スコット結線変圧器

本記事では、ウッドブリッジ変圧器と同様に鉄道饋電(きでん)、電気炉負荷などの大容量単相負荷に供給するために用いられるスコット結線変圧器について解説する。

スコット結線

単相変圧器のスコット結線を図1に示す。

 

図1 スコット結線

 

同図では、同一巻回数・同容量の単相変圧器が2台で構成され、一次側の主座変圧器($\mathrm{M}$座変圧器)の巻線中央に$\mathrm{T}$座変圧器の巻線が接続される形で、$\mathrm{T}$字型の結線として構成されている。

また、$\mathrm{T}$座変圧器巻線の巻回数の$\displaystyle{\frac{\sqrt{3}}{2}}$倍の部分から$a$相端子が引き出されている。

 

二次側は二相3線式として端子が引き出されているが、主座・$\mathrm{T}$座それぞれから端子を2本ずつ引き出して二相4線式としても使用できる。

(「ウッドブリッジ変圧器」の図1および図2のような形式となる)

 

なお、スコット結線変圧器は、1890年代にアメリカの技術者のチャールズ・F・スコット(Charles F. Scott)によって発明されたものである[参考]

 

スコット結線の電圧ベクトル図

図1の変圧器の各電圧におけるベクトル図を図2に示す。

 

図2 スコット結線変圧器の電圧ベクトル図

 

一次側に端子間電圧$\dot{V_{ab}},\ \dot{V_{bc}},\ \dot{V_{ca}}$を印加すると、同図のように各電圧のベクトルは正三角形をなす。

このとき、主座変圧器一次側には${_1}\dot{E_M}=\dot{V}_{bc}$となる起電力が誘起される。

かつ$\mathrm{T}$座変圧器一次側には大きさ$\left|{_1}\dot{E_T}\right|=\displaystyle{\frac{\sqrt{3}}{2}}\left|{_1}\dot{E_M}\right|$となる起電力${_1}\dot{E_T}$が誘起され、主座変圧器の起電力${_1}\dot{E_M}$と$\displaystyle{\frac{\pi}{2}}$位相がずれている。

 

上記の関係を式で表すと、

$$\begin{cases}
{_1}\dot{E_M}=\dot{V_{bc}}\\\\
{_1}\dot{E_T}=\displaystyle{\frac{1}{2}}\dot{V_{bc}}+\dot{V_{ab}}=\dot{V_{ca}}+\displaystyle{\frac{1}{2}}\dot{V_{bc}}
\end{cases}$$

 

次に、二次側には一次側と同相で、かつ巻数比に対応した電圧がそれぞれ誘導される。

 

ここで、$\mathrm{T}$座変圧器の二次巻線に誘導される電圧${_2}\dot{E_T}$の大きさは、

$$\begin{align*}
{_2}E_T&=\frac{n_2}{\displaystyle{\frac{\sqrt{3}}{2}}n_1}{_1}E_T\\\\
&=\frac{n_2}{\displaystyle{\frac{\sqrt{3}}{2}}n_1}\times\frac{\sqrt{3}}{2}{_1}E_M\\\\
&=\frac{n_2}{n_1}{_1}E_M={_2}E_M
\end{align*}$$

となり、主座変圧器と同じ大きさで、$\displaystyle{\frac{\pi}{2}}$位相がずれた電圧が誘導される。

 

 

三相電流と主座・T座電流の関係

次に、電流の関係について考える。

 

一次および二次巻線の起磁力の関係より、

$$\begin{align*}
n_2\dot{I_M}&=\frac{n_1}{2}{_1}\dot{I_b}-\frac{n_1}{2}{_1}\dot{I_c}\\
\therefore\dot{I_M}&=\frac{k}{2}\left({_1}\dot{I_b}-{_1}\dot{I_c}\right) ・・・(1)\\\\
n_2\dot{I_T}&=\frac{\sqrt{3}}{2}n_1\ {_1}\dot{I_a}\\
\therefore\dot{I_T}&=\frac{\sqrt{3}}{2}k\ {_1}\dot{I_a}  ・・・(2)
\end{align*}$$

ただし、$k\equiv\displaystyle{\frac{n_1}{n_2}}$

 

また、一次側の主座・$\mathrm{T}$座の接続部において、キルヒホッフの第一法則を適用して、

$${_1}\dot{I_a}+{_1}\dot{I_b}+{_1}\dot{I_c}={_1}\dot{I_0}=0 ・・・(3)$$

 

$(1),\ (2)$式を行列表示にすると、

$$\left(\begin{array}{c} \dot{I_M} \\ \dot{I_T}\end{array}\right)=\frac{k}{2}\left(\begin{array}{ccc} 0&1&-1 \\ \sqrt{3}&0&0\end{array}\right) \left(\begin{array}{c} {_1}\dot{I_a} \\ {_1}\dot{I_b} \\ {_1}\dot{I_c}\end{array}\right) ・・・(3)’$$

 

$(3)’$式右辺の三相電流を対称分電流に置き換える書き方をすると、

$$\begin{align*}
\left(\begin{array}{c} \dot{I_M} \\ \dot{I_T}\end{array}\right)&=\frac{k}{2} \left(\begin{array}{ccc} 0&1&-1 \\ \sqrt{3}&0&0\end{array}\right) \left(\begin{array}{ccc} 1&1&1\\1&a^2&a\\1&a&a^2 \end{array}\right) \left(\begin{array}{c} {_1}\dot{I_0} \\ {_1}\dot{I_1} \\ {_1}\dot{I_2}\end{array}\right)\\\\
&=\frac{k}{2}\left(\begin{array}{cc} 0&a^2-a&a-a^2 \\ \sqrt{3}&\sqrt{3}&\sqrt{3}\end{array}\right) \left(\begin{array}{c} {_1}\dot{I_0} \\ {_1}\dot{I_1} \\ {_1}\dot{I_2}\end{array}\right)\\\\
&=\frac{k}{2}\left(\begin{array}{cc} 0&-j\sqrt{3}&j\sqrt{3} \\ \sqrt{3}&\sqrt{3}&\sqrt{3}\end{array}\right) \left(\begin{array}{c} {_1}\dot{I_0} \\ {_1}\dot{I_1} \\ {_1}\dot{I_2}\end{array}\right)\\\\
&=\frac{\sqrt{3}}{2}k\left(\begin{array}{cc} 0&-j&j \\ 1&1&1\end{array}\right) \left(\begin{array}{c} {_1}\dot{I_0} \\ {_1}\dot{I_1} \\ {_1}\dot{I_2}\end{array}\right)
\end{align*}$$

 

$(3)’$式と合わせると、$\dot{I_M},\ \dot{I_T}$は、

$$\begin{align*}
\dot{I_M}&=-j\frac{\sqrt{3}}{2}k\left({_1}\dot{I_1}-{_1}\dot{I_2}\right) ・・・(4)\\\\
\dot{I_T}&=\frac{\sqrt{3}}{2}k\left({_1}\dot{I_1}+{_1}\dot{I_2}\right) ・・・(5)
\end{align*}$$

 

$(4),\ (5)$式より対称分電流${_1}\dot{I_0},\ {_1}\dot{I_1},\ {_1}\dot{I_2}$を求めると、

$$\begin{cases}
{_1}\dot{I_0}=0\\\\
{_1}\dot{I_1}=\displaystyle{\frac{1}{\sqrt{3}k}}\left(\dot{I_T}+j\dot{I_M}\right)\\\\
{_1}\dot{I_2}=\displaystyle{\frac{1}{\sqrt{3}k}}\left(\dot{I_T}-j\dot{I_M}\right)
\end{cases} ・・・(6)$$

 

$(6)$式より、${_1}\dot{I_a},\ {_1}\dot{I_b},\ {_1}\dot{I_c}$を求めると、

$$\begin{cases}
{_1}\dot{I_a}={_1}\dot{I_0}+{_1}\dot{I_1}+{_1}\dot{I_2}&=\displaystyle{\frac{2}{\sqrt{3}k}}\dot{I_T}\\\\
{_1}\dot{I_b}={_1}\dot{I_0}+a^2{_1}\dot{I_1}+a{_1}\dot{I_2}&=\displaystyle{\frac{1}{\sqrt{3}k}}\left(\sqrt{3}\dot{I_M}-\dot{I_T}\right)\\\\
{_1}\dot{I_c}={_1}\dot{I_0}+a{_1}\dot{I_1}+a^2{_1}\dot{I_2}&=\displaystyle{\frac{1}{\sqrt{3}k}}\left(-\sqrt{3}\dot{I_M}-\dot{I_T}\right)
\end{cases} ・・・(7)$$

 

$(7)$式は「ウッドブリッジ変圧器」の$(10)$式と同じ結果であり、同じ効用があることがわかる。

 

スコット結線変圧器の利用率

前項で求めた電流の関係に基づき、図2と合わせたスコット結線変圧器の電圧・電流のベクトル図を図3に示す。

同図は二次側に力率$\phi$の負荷を接続した場合のものとなる。

 

図3 スコット結線変圧器の電圧ベクトル図

 

同図に基づき、スコット結線の利用率について考える。

 

$\mathrm{T}$座変圧器については、電圧変換に寄与している部分の巻回数は、全体の巻回数の$\displaystyle{\frac{\sqrt{3}}{2}}$倍であり、この変圧器は定格容量の$\displaystyle{\frac{\sqrt{3}}{2}}=86.6\%$に減じて使用していることになる。

 

一方、主座変圧器については、流れる電流${_1}\dot{I_b}$および${_1}\dot{I_c}$の${_1}\dot{E_M}$に対する位相差は、図3よりそれぞれ$\displaystyle{\frac{\pi}{6}}+\phi$および$\displaystyle{\frac{\pi}{6}}-\phi$であり、$\dot{I_M}$の${_2}\dot{E_M}$に対する位相差$\phi$と$\displaystyle{\frac{\pi}{6}}$ずれている。

 

このことから、二次側の電流とアンペアターン・キャンセルするためには、一次側の電流は二次側の$\frac{\displaystyle{1}}{\displaystyle{\cos\frac{\pi}{6}}}=\displaystyle{\frac{2}{\sqrt{3}}}$倍必要となることになる。

一次側は二次側に合わせて運転すると当然過負荷となるので、結局、定格容量の$\displaystyle{\frac{\sqrt{3}}{2}}$倍で使用しなければならない。

 

以上より、変圧器の定格容量を$S_n$とすると、利用率は、

$$\frac{2\times \displaystyle{\frac{\sqrt{3}}{2}}\times S_n}{2\times S_n}=\displaystyle{\frac{\sqrt{3}}{2}}=86.6\%$$

 

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