支持点脱落前後の電線張力

本記事では、支持点の脱落前後における電線張力の変化について、例題を通じて解説する。

支持点脱落前後の電線張力:例題

出典:電験一種筆記試験「送配電」 平成5年度問1

図1のように送電線路の高低差がなく、径間距離が等しい直線の2径聞の中央の支持物$B$において、電線が支持点を脱落した場合、支持点$A$における脱落後の定常状態での電線張力$T_A$は脱落前の何倍になるか。

ただし、弾性の影響は無視するものとする。

 

図1 径間距離が等しい3点の支持物と電線

 

電線実長の厳密式

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図1の電線$A-B$間において、座標系を設定したものを図2に示す。

 

図2 電線$AB$間の座標系

 

関連記事の$(12)$式に$a=\displaystyle{\frac{T}{W}}$を代入した

$$l=\frac{T}{W}\sinh\left(\frac{W}{T}x\right) ・・・(1)$$

が、$AO$間の電線の実長の式となり、双曲線関数となる。

 

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支持物脱落前の関係式

図2より、$A$点の電線張力の大きさを水平張力$T$および電線重量による荷重$Wl$で表すと、

$$T_A=\sqrt{T^2+\left(Wl\right)^2} ・・・(2)$$

 

また、径間中央の$O$点から$A$点までの水平距離は$\displaystyle{\frac{S}{2}}$であるから、$AO$間の電線実長$l$は$(1)$式より、

$$l=\frac{T}{W}\sinh\left(\frac{W}{T}\times\frac{S}{2}\right) ・・・(3)$$

 

ここで、$AC$間の電線実長を$L$とすると、

$$L=4l=\frac{4T}{W}\sinh\left(\frac{W}{T}\times\frac{S}{2}\right) ・・・(4)$$

 

次に、$(2)$式の$l$に$(3)$式を代入し、$\cosh^2x-\sinh^2x=1$の公式を用いると、

$$\begin{align*}
T_A&=\sqrt{T^2+T^2\left\{\sinh\left(\frac{WS}{2T}\right)\right\}^2}\\\\
&=T\cosh\left(\frac{WS}{2T}\right) ・・・(5)
\end{align*}$$

となり、電線張力$T_A$の式もまた双曲線関数となる。

 

支持物脱落後の関係式

支持物脱落後の水平張力を$T’$とすると、電線実長$L$は$(1)$式より、径間が$2S$となることに注意して、

$$\begin{align*}
\frac{L}{2}&=\frac{T’}{W}\sinh\left(\frac{W}{T’}\times\frac{2S}{2}\right)\\\\
\therefore L&=\frac{2T’}{W}\sinh\left(\frac{WS}{T’}\right) ・・・(6)
\end{align*}$$

 

$(4),\ (6)$式より、

$$\frac{4T}{W}\sinh\left(\frac{WS}{2T}\right)=\frac{2T’}{W}\sinh\left(\frac{WS}{T’}\right)$$

 

双曲線関数の単調性※を考慮して、両辺を比較すると、

$$T’=2T ・・・(7)$$

 

$(5),\ (7)$式より、支持物脱落後の$A$点の電線張力$T’_A$は、

$$\begin{align*}
T’_A&=T’\cosh\left(\frac{W}{T’}\times\frac{2S}{2}\right)\\\\
&=2T\cosh\left(\frac{WS}{2T}\right)=2T_A
\end{align*}$$

となり、脱落後の電線張力は脱落前の2倍となる。

 

※関数の単調性は、厳密には取りうる$x$の範囲における導関数の正負を調べる必要があるが、今回は割愛する。

 

 

近似式を用いた解法

電線の弛度$D$および実長$L$の近似式は、関連記事の$(1),\ (2)$式より、

$$\begin{align*}
D&=\frac{WS^2}{8T} &・・・(8)\\\\
L&=S+\frac{8D^2}{3S} &・・・(9)
\end{align*}$$

 

$(8),\ (9)$式より$D$を消去すると、

$$\begin{align*}
L&=S+\frac{8}{3S}\times\left(\frac{WS^2}{8T}\right)^2\\\\
&=S+\frac{WS^3}{24T^2} ・・・(10)
\end{align*}$$

 

$(10)$式が電線の実長と水平張力の関係式となる。

 

支持点脱落前と脱落後で、実長$L$は変化しないことから、脱落後の水平張力$T’$を求めると、

$$\begin{align*}
2\times\left(S+\frac{WS^3}{24T^2}\right)&=2S+\frac{W(2S)^3}{24T’^2}\\\\
\therefore T’&=2T
\end{align*}$$

 

$A$点の電線張力$T_A$は$(2)$式で表されることから、脱落前後の電線張力の比は、

$$\begin{align*}
\frac{T’_A}{T_A}&=\frac{\sqrt{(2T)^2+\left(WL\right)^2}}{\sqrt{T^2+\left(\displaystyle{\frac{WL}{2}}\right)^2}}\\\\
&=2\frac{\sqrt{T^2+\left(\displaystyle{\frac{WL}{2}}\right)^2}}{\sqrt{T^2+\left(\displaystyle{\frac{WL}{2}}\right)^2}}\\\\
&=2
\end{align*}$$

となり、厳密式の解法の場合と同じ結果が導かれる。

 

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