励磁突入電流の理論

本記事では変圧器に流れる励磁突入電流について、主にその発生理論等を解説する。





励磁突入電流の概要

励磁突入電流とは

変圧器を遮断器投入等によって電源に接続する際、投入時の電圧の位相によっては、過渡的に大きな励磁電流が流れることがある。

これを励磁突入電流(Magnetizing Inrush Current または単にInrush Current)という。

 

励磁突入電流自体は異常な現象ではないが、その大きさは定格電流の数~数十倍に達することもあり、過電流リレーや比率差動リレー等の誤動作の原因となることもある。

 

電圧と磁束、励磁突入電流の関係

電圧$V$と磁束$\phi$の関係として、ファラデーの電磁誘導の法則

$$V=-N\frac{\mathrm{d}\phi}{\mathrm{d}t}$$

(ただし、$N$は巻回数、$t$は時間)がある。上式を変形すると、

$$N\phi=-\int{V\mathrm{d}t}$$

 

上式の左辺$N\phi$は巻線への鎖交磁束数を示しており、電圧$V$の時間積分で表せることがわかる。

 

ここで、変圧器に正弦波交流電圧を投入位相$0$で印加した場合の、電圧・磁束・励磁電流の関係を図1に示す。

 

図1 位相$0$で投入した場合の電圧・磁束・励磁電流(残留磁束なし)

 

同図より、電圧の最大値を$1.0\mathrm{p.u.}$とすると、電圧が正の範囲(位相が$0\sim\displaystyle{\frac{\pi}{2}}$)である間にその積分である磁束は増大し続け、最大で$2.0 \mathrm{p.u.}$まで達することがわかる。

その間、磁束が鉄心の飽和レベルを超えるために、鉄心のヒステリシス曲線に基づいて大きな励磁電流が流れる。

なお、けい素鋼板を使用する鉄心の飽和磁束密度は約$2.02\mathrm{T}$であり、系統の電圧変動を考慮してそこから$1.1\sim 1.2$倍の余裕をとり、設計磁束密度としては約$1.7\mathrm{T}$付近とすることが多い。

すなわち、図1の鉄心飽和レベルは$1.1\sim 1.2\mathrm{p.u.}$程度ということになる。

 

そして、電圧が負の範囲(位相が$\displaystyle{\frac{\pi}{2}}\sim\pi$)に入ると磁束は減少し、鉄心の飽和レベルを抜けるため、励磁電流は正常な大きさの範囲に戻ることになる。

その後、電圧の正負およびヒステリシス曲線に沿って、磁束と励磁電流は周期的に変化することになる。

(実際は後述のように抵抗分による減衰のため、徐々に正常な波形となる)

 

残留磁束がある場合

鉄心内に残留磁束が存在する場合の、投入位相$0$印加における電圧・磁束・励磁電流の関係を図2に示す。

図2では前述の残留磁束がない場合の波形(図1と同じ)も比較として載せる。

 

図2 位相$0$で投入した場合の電圧・磁束・励磁電流(左:残留磁束なし、右:残留磁束あり)

 

同図より、残留磁束が存在する場合、磁束はその値に電圧の積分値が上乗せされることになるため、励磁電流はさらに大きくなることがわかる。

なお、残留磁束の極性によっては、逆に磁束が鉄心飽和レベルまで達しないこともある。この残留磁束の値は、鉄心の材質や構造、負荷の力率、投入位相などによっても異なる。

 

励磁突入電流の最大値の計算

ここでは、励磁突入電流の最大値を求める式を導出する。

空心のインダクタンス

図3のように、正面方向からみた断面図となる鉄心および巻線を考える。

同図にて、$S$は鉄心断面積、$l$は巻線の高さ、$d$は巻線の平均直径となる。

 

図3 鉄心および巻線の正面からみた断面図

 

鉄心が飽和した際の励磁電流は、鉄心が存在しないとした場合の空心のインダクタンスによって計算される。

インダクタンスは通常透磁率に比例し、鉄心材料に用いられるけい素鋼板の比透磁率は数千程度[参考]となるため、鉄心飽和時(比透磁率が$1$)の空心のインダクタンスは非常に小さな値となる。

これにより、図4のような変圧器のT形等価回路において、鉄心飽和により励磁インピーダンスがほぼ短絡状態となる。

したがって、定格時よりもはるかに大きな励磁電流が流れる。

 

図4 変圧器のT形等価回路(鉄心飽和時)

 

ここで、励磁突入電流の最大値を求めるための空心のインダクタンスの式を導出する。

まず、図3の巻線に発生する磁界$H$は、流れる電流を$I$,巻回数を$N$とすると、アンペアの周回積分の法則より、

$$\begin{align*}
Hl&=NI\\\\
\therefore H&=\frac{N}{l}I ・・・(1)
\end{align*}$$

 

また、空心の状態における磁束密度$B$は、真空の透磁率を$\mu_0$とすると、$(1)$式より、

$$\begin{align*}
B&=\mu_0H\\\\
&=\frac{\mu_0N}{l}I ・・・(2)
\end{align*}$$

 

次に磁束$\phi$は、通過する断面積を$A_\mathrm{c}\left(=\displaystyle{\frac{\pi d^2}{4}}\right)$とすると、$(2)$式より、

$$\begin{align*}
\phi&=BA_\mathrm{c}\\\\
&=\frac{\mu_0NA_\mathrm{c}}{l}I ・・・(3)
\end{align*}$$

 

そして、インダクタンス$L$と鎖交磁束数との関係式より、

$$LI=N\phi ・・・(4)$$

 

$(4)$を$L$について変形して、$(3)$式を代入すると、

$$\begin{align*}
L&=\frac{N\phi}{I}\\\\
&=\frac{N}{I}\cdot\frac{\mu_0NA_\mathrm{c}}{l}I\\\\
&=\frac{\mu_0N^2A_\mathrm{c}}{l} ・・・(5)
\end{align*}$$

 

ここで、$(5)$式ではすべての発生磁束が巻線に鎖交するという前提の式であるが、実際は巻線形状に関する補正係数$K$を用いて、

$$L=\frac{\mu_0KN^2A_\mathrm{c}}{l} ・・・(6)$$

となる。$(6)$式が空心のインダクタンスの式となる。

実際は巻線の高さ$l$および平均直径$d$によって、鎖交磁束数は異なってくる。

この巻線の形状を加味した補正係数$K$を長岡係数という(実際の係数の値はこちらを参照)。

 

電流の最大値

鉄心の飽和磁束密度を$B_\mathrm{s}$,鉄心断面積を$S$とすると、飽和後に鉄心内を通る(わずかな)磁束$\phi_\mathrm{s}$は、

$$\phi_\mathrm{s}=B_\mathrm{s}S$$

 

また、常規磁束の最大値を$\phi_\mathrm{m}$とすると、図1より磁束は鉄心飽和時には最大で$2.0\mathrm{p.u.}$まで達することから、この最大値を$\phi_\mathrm{m}$を用いて表すと$2\phi_\mathrm{m}$となる。

加えて、残留磁束を$\phi_\mathrm{r}$とすると、空心のインダクタンス$L$によってつくりだされる磁束は、$2\phi_\mathrm{m}$と$\phi_\mathrm{r}$の和から$\phi_\mathrm{s}$を差し引いた$2\phi_\mathrm{m}+\phi_\mathrm{r}-\phi_\mathrm{s}$となる。

 

これと$(4),\ (6)$式から、励磁突入電流の最大値$i_\mathrm{max}$を求めると、

$$\begin{align*}
Li_\mathrm{max}&=N\left(2\phi_\mathrm{m}+\phi_\mathrm{r}-\phi_\mathrm{s}\right)\\\\
\therefore i_\mathrm{max}&=\frac{N\left(2\phi_\mathrm{m}+\phi_\mathrm{r}-\phi_\mathrm{s}\right)}{L}\\\\
&=\frac{N\left(2\phi_\mathrm{m}+\phi_\mathrm{r}-\phi_\mathrm{s}\right)}{\displaystyle{\frac{\mu_0KN^2A_\mathrm{c}}{l}}}\\\\
&=\frac{\left(2\phi_\mathrm{m}+\phi_\mathrm{r}-\phi_\mathrm{s}\right)l}{\mu_0KNA_\mathrm{c}} ・・・(7)
\end{align*}$$

 

さらに、常規磁束を$\phi_\mathrm{m}=B_\mathrm{m}S$,残留磁束を$\phi_\mathrm{r}=B_\mathrm{r}S$と表すと、

$$\begin{align*}
i_\mathrm{max}&=\frac{\left(2B_\mathrm{m}S+B_\mathrm{r}S-B_\mathrm{s}S\right)l}{\mu_0KNA_\mathrm{c}}\\\\
&=\frac{\left(2B_\mathrm{m}+B_\mathrm{r}-B_\mathrm{s}\right)Sl}{\mu_0KNA_\mathrm{c}} ・・・(8)
\end{align*}$$

 

$(8)$式で表される$i_\mathrm{max}$が励磁突入電流の最大値となる。

後述するように、実際は抵抗分により励磁突入電流は時間によって減衰するため、上記の$i_\mathrm{max}$は最初の第1波における最大値となる。

なお、励磁突入電流を低減するためには、$(8)$式より各磁束密度の低減(鉄心断面積の増加)が挙げられるが、このためだけに鉄心寸法を変更するのはあまり現実的ではない。

また、巻線の寸法によって決まる$A_\mathrm{c}$によっても値が決まるため、例えば鉄心からみて外側の巻線(通常は高圧巻線となる)を励磁した場合は、励磁突入電流は小さくなる。

 

 

励磁突入電流の減衰

実際の電力系統や変圧器巻線には抵抗分が存在し、これによって励磁突入電流も減衰する。

 

まず、変圧器のみが存在する回路に電源電圧$e$を印加したときの回路方程式は、巻回数を$N$,このとき発生する磁束を$\phi$とすると、

$$e=N\frac{\mathrm{d}\phi}{\mathrm{d}t} ・・・(9)$$

 

また、抵抗$R$が変圧器に直列接続された回路に、同じく電源電圧$e$を印加した場合の回路方程式は、このとき発生する磁束を$\phi’$、流れる電流を$i$とすると、

$$e=N\frac{\mathrm{d}\phi’}{\mathrm{d}t}+Ri ・・・(10)$$

 

$(9),\ (10)$式を等号で結ぶと、

$$\begin{align*}
N\frac{\mathrm{d}\phi}{\mathrm{d}t}&=N\frac{\mathrm{d}\phi’}{\mathrm{d}t}+Ri\\\\
N\left(\frac{\mathrm{d}\phi}{\mathrm{d}t}-\frac{\mathrm{d}\phi’}{\mathrm{d}t}\right)&=Ri\\\\
\therefore\phi-\phi’&=\frac{R}{N}\int{i}\mathrm{d}t ・・・(11)
\end{align*}$$

 

ここで、図5に抵抗$R$の有無による磁束と励磁突入電流の波形の比較例(残留磁束考慮)を示す。

 

図5 抵抗$R$の有無による磁束と励磁突入電流の波形(残留磁束考慮)

 

同図より、回路に抵抗$R$が存在する場合は、$(11)$式右辺の電流$i$による項により磁束(の直流分)が低減し、結果的に励磁突入電流も小さくなる。

同図では最初の2サイクル分のみ表示しているが、時間を経るごとに磁束の波形は減衰していき、励磁突入電流も減少する。

上記の現象は$RL$直列回路の過渡現象(交流回路)の場合によく似ているが、鉄心飽和の前後でインダクタンスが変化する点に注意する。

なお、変圧器が大容量化すると、巻線導体の断面積は大きくなる傾向にあるため、回路の抵抗値は低減し、その分励磁突入電流の継続時間が長くなることが多い。

 

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励磁突入電流と第二調波の関係

励磁電流には偶数次調波成分が多く含まれており、その中でも第二調波成分が多いことが知られている[参考(Fig.9)]

したがって、第二調波を検出し、励磁突流を識別することでリレーを動作させる方法がとられる。

 

具体的には、第二調波を各相ごとに検出するか、もしくは他相とのAND条件をとって判定するものなどがある。

ただし、 第二調波の含有率は鉄心飽和の度合いによって変化するため、飽和時間が長い場合には注意が必要である。

一般的に、高調波成分のうち偶数調波が含まれる正弦波交流波形は図6のようになり、正負で形状が対称な波形とはならない。

(実際の励磁突入電流の波形は、図1などのような(綺麗な凸となる)波形にはならず、変歪した波形となる)

 

図6 偶数調波を含む正弦波交流

 

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参考文献