電気影像法とその活用

本記事では、電磁気学における解析手法の一つである電気影像法と、その活用例について解説する。

電気影像法とは

導体などが特殊な形状をしている場合に、本来存在する電荷とは別の仮想的な電荷を設定して、電界などを求める手法を電気影像法(電気鏡像法、または単に影像法)という。

また、このとき設定する仮想電荷を影像電荷という。

 

簡単な例として、図1のように無限に広い電位$0$の接地平面に対し、ある位置に正の点電荷$+q$を置く場合を考える。

 

図1 接地平面と点電荷

 

このとき、電気力線はその性質から、図1のように正電荷から出て接地平面に垂直に入っていく。

これは図2のように、接地平面を基準として、点電荷と線対称になる箇所に負の影像電荷$-q$を置いたときの分布に等しくなる。

 

図2 影像電荷の配置

 

電気力線は、元の電荷$+q$から影像電荷$-q$へと入っていき、接地平面を取り除いたとしても同様の分布になる。

また、図1の接地平面上における任意の点の電界は、図2における元の正電荷$+q$と、影像電荷$-q$がそれぞれ及ぼし合う電界の足し合わせによって求めることができる。

 

なお、電気影像法では、影像電荷の設定の際、次のような境界条件を満足する必要がある。

  • 影像電荷を含むすべての電荷が及ぼす、その境界における電位が一定(接地面であれば$0$)となる。
  • 境界面の垂直方向に入る電気力線(電界)が連続している(誘電体空間の場合は電束密度が連続していると解くこともある)。

 

電気影像法の活用例

実際に電気影像法を用いて、その系における電界等を求める方法を紹介する。

活用法1-誘電体どうしの境界面にある点電荷

図3のように、異なる誘電率$\varepsilon_1,\ \varepsilon_2$の誘電体どうしが平面で接しており、このうち$\varepsilon_1$の誘電体内のある位置に点電荷$q$が存在するとする(ただし、ここでは$\varepsilon_2>\varepsilon_1$であるとする)。

この場合の電気力線は同図のような分布になる。

 

図3 2つの誘電体と点電荷

 

図3の分布は、次の系における分布の足し合わせによって表すことができる。

  • 誘電率が$\varepsilon_1$の無限に広がる誘電体空間に、元の電荷$q$および境界面と対称の位置に影像電荷$q_1$が存在する(電気力線は正電荷$q$から負電荷$q_1$に入る)。
  • 誘電率が$\varepsilon_2$の無限に広がる誘電体空間に、上とは別の影像電荷$q_2$が、元の電荷と同じ位置に存在する($q_2$は正電荷で、電気力線は放射状になる)。

 

上記を図に表したものが図4となる。

なお同図にて、誘電体の境界面に沿って$x$軸を、これに垂直な方向で各電荷を通るように$y$軸を設定し、これらの交点を原点$\mathrm{O}$とする。

また、簡単のため$z=0$の$x-y$平面上で考える。

 

図4 各誘電体空間と影像電荷

 

図4左において、電荷$q$および$q_1$の座標を$(0,a),\ (0,-a)$とすると、空間の任意の点$(x,y)$における電位$V_1$は、

$$\begin{align*}
V_1&=\frac{1}{4\pi\varepsilon_1}\frac{q}{\sqrt{x^2+\left(y-a\right)^2}}+\frac{1}{4\pi\varepsilon_1}\frac{q_1}{\sqrt{x^2+\left(y+a\right)^2}}\\\\
&=\frac{1}{4\pi\varepsilon_1}\left\{\frac{q}{\sqrt{x^2+\left(y-a\right)^2}}+\frac{q_1}{\sqrt{x^2+\left(y+a\right)^2}}\right\} ・・・(1)
\end{align*}$$

 

次に、図4右において、空間の任意の点$(x,y)$における電位$V_2$は、

$$V_2=\frac{1}{4\pi\varepsilon_2}\frac{q_2}{\sqrt{x^2+\left(y-a\right)^2}} ・・・(2)$$

 

また、各誘電体空間における電束密度の$y$軸方向成分$D_{1y},\ D_{2y}$は、$(1),\ (2)$式より、

$$\begin{align*}
D_{1y}&=-\varepsilon_1\frac{\partial V_1}{\partial y}\\\\
&=-\frac{1}{4\pi}\frac{\partial}{\partial y}\left[\frac{q}{\sqrt{x^2+\left(y-a\right)^2}}+\frac{q_1}{\sqrt{x^2+\left(y+a\right)^2}}\right]\\\\
&=\frac{1}{4\pi}\left[\frac{\displaystyle{\frac{1}{2}}\left\{x^2+\left(y-a\right)^2\right\}^{-\frac{1}{2}}\cdot2(y-a)q}{x^2+\left(y-a\right)^2}+\frac{\displaystyle{\frac{1}{2}}\left\{x^2+\left(y+a\right)^2\right\}^{-\frac{1}{2}}\cdot2(y+a)q_1}{x^2+\left(y+a\right)^2}\right]\\\\
&=\frac{1}{4\pi}\left[\frac{(y-a)q}{\left\{x^2+\left(y-a\right)^2\right\}^\frac{3}{2}}+\frac{(y+a)q_1}{\left\{x^2+\left(y+a\right)^2\right\}^\frac{3}{2}}\right] ・・・(3)\\\\\\\\
D_{2y}&=-\varepsilon_2\frac{\partial V_2}{\partial y}\\\\
&=-\frac{1}{4\pi}\frac{\partial}{\partial y}\left[\frac{q_2}{\sqrt{x^2+\left(y-a\right)^2}}\right]\\\\
&=\frac{1}{4\pi}\left[\frac{\displaystyle{\frac{1}{2}}\left\{x^2+\left(y-a\right)^2\right\}^{-\frac{1}{2}}\cdot2(y-a)q_2}{x^2+\left(y-a\right)^2}\right]\\\\
&=\frac{1}{4\pi}\frac{(y-a)q_2}{\left\{x^2+\left(y-a\right)^2\right\}^\frac{3}{2}} ・・・(4)
\end{align*}$$

 

境界条件として、誘電体どうしの接合面上の$y=0$で$V_1=V_2,\ D_{1y}=D_{2y}$であることを考えると、

$$\begin{align*}
\frac{1}{4\pi\varepsilon_1}\left(\frac{q}{\sqrt{x^2+a^2}}+\frac{q_1}{\sqrt{x^2+a^2}}\right)&=\frac{1}{4\pi\varepsilon_2}\frac{q_2}{\sqrt{x^2+a^2}}\\\\
\therefore\frac{q+q_1}{\varepsilon_1}&=\frac{q_2}{\varepsilon_2} ・・・(5)
\end{align*}$$

 

$$\begin{align*}
\frac{1}{4\pi}\left\{-\frac{aq}{\left(x^2+a^2\right)^\frac{3}{2}}+\frac{aq_1}{\left(x^2+a^2\right)^\frac{3}{2}}\right\}&=-\frac{1}{4\pi}\frac{aq_2}{\left(x^2+a^2\right)^\frac{3}{2}}\\\\
\therefore q-q_1&=q_2 ・・・(6)
\end{align*}$$

 

$(5),\ (6)$式より、誘電体$\varepsilon_1$の空間における影像電荷$q_1$を求めると、

$$\begin{align*}
\frac{q+q_1}{\varepsilon_1}&=\frac{q-q_1}{\varepsilon_2}\\\\
\varepsilon_2\left(q+q_1\right)&=\varepsilon_1\left(q-q_1\right)\\\\
\therefore q_1&=-\frac{\varepsilon_2-\varepsilon_1}{\varepsilon_2+\varepsilon_1}q ・・・(7)
\end{align*}$$

 

また、$(6),\ (7)$式を用いて、誘電体$\varepsilon_2$の空間における影像電荷$q_2$を求めると、

$$\begin{align*}
q_2&=q+\frac{\varepsilon_2-\varepsilon_1}{\varepsilon_2+\varepsilon_1}q\\\\
&=\frac{2\varepsilon_2}{\varepsilon_2+\varepsilon_1}q ・・・(8)
\end{align*}$$

 

$(7),\ (8)$式で示される影像電荷$q_1,\ q_2$を置くことにより、図3の各誘電体における任意の点の電界や、電気力線の分布を求めることができる。

 

 

活用法2-接地導体の角にある点電荷

図5のように、真空中において接地された継ぎ合わせの導体板の角部付近に、正の点電荷$+q$が存在する場合を考える。

導体板と点電荷からの距離は、同図のように$a,\ b$とする。

 

図5 接地導体の角にある点電荷

 

まず、図6のように導体板に沿うように$x,\ y$軸を設定し、角部を原点$\mathrm{O}$とおく。

そして、点電荷$+q$から各軸対称の位置に影像電荷$-q$,点対称の位置に影像電荷$+q$を配置する。

 

図6 影像電荷の設定

 

図4において、$x-y$平面上のある点$\mathrm{P}\left(x,y,0\right)$と各電荷との距離を$r,\ r_1,\ r_2,\ r_3$とすると、その電位$V$は、

$$V=\frac{q}{4\pi\varepsilon_0}\left(\frac{1}{r}-\frac{1}{r_1}+\frac{1}{r_2}-\frac{1}{r_3}\right) ・・・(9)$$

 

ただし、

$$\begin{cases}
r=\sqrt{\left(x-a\right)^2+\left(y-b\right)^2}\\\\
r_1=\sqrt{\left(x+a\right)^2+\left(y-b\right)^2}\\\\
r_2=\sqrt{\left(x+a\right)^2+\left(y+b\right)^2}\\\\
r_3=\sqrt{\left(x-a\right)^2+\left(y+b\right)^2}
\end{cases}$$

 

ここで、図6の$y$軸上、すなわち$x=0$のとき、各距離の関係は、

$$\begin{align*}
r=r_1&=\sqrt{a^2+\left(y-b\right)^2}\\\\
r_2=r_3&=\sqrt{a^2+\left(y+b\right)^2}
\end{align*}$$

 

このとき、$(9)$式より点$\mathrm{P}$の電位は$V=0$となり、接地された導体板の境界条件を満たしている。

 

また、図6の$x$軸上、すなわち$y=0$のとき、

$$\begin{align*}
r=r_3&=\sqrt{\left(x-a\right)^2+b^2}\\\\
r_1=r_2&=\sqrt{\left(x+a\right)^2+b^2}
\end{align*}$$

 

このとき、$(9)$式より電位$V=0$となり、接地された導体板の境界条件を満たしている。

 

さらに、点$\mathrm{P}$の各軸方向の電界の大きさ$E_x,\ E_y$は、

$$\begin{align*}
E_x&=-\frac{\partial V}{\partial x}\\\\
&=\frac{q}{4\varepsilon_0\pi}\left(\frac{x-a}{r^3}-\frac{x+a}{r^3_1}+\frac{x+a}{r^3_2}-\frac{x-a}{r^3_3}\right) ・・・(10)\\\\\\\\
E_y&=-\frac{\partial V}{\partial y}\\\\
&=\frac{q}{4\varepsilon_0\pi}\left(\frac{y-b}{r^3}-\frac{y-b}{r^3_1}+\frac{y+b}{r^3_2}-\frac{y+b}{r^3_3}\right) ・・・(11)
\end{align*}$$

 

$x,\ y$軸方向の電束密度の法線成分=$x,\ y$軸上に誘起される誘導電荷密度$\sigma_x, \sigma_y$は、$(10),\ (11)$式において$x=0$で$r=r_1,\ r_2=r_3$,$y=0$で$r=r_3,\ r_1=r_2$であることを利用して、

$$\begin{align*}
\sigma_x&=\left.\varepsilon_0\left(-\frac{\partial V}{\partial y}\right)\right|_{y=0}\\\\
&=\left.\frac{q}{4\pi}\left(\frac{y-b}{r^3}-\frac{y-b}{r^3_1}+\frac{y+b}{r^3_2}-\frac{y+b}{r^3_3}\right)\right|_{y=0}\\\\
&=\frac{q}{4\pi}\left(\frac{0-b}{r^3}-\frac{0-b}{r^3_1}+\frac{0+b}{r^3_1}-\frac{0+b}{r^3}\right)\\\\
&=-\frac{bq}{2\pi}\left[\frac{1}{\left\{\left(x-a\right)^2+b^2\right\}^\frac{3}{2}}-\frac{1}{\left\{\left(x+a\right)^2+b^2\right\}^\frac{3}{2}}\right] ・・・(12)\\\\\\\\
\sigma_y&=\left.\varepsilon_0\left(-\frac{\partial V}{\partial x}\right)\right|_{x=0}\\\\
&=\left.\frac{q}{4\pi}\left(\frac{x-a}{r^3}-\frac{x+a}{r^3_1}+\frac{x+a}{r^3_2}-\frac{x-a}{r^3_3}\right)\right|_{x=0}\\\\
&=\frac{q}{4\pi}\left(\frac{0-a}{r^3}-\frac{0+a}{r^3}+\frac{0+a}{r^3_2}-\frac{0-a}{r^3_2}\right)\\\\
&=-\frac{aq}{2\pi}\left[\frac{1}{\left\{a^2+\left(y-b\right)^2\right\}^\frac{3}{2}}-\frac{1}{\left\{a^2+\left(y+b\right)^2\right\}^\frac{3}{2}}\right] ・・・(13)
\end{align*}$$

 

以上より、導体板を取り去る代わりに影像電荷を図6のように設定することで、$(10)\sim(13)$式で表されるような、図5の任意の点(図6の第一象限)における電界や、板上の誘導電荷密度を求めることができる。

 

活用法3-接地された導体球と点電荷

前項までは「平面と電荷」という組み合わせであったが、影像法を適用できる場面はこれ以外にもある。

 

図7のように、真空中に接地された導体球があり、その中心から距離の位置に置かれた点電荷$q$からの電気力線分布を求めたい。

同図の場合、球導体は接地されているので、その表面を境界面とみなして、点電荷の境界面に対して反対側、すなわち球の内側に影像電荷を設定する。

今回は簡単のため、導体球の中心$\mathrm{O}$と点電荷を置いた点$\mathrm{A}$を結んだ線上にある点$\mathrm{B}$に、影像電荷$q_1$を置く。

 

図7 接地された導体球と点電荷

 

このとき、境界面である導体表面の任意の点$\mathrm{C}$の電位が$0$になることから、点$\mathrm{C}$の点$\mathrm{A}$および$\mathrm{B}$からの距離を$r_1,\ r_2$とすると、表面の電位の式は、

$$\begin{align*}
\frac{q}{4\pi\varepsilon_0r_1}+\frac{q_1}{4\pi\varepsilon_0r_2}&=0\\\\
\therefore q_1&=-\frac{r_2}{r_1}q ・・・(14)
\end{align*}$$

 

ここで、$\angle\mathrm{AOC}=\theta$として、$r_1$および$r_2$を余弦定理を用いて求めると、

$$\begin{cases}
r_1&=\sqrt{a^2+d^2-2ad\cos\theta}\\\\
r_2&=\sqrt{a^2+x^2-2ax\cos\theta⁡}
\end{cases} ・・・(15)$$

 

任意の$\theta$のときに表面電位は$0$になるから、例えば$\theta=0\rightarrow\cos\theta=1$のときの$r_1$および$r_2$は、$(15)$式より、

$$\begin{align*}
r_1&=\sqrt{a^2+d^2-2ad}\\\\
&=\sqrt{\left(d-a\right)^2}\\\\
&=d-a
\end{align*}$$

$$\begin{align*}
r_2&=\sqrt{a^2+x^2-2ax}\\\\
&=\sqrt{\left(a-x\right)^2}\\\\
&=a-x
\end{align*}$$

 

また、例えば$\theta=\pi\rightarrow\cos\theta=-1$のとき、$r_1$および$r_2$は、$(15)$式より、

$$\begin{align*}
r_1&=\sqrt{a^2+d^2+2ad}\\\\
&=\sqrt{\left(d+a\right)^2}\\\\
&=d+a
\end{align*}$$

$$\begin{align*}
r_2&=\sqrt{a^2+x^2+2ax}\\\\
&=\sqrt{\left(a+x\right)^2}\\\\
&=a+x
\end{align*}$$

 

これらの値を$(14)$式に代入すると、上記を満たす$x$は、

$$\begin{align*}
-\frac{a+x}{d+a}q&=-\frac{a-x}{d-a}q\\\\
\left(a+x\right)\left(d-a\right)&=\left(a-x\right)\left(d+a\right)\\\\
-a^2+\left(d-x\right)a+xd&=a^2+\left(d-x\right)a-xd\\\\
2xd&=2a^2\\\\
\therefore x&=\frac{a^2}{d} ・・・(16)
\end{align*}$$

 

すなわち、導体球の中心$\mathrm{O}$から$(16)$式で求められる距離$x$の位置に影像電荷$q_1$を置くことによって、接地された導体球を取り除いたとしても電気力線の分布は変わらないことになる。

 

影像電荷の設定により、点電荷$q$による図7の任意の点の電界について、より簡単に求めることができる。

このとき、導体球を取り去った後の電気力線の分布を図8に示す。

 

図8 導体球を取り去った後の電気力線分布

 

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