変圧器のV結線

V結線(V-connectionまたはOpen delta connection)とは、Δ結線の一相分を取り除いたものであり、2台の単相変圧器で構成される。

本記事では、そんなV結線された変圧器の理論について解説する。

V-V結線変圧器の電圧・電流

図1に$\mathrm{V}-\mathrm{V}$結線の変圧器(同一容量)とその電圧・電流を示す。各変圧器の巻数比(一次側巻線/二次側巻線)は$n$とする。

 

図1 $\mathrm{V}-\mathrm{V}$結線変圧器の電圧・電流

 

端子電圧と巻線電圧

図1のように、一次側$\mathrm{U-V-W}$端子に三相平衡電圧$\dot{V}_{UV},\ \dot{V}_{VW},\ \dot{V}_{WU}$が印加された場合を考える。

 

このとき、$X$巻線(図1の向かって左側の巻線)には、起電力$\dot{E}_X$が誘起される。この起電力$\dot{E}_X$は一次側供給電圧$\dot{V}_{UV}$と大きさが等しく、位相も等しいものと設定する。

一方、$Y$巻線(同右側の巻線)には、起電力$\dot{E}_Y$が誘起される。$\dot{E}_Y$は一次側供給電圧$\dot{V}_{VW}$と大きさは等しいが、位相は$\dot{V}_{VW}$と反転したものになると設定する。

 

二次側巻線には、それぞれ二次誘導起電力$\dot{E}_x,\ \dot{E}_y$が誘導される。これらは$\dot{E}_X,\ \dot{E}_Y$と同相で、大きさは$\displaystyle{\frac{1}{n}}$となる。

そして、二次側$\mathrm{u-v-w}$端子にはそれぞれ$\dot{V}_{uv}=\dot{E}_{x},\ \dot{V}_{vw}=-\dot{E}_{y},\ \dot{V}_{wu}=-\left(\dot{E}_{x}-\dot{E}_{y}\right)$となる電圧が現れる。

これらは$\dot{V}_{uv}+\dot{V}_{vw}+\dot{V}_{wu}=0$であり、三相平衡している。

 

以上の電圧の関係を表したベクトル図を図2に示す。

 

図2 $\mathrm{V}-\mathrm{V}$結線変圧器の電圧ベクトル

 

線電流と巻線電流

二次側$\mathrm{u-v-w}$端子に遅れ力率角$\phi$の負荷が接続されている場合、端子電圧$\dot{V}_{uv},\ \dot{V}_{vw},\ \dot{V}_{wu}$に対応した負荷電流$\dot{I}_u,\ \dot{I}_v,\ \dot{I}_w$が流れる。

 

力率$\phi=1$の場合、線電流は線間電圧より$\displaystyle{\frac{\pi}{6}}$位相が遅れる(=相電圧と位相が等しい)ため、$\dot{I}_u,\ \dot{I}_v,\ \dot{I}_w$はそれぞれ$\dot{V}_{uv},\ \dot{V}_{vw},\ \dot{V}_{wu}$に対し位相が$\displaystyle{\frac{\pi}{6}+\phi}$遅れる。

このとき、二次側巻線にはそれぞれ$\dot{I}_x=\dot{I}_u,\ \dot{I}_y=\dot{I}_w$となるような電流が流れる。

 

そして、二次側巻線に電流$\dot{I}_x,\ \dot{I}_y$に対応して、一次側巻線にも大きさが$\displaystyle{\frac{1}{n}}$倍となる電流$\dot{I}_X,\ \dot{I}_Y$が流れる。

最終的に一次側にも、二次側に対して大きさが$\displaystyle{\frac{1}{n}}$倍となる線電流$\dot{I}_U,\ \dot{I}_V,\ \dot{I}_W$が流れる。

一次側の巻線電流と線電流の大きさの関係は$\dot{I}_U=\dot{I}_X,\ \dot{I}_V=-\left(\dot{I}_X+\dot{I}_Y\right),\ \dot{I}_W=\dot{I}_Y$となる。

 

以上の電流の関係を、図2のベクトル図に追加したものを図3に示す。

 

図3 $\mathrm{V}-\mathrm{V}$結線結線変圧器の電圧・電流ベクトル

 

なお、図3において、一次側$Y$巻線の電流$\dot{I}_Y$は、$\dot{V}_{WU}=-\left(\dot{E}_{X}-\dot{E}_{Y}\right)$に対して位相が$\displaystyle{\frac{\pi}{6}+\phi}$遅れており、$\dot{E}_{Y}$の$\dot{V}_{WU}$に対する位相差は図2より$\displaystyle{\frac{2}{3}\pi-\pi}=-\frac{\pi}{3}$($\dot{E}_{Y}$が$\dot{V}_{WU}$に対して$\displaystyle{\frac{\pi}{3}}$遅れ)である。

 

したがって、$\dot{I}_Y$の$\dot{E}_{Y}$に対しての位相差は$\displaystyle{\frac{\pi}{3}-\left(\frac{\pi}{6}+\phi\right)=\frac{\pi}{6}-\phi}$($\dot{I}_{Y}$が$\dot{E}_{Y}$に対し$\displaystyle{\frac{\pi}{6}-\phi}$だけ進み)となる。

一次側$\dot{I}_Y$と$\dot{E}_{Y}$についても同様である。

 

 

変圧器の利用率

設備の容量に対し、実際に電力供給に使われる容量の割合を利用率という。

$\mathrm{V}-\mathrm{V}$結線変圧器の利用率について、下記の2通りの方法で求める。

 

ベクトル図からの算出

$X,\ Y$各巻線の出力$P_X,\ P_Y$は、一次側換算の三相平衡電圧・電流の大きさをそれぞれ$V,\ I$とすると、図3のベクトル図の電圧・電流の位相差を考慮して、

$$\begin{align*}
P_X&=\left|\dot{E_X}\right|\left|\dot{I_X}\right|\cos\left(\frac{\pi}{6}+\phi\right)\\\\
&=VI\cos\left(\frac{\pi}{6}+\phi\right)\\\\\\
P_Y&=\left|\dot{E_Y}\right|\left|\dot{I_Y}\right|\cos\left(\frac{\pi}{6}-\phi\right)\\\\
&=VI\cos\left(\frac{\pi}{6}-\phi\right)
\end{align*}$$

 

したがって、図1の変圧器バンクの出力は、

$$\begin{align*}
P_X+P_Y&=VI\cos\left(\frac{\pi}{6}+\phi\right)+VI\cos\left(\frac{\pi}{6}-\phi\right)\\\\
&=VI\times2\cos\frac{\displaystyle{\left(\frac{\pi}{6}+\phi\right)}+\displaystyle{\left(\frac{\pi}{6}-\phi\right)}}{2}\times\cos\frac{\left(\displaystyle{\frac{\pi}{6}}+\phi\right)-\left(\displaystyle{\frac{\pi}{6}}-\phi\right)}{2}\\\\
&=VI\times2\cos\frac{2\times\displaystyle{\frac{\pi}{6}}}{2}\times\cos\frac{2\times\phi}{2}\\\\
&=VI\times2\cos\frac{\pi}{6}\cos\phi\\\\
&=VI\times2\frac{\sqrt{3}}{2}\cos\phi\\\\
&=\sqrt{3}VI\cos\phi\\\\
\end{align*}$$

すなわち、変圧器バンクの容量は$\sqrt{3}VI$となる。

上式の導出では、三角関数の和積の公式「cos 〇 + cos △」の変換を用いている。

 

一方、変圧器単体容量は$VI$であり、2台分で$2VI$となるから、図1の変圧器バンクの利用率は、

$$\frac{\sqrt{3}VI}{2VI}=\frac{\sqrt{3}}{2}=0.866$$

となり、実際に使用する容量は見かけの容量よりも減少することがわかる。

 

また、$\Delta-\Delta$結線変圧器のバンク容量は$VI\times3=3VI$であるから、比較すると、

$$\frac{\sqrt{3}VI}{3VI}=\frac{\sqrt{3}}{3}=0.577$$

となり、$\Delta-\Delta$結線変圧器バンクから1台取り除き、$\mathrm{V}-\mathrm{V}$結線変圧器バンクとして使用する場合、バンク容量は$57.7\%$に減少する。

 

系統容量との関係からの算出

三相系統の線間電圧を$V$,線電流を$I$とすると、系統容量は、

$$3\times\frac{V}{\sqrt{3}}\times I=\sqrt{3}VI$$

 

$\Delta-\Delta$結線変圧器の場合、1台分の変圧器あたりの容量は、

$$\sqrt{3}VI\div3=\frac{VI}{\sqrt{3}}$$

 

$\Delta-\Delta$結線変圧器バンクから1台取り除き、$\mathrm{V}-\mathrm{V}$結線変圧器として使用する場合、台数は2台であるから、

$$\frac{VI}{\sqrt{3}}\times2=\frac{2VI}{\sqrt{3}}$$

 

しかし、$\mathrm{V}-\mathrm{V}$結線変圧器は前項までの検討により、線電流と巻線電流が等しいため、線電流は$\displaystyle{\frac{I}{\sqrt{3}}}$としなければならない。

 

このときの変圧器のバンク容量は、

$$\sqrt{3}V\times\frac{I}{\sqrt{3}}=VI$$

 

したがって、$\mathrm{V}-\mathrm{V}$結線変圧器の利用率は、

$$\frac{VI}{\displaystyle{\frac{2VI}{\sqrt{3}}}}=\frac{\sqrt{3}}{2}=0.866$$

 

$\Delta-\Delta$結線変圧器と比較すると、

$$\frac{VI}{\sqrt{3}VI}=\frac{1}{\sqrt{3}}=0.577$$

となり、ベクトル図からの計算値と一致する。

 

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