三相短絡故障計算の例題(四端子定数との複合問題)

本記事では三相短絡時の故障計算について、例題として電験一種の過去問を解いていく。

今回、四端子定数の計算と絡めた問題を選定した。このような融合問題は最近は出題がないが、前半は四端子定数、後半は三相短絡故障計算の基本知識を用いて解くことができる。

三相短絡故障計算:例題

出典:電験一種筆記試験(旧制度)「送配電」平成3年度問1

四端子定数が$\dot{A}=\dot{D}=0.97,\ \dot{B}=j53. 3\ \mathrm{\Omega}$および$\dot{C}=j1. 11\times10^{-3}\ \mathrm{S}$である送電線路の受電端開放中に線路の中央点で三相短絡を生じた場合、短絡点の短絡電流を求めよ。

ただし、三相短絡直前の線路の中央点の電圧は$157.6\ \mathrm{kV}$であり、その他の定数は無視するものとする。

 

四端子定数の導出

送電端から受電端における四端子定数は問題文で与えられており、各地点の電圧・電流をそれぞれ$\dot{V_s},\ \dot{V_r},\ \dot{I_s},\ \dot{I_r}$とすると、

$$\left(\begin{array}{c}\dot{V_s}\\\dot{I_s}\end{array}\right)=\left(\begin{array}{cc}0.97&j53.3\\j1.11\times10^{-3}&0.97\end{array}\right)\left(\begin{array}{c}\dot{V_r}\\\dot{I_r}\end{array}\right) ・・・(1)$$

 

一方、中央点の電圧・電流を$\dot{V_m},\ \dot{I_m}$とすると、送電端から中央点、および中央点から受電端への四端子定数は共通して$\dot{A_m},\ \dot{B_m},\ \dot{C_m},\ \dot{D_m}$で表すことができるとして、

$$\begin{align*} \left(\begin{array}{c}\dot{V_s}\\\dot{I_s}\end{array}\right)&=\left(\begin{array}{cc}\dot{A_m}&\dot{B_m}\\\dot{C_m}&\dot{D_m}\end{array}\right)\left(\begin{array}{c}\dot{V_m}\\\dot{I_m}\end{array}\right) ・・・(2)\\\\\left(\begin{array}{c}\dot{V_m}\\\dot{I_m}\end{array}\right)&=\left(\begin{array}{cc}\dot{A_m}&\dot{B_m}\\\dot{C_m}&\dot{D_m}\end{array}\right)\left(\begin{array}{c}\dot{V_r}\\\dot{I_r}\end{array}\right) ・・・(3) \end{align*}$$

 

$(2)$式の右辺に$(3)$を代入して、

$$\begin{align*} \left(\begin{array}{c}\dot{V_s}\\\dot{I_s}\end{array}\right)&=\left(\begin{array}{cc}\dot{A_m}&\dot{B_m}\\\dot{C_m}&\dot{D_m}\end{array}\right)\left(\begin{array}{cc}\dot{A_m}&\dot{B_m}\\\dot{C_m}&\dot{D_m}\end{array}\right)\left(\begin{array}{c}\dot{V_r}\\\dot{I_r}\end{array}\right)\\\\&=\left(\begin{array}{cc}\dot{A_m}^2+\dot{B_m}\dot{C_m}&\dot{A_m}\dot{B_m}+\dot{B_m}\dot{D_m}\\\dot{A_m}\dot{C_m}+\dot{C_m}\dot{D_m}&\dot{B_m}\dot{C_m}+\dot{D_m}^2\end{array}\right)\left(\begin{array}{c}\dot{V_r}\\\dot{I_r}\end{array}\right) ・・・(4) \end{align*}$$

 

$(1)$式と$(4)$式の右辺を比較すると、

$$\begin{cases}\begin{array}{llll} \dot{A_m}^2+\dot{B_m}\dot{C_m}=\dot{B_m}\dot{C_m}+\dot{D_m}^2=0.97 &・・・(5)\\\dot{A_m}\dot{B_m}+\dot{B_m}\dot{D_m}=j53.3 &・・・(6)\\\dot{A_m}\dot{C_m}+\dot{C_m}\dot{D_m}=j1.11\times10^{-3} &・・・(7)\end{array}\end{cases}$$

 

$(5)$式より、

$$\begin{align*}\dot{A_m}^2&=\dot{D_m}^2\\\therefore\dot{A_m}&=\dot{D_m} ・・・(8)\end{align*}$$

 

$(8)$式を$(6),\ (7)$式に代入すると、

$$\begin{align*}2\dot{A_m}\dot{B_m}&=j53.3 &・・・&(9)\\2\dot{A_m}\dot{C_m}&=j1.11\times10^{-3} &・・・&(10)\end{align*}$$

 

ここで、$\dot{A}\dot{D}-\dot{B}\dot{C}=1$が成り立つため、$\dot{A_m}\dot{D_m}-\dot{B_m}\dot{C_m}=1$も成り立つとすると、$(5),\ (8)$式から$\dot{B_m},\ \dot{C_m},\ \dot{D_m}$を消去して、

$$\begin{align*} \dot{A_m}^2-&(0.97-\dot{A_m}^2)=1\\2\dot{A_m}^2&=1.97\\\therefore\dot{A_m}&=0.9923=\dot{D_m} \end{align*}$$

 

これと$(9),\ (10)$式に代入して、

$$\begin{align*} \dot{B_m}&=\frac{j53.3}{2\times0.9923}=j26.86\\ \dot{C_m}&=\frac{1.11\times10^{-3}}{2\times0.9923}=j5.593\times10^{-4}\\ \end{align*}$$

 

以上をまとめると、

$$\begin{align*} \left(\begin{array}{cc}\dot{A_m}&\dot{B_m}\\\dot{C_m}&\dot{D_m}\end{array}\right)=\left(\begin{array}{cc}0.9923&j26.86\\1.11\times10^{-3}&0.9923\end{array}\right) ・・・(11) \end{align*}$$

 

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三相短絡電流の計算

中央点を電圧の基準とすると、題意から事故発生前は$\dot{V_m}=\displaystyle{\frac{157.6}{\sqrt{3}}\mathrm{kV}},\ \dot{I_r}=0$であり、$(1),\ (3),\ (11)$式から事故発生前の$\dot{V_r},\ \dot{V_s}$を求めると、

$$\begin{align*}\dot{V_r}&=\frac{\dot{V_m}}{\dot{A_m}}= \frac{157.6}{\sqrt{3}\times0.9923}=91.70\ \mathrm{kV}\\\\\dot{V_s}&=\dot{A}\dot{V_r}=0.97\times91.70=88.95\ \mathrm{kV}
\end{align*}$$

 

ここで、送電端から事故点までにおける対称分回路を図1に示す。

 

三相短絡故障時は零相および逆相回路は電気的に接続されず、正相回路のみ考慮すればよい。

事故前の正相電圧は$\dot{V_s}$, 正相インピーダンスは$\dot{Z_1}=\dot{B_m}$であり、これらの値から三相短絡電流$\dot{I_m}=\dot{I_1}$を求めることができる。

 

図1 三相短絡故障時の対称分回路

 

したがって、中央点=事故点における三相短絡電流の大きさは、

$$|\dot{I_m}|=|\dot{I_1}|=\left|\frac{\dot{V_s}}{\dot{B_m}}\right|=3.312→\boldsymbol{\underline {3.31\mathrm{kA}}}$$

 

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