 

$(5)$
$a$相一線地絡事故点における地絡電流$[\mathrm{kA}]$を計算せよ。

 

事故発生前の電圧

$(1)$
「発電機の正相リアクタンス背後電圧」は、基準点(本問の場合は負荷端)からみた発電機の誘導起電力の大きさである。

(基準点以前の「背後」の電圧なので、そのような名称になっている)

 

負荷端の電圧$V_r=1.0\mathrm{p.u.}$としたときの発電機の背後電圧$V_G$および送電線の中間地点の電圧$V_M$を求めるために、事故前の各要素の正相リアクタンスを用いた正相分等価回路を描くと図2のようになる。

 

図2 事故前の系統の正相分等価回路(単位:$\mathrm{p.u.}$)

 

ここで、

  • $X_G$:発電機正相リアクタンス
  • $X_T$:変圧器正相リアクタンス
  • $X_l$:送電線2回線分の正相リアクタンス
  • $S_L$:負荷の皮相電力

 

発電機の背後電圧の大きさ$V_G$を求めると、

$$\begin{align*}
V_G&=\left|\dot{V_r}+\frac{|\dot{S_L}|(\cos\theta-j\sin\theta)}{\overline{\dot{V_r}}}\times j\left(X_G+X_T+X_l+X_T\right)\right|\\\\
&=\left|1.0+\frac{0.5}{1.0}\left(0.9-j\sqrt{1-0.9^2}\right)\times j\left(0.05+0.10+\frac{0.10\times2}{2}+0.10\right)\right|
\\\\&=\left|1.0+\left(0.45-j0.2179\right)\times j0.35\right|\\\\&=|1.0763-j0.1575|\\\\&=1.0878→\boldsymbol{\underline{1.09}}
\end{align*}$$

 

次に、送電線の中間地点の電圧の大きさ$V_M$を求めると、

$\begin{align*}
V_M&= \displaystyle{\left|\dot{V_r}+\frac{|\dot{S_L}|(\cos\theta-j\sin\theta)}{\overline{\dot{V_r}}}\times j\left(\frac{X_l}{2}+X_T\right)\right|}\\\\
&= \displaystyle{ \left|1.0+\frac{0.5}{1.0}\left(0.9-j\sqrt{1-0.9^2}\right)\times j\left(\frac{0.10}{2}+0.10\right)\right|}
\\\\&=\left|1.0+\left(0.45-j0.2179\right)\times j0.15\right|\\\\&=|1.0327-j0.0675|\\\\&=1.0349→\boldsymbol{\underline{1.03}}
\end{align*}$

 

 

系統の対称分回路

$(2)$
次に事故発生時の一線地絡電流の大きさを求めるために、事故点からみた系統の正相・逆相・零相回路について考える。

 

事故点である送電線の中間地点からみた正相・逆相・零相回路を図3に示す。

図3 事故点からみた対称分回路(上から正相、逆相、零相)

 

図3より、正相回路には背後電圧$V_G$が挿入される。また、零相回路は中性点直接接地であることより、それ以降の回路は切り離された状態となるので、発電機および負荷のインピーダンスは考慮不要となる。

 

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さらに、負荷のインピーダンス$\dot{Z_L}$を求めると、

$\begin{align*}
\dot{Z_L}&=\displaystyle{\frac{V_r}{|\dot{S_L}|}(\cos\theta+j\sin\theta)}\\\\
&=\frac{1.0}{0.5}(0.9+j0.4359)\\\\
&=1.8+j0.8718
\end{align*}$

となる(図3にも示しておく)。

 

鳳・テブナンの定理による回路の変形

$(3)$
各回路のリアクタンスの計算をするにあたり、図4のように送電線部分の回路においてΔ-Y変換を行い、計算が少しでも簡素になるようにしておく。

 

図4 送電線部分の回路のΔ-Y変換(上は正相・逆相回路、下は零相回路)

 

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したがって、事故点からみた各回路のインピーダンス$\dot{Z_1},\ \dot{Z_2},\ \dot{Z_0}$は、

$\begin{align*}
\dot{Z_1}&=j0.025+\frac{(j0.05+j0.10+j0.05)(j0.05+j0.10+1.8+j0.8718)}{(j0.05+j0.10+j0.05)+(j0.05+j0.10+1.8+j0.8718)}\\\\&=j0.025+\frac{j0.20(1.8+j1.0218)}{1.8+j1.2218}\\\\&=j0.025+\frac{(-0.2044+j0.36)(1.8-j1.2218)}{1.8^2+1.2218^2}\\\\&=j0.025+\frac{0.07193+j0.8977}{4.733}\\\\&=\boldsymbol{\underline{0.01519+j0.2147}}
\end{align*}$

$\begin{align*}
\dot{Z_2}&=j0.025+\frac{(j0.02+j0.10+j0.05)(j0.05+j0.10+1.8+j0.8718)}{(j0.02+j0.10+j0.05)+(j0.05+j0.10+1.8+j0.8718)}\\\\&=j0.025+\frac{j0.17(1.8+j1.0218)}{1.8+j1.1918}\\\\&=j0.025+\frac{(-0.1737+j0.306)(1.8-j1.1918)}{1.8^2+1.1918^2}\\\\&=j0.025+\frac{0.05203+j0.7578}{4.660}\\\\&=\boldsymbol{\underline{0.01117+j0.1876}}
\end{align*}$

$\begin{align*}
\dot{Z_0}&=j0.075+\frac{(j0.10+j0.15)(j0.15+j0.10)}{(j0.10+j0.15)+(j0.15+j0.10)}\\\\&=j0.075+\frac{j0.25\cdot j0.25}{j0.5}\\\\&=\boldsymbol{\underline{j0.2000}}
\end{align*}$

 

各成分の等価回路の図5に示す。

鳳・テブナンの定理より、正相電圧$\dot{E_a}$は$(1)$で求めた$V_M$の値、各インピーダンスは上記で求めた値となる。

 

図5 鳳・テブナンの定理における対称分回路

 

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一線地絡電流の計算

$(4)$
一線地絡時の故障計算においては、各成分の回路を直列接続すればよいので、等価回路は図6のようになる。

 

図6 一線地絡故障時の対称分回路

 

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$(5)$
一線地絡電流$I_a$は、

$$\begin{align*}
I_a&=\left|\frac{3\dot{E_a}}{\dot{Z_0}+\dot{Z_1}+\dot{Z_2}}\right|\\\\&=\left|\frac{3\times1.0349}{0.01519+j0.2147+0.01117+j0.1876+j0.2000}\right|\\\\&=\left|\frac{3.1047}{0.02636+j0.6023}\right|\\\\
&=5.150\mathrm{p.u.}
\end{align*}$$

 

ベース電流$I_B$は、問題文より、

$$I_B=\frac{1000\times10^6}{\sqrt{3}\times500\times10^3 }=1154.7\mathrm{A}$$

 

したがって、一線地絡電流の大きさ$[\mathrm{kA}]$は、

$$I_a=1154.7\times5.150=5946.7\mathrm{A}→\boldsymbol{\underline{5.95\mathrm{kA}}}$$

 

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