対称座標法における正相成分と逆相成分

零相成分の正体」の記事で、不平衡かつベクトル和がゼロでない(閉じていない) 三相電気量$\dot{V_a},\dot{V_b},\dot{V_c}$は、図6のように不平衡かつベクトル和がゼロである三相ベクトル $\dot{V’_a},\dot{V’_b},\dot{V’_c}$+同一の大きさおよび向きの三相ベクトル(零相成分$\dot{V_0}$)に分解できることを示した。

図6  「不平衡かつベクトル和がゼロでない三相ベクトル」と「零相ベクトル」の関係


零相成分についての考察はこちら↓

関連記事

下図のように、不平衡かつベクトル和がゼロでない(閉じていない) 三相電気量(図1の場合は電圧) がある。対称座標法を用いれば、このような任意の三相電気量($a-b-c$ 領域)は、零相・正相・逆相成分($0-1-2$ 領域)に分解できる[…]

スポンサーリンク

正相成分$\dot{V_1}$

三相ベクトルの三分割

次のステップとして、零相成分を取り除いた不平衡かつベクトル和がゼロである三相ベクトル、図7の$\dot{V’_a},\dot{V’_b},\dot{V’_c}$について考える。

図7  不平衡かつベクトル和がゼロである三相ベクトル

この三相ベクトルについて、それぞれ3分割すると図8のようになる。

図8  不平衡かつベクトル和がゼロである三相ベクトル(1/3ずつに分解)

各ベクトルの置き換え

ここで、図8のうち3つの$\displaystyle{\frac{1}{3}\dot{V’_a}}$について考えてみる。

まず、$\dot{V’_a},\dot{V’_b},\dot{V’_c}$はベクトル和がゼロ、すなわち $\dot{V’_a}+\dot{V’_b}+\dot{V’_c}=0$であることから、図9のように$\displaystyle{\frac{1}{3}\dot{V’_a}= -\frac{1}{3}\dot{V’_b}- \frac{1}{3}\dot{V’_c} }$と置き換えることができる。

図9  ベクトルの置き換え①

次に、120°回転させる作用をもつベクトルオペレータ$a$について、$1+a^2+a=0⇒-1=a^2+a$であることから、 図9の $\displaystyle{-\frac{1}{3}\dot{V’_b}}$, $\displaystyle{-\frac{1}{3}\dot{V’_c}}$について、図10のように$\displaystyle{-\frac{1}{3}\dot{V’_b}= \frac{1}{3}a^2\dot{V’_b} +\frac{1}{3}a\dot{V’_b} }$, $\displaystyle{-\frac{1}{3}\dot{V’_c}= \frac{1}{3}a^2\dot{V’_c} +\frac{1}{3}a\dot{V’_c} }$と置き換えることができる。

図10  ベクトルの置き換え②

上記の操作をまとめると、結局、3つの$\displaystyle{\frac{1}{3}\dot{V’_a}}$は(1)式および図11のように置き換えることができる。

$$\displaystyle{3×\frac{1}{3}\dot{V’_a}=\frac{1}{3}(\dot{V’_a}+a\dot{V’_b}+a^2\dot{V’_c})+\frac{1}{3}(\dot{V’_a}+a^2\dot{V’_b}+a\dot{V’_c}) } ・・・(1)$$

 

図11 $\dot{V’_a}$の置き換え

$\dot{V’_b}$および$ \dot{V’_c} $についても同様の操作を行った結果を(2), (3)式および図12, 図13に示す。

$$\displaystyle{3×\frac{1}{3}\dot{V’_b}=\frac{1}{3}(a^2\dot{V’_a}+\dot{V’_b}+a\dot{V’_c})+\frac{1}{3}(a\dot{V’_a}+\dot{V’_b}+a^2\dot{V’_c}) } ・・・(2)$$

図12 $\dot{V’_b}$の置き換え

$$\displaystyle{3×\frac{1}{3}\dot{V’_c}=\frac{1}{3}(a\dot{V’_a}+a^2\dot{V’_b}+\dot{V’_c})+\frac{1}{3}(a^2\dot{V’_a}+a\dot{V’_b}+\dot{V’_c}) } ・・・(3)$$

図13 $\dot{V’_c}$の置き換え

正相ベクトルの生成

次に、図11~13の置き換え後のベクトルのうち、左側のグループ(これらのベクトルはちょうど同じような方向を向いているベクトルの組み合わせになっている)について合成する。

この合成後のベクトルを正相ベクトル$\dot{V_1}$として定義し、式で表すと、

$$\dot{V_1}=\displaystyle{\frac{1}{3}(\dot{V’_a}+a\dot{V’_b}+a^2\dot{V’_c})} ・・・(4)$$

となる。(4)式を用いると、(1)~(3)式の第1項はすべて$\dot{V_1}$およびその回転ベクトルで示すことができる。これを図で表すと図14となる。

$\displaystyle{    \frac{1}{3}(\dot{V’_a}+a\dot{V’_b}+a^2\dot{V’_c})=\dot{V_1}\\
    \frac{1}{3}(a^2\dot{V’_a}+\dot{V’_b}+a\dot{V’_c})=\frac{1}{3}a^2(\dot{V’_a}+a\dot{V’_b}+a^2\dot{V’_c})=a^2\dot{V_1}\\
    \frac{1}{3}(a\dot{V’_a}+a^2\dot{V’_b}+\dot{V’_c})= \frac{1}{3}a(\dot{V’_a}+a\dot{V’_b}+a^2\dot{V’_c})=a\dot{V_1}}$

 

図14 正相ベクトルの生成

図14を見ると明らかなように、この$\dot{V_1}$およびその回転ベクトルの組み合わせは平衡かつベクトル和がゼロである三相ベクトルである。

すなわち(現時点では)、不平衡かつベクトル和がゼロである三相ベクトル $\dot{V’_a},\dot{V’_b},\dot{V’_c}$
平衡かつベクトル和がゼロである三相ベクトル(正相成分$\dot{V_1}$)???といえる。

スポンサーリンク

逆相成分$\dot{V_2}$

「足し合わせるベクトル」の条件とは

図11~13の右側のグループがまだ残っているが、その前に平衡かつベクトル和がゼロである三相ベクトルに何を足し合わせれば不平衡かつベクトル和がゼロである三相ベクトルになるのかを考えてみる。

(1)合成後のベクトル和がゼロである条件を崩さないためには、足し合わせる三相ベクトルもベクトル和がゼロである必要がある。

(2)合成後の三相ベクトルが不平衡である条件を崩さないためには、足し合わせる三相ベクトルは平衡ではあるが、足される側の三相ベクトルと相回転が逆である必要がある。なぜならば相回転が同じだと、合成したベクトルは平衡してしまうからである。

(1)(2)の条件を同時に満たすベクトルとは、
「平衡かつベクトル和がゼロであり、さらに足される側の『平衡かつベクトル和がゼロである三相ベクトル 』とは相回転が異なるベクトル
ということになる。

逆相ベクトルの生成

それでは、図11~13の置き換え後のベクトルのうち、右側のグループを合成する。

この合成後のベクトルを逆相ベクトル$\dot{V_2}$として定義し、式で表すと、

$$\dot{V_2}=\displaystyle{\frac{1}{3}(\dot{V’_a}+a^2\dot{V’_b}+a\dot{V’_c})} ・・・(5)$$

となる。(5)式を用いると、(1)~(3)式の第2項はすべて$\dot{V_2}$およびその回転ベクトルで示すことができる。これを図で表すと図15となる。

$\displaystyle{    \frac{1}{3}(\dot{V’_a}+a^2\dot{V’_b}+a\dot{V’_c})=\dot{V_2}\\
    \frac{1}{3}(a\dot{V’_a}+\dot{V’_b}+a^2\dot{V’_c})=\frac{1}{3}a(\dot{V’_a}+a^2\dot{V’_b}+a\dot{V’_c})=a\dot{V_2}\\
    \frac{1}{3}(a^2\dot{V’_a}+a\dot{V’_b}+\dot{V’_c})= \frac{1}{3}a^2(\dot{V’_a}+a^2\dot{V’_b}+a\dot{V’_c})=a^2\dot{V_2}}$

 

図15 逆相ベクトルの生成

図15より、$\dot{V_2}$およびその回転ベクトルの組み合わせは、明らかに「平衡かつベクトル和がゼロであり、さらに足される側の『平衡かつベクトル和がゼロである三相ベクトル』とは相回転が異なるベクトルの条件を満たしていると言える。

まとめ ~零相・正相・逆相成分の合成~

ここまでの検討より、(1)~(3)式は$\dot{V_1}$および$\dot{V_2}$で置き換えることができて、

$$\dot{V’_a}=\dot{V_1}+\dot{V_2}  ・・・(1)’\\
\dot{V’_b}=a^2\dot{V_1}+a\dot{V_2}  ・・・(2)’ \\
\dot{V’_c}=a\dot{V_1}+a^2\dot{V_2}  ・・・(3)’ $$

(1)’~(3)’より、$\dot{V’_a},\dot{V’_b},\dot{V’_c}$を$\dot{V_1}$および$\dot{V_2}$で表すと、図16のようになる。

図16 正相ベクトルと逆相ベクトルの合成結果

今回の考察をまとめると、
不平衡かつベクトル和がゼロである三相ベクトル$\dot{V’_a},\dot{V’_b},\dot{V’_c}$
平衡かつベクトル和がゼロである三相ベクトル(正相成分$\dot{V_1}$)
平衡かつベクトル和がゼロであり、さらに上記とは相回転が異なる三相ベクトル(逆相成分$\dot{V_2}$)

結局、記事①と組み合わせた結論としては、

不平衡かつベクトル和がゼロでない三相ベクトル $\dot{V_a},\dot{V_b},\dot{V_c}$
同一の大きさおよび向きの三相ベクトル(零相成分$\dot{V_0}$)
+平衡かつベクトル和がゼロである三相ベクトル(正相成分$\dot{V_1}$)
平衡かつベクトル和がゼロであり、かつ上記とは相回転が異なる三相ベクトル(逆相成分$\dot{V_2}$)

なお、$\dot{V_0}$, $\dot{V_1}$, $\dot{V_2}$の定義式は(詳細な式の導出は記事③参照)、
$$\dot{V_0}=\frac{1}{3}(\dot{V_a}+\dot{V_b}+\dot{V_c})\\
\dot{V_1}=\frac{1}{3}( \dot{V_a} +a \dot{V_b} +a^2 \dot{V_c} )\\
\dot{V_2}=\frac{1}{3}( \dot{V_a} +a^2 \dot{V_b} +a \dot{V_c})$$

最後に、各成分をすべて合成すると図17のようになる。
同図より、任意の三相電気量 $\dot{V_a},\dot{V_b},\dot{V_c}$ は各成分の合成になっていることが分かる。

図17 零相・正相・逆相ベクトルの合成結果

なお、今回の考察は電圧ベクトルについて行ったが、電流ベクトルについても同様のことが言える。


対称座標法変換の基本式はこちら↓

関連記事

「零相成分の正体」および「正相成分と逆相成分」にて、任意の三相電気量($a-b-c$領域)の零相・正相・逆相成分($0-1-2$領域)への変換の仕組みについて感覚的な導入を行った。本記事では実際の計算で使用する「$0-1-2$変換」の基[…]

スポンサーリンク