分布定数回路(Distributed constant circuit)とは、回路素子が空間的に分布している電気回路のことをいう(対義語は集中定数回路)。
本記事では、分布定数回路の式を導入し、回路の電圧・電流がどのような挙動を示すかを導く。
分布定数回路の基礎方程式
図1に送電線の分布定数回路を示す。
図1 送電線の分布定数回路
図1において、送電線のある点から距離$x$の点における電圧および電流を$v(x,t),\ i(x,t)$とすると、微小区間$\Delta x$における電圧と電流の関係式は、
$\begin{cases}
v(x,t)-v(x+\Delta x,t)=L\Delta x\cdot\displaystyle{\frac{\partial i(x,t)}{\partial t}}+R\Delta x\cdot i(x,t) &・・・(1)\\\\
i(x,t)-i(x+\Delta x,t)=C\Delta x\cdot\displaystyle{\frac{\partial v(x,t)}{\partial t}}+G\Delta x\cdot v(x,t) &・・・(2)
\end{cases}$
$(1),\ (2)$式の両辺を$\Delta x$で割ると、
$\begin{cases}
\displaystyle{\frac{v(x,t)-v(x+\Delta x,t)}{\Delta x}}=L\displaystyle{\frac{\partial i(x,t)}{\partial t}}+Ri(x,t) &・・・(3)\\\\
\displaystyle{\frac{i(x,t)-i(x+\Delta x,t)}{\Delta x}}=C\displaystyle{\frac{\partial v(x,t)}{\partial t}}+Gv(x,t) &・・・(4)
\end{cases}$
$(3),\ (4)$式について、$\Delta x\rightarrow 0$とすれば、
$\begin{cases}
-\displaystyle{\frac{\partial v(x,t)}{\partial x}}=L\displaystyle{\frac{\partial i(x,t)}{\partial t}}+Ri(x,t) &・・・(5)\\\\
-\displaystyle{\frac{\partial i(x,t)}{\partial x}}=C\displaystyle{\frac{\partial v(x,t)}{\partial t}}+Gv(x,t) &・・・(6)
\end{cases}$
$(5),\ (6)$式は分布定数回路の基礎方程式となる。
電信方程式
$(5),\ (6)$式の両辺を$x$および$t$で微分すると、
$\begin{cases}
-\displaystyle{\frac{\partial^2 v(x,t)}{\partial x^2}}=L\displaystyle{\frac{\partial^2 i(x,t)}{\partial x\partial t}}+R\frac{\partial i(x,t)}{\partial x} &・・・(7)\\\\
-\displaystyle{\frac{\partial^2 i(x,t)}{\partial x^2}}=C\displaystyle{\frac{\partial^2 v(x,t)}{\partial x\partial t}}+G\frac{\partial v(x,t)}{\partial x} &・・・(8)
\end{cases}$
$\begin{cases}
-\displaystyle{\frac{\partial^2 v(x,t)}{\partial x\partial t}}=L\displaystyle{\frac{\partial^2 i(x,t)}{\partial t^2}}+R\frac{\partial i(x,t)}{\partial t} &・・・(9)\\\\
-\displaystyle{\frac{\partial^2 i(x,t)}{\partial x\partial t}}=C\displaystyle{\frac{\partial^2 v(x,t)}{\partial t^2}}+G\frac{\partial v(x,t)}{\partial t} &・・・(10)
\end{cases}$
$(7)$と$(10)$式、 および$(8)$と$(9)$式で、それぞれ$\displaystyle{\frac{\partial^2 i(x,t)}{\partial x\partial t}},\ \displaystyle{\frac{\partial^2 v(x,t)}{\partial x\partial t}}$を消去すると、
$\begin{cases}
-\displaystyle{\frac{\partial^2 v(x,t)}{\partial x^2}}=-LC\displaystyle{\frac{\partial^2 v(x,t)}{\partial t^2}}-LG\frac{\partial v(x,t)}{\partial t}+R\frac{\partial i(x,t)}{\partial x} &・・・(11)\\\\
-\displaystyle{\frac{\partial^2 i(x,t)}{\partial x^2}}=-LC\displaystyle{\frac{\partial^2 i(x,t)}{\partial t^2}}-CR\frac{\partial i(x,t)}{\partial t}+G\frac{\partial v(x,t)}{\partial x} &・・・(12)
\end{cases}$
さらに、$(11)$に$(6)$式、$(12)$に$(5)$式を代入して、それぞれ$\displaystyle{\frac{\partial i(x,t)}{\partial x}},\ \displaystyle{\frac{\partial v(x,t)}{\partial x}}$を消去し、両辺に$-1$をかけると、
$\begin{cases}
\displaystyle{\frac{\partial^2 v(x,t)}{\partial x^2}}=LC\displaystyle{\frac{\partial^2 v(x,t)}{\partial t^2}}+(LG+CR)\frac{\partial v(x,t)}{\partial t}+RGv(x,t) &・・・(13)\\\\
\displaystyle{\frac{\partial^2 i(x,t)}{\partial x^2}}=LC\displaystyle{\frac{\partial^2 i(x,t)}{\partial t^2}}+(LG+CR)\frac{\partial i(x,t)}{\partial t}+RGi(x,t) &・・・(14)
\end{cases}$
$(13),\ (14)$式はそれぞれ$v(x,t),\ i(x,t)$のみを含んだ式となり、歴史的に有線通信用ケーブルの理論において最初に導入されたことから、電信方程式という。
無損失線路における電圧・電流
図1の送電線の分布定数回路において、$R=G=0$が成立する場合、その線路を無損失線路という。
無損失回路における電圧$v(x,t)$および電流$i(x,t)$は、
$$\begin{cases}
v(x,t)=v_1\left(x-ut\right)+v_2\left(x+ut\right) &・・・(15)\\\\
i(x,t)=\displaystyle{\frac{1}{Z_0}}\left\{v_1\left(x-ut\right)-v_2\left(x+ut\right)\right\} &・・・(16)
\end{cases}$$
ただし、
$$Z_0=\displaystyle{\sqrt{\frac{L}{C}}},\ u=\frac{1}{\sqrt{LC}}$$
$Z_0$はサージインピーダンスという。また$u$は速度を表す。
分布定数回路において、$R=G=0$が成立する場合、その回路は無損失線路という。本記事では、無損失線路における電圧・電流の式を導く。電信方程式からの導出図1に送電線の分布定数回路を示す。 […]
$(15),\ (16)$式より、無損失線路における電圧は、図2のように距離$x$に沿って速度$u$で進む進行波(前進波)と、同じく速度$u$で逆方向に進む進行波(後進波)が重畳する形で表すことができる。
図2 送電線の進行波(電圧)
電流についても図3のように前進波と後進波の重畳となるが、後進波の符号が逆となる。
図3 送電線の進行波(電流)
無ひずみ線路における電圧・電流
図1の送電線の分布定数回路において、回路定数$L,\ R,\ C,\ G$に次の関係がある線路を無ひずみ線路という。
$$\frac{R}{L}=\frac{G}{C}=\alpha ・・・(17)$$
無ひずみ線路における電圧$v(x,t)$および電流$i(x,t)$は、
$$\begin{cases}
v(x,t)=e^{-\alpha t}\left\{v_1\left(x-ut\right)+v_2\left(x+ut\right)\right\} &・・・(18)\\\\
i(x,t)=\displaystyle\frac{e^{-\alpha t}}{Z_0}\left\{v_1\left(x-ut\right)-v_2\left(x+ut\right)\right\} &・・・(19)
\end{cases}$$
ただし、
$$Z_0=\displaystyle{\sqrt{\frac{L}{C}}},\ u=\frac{1}{\sqrt{LC}}$$
分布定数回路で表される線路のうち、減衰のようすが周波数に無関係となり、ひずみを生じない線路を無ひずみ線路(Distortionless line)という。本記事では、無ひずみ線路における電圧・電流の式を導く。無ひずみ線路[…]
$(18),\ (19)$式より、無ひずみ線路における電圧・電流は、距離$x$に沿って速度$u$で進む進行波(前進波)と、同じく速度$u$で逆方向に進む進行波(後進波)が重畳する形となり、かつ減衰項$e^{-\alpha t}$により減衰しながら伝搬していく波形として表すことができる(電流については、後進波の符号が逆となる)。
任意の回路における電圧・電流
前項までの回路定数の条件によらず、任意の分布定数回路における電圧・電流の一般式は、ラプラス変換後の$s$領域における式で表すと、
$$\begin{cases}
V(x,s)=\cosh\gamma(s)x\cdot V(0,s)-\sinh\gamma(s)x\cdot Z_0(s)I(0,s) &・・・(20)\\\\
I(x,s)=-\displaystyle\frac{1}{Z_0(s)}\sinh\gamma(s)x\cdot V(0,s)+\cosh\gamma(s)x\cdot I(0,s) &・・・(21)
\end{cases}$$
行列表記にすると、
$$\left(\begin{array}{c} V(x,s) \\ I(x,s) \end{array}\right)=\left(\begin{array}{cc} \cosh\gamma(s)x & -Z_0(s)\sinh\gamma(s)x \\ -\displaystyle{\frac{1}{Z_0(s)}}\sinh\gamma(s)x & \cosh\gamma(s)x \end{array}\right)\left(\begin{array}{c} V(0,s) \\ I(0,s) \end{array}\right) ・・・(22)$$
ただし、$V(0,s),\ I(0,s)$は$x=0$における電圧・電流の値であり、
$$\begin{cases}
\gamma(s)=\sqrt{\left(Ls+R\right)\left(Cs+G\right)}\\\\
Z_0(s)=\displaystyle{\sqrt{\frac{Ls+R}{Cs+G}}}
\end{cases}$$
なお、時間$t$の領域における電圧・電流は、
$$v(x,t)=\mathcal{L}^{-1}\left\{V(x,s)\right\},\ i(x,t)=\mathcal{L}^{-1}\left\{I(x,s)\right\}$$
で求められる。
本記事では、任意の分布定数回路における電圧・電流について、四端子定数を用いた式として導出する。基礎方程式のラプラス変換図1の送電線の分布定数回路における基礎方程式は、分布定数回路の記事の$(5)$,$(6)$式より、[…]
著書・製品のご紹介
『書籍×動画』が織り成す、未だかつてない最高の学習体験があなたを待っている!
※本ページはプロモーションが含まれています。―『書籍×動画』が織り成す、未だかつてない最高の学習体験があなたを待っている― 当サイト「電気の神髄」をいつもご利用ありがとうございます。管理人の摺り足の加藤です。[…]
この講座との出会いは、数学が苦手なあなたを救う!
電験アカデミアにテキストを書き下ろしてもらい、電験どうでしょうの川尻将先生により動画解説を行ない、電験3種受験予定者が電…
すべての電験二種受験生の方に向けて「最強の対策教材」作りました!
※本ページはプロモーションが含まれています。すべての電験二種受験生の方に向けて「最強の対策教材」作りました! 当サイト「電気の神髄」をいつもご愛読ありがとうございます。管理人の摺り足の加藤です。 […]
初学者が躓きがちなギモンを、電験アカデミアがスッキリ解決します!
※本ページはプロモーションが含まれています。 当サイト「電気の神髄」をいつもご利用ありがとうございます。管理人の摺り足の加藤です。 2022年5月18日、オーム社より「電験カフェへようこそ[…]