本記事では、火力発電所の蒸気タービンを用いた各熱サイクルと、その熱効率について解説する。
ランキンサイクル
ランキンサイクルの概要
蒸気タービンを用いた火力発電で利用される基本的な熱サイクルがランキンサイクルである。
図1にランキンサイクルを用いた火力発電所の装置概要図を示す。
図1 ランキンサイクルの装置概要図
また、図2に摩擦損失を伴わないランキンサイクルの$T-s$線図を示す。
図2 ランキンサイクルの$T-s$線図
図1と図2の数字は対応しており、それぞれの過程の概要は下記のようになる。
- ①→②(断熱圧縮):飽和水を給水ポンプでボイラへ送り込む
- ②→①(等圧受熱):ボイラ内で圧縮水の温度が高くなり、飽和水の状態から同一圧力のもとで蒸発を開始し、飽和水蒸気となる。さらにボイラ出口にある過熱器により過熱され、過熱蒸気となる
- ③→④(断熱膨張):過熱蒸気を蒸気タービンで断熱膨張させて仕事を発生する
- ④→①(等圧放熱):タービンで仕事をした湿り蒸気を復水器中で冷却し、等圧変化によって飽和水とする
ランキンサイクルの熱効率
熱効率とは、熱機関の性能を示す物理量のことをいう。
熱効率は、外部から供給される熱量(入熱量)に対する、対象の系から排出される全熱量(出熱量)で表される。
図1および図2において、各状態点におけるエンタルピーを$h_1~h_4$とすると、入熱量$Q_1$はボイラおよび過熱器からの供給熱、出熱量$Q_2$はタービンで行われる仕事から給水ポンプの仕事を差し引いたもので表すことができるので、
$$\begin{align*}
Q_1&=h_3-h_2\\\\
Q_2&=(h_3-h_4)-(h_2-h_1)
\end{align*}$$
したがって、ランキンサイクルの熱効率$\eta_1$は、給水ポンプの仕事$(h_2-h_1)$がボイラおよび過熱器の供給熱やタービンの仕事に比べて非常に小さいことを考慮して、
$$\begin{align*}
\eta_1&=\frac{Q_2}{Q_1}\\\\
&=\frac{(h_3-h_4)-(h_2-h_1)}{h_3-h_2}\\\\
&=\frac{(h_3-h_4)-(h_2-h_1)}{(h_3-h_1)-(h_2-h_1)}\\\\
&\fallingdotseq\frac{h_3-h_4}{h_3-h_1}
\end{align*}$$
なお、熱効率はタービン入口蒸気の圧力・温度を高めるほど(すなわち、$h_3$を大きくするほど)、また復水器圧力を下げるほど(すなわち、$h_4$を小さくするほど)上昇する。
再熱サイクル
再熱サイクルの概要
タービンの膨張過程にある蒸気を一部取り出し、ボイラへ送って再加熱して過熱度を高めた後、再びタービンに送って、最終圧力まで膨張させるサイクルを再熱サイクルという。
図3に再熱サイクルの装置概要図を示す。
図3 再熱サイクルの装置概要図
また、図4に再熱サイクルの$T-s$線図を示す。
図4 再熱サイクルの$T-s$線図
ランキンサイクルの熱効率はタービン入口の圧力を高めると上昇するが、同時に仕事をした後(図2の④)の湿り蒸気の乾き度が低下する。
乾き度が低下すると、タービン内の湿り蒸気は摩擦を増加して内部効率を低下させると同時に、タービン翼などの腐食の原因にもなる。
そこで、図3および図4のような再熱サイクルを採用することで、蒸気のタービン入口圧力を高く保つと同時に、排気の乾き度が低下しないようにしている。
再熱サイクルの熱効率
図3および図4において、各状態点におけるエンタルピーを$h_1~h_6$とすると、入熱量$Q_1$はボイラおよび過熱器からの供給熱、出熱量$Q_2$は各タービンで行われる仕事から給水ポンプの仕事を差し引いたもので表すことができるので、
$$\begin{align*}
Q_1&=(h_3-h_2)+(h_5-h_4)\\\\
Q_2&=(h_3-h_4)+(h_5-h_6)-(h_2-h_1)
\end{align*}$$
したがって、再熱サイクルの熱効率$\eta_2$は、給水ポンプの仕事$(h_2-h_1)$がボイラおよび過熱器の供給熱やタービンの仕事に比べて非常に小さいことを考慮して、
$$\begin{align*}
\eta_2&=\frac{Q_2}{Q_1}\\\\
&=\frac{(h_3-h_4)+(h_5-h_6)-(h_2-h_1)}{(h_3-h_2)+(h_5-h_4)}\\\\
&\fallingdotseq\frac{(h_3-h_4)+(h_5-h_6)}{(h_3-h_2)+(h_5-h_4)}
\end{align*}$$
このような再熱サイクルを採用することによって、通常のランキンサイクルよりも熱効率が向上し、同一蒸気流量あたりのタービン出力を増加させることができる。
再生サイクル
再生サイクルの概要
復水器に捨てる熱量を軽減して熱効率を高めるため、タービン内で膨張している途中の蒸気の一部を抽気し、その蒸気がもつ熱放出によって給水を過熱する過程を取り入れたサイクルを再生サイクルという。
図5に再生サイクルの装置概要図を示す。
図5 再生サイクルの装置概要図
また、図6に再生サイクルの$T-s$線図を示す。
図6 再生サイクルの$T-s$線図
再生サイクルを採用することにより、タービンで得られる仕事は減少するものの、一方で復水器に捨てる熱量も減少するので、サイクル全体としての熱効率が上昇する。
再生サイクルの熱効率
図5および図6において、各状態点におけるエンタルピーを$h_1~h_8$,全体の蒸気量を$1$としたときの各抽気点の抽気量を$m_1$および$m_2$とすると、タービン出入口および各抽気点間の仕事$W_{01},\ W_{12},\ W_{23}$は、
$$\begin{align*}
W_{01}&=h_5-h_6\\\\
W_{12}&=(1-m_1)(h_6-h_7)\\\\
W_{23}&=(1-m_1-m_2)(h_7-h_8)
\end{align*}$$
これまでと同様に、入熱量$Q_1$はボイラおよび過熱器からの供給熱、出熱量$Q_2$は各仕事$W_{01},\ W_{12},\ W_{23}$の和から給水ポンプの仕事を差し引いたもので表すことができるので、
$$\begin{align*}
Q_1&=h_5-h_4\\\\
Q_2&=W_{01}+W_{12}+W_{23}-(h_3-h_2)\\\\
&=(h_5-h_6)+(1-m_1)(h_6-h_7)+(1-m_1-m_2)(h_7-h_8)-(h_3-h_2)\\\\
&=(h_5-h_8)-m_1(h_6-h_8)-m_2(h_7-h_8)-(h_3-h_2)
\end{align*}$$
したがって、再生サイクルの熱効率$\eta_3$は、給水ポンプの仕事$(h_3-h_2)$がボイラおよび過熱器の供給熱や各仕事$W_{01},\ W_{12},\ W_{23}$に比べて非常に小さいことを考慮して、
$$\begin{align*}
\eta_3&=\frac{Q_2}{Q_1}\\\\
&=\frac{(h_5-h_8)-m_1(h_6-h_8)-m_2(h_7-h_8)-(h_3-h_2)}{h_5-h_4}\\\\
&\fallingdotseq\frac{(h_5-h_8)-m_1(h_6-h_8)-m_2(h_7-h_8)}{h_5-h_4}
\end{align*}$$
再生サイクルの熱効率は、抽気段数を増やし、最終段の給水加熱器の出口給水温度を高めるほど(すなわち、$h_4$を大きくするほど)上昇する。
再熱再生サイクル
再熱再生サイクルの概要
再熱サイクルおよび再生サイクルを組み合わせた再熱再生サイクルの装置概要図を図7に示す。
図7 再熱再生サイクルの装置概要図
事業用汽力発電所の大部分は、この再熱再生サイクルを採用している。
再熱再生サイクルの熱効率
図7において、各状態点におけるエンタルピーを$h_1~h_{10}$,全体の蒸気量を$1$としたときの各抽気点の抽気量を$m_1$および$m_2$とすると、各タービンの仕事$W_\mathrm{H},\ W_\mathrm{L}$は、
$$\begin{align*}
W_\mathrm{H}&=h_5-h_8+(1-m_1)(h_8-h_6)\\\\
&=(h_5-h_6)-m_1(h_8-h_6)\\\\
W_\mathrm{L}&=(1-m_1)(h_7-h_9)+(1-m_1-m_2)(h_9-h_{10})\\\\
&=(1-m_1)(h_7-h_{10})-m_2(h_9-h_{10})
\end{align*}$$
入熱量$Q_1$はボイラおよび過熱器からの供給熱、出熱量$Q_2$は各タービンの仕事$W_\mathrm{H},\ W_\mathrm{L}$の和から給水ポンプの仕事を差し引いたもので表すことができるので、
$$\begin{align*}
Q_1&=(h_5-h_4)+(1-m_1)(h_7-h_6)\\\\
Q_2&=W_\mathrm{H}+W_\mathrm{L}-(h_3-h_2)\\\\
&=(h_5-h_6)-m_1(h_8-h_6)+(1-m_1)(h_7-h_{10})\\\\
&\quad-m_2(h_9-h_{10})-(h_3-h_2)\\\\
&=\{(h_5-h_6)+(h_7-h_{10})\}-m_1\{(h_8-h_6)+(h_7-h_{10})\}\\\\
&\quad-m_2(h_9-h_{10})-(h_3-h_2)\\\\
&\fallingdotseq\{(h_5-h_6)+(h_7-h_{10})\}-m_1\{(h_8-h_6)+(h_7-h_{10})\}\\\\
&\quad-m_2(h_9-h_{10})
\end{align*}$$
上記の計算では、給水ポンプの仕事$(h_3-h_2)$がボイラおよび過熱器の供給熱や各タービンの仕事$W_\mathrm{H},\ W_\mathrm{L}$に比べて非常に小さいことを考慮した。
したがって、再熱再生サイクルの熱効率$\eta_4$は、
$$\begin{align*}
\eta_4&=\frac{Q_2}{Q_1}\\\\
&=\frac{\{(h_5-h_6)+(h_7-h_{10})\}-m_1\{(h_8-h_6)+(h_7-h_{10})\}-m_2(h_9-h_{10})}{(h_5-h_4)+(1-m_1)(h_7-h_6)}
\end{align*}$$
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参考文献
- 電気学会『電気工学ハンドブック 第7版』オーム社,2013
- 道上勉『発電・変電』電気学会,2000
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