単巻変圧器の特徴

本記事では、単巻変圧器の構造と特徴について解説する。

単巻変圧器の結線

単巻変圧器(オートトランス;Autotransformer)とは、2つの巻線が相互に共通な部分を有する変圧器のことである。

 

図1に単巻変圧器の一相分の結線図を示す。

同図において、添字$1,2$はそれぞれ一次側、二次側における電圧・電流を表す。

 

図1において、一次・二次共通の巻線部分を分路巻線(Common Winding),共通でない巻線部分(図1の場合は一次側のみの部分)を直列巻線(Series Winding)という。

 

図1より、分路巻線には二次線路電流$I_2$と一次線路電流$I_1$との差電流$I_2-I_1$が流れる。

また、直列巻線間には一次側端子電圧$V_1$と二次側端子電圧$V_2$との差電圧$V_1-V_2$が加わる。

 

巻数分比と各端子電圧・電流比

直列巻線および分路巻線の巻数を$n_1$および$n_2$とすると、一次側端子電圧$V_1$に対する直列巻線の電圧$V_1-V_2$の比は、

$$\frac{V_1-V_2}{V_1}=\frac{n_1}{n_1+n_2}\equiv r ・・・(1)$$

 

$(1)$式における$r$を巻数分比(co-ratio)といい、$0<r<1$である。

 

また、一次側端子電圧$V_1$に対する二次側端子電圧$V_2$の比を求めると、

$$\begin{align*}
\frac{V_2}{V_1}&=\frac{V_2}{\left(V_1-V_2\right)+V_2}\\\\
&=\frac{n_2}{n_1+n_2}\\\\
&=1-\frac{n_1}{n_1+n_2}\\\\
&=1-r ・・・(2)
\end{align*}$$

となり、巻数分比$r$を含む式で表すことができる。

 

次に、一次電流$I_1$を流すと、直列巻線には起磁力$n_1I_1$が発生する。

このとき二次側には、これに対応して、分路巻線に発生する起磁力$n_2\left(I_2-I_1\right)$となるような二次電流$I_2$が流れる。

 

励磁電流を無視するとして、このことを式で表すと、$(2)$式より、

$$\begin{align*}
n_1I_1&=n_2\left(I_2-I_1\right)\\\\
\left(n_1+n_2\right)I_1&=n_2I_2\\\\
\therefore\frac{I_2}{I_1}&=\frac{n_1+n_2}{n_2}\\\\
&=\frac{1}{1-r} ・・・(3)
\end{align*}$$

となり、一次側と二次側の電流比も巻数分比$r$を含む式で表すことができる。

 

 

単巻変圧器の自己容量

線路容量と自己容量

図1の単巻変圧器の線路容量(二次側に供給する電力)$P_l$は、

$$P_l=V_1I_1=V_2I_2 ・・・(4)$$

 

変圧器の等価容量は、{(直列巻線容量$P_1$)+(分路巻線容量$P_2$)}$\div2$で表され、

$$\begin{cases}
P_1&=\left(V_1-V_2\right)I_1\\\\
P_2&=V_2\left(I_2-I_1\right)
\end{cases}$$

であるから、$(4)$式より、

$$\begin{align*}
\frac{P_1+P_2}{2}&=\frac{\left(V_1-V_2\right)I_1+V_2\left(I_2-I_1\right)}{2}\\\\
&=\frac{V_1I_1+V_2I_2-2V_2I_1}{2}\\\\
&=\frac{P_l+P_l-\displaystyle{\frac{V_2}{V_1}\cdot2P_l}}{2}\\\\
&=\left(1-\frac{V_2}{V_1}\right)P_l\\\\
&=\frac{V_1-V_2}{V_1}P_l\\\\
&=rP_l ・・・(5)
\end{align*}$$

 

$(5)$式の$rP_l$を、単巻変圧器の自己容量という。

 

通常の分離巻線変圧器の場合、線路容量と自己容量は等しい。

一方、単巻変圧器は、$0<r<1$であることから、線路容量$P_l$より小さい自己容量で負荷に電力を供給することができる。

 

ちなみに、単巻変圧器は名称に”Auto”とついているが、これは「自動」の意味ではなく、ギリシャ語で「自己」という意味である(出典)。

 

自己容量と変圧器のコストの関係

例として、一次側端子電圧が$500\mathrm{kV}$,二次側端子電圧が$275\mathrm{kV}$である単巻変圧器の巻数分比$r$は、$(1)$式より、

$$r=\frac{500-275}{500}=0.45$$

となるため、$(5)$式より、線路容量の$45\%$の自己容量で負荷に電力を供給することができる。

 

ここで、変圧器の容量は寸法の$4$乗に比例するといわれており(出典:P2)、かつ体積は寸法の$3$乗であるから、変圧器の体積(および質量)は容量の$\displaystyle{\frac{3}{4}}$乗に比例する。

 

したがって、上の例における単巻変圧器の体積および質量がどれくらい減少するかを考えると、

$$(0.45)^{3/4}=0.55$$

 

ゆえに、上の例における単巻変圧器は、同じ容量の分離巻線変圧器の約$55\%$程度の質量($\fallingdotseq$コスト)になり、経済的である。

変圧器のコストには、ブッシングや冷却器などの巻線構成に依らない付属品の分も含まれるので、実際のコストはもう少し大きくなる。
 

単巻変圧器の絶縁

単巻変圧器の場合の巻線絶縁について考える。

図2に分離巻線変圧器および単巻変圧器の、正面方向からみた断面図を示す。

 

図2 変圧器の正面方向断面図
(左:分離巻線変圧器、右:単巻変圧器)

 

簡単のため、両方の場合とも2巻線変圧器で、一次・二次とも中性点接地の場合を考えている。

 

同図より、分離巻線変圧器の場合は、巻線下部の対向部は中性点同士であり、巻線間の電位差は小さいため、絶縁はそれほど考慮しなくてもよい。

 

一方、単巻変圧器の場合は、二次中性点に接続する分路巻線下部に対向する直列巻線下部は、結線上二次線路端となってしまうため、巻線間の電位差は大きくなる。

 

よって、二次中性点側となる分路巻線の下部は、分離巻線変圧器の二次巻線と比較して絶縁を厚くするする必要がある(=コストがかかる)。

 

また、直列巻線については、巻線両端が一次および二次線路端に接続されているため、必然的に巻線のどの部位についても二次側電圧に耐えうる絶縁が要求される。

 

以上より、単巻変圧器は、分離巻線変圧器と比較して絶縁レベルを大きくとる必要がある。

 

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電験二種

 

電験三種

 

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