円筒導体の鎖交磁束とインダクタンス

本記事では、円筒導体に流れる電流による鎖交磁束および導体の自己インダクタンスの式を導出する。

導体外部の鎖交磁束

図1のように、半径がr[m]である円筒導体に電流i[A]が流れている場合を考える。

 

図1 円筒導体

 

まず、電流$i$が作り出す導体外部の磁束が、導体の長さ$1\mathrm{m}$の部分を鎖交する数を求める。

 

図2のように、導体表面から距離$x[\mathrm{m}]$にある微小厚さ$dx[\mathrm{m}]$の円筒形の磁気回路(図の斜線部分)を考える。

 

図2 円筒導体の断面図($x\geq r$)

 

斜線部分の磁気抵抗$R_m[\mathrm{AT/Wb}]$は、磁路長が$2\pi x[\mathrm{m}]$,断面積が$1\times dx=dx[\mathrm{m^2}]$であるから、空気の比透磁率を$1$とすると、

$$R_m=\frac{2\pi x}{\mu_0 dx} ・・・(1)$$

 

導体に電流$i[\mathrm{A}]$が流れているとき、斜線部分に生じる磁束$d\phi_1[\mathrm{Wb}]$は、$(1)$式および磁気回路におけるオームの法則より、

$$\begin{align*}
d\phi_1&=\frac{1\times i}{R_m}\\\\
&=\frac{i}{\displaystyle{\frac{2\pi x}{\mu_0 dx}}}\\\\
&=\frac{\mu_0 i}{2\pi x}dx ・・・(2)
\end{align*}$$

 

導体の巻回数は$1$とみなせるから、斜線部分における磁束$d\phi_1$は導体の鎖交磁束$d\psi_1[\mathrm{Wb}]$と等しく、$(2)$式より、

$$\begin{align*}
d\psi_1&=1\times d\phi_1\\\\
&=\frac{\mu_0 i}{2\pi x}dx ・・・(3)
\end{align*}$$

 

したがって、外側空間の任意の距離を$D[\mathrm{m}]$とすると、距離$D$までの導体外部における鎖交磁束数$\Psi_1[\mathrm{Wb}]$は、

$$\begin{align*}
\Psi_1&=\int^{D}_{r}d\psi_1\\\\
&=\int^{D}_{r}\frac{\mu_0 i}{2\pi x}dx\\\\
&=\frac{\mu_0 i}{2\pi}\left[\ln x\right]^{D}_{r}\\\\
&=\frac{\mu_0 i}{2\pi}\ln\frac{D}{r} ・・・(4)
\end{align*}$$

 

導体内部の鎖交磁束

次に、電流$i$が導体内部に作り出す磁束が、導体の長さ$1\mathrm{m}$の部分を鎖交する数を求める。

 

図3のように、導体中心から距離$x[\mathrm{m}]\left(<r\right)$にある微小厚さ$dx[\mathrm{m}]$の円筒形の部分(図の斜線部分)を考える。

図3 円筒導体の断面図($x<r$)

 

電流$i$が円筒導体内を一様に流れていると仮定すると、半径$x\left(0\leq x< r\right)$における電流$i_x[\mathrm{A}]$は、

$$\begin{align*}
i_x&=\frac{\pi x^2}{\pi r^2}i\\\\
&=\frac{x^2}{r^2}i ・・・(5)
\end{align*}$$

 

図3の微小厚さ$dx[\mathrm{m}]$の円筒形部分における磁束$d\phi_2[\mathrm{Wb}]$は、$(2)$式の導出と同様の考え方で、$(5)$式より、

$$\begin{align*}
d\phi_2&=\frac{\mu_0 i_x}{2\pi x}dx\\\\
&=\frac{\mu_0}{2\pi x}dx\cdot\frac{x^2}{r^2}i\\\\
&=\frac{\mu_0 ix}{2\pi r^2}dx ・・・(6)
\end{align*}$$

 

導体内部において、$d\phi_2$が鎖交する部分の巻回数は$x$までの断面積に比例して$\displaystyle{\frac{x^2}{r^2}}\left(<1\right)$回と考えることができるので、導体の鎖交磁束数$d\psi_2[\mathrm{Wb}]$は、$(6)$式より、

$$\begin{align*}
d\psi_2&=\frac{\mu_0 ix}{2\pi r^2}dx\times\frac{x^2}{r^2}\\\\
&=\frac{\mu_0 ix^3}{2\pi r^4}dx
\end{align*}$$

 

したがって、導体内部の全鎖交磁束$\Psi_2[\mathrm{Wb}]$は、$(7)$式を$x=0\sim r$の範囲で積分して、

$$\begin{align*}
\Psi_2&=\int^{r}_{0}d\psi_2\\\\
&=\int^{r}_{0}\frac{\mu_0 ix^3}{2\pi r^4}dx\\\\
&=\frac{\mu_0 i}{2\pi r^4}\left[\frac{1}{4}x^4\right]^{r}_{0}\\\\
&=\frac{\mu_0 i}{8\pi} ・・・(8)
\end{align*}$$

 

 

円筒導体の自己インダクタンス

$(4)$および$(8)$式より、円筒導体に流れる電流が作り出す全鎖交磁束$\Psi[\mathrm{Wb}]$は、

$$\begin{align*}
\Psi&=\Psi_1+\Psi_2\\\\
&=\left(\frac{\mu_0}{2\pi}\ln\frac{D}{r}+\frac{\mu_0}{8\pi}\right)i ・・・(9)
\end{align*}$$

 

導体の単位長あたりの自己インダクタンス$L[\mathrm{H/m}]$は、単位電流が流れたときの鎖交磁束に等しいため、$(9)$式より、

$$L=\frac{\Psi}{i}=\frac{\mu_0}{2\pi}\ln\frac{D}{r}+\frac{\mu_0}{8\pi} ・・・(10)$$

 

ここで、透磁率$\mu_0=4\pi\times10^{-7}$,$\log_{10}e=0.43429$を用いると、$(10)$式は、

$$\begin{align*}
L&=\frac{4\pi\times10^{-7}}{2\pi}\cdot\frac{\log_{10}\displaystyle{\frac{D}{r}}}{\log_{10}e}+\frac{4\pi\times10^{-7}}{8\pi}\\\\
&=\frac{2}{0.43429}\times\log_{10}\displaystyle{\frac{D}{r}}\times10^{-7}+0.5\times10^{-7}\\\\
&=\left(0.46052\log_{10}\displaystyle{\frac{D}{r}}+0.05\right)\times10^{-6}[\mathrm{H/m}]\\\\
&=0.46052\log_{10}\displaystyle{\frac{D}{r}}+0.05[\mathrm{mH/km}] ・・・(11)
\end{align*}$$

 

$(11)$式が円筒導体の単位長あたりの自己インダクタンスの一般式である。

 

関連記事

本記事では、往復導体の作用インダクタンスについて記述する。往復導体の諸元図1のように、半径r[m]の円筒状の導体1に電流i[A]が、同様の形状の導体2に逆向きの電流-i[A]が流れている場合を考える。 […]

 

関連する例題(「電験王」へのリンク)

電験二種

 

参考文献

 

著書・製品のご紹介

『書籍×動画』が織り成す、未だかつてない最高の学習体験があなたを待っている!

電験戦士教本

※本ページはプロモーションが含まれています。―『書籍×動画』が織り成す、未だかつてない最高の学習体験があなたを待っている― 当サイト「電気の神髄」をいつもご利用ありがとうございます。管理人の摺り足の加藤です。[…]

 

この講座との出会いは、数学が苦手なあなたを救う!

一般社団法人 建設業教育協会

電験アカデミアにテキストを書き下ろしてもらい、電験どうでしょうの川尻将先生により動画解説を行ない、電験3種受験予定者が電…

 

すべての電験二種受験生の方に向けて「最強の対策教材」作りました!

SAT二種講座

※本ページはプロモーションが含まれています。すべての電験二種受験生の方に向けて「最強の対策教材」作りました! 当サイト「電気の神髄」をいつもご愛読ありがとうございます。管理人の摺り足の加藤です。 […]

 

初学者が躓きがちなギモンを、電験アカデミアがスッキリ解決します!

電験カフェ

※本ページはプロモーションが含まれています。 当サイト「電気の神髄」をいつもご利用ありがとうございます。管理人の摺り足の加藤です。 2022年5月18日、オーム社より「電験カフェへようこそ[…]