本記事では、計器用変圧器の種類の1つである「コンデンサ形計器用変圧器」について解説する。
コンデンサ形計器用変圧器の構造
コンデンサ形計器用変圧器(CVT)は、容量分圧器の原理およびリアクトルとの共振を利用した計器用変圧器の一種である。
図1にCVTの構成を示す。
図1 コンデンサ形計器用変圧器(CVT)
コンデンサ形計器用変圧器の原理
次に、図1の回路を用いて、CVTの原理と特徴を解説する。
鳳・テブナンの定理によるCVTの等価回路
図1の回路の電源$\dot{V}_1$および静電容量$C_1,\ C_2$の容量分圧器で構成される部分を、鳳・テブナンの定理を用いて描き替えてみる。
まず、端子$\mathrm{a-b}$間からみたインピーダンス$\dot{Z}_\mathrm{ab}$は、$\dot{V}_1$を短絡した際に当該箇所を$C_1$と$C_2$の並列回路とみなすことができるため、
$$\dot{Z}_\mathrm{ab}=\frac{1}{j\omega\left(C_1+C_2\right)} ・・・(1)$$
また、端子$\mathrm{a-b}$間の電位差$\dot{V}_\mathrm{ab}$は、電圧$\dot{V}_1$の静電容量$C_1,\ C_2$に対する分圧を考えて、
$$\dot{V}_\mathrm{ab}=\frac{C_1}{C_1+C_2}\dot{V}_1 ・・・(2)$$
以上より、$(1),\ (2)$式で表される$\dot{Z}_\mathrm{ab}$および$\dot{V}_\mathrm{ab}$を用いると、図1の回路は図2に示す等価回路に描き替えることができる。
図2 CVTの等価回路
本記事では、電気回路計算の基本となる「鳳・テブナンの定理」について、この定理が成立する理由を考察する。[sitecard subtitle=関連記事 url=https://denki-no-shinzui.com/summary-[…]
CVTの変圧比
図2の等価回路より、負担インピーダンス$\dot{Z}_\mathrm{b}$に加わる電圧$\dot{V}_2$は、$(1),\ (2)$式より、
$$\begin{align*}
\dot{V}_2&=\frac{\dot{Z}_\mathrm{b}}{\dot{Z}_\mathrm{ab}+j\omega L+\dot{Z}_\mathrm{b}}\dot{V}_\mathrm{ab}\\\\\
&=\frac{\dot{Z}_\mathrm{b}}{\displaystyle{\frac{1}{j\omega\left(C_1+C_2\right)}}+j\omega L+\dot{Z}_\mathrm{b}}\cdot\frac{C_1}{C_1+C_2}\dot{V}_\mathrm{1}\\\\
&=\frac{C_1}{C_1+C_2}\cdot\frac{\dot{Z}_\mathrm{b}}{\dot{Z}_\mathrm{b}+j\left\{\omega L-\displaystyle{\frac{1}{\omega\left(C_1+C_2\right)}}\right\}}\dot{V}_1 ・・・(3)
\end{align*}$$
したがって、CVTの変圧比$K_\mathrm{p}$は、$(3)$式より、
$$\begin{align*}
K_\mathrm{p}&=\frac{\dot{V}_1}{\dot{V}_2}\\\\
&=\frac{C_1+C_2}{C_1}\cdot\frac{\dot{Z}_\mathrm{b}+j\left\{\omega L-\displaystyle{\frac{1}{\omega\left(C_1+C_2\right)}}\right\}}{\dot{Z}_\mathrm{b}}\\\\
&=\frac{C_1+C_2}{C_1}+j\frac{C_1+C_2}{C_1}\cdot\frac{\omega^2L\left(C_1+C_2\right)-1}{\omega\left(C_1+C_2\right)\dot{Z}_\mathrm{b}}\\\\
&=\frac{C_1+C_2}{C_1}+j\frac{\omega^2L\left(C_1+C_2\right)-1}{\omega C_1\dot{Z}_\mathrm{b}} ・・・(4)
\end{align*}$$
ここで、$C_1,\ C_2$と$L$の共振をとる、すなわち$\omega^2L\left(C_1+C_2\right)=1$としておくことにより、$(4)$式の虚部は$0$になり、
$$K_\mathrm{p}=\frac{C_1+C_2}{C_1} ・・・(5)$$
$(5)$式より、$C_1,\ C_2$と$L$との共振を利用することにより、CVTの変圧比$K_\mathrm{p}$は負担インピーダンス$\dot{Z}_\mathrm{b}$に依らず、静電容量$C_1,\ C_2$によって定まる簡単な形にすることができる。
コンデンサ形計器用変圧器の誤差
さらに、CVTの誤差を表す式を導出する。
補助VTを接続したCVTの等価回路
図3に、補助VTを接続した場合のCVTの構成を示す。
実際の使用条件では、図1の構成だと非常に大きな$C_2$の値としなければならないため、図3のように補助VTを接続するのが一般的である。
図3 補助VTを接続したCVT
そして、図1→図2と同様の描き替え、そして補助VTの等価回路を組み合わせると、図3の等価回路は図4のようになる。
図4 補助VTを接続したCVTの等価回路
なお、図4の回路定数は次の通り(図2と重複するものは除く)とし、かつ簡単のため補助VTの変圧比は$1$とする。
- $r$:共振リアクトルの抵抗成分(図2では考慮していないが、後述するように誤差の主要因となるため今回は考慮する)
- $\dot{Z}_\mathrm{Tr1},\ \dot{Z}_\mathrm{Tr2}$:補助VTの一次側および二次側漏れインピーダンス(巻線抵抗+漏れリアクタンス)
- $\dot{Z}_0$:補助VTの励磁インピーダンス
CVTの変圧比と誤差
図4の等価回路において、容量分圧器$C_1, C_2$,共振リアクトル$L$および補助VTの一次側漏れインピーダンス$\dot{Z}_\mathrm{Tr1}$は直列接続であり、計算の簡略化のためこれらの合成インピーダンスを$\dot{Z}_1$とすると、
$$\begin{align*}
\dot{Z_1}&=\frac{1}{j\omega\left(C_1+C_2\right)}+\left(r+j\omega L\right)+\dot{Z}_\mathrm{Tr1}\\\\
&=\dot{Z}_\mathrm{Tr1}+r+j\left\{\omega L-\frac{1}{\omega\left(C_1+C_2\right)}\right\} ・・・(6)
\end{align*}$$
次に、図4の等価回路全体のインピーダンス$\dot{Z}$は、$(6)$式の$\dot{Z}_1$に加え、励磁インピーダンス$\dot{Z}_0$と、補助変圧器の二次側インピーダンスおよび負担インピーダンスの直列合成分$\left(\dot{Z}_\mathrm{Tr2}+\dot{Z}_\mathrm{b}\right)$が並列接続となっているため、
$$\dot{Z}=\dot{Z_1}+\frac{\dot{Z_0}\left(\dot{Z}_\mathrm{Tr2}+\dot{Z}_\mathrm{b}\right)}{\dot{Z_0}+\dot{Z}_\mathrm{Tr2}+\dot{Z}_\mathrm{b}} ・・・(7)$$
したがって、負担インピーダンス$\dot{Z}_\mathrm{b}$に加わる電圧$\dot{V}_2$は、$(2),\ (7)$式より、
$$\begin{align*}
\dot{V}_2&=\frac{\displaystyle{\frac{\dot{Z_0}\left(\dot{Z}_\mathrm{Tr2}+\dot{Z}_\mathrm{b}\right)}{\dot{Z_0}+\dot{Z}_\mathrm{Tr2}+\dot{Z}_\mathrm{b}}}}{\dot{Z_1}+\displaystyle{\frac{\dot{Z_0}\left(\dot{Z}_\mathrm{Tr2}+\dot{Z}_\mathrm{b}\right)}{\dot{Z_0}+\dot{Z}_\mathrm{Tr2}+\dot{Z}_\mathrm{b}}}}\times\frac{\dot{Z}_\mathrm{b}}{\dot{Z}_\mathrm{Tr2}+\dot{Z}_\mathrm{b}}\dot{V}_\mathrm{ab}\\\\
&=\frac{\displaystyle{\frac{\dot{Z_0}\dot{Z}_\mathrm{b}}{\dot{Z_0}+\dot{Z}_\mathrm{Tr2}+\dot{Z}_\mathrm{b}}}}{\dot{Z_1}+\displaystyle{\frac{\dot{Z_0}\left(\dot{Z}_\mathrm{Tr2}+\dot{Z}_\mathrm{b}\right)}{\dot{Z_0}+\dot{Z}_\mathrm{Tr2}+\dot{Z}_\mathrm{b}}}}\dot{V}_\mathrm{ab}\\\\
&=\frac{C_1}{C_1+C_2}\cdot\frac{\dot{Z_0}\dot{Z}_\mathrm{b}}{\dot{Z_1}\left(\dot{Z}_0+\dot{Z}_\mathrm{Tr2}+\dot{Z}_\mathrm{b}\right)+\dot{Z_0}\left(\dot{Z}_\mathrm{Tr2}+\dot{Z}_\mathrm{b}\right)}\dot{V}_1 ・・・(8)
\end{align*}$$
したがって、CVTの変圧比$K_\mathrm{p}$は、$(8)$式より、
$$\begin{align*}
K_\mathrm{p}&=\frac{\dot{V}_1}{\dot{V}_2}\\\\
&=\frac{C_1+C_2}{C_1}\cdot\frac{\dot{Z_1}\left(\dot{Z}_0+\dot{Z}_\mathrm{Tr2}+\dot{Z}_\mathrm{b}\right)+\dot{Z_0}\left(\dot{Z}_\mathrm{Tr2}+\dot{Z}_\mathrm{b}\right)}{\dot{Z_0}\dot{Z}_\mathrm{b}}\\\\
&=\frac{C_1+C_2}{C_1}\left(1+\frac{\dot{Z}_1}{\dot{Z}_0}+\frac{\dot{Z}_1+\dot{Z}_\mathrm{Tr2}}{\dot{Z}_\mathrm{b}}+\frac{\dot{Z}_1\dot{Z}_\mathrm{Tr2}}{\dot{Z}_0\dot{Z}_\mathrm{b}}\right) ・・・(9)
\end{align*}$$
ここで、$(9)$式のカッコ内のうち、第4項は無視(後述するように第2項以降は誤差を表し、特に第4項は$1$より非常に小さくなる)し、かつ$(6)$式で表される$\dot{Z_1}$を代入すると、
$$\begin{align*}
K_\mathrm{p}&\fallingdotseq\frac{C_1+C_2}{C_1}\left(1+\frac{\dot{Z}_1}{\dot{Z}_0}+\frac{\dot{Z}_1+\dot{Z}_\mathrm{Tr2}}{\dot{Z}_\mathrm{b}}\right)\\\\
&=\frac{C_1+C_2}{C_1}\left[1+\frac{\dot{Z}_\mathrm{Tr1}+r}{\dot{Z}_0}+\frac{\dot{Z}_\mathrm{Tr1}+\dot{Z}_\mathrm{Tr2}+r}{\dot{Z}_\mathrm{b}}\right.\\\\
&\left.\qquad\qquad\qquad+j\left(\frac{1}{\dot{Z}_0}+\frac{1}{\dot{Z}_\mathrm{b}}\right)\left\{\omega L-\frac{1}{\omega\left(C_1+C_2\right)}\right\}\right] ・・・(10)
\end{align*}$$
さらに、$C_1,\ C_2$と$L$の共振条件である$\omega^2L\left(C_1+C_2\right)=1$を$(10)$式に代入すると、
$$\begin{align*}
K_\mathrm{p}&=\frac{C_1+C_2}{C_1}\left(1+\frac{\dot{Z}_\mathrm{Tr1}+r}{\dot{Z}_0}+\frac{\dot{Z}_\mathrm{Tr1}+\dot{Z}_\mathrm{Tr2}+r}{\dot{Z}_\mathrm{b}}\right)\\\\
&=\frac{C_1+C_2}{C_1}\left\{1+\left(\frac{\dot{Z}_\mathrm{Tr1}}{\dot{Z}_0}+\frac{\dot{Z}_\mathrm{Tr1}+\dot{Z}_\mathrm{Tr2}}{\dot{Z}_\mathrm{b}}\right)+r\left(\frac{1}{\dot{Z}_0}+\frac{1}{\dot{Z}_\mathrm{b}}\right)\right\} ・・・(11)
\end{align*}$$
$(11)$式を$(5)$式で表される誤差を考慮していない場合の変圧比$K_\mathrm{p}$と比較すると、カッコ{}内の第2項以降が追加されている形になり、これらがCVTの誤差を表すことになる。
ここで、補助VTの変圧比を$K_\mathrm{Tr}$として、さらに$(11)$式を書き換えると、
$$K_\mathrm{p}\equiv K_\mathrm{Tr}\frac{C_1+C_2}{C_1}\left(1+\dot{\delta}_\mathrm{Tr}+\dot{\delta}_\mathrm{L}\right) ・・・(11)’$$
ただし、
$$\begin{cases}
\dot{\delta}_\mathrm{Tr}&=\displaystyle{\frac{\dot{Z}_\mathrm{Tr1}}{\dot{Z}_0}+\frac{\dot{Z}_\mathrm{Tr1}+\dot{Z}_\mathrm{Tr2}}{\dot{Z}_\mathrm{b}}}\\\\
\dot{\delta}_\mathrm{L}&=r\displaystyle{\left(\frac{1}{\dot{Z}_0}+\frac{1}{\dot{Z}_\mathrm{b}}\right)}
\end{cases}$$
$(11)’$式において、$\dot{\delta}_\mathrm{Tr}$は補助VTの漏れインピーダンスによる誤差、$\dot{\delta}_\mathrm{L}$は共振リアクトルの抵抗成分$r$による誤差を表している。
$(11)’$式のうち、$\dot{\delta}_\mathrm{Tr}$は通常の(電磁形の)計器用変圧器の場合にも存在する一方、$\dot{\delta}_\mathrm{L}$は共振リアクトルを用いるCVT特有のものになる。
なお、通常共振リアクトルの$r$は補助VTの各インピーダンスよりもはるかに大きいため、CVTの場合はこちらを低減し$\dot{\delta}_\mathrm{L}$を改善する方が重要となる。
関連する例題(「電験王」へのリンク)
電験一種
電験二種
参考文献
- 池田三穂司『計器用変成器』電気書院,1956
- JEM-TR129『計器用変成器適用指針』日本電機工業会,2010
- 計器用変成器専門委員会『コンデンサ型計器用変圧器』電気学会誌,1954年74巻794号 p.1391-1398
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