インダクタンス測定用ブリッジ回路まとめ

本記事では、インダクタンス測定に用いられるブリッジ回路について解説する。

ヘイブリッジ回路

ヘイブリッジ回路(Hay bridge circuit)は、図1に示すような抵抗とインダクタンスの直列回路および抵抗と静電容量の直列回路が各種1つずつ(かつそれらの回路が対向している)、および2つの純抵抗で構成されるブリッジ回路である。

インダクタンスの測定のほか、周波数の測定に用いられる。

 

図1 ヘイブリッジ回路

 

図1のブリッジ回路の平衡条件は、

$$\begin{align*}
\left(R_1+j\omega L\right)\cdot\left(R_4+\frac{1}{j\omega C}\right)&=R_2\cdot R_3\\\\
R_1R_4+\frac{L}{C}+j\left(\omega LR_4-\frac{R_1}{\omega C}\right)&=R_2R_3 ・・・(1)
\end{align*}$$

 

例えば、$L$および$R_1$が未知の値であるとすると、まず$(1)$式において両辺の実部と虚部同士を比較して、

$$\begin{align*}
R_1R_4+\frac{L}{C}&=R_2R_3\\\\
\therefore L&=C\left(R_2R_3-R_1R_4\right) &・・・(2)\\\\\\
\omega LR_4-\frac{R_1}{\omega C}&=0\\\\
\therefore L&=\frac{R_1}{\omega^2CR_4} &・・・(3)
\end{align*}$$

 

$(2),\ (3)$式を等号で結び、抵抗$R_1$を求めると、

$$\begin{align*}
\frac{R_1}{\omega^2CR_4}&=C\left(R_2R_3-R_1R_4\right)\\\\
R_1+\omega^2C^2R^2_4R_1&=\omega^2C^2R_2R_3R_4\\\\
\therefore R_1&=\frac{\omega^2C^2R_2R_3R_4}{1+\omega^2C^2R^2_4} ・・・(4)
\end{align*}$$

 

また、$(4)$式を$(3)$式に代入して、インダクタンス$L$を求めると、

$$\begin{align*}
L&=\frac{1}{\omega^2CR_4}\cdot\frac{\omega^2C^2R_2R_3R_4}{1+\omega^2C^2R^2_4}\\\\
&=\frac{CR_2R_3}{1+\omega^2C^2R^2_4} ・・・(5)
\end{align*}$$

 

一方、回路定数はすべて既知の値であるとして、電源周波数$f$を求める式は、$(3)$式および$\omega=2\pi f$の関係式を用いて、

$$\begin{align*}
\omega^2&=\frac{R_1}{LCR_4}\\\\
\therefore f&=\frac{1}{2\pi}\sqrt{\frac{R_1}{LCR_4}} ・・・(6)
\end{align*}$$

 

以上より、$(4),\ (5)$式を用いることにより、未知のインダクタンスおよびその直列抵抗を、またこれらが既知であった場合には$(6)$式を用いることにより、周波数$f$を求めることができる。

 

マクスウェルブリッジ回路

マクスウェルブリッジ回路(Maxwell bridge circuit)は、図2に示すような抵抗とインダクタンスの直列回路および抵抗と静電容量の並列回路が各種1つずつ(かつそれらの回路が対向している)、および2つの純抵抗で構成されるブリッジ回路である。

主にインダクタンスの測定に用いられる。

 

図2 マクスウェルブリッジ回路

 

図2において、$R_4$と$C$で構成される並列回路部の合成インピーダンスは、

$$\frac{\displaystyle{\frac{R_4}{j\omega C}}}{R_4+\displaystyle{\frac{1}{j\omega C}}}=\frac{R_4}{1+j\omega CR_4}$$

 

したがって、ブリッジ回路の平衡条件は、

$$\begin{align*}
\left(R_1+j\omega L\right)\cdot\frac{R_4}{1+j\omega CR_4}&=R_2\cdot R_3\\\\
R_1R_4+j\omega LR_4&=R_2R_3+j\omega CR_2R_3R_4 ・・・(7)
\end{align*}$$

 

ここで、$L$および$R_1$が未知の値であるとすると、まず$(7)$式において両辺の実部と虚部同士を比較して、

$$\begin{align*}
R_1R_4&=R_2R_3\\\\
\therefore R_1&=\frac{R_2R_3}{R_4} &・・・(8)\\\\\\
\omega LR_4&=\omega CR_2R_3R_4\\\\
\therefore L&=CR_2R_3 &・・・(9)
\end{align*}$$

 

以上より、$(8),\ (9)$式を用いることにより、未知のインダクタンスおよびその直列抵抗を求めることができる。

また、例えば$L$および$R_1$が既知で、$C$と$R_4$が未知の値であった場合でも、$(8),\ (9)$式を変形して求めることができる。

 

オーウェンブリッジ回路

オーウェンブリッジ回路(Owen bridge circuit)は、図3に示すような抵抗とインダクタンスの直列回路および抵抗と静電容量の直列回路が各種1つずつ(かつそれらの回路が対向していない)、および純抵抗と純静電容量が1つずつで構成されるブリッジ回路である。

こちらもインダクタンスの測定に用いられる。

 

図3 オーウェンブリッジ回路

 

接続された回路定数同士で添字を合わせるため、図3の静電容量への添字の振り方に注意。

 

図3のブリッジ回路の平衡条件は、

$$\begin{align*}
\left(R_1+j\omega L\right)\cdot\frac{1}{j\omega C_1}&=\left(R_2+\frac{1}{j\omega C_2}\right)\cdot R_3\\\\
\frac{L}{C}-j\frac{R_1}{\omega C_1}&=R_2R_3-j\frac{R_3}{\omega C_2} ・・・(10)
\end{align*}$$

 

ここで、$L$および$R_1$が未知の値であるとすると、まず$(10)$式において両辺の実部と虚部同士を比較して、

$$\begin{align*}
\frac{L}{C_1}&=R_2R_3\\\\
\therefore L&=C_1R_2R_3 &・・・(11)\\\\\\
\frac{R_1}{\omega C_1}&=\frac{R_3}{\omega C_2}\\\\
\therefore R_1&=\frac{C_1}{C_2}R_3 &・・・(12)
\end{align*}$$

 

以上より、$(11),\ (12)$式を用いることにより、未知のインダクタンスおよびその直列抵抗を求めることができる。

 

 

アンダーソンブリッジ回路

アンダーソンブリッジ回路(Anderson bridge circuit)は、抵抗とインダクタンスの直列回路に加え、純抵抗が4つと純静電容量が1つずつ、図4のように構成されるブリッジ回路である。

こちらもインダクタンスの測定に用いられる。

 

図4 アンダーソンブリッジ回路

 

図4のブリッジ回路の平衡条件を考える前に、まず$R,\ C,\ R_4$で構成される閉回路(図5の赤枠で囲んだ部分)について、$\Delta\rightarrow\mathrm{Y}$変換を適用する。

なお、変換部分を分かりやすくするため、図5において対応する接続点を赤色にしている。

 

 

図5 アンダーソンブリッジ回路における$\Delta\rightarrow\mathrm{Y}$変換

 

変換後のインピーダンスを図5のように$\dot{Z}_1,\ \dot{Z}_2,\ \dot{Z}_3$として、このうち次以降の計算に用いる$\dot{Z}_1,\ \dot{Z}_3$を求めると、

$$\begin{align*}
\dot{Z}_1&=\frac{RR_4}{R+R_4+\displaystyle{\frac{1}{j\omega C}}}\\\\
&=\frac{j\omega CRR_4}{1+j\omega C\left(R+R_4\right)}\\\\
\dot{Z}_3&=\frac{\displaystyle{\frac{R_4}{j\omega C}}}{R+R_4+\displaystyle{\frac{1}{j\omega C}}}\\\\
&=\frac{R_4}{1+j\omega C\left(R+R_4\right)}\\\\
\end{align*}$$

 

図5右のブリッジ回路の平衡条件は、上で求めた$\dot{Z}_1,\ \dot{Z}_3$を用いて、

$$\begin{align*}
\left(R_1+j\omega L\right)\cdot\dot{Z}_3&=R_2\cdot\left(R_3+\dot{Z}_1\right)\\\\
\left(R_1+j\omega L\right)\cdot\frac{R_4}{1+j\omega C\left(R+R_4\right)}&=R_2\cdot\left\{R_3+\frac{j\omega CRR_4}{1+j\omega C\left(R+R_4\right)}\right\}\\\\
\left(R_1+j\omega L\right)\cdot R_4&=R_2R_3+j\omega C\left(R+R_4\right)R_2R_3+j\omega CRR_2R_4\\\\
\therefore R_1R_4+j\omega LR_4&=R_2R_3+j\omega CR_2\left(RR_3+R_3R_4+RR_4\right) ・・・(13)
\end{align*}$$

 

ここで、$L$および$R_1$が未知の値であるとすると、$(13)$式において両辺の実部と虚部同士を比較して、

$$\begin{align*}
R_1R_4&=R_2R_3\\\\
\therefore R_1&=\frac{R_2R_3}{R_4} &・・・(14)\\\\\\
\omega LR_4&=\omega CR_2\left(RR_3+R_3R_4+RR_4\right)\\\\
\therefore L&=CR_2\left(\frac{RR_3}{R_4}+R_3+R\right)\\\\
&=C\left\{R\left(R_1+R_2\right)+R_2R_3\right\} &・・・(15)
\end{align*}$$

 

以上より、$(14),\ (15)$式を用いることにより、未知のインダクタンスおよびその直列抵抗を求めることができる。

 

ヘビサイドブリッジ回路

ヘビサイドブリッジ回路(Heaviside bridge circuit)は、図6のような構成で、相互インダクタンスを測定するためのブリッジ回路である。

 

図6 ヘビサイドブリッジ回路

 

図6のブリッジ回路では、電流の流れが図7のようになると考え、それらによる回路の電圧降下を立てることによって、最終的に相互インダクタンス$M$を求める式を導出する。

 

図7 ヘビサイドブリッジ回路における電流の経路

 

まず、図7の各経路を流れる電流$\dot{I},\ \dot{I}_1,\ \dot{I}_2$について、

$$\dot{I}=\dot{I}_1+\dot{I}_2 ・・・(16)$$

 

次に、交流用検出計の接続点について、ブリッジが平衡状態の場合はこの間は短絡しているとみなせるので、$R_3$と$R_4$における電圧降下は等しく、

$$R_3\dot{I}_1=R_4\dot{I}_2 ・・・(17)$$

 

そして、$L_1\rightarrow R_1\rightarrow R_3$の経路と、$L_2\rightarrow R_2\rightarrow R_4$の経路における電圧降下も等しくなることから、$(17)$式も用いて、

$$\begin{align*}
j\omega M\left(\dot{I}_1+\dot{I}_2\right)+\left(j\omega L_1+R_1+R_3\right)\dot{I}_1&=\left(j\omega L_2+R_2+R_4\right)\dot{I}_2\\\\
\left\{R_1+R_3+j\omega\left(L_1+M\right)\right\}\dot{I}_1&=\left\{R_2+R_4+j\omega\left(L_2-M\right)\right\}\dot{I}_2\\\\
\left\{R_1+j\omega\left(L_1+M\right)\right\}\dot{I}_1&=\left\{R_2+j\omega\left(L_2-M\right)\right\}\dot{I}_2 ・・・(18)
\end{align*}$$

 

上の計算で、相互インダクタンス$M$の影響があるのは、$L_1\rightarrow R_1\rightarrow R_3$の経路における電圧降下だけであることに注意する。

 

$(17),\ (18)$式より、$\dot{I}_2$を消去すると、

$$\begin{align*}
\left\{R_1+j\omega\left(L_1+M\right)\right\}\dot{I}_1&=\left\{R_2+j\omega\left(L_2-M\right)\right\}\frac{R_3}{R_4}\dot{I}_1\\\\
\therefore R_1+R_3+j\omega\left(L_1+M\right)&=\frac{R_2R_3}{R_4}+j\omega\left(L_2-M\right)\frac{R_3}{R_4} ・・・(19)
\end{align*}$$

 

ここで、まず$(19)$式において両辺の実部同士を比較して、

$$\begin{align*}
R_1=\frac{R_2R_3}{R_4} ・・・(20)
\end{align*}$$

 

次に、$(19)$式において両辺の虚部同士を比較して相互インダクタンス$M$を求めると、

$$\begin{align*}
\omega\left(L_1+M\right)&=\omega\left(L_2-M\right)\frac{R_3}{R_4}\\\\
\left(L_1+M\right)R_4&=\left(L_2-M\right)R_3\\\\
\left(R_3+R_4\right)M&=R_3L_2-R_4L_1\\\\
\therefore M&=\frac{R_3L_2-R_4L_1}{R_3+R_4} ・・・(21)
\end{align*}$$

 

特に、$(21)$式において$R_3=R_4$となるように調整すると(このとき、$(20)$式より$R_1=R_2$となる)、

$$M=\frac{L_2-L_1}{2}$$

となり、相互インダクタンス$M$を回路の既知のインダクタンス$L_1,\ L_2$の値のみで求めることができる。

 

参考文献

 

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