一機無限大母線系統の定態安定性

本記事では、発電機の動揺方程式を用いて、一機無限大母線系統の定態安定性について解説する。





一機無限大母線系統

電力系統のモデルとして、図1のような発電機(今回は円筒形同期発電機を想定)と無限大母線、およびその間のリアクタンスで構成された一機無限大母線系統を考える。

 

 

図1 一機無限大母線系統

 

無限大母線は、電圧の大きさおよび位相が不変であるとした母線で、今回はここを位相の基準におく。

 

図1において、$\dot{E}=E\angle\delta$は発電機背後電圧、$\dot{V}=V\angle0$は無限大母線の電圧、$X_\mathrm{d}$は発電機の同期リアクタンス、$X_\mathrm{t}$および$X_\mathrm{l}$はそれぞれ系統に接続されている変圧器および送電線のリアクタンスとなる。

なお、系統の抵抗成分は無視するものとする。

 

今回、図1の各リアクタンス$X_\mathrm{d},\ X_\mathrm{s},\ X_\mathrm{l}$をまとめて系統のリアクタンス$X$とおく。

 

電力-相差角曲線

図1において、無限大母線に流れ込む電流$\dot{I}$は、

$$\begin{align*}
\dot{I}&=\frac{\dot{E}-\dot{V}}{jX}\\\\
&=\frac{E\left(\cos\delta+j\sin\delta\right)-V}{jX}
\end{align*}$$

 

ここで、系統の抵抗成分は無視するため、図1の有効電力$P$は発電機の電気的出力に等しく、その大きさは、

$$\begin{align*}
P&=\mathrm{Re}\left\{\dot{V}\cdot\overline{\dot{I}}\right\}\\\\
&=\mathrm{Re}\left[V\cdot\overline{\left\{\frac{E\left(\cos\delta+j\sin\delta\right)-V}{jX}\right\}}\right]\\\\
&=\mathrm{Re}\left\{V\cdot\frac{E\left(\cos\delta-j\sin\delta\right)-V}{-jX}\right\}\\\\
&=\mathrm{Re}\left\{\frac{EV\left(\cos\delta-j\sin\delta\right)-V^2}{-jX}\right\}\\\\
&=\mathrm{Re}\left\{\frac{EV}{X}\sin\delta+j\frac{EV\cos\delta-V^2}{X}\right\}\\\\
&=\frac{EV}{X}\sin\delta ・・・(1)
\end{align*}$$

 

なお、無効電力$Q$は、
$$\begin{align*}
Q&=\mathrm{Im}\left\{\frac{EV}{X}\sin\delta+j\frac{EV\cos\delta-V^2}{X}\right\}\\\\
&=\frac{EV\cos\delta-V^2}{X}
\end{align*}$$

 

$(1)$式より、横軸に相差角$\delta$,縦軸に電気的出力$P$となるグラフ上には、図2のように正弦波形となる電力-相差角曲線($P-\delta$曲線)を描くことができる。


図2 電力-相差角曲線($P-\delta$曲線)

 

図2より、$(1)$式は$\delta=\displaystyle{\frac{\pi}{2}}$で最大値

$$P_\mathrm{max}=\frac{EV}{X}$$

をとる。

 

同期化力係数と定態安定性

同期化力係数の式の導出

電力系統において、微小な擾乱(常時の負荷変動や変圧器のタップ切換など)に対して発電機が脱調せず、安定に送電できる度合いを定態安定性(または同期安定性)という。

 

図1の系統において、微小な擾乱により相差角が$\Delta\delta$だけ変動し、$\delta\rightarrow\delta+\Delta\delta$になった場合、電力$P$は$\Delta P$だけ増加し$P\rightarrow P+\Delta P$になるとする。

 

これらの関係を$(1)$式を用いて表すと、三角関数の加法定理より、

$$\begin{align*}
P+\Delta P&=\frac{EV}{X}\sin\left(\delta+\Delta\delta\right)\\\\
&=\frac{EV}{X}\left(\sin\delta\cos\Delta\delta+\cos\delta\sin\Delta\delta\right) ・・・(2)
\end{align*}$$

 

ここで、$\Delta\delta$が十分に小さいとき、$\sin\Delta\delta\simeq\Delta\delta,\ \cos\Delta\delta\simeq1$であることから、$(2)$式は、

$$P+\Delta P=\frac{EV}{X}\left(\sin\delta+\cos\delta\cdot\Delta\delta\right) ・・・(3)$$

 

$(1),\ (3)$式より、電力増加分$\Delta P$は、

$$\Delta P=\frac{EV}{X}\cos\delta\cdot\Delta\delta ・・・(4)$$

 

$(4)$式で$\Delta\delta\rightarrow0$としたとき、次の式が得られる。

$$\frac{\mathrm{d}P}{\mathrm{d}\delta}=\frac{EV}{X}\cos\delta ・・・(5)$$

 

$(5)$式は$(1)$式の電力$P$の相差角$\delta$における微分係数を表しており、同期化力係数という。

同期化力係数は、後述するように系統に微小な擾乱が発生した際に、発電機の$P-\delta$曲線上の安定な運転点への復元力を示す指標となる。

 

動揺方程式の変形

ここで、発電機の動揺方程式

$$\frac{2H}{\omega}\frac{\mathrm{d}^2\delta}{\mathrm{d}t^2}=P_\mathrm{m}-P_\mathrm{e}$$

 

において、電気的出力$P_\mathrm{e}=P$,回転速度が同期速度$\omega=\omega_\mathrm{s}$であるとしたとき、$(6)$式が得られる。

$$\begin{align*}
\frac{2H}{\omega_\mathrm{s}}\frac{\mathrm{d}^2\delta}{\mathrm{d}t^2}&=P_\mathrm{m}-P\\\\
&=P_\mathrm{m}-\frac{EV}{X}\sin\delta ・・・(6)
\end{align*}$$

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次に、微小な擾乱により相差角が$\delta\rightarrow\delta+\Delta\delta$と変動したときの$(6)$式は、$(3)$式の関係も用いて、

$$\begin{align*}
\frac{2H}{\omega_\mathrm{s}}\frac{\mathrm{d}^2\left(\delta+\Delta\delta\right)}{\mathrm{d}t^2}&=P_\mathrm{m}-\frac{EV}{X}\sin\left(\delta+\Delta\delta\right)\\\\
&=P_\mathrm{m}-P-\frac{EV}{X}\cos\delta\cdot\Delta\delta ・・・(7)
\end{align*}$$

 

$(6),\ (7)$式より、

$$\frac{2H}{\omega_\mathrm{s}}\frac{\mathrm{d}^2\Delta\delta}{\mathrm{d}t^2}=-\frac{EV}{X}\cos\delta\cdot\Delta\delta ・・・(8)$$

 

ここで、同期化力係数を$S\left(\delta\right)$とおくと、$(8)$式は、

$$\begin{align*}
\frac{2H}{\omega_\mathrm{s}}\frac{\mathrm{d}^2\Delta\delta}{\mathrm{d}t^2}+S\left(\delta\right)\Delta\delta&=0\\\\
\therefore\frac{\mathrm{d}^2\Delta\delta}{\mathrm{d}t^2}+\frac{\omega_\mathrm{s}S\left(\delta\right)}{2H}\Delta\delta&=0 ・・・(9)
\end{align*}$$

 

$(9)$式は$\Delta\delta$に関する線形2階微分方程式となる。

 

微分方程式の解法

$(9)$式の解は時間$t$に対し、便宜的に$\Delta\delta=Ae^{Bt}$(ただし、$A\neq0,\ B\neq0$)であるとする。

$(9)$式を変形し、この解を代入すると、

$$\begin{align*}
AB^2e^{Bt}+\frac{\omega_\mathrm{s}S\left(\delta\right)}{2H}Ae^{Bt}&=0\\\\
AB^2+\frac{\omega_\mathrm{s}S\left(\delta\right)}{2H}A&=0\\\\
\therefore B&=\pm j\sqrt{\frac{\omega_\mathrm{s}S\left(\delta\right)}{2H}}
\end{align*}$$

 

したがって、$(9)$式の一般解は、

$$\Delta\delta=A_1e^{j\sqrt{\frac{\omega_\mathrm{s}S\left(\delta\right)}{2H}}t}+A_2e^{-j\sqrt{\frac{\omega_\mathrm{s}S\left(\delta\right)}{2H}}t} ・・・(10)$$

ただし、$A_1,\ A_2$は定数である。

 

次に、同期化力係数$S\left(\delta\right)$の正負によって、$(10)$式の挙動を場合分けする。

まず、$S\left(\delta\right)>0$のとき、$(10)$式は次のように変形することができる。

$$\begin{align*}
\Delta\delta&=A_1\left(\cos\sqrt{\frac{\omega_\mathrm{s}S\left(\delta\right)}{2H}}t+j\sin\sqrt{\frac{\omega_\mathrm{s}S\left(\delta\right)}{2H}}t\right)+A_2\left(\cos\sqrt{\frac{\omega_\mathrm{s}S\left(\delta\right)}{2H}}t-j\sin\sqrt{\frac{\omega_\mathrm{s}S\left(\delta\right)}{2H}}t\right)\\\\
&\equiv A_3\cos\sqrt{\frac{\omega_\mathrm{s}S\left(\delta\right)}{2H}}t+A_4\sin\sqrt{\frac{\omega_\mathrm{s}S\left(\delta\right)}{2H}}t ・・・(11)
\end{align*}$$

ただし、$A_3=A_1+A_2,\ A_4=A_1-jA_2$

 

$(11)$式で適当な定数を入れ、波形を図示した例を図3に示す。

同図より、$S\left(\delta\right)>0$のとき、$\Delta\delta$の挙動は減衰を伴わない振動波形となる。

実際の電力系統では抵抗分が存在することにより減衰項があるので、$\Delta\delta$の波形は減衰振動となり安定する。

 

一方、同期化力係数$S\left(\delta\right)<0$のとき、$(10)$式は、

$$\begin{align*}
\Delta\delta&=A_1e^{j\cdot j\sqrt{\frac{\omega_\mathrm{s}S\left(\delta\right)}{2H}}t}+A_2e^{-j\cdot j\sqrt{\frac{\omega_\mathrm{s}S\left(\delta\right)}{2H}}t}\\\\
&=A_1e^{-\sqrt{\frac{\omega_\mathrm{s}S\left(\delta\right)}{2H}}t}+A_2e^{\sqrt{\frac{\omega_\mathrm{s}S\left(\delta\right)}{2H}}t} ・・・(12)
\end{align*}$$

 

$(12)$式でも適当な定数を入れ、波形を図示した例が図3に示してある。

同図より、$S\left(\delta\right)<0$のとき、$\Delta\delta$の値が時間$t$の増加に伴い発散するため、不安定となる。

 

図3 同期化力係数の正負に対する相差角の変化

 

以上より、同期化力係数$S\left(\delta\right)$が正のときは$\Delta\delta$が振動(実際は減衰項があるので収束し安定)し、負のときは$\Delta\delta$の変動が発散し不安定となる。

 

なお、$S\left(\delta\right)>0$のときの角振動数$\omega_\delta$および振動数$f_\delta$は、$(11)$式より次のようになる。

$$\begin{align*}
\omega_\delta&=\sqrt{\frac{\omega_\mathrm{s}S\left(\delta\right)}{2H}}\\\\
f_\delta&=\frac{1}{2\pi}\sqrt{\frac{\omega_\mathrm{s}S\left(\delta\right)}{2H}}
\end{align*}$$

 

電力-相差角曲線と定態安定性

さらに、図2の$P-\delta$曲線を用いて、前項の同期化力係数の正負に対する状態のときの安定性について考察する。

 

発電機の動揺方程式である$(6)$における機械的入力が$P_\mathrm{m}$で一定であるとき、$P=P_\mathrm{M}$の直線を図2に追加すると、図4のようになる。

 

図4 $P-\delta$曲線における運転点

 

平常時は$(6)$式右辺で機械的入力$P_\mathrm{m}=$電気的出力$P$となることから、図4において、$P-\delta$曲線と$P=P_\mathrm{M}$の直線の交点である$\mathrm{A},\ \mathrm{B}$点が、通常時の運転点となる。

これらの運転点について、安定であるかどうかを考える。

 

安定な運転点(同期化力係数が正)

図4の運転点である$\mathrm{A}$点($\delta=\delta_\mathrm{A}$)において、図1の系統に微小な擾乱が発生して相差角が$\Delta\delta$だけと増加したとすると、図4の$P-\delta$曲線に基づき、電気的出力は$\Delta P$だけ上昇する。

このとき、$(6)$式の右辺は、

$$P_\mathrm{m}-\left(P+\Delta P\right)=-\Delta P<0 ・・・(13)$$

 

$(13)$式は、出力を$\Delta P$だけ減少させようとする力、すなわち減速力が発電機の回転子にはたらくことを意味しており、この場合は運転点が$\mathrm{A}$点に戻ろうとする。

 

逆に、相差角が$\Delta\delta$だけ減少すると、図4の$P-\delta$曲線に基づき、電気的出力は$\Delta P$だけ減少する。

このとき、$(6)$式の右辺は、

$$P_\mathrm{m}-\left(P-\Delta P\right)=\Delta P>0 ・・・(14)$$

 

$(14)$式は、出力を$\Delta P$だけ増加させようとする力、すなわち加速力が発電機の回転子にはたらくことを意味しており、この場合も運転点が$\mathrm{A}$点に戻ろうとする。

 

そして、同期化力係数は、図4の$P-\delta$曲線の任意の点における接線の傾きを意味しており、$\mathrm{A}$点においては、

$$\frac{\mathrm{d}P}{\mathrm{d}\delta}>0$$

となる。

 

加えて、$\mathrm{A}$点を含む$0<\delta<\displaystyle{\frac{\pi}{2}}$では、同期化力係数が正となるため、この$\delta$の範囲が安定な運転を行うことのできる領域となる。

 

不安定な運転点(同期化力係数が負)

一方、図4のもう一つの運転点である$\mathrm{B}$点($\delta=\delta_\mathrm{B}$)において、図1の系統に微小な擾乱が発生して相差角が$\Delta\delta$だけと増加したとすると、図4の$P-\delta$曲線に基づき、電気的出力は$\Delta P$だけ減少する。

このとき、$(6)$式の右辺は、

$$P_\mathrm{m}-\left(P-\Delta P\right)=\Delta P>0 ・・・(15)$$

 

$(14)$式は、出力を$\Delta P$だけ増加させようとする力、すなわち加速力が発電機の回転子にはたらくことを意味しており、この場合はさらに相差角$\delta$が上昇する方向となり、不安定な運転点となる。

 

このとき、$\mathrm{B}$点における同期化力係数は、

$$\frac{\mathrm{d}P}{\mathrm{d}\delta}<0$$

となる。

 

加えて、$\displaystyle{\frac{\pi}{2}}<\delta<\pi$では、同期化力係数が負となるため、この$\delta$の範囲では安定な運転を行うことができない。

 

まとめ~安定点と同期化力係数~

以上より、同期化力係数の符号で図1の系統の安定判別を行うと、

  • $0<\delta<\displaystyle{\frac{\pi}{2}}$のとき、同期化力係数$\displaystyle{\frac{\mathrm{d}P}{\mathrm{d}\delta}}>0$となり、微小な擾乱に対しても安定を保つことができる。
  • $\displaystyle{\frac{\pi}{2}}<\delta<\pi$のとき、同期化力係数$\displaystyle{\frac{\mathrm{d}P}{\mathrm{d}\delta}}<0$となり、微小な擾乱に対して不安定な状態となる。

 

なお、図4の$\delta=\displaystyle{\frac{\pi}{2}}$における電力$P$の最大値$P_\mathrm{max}$は定態安定限界出力といい、次の式で表される。

$$P_\mathrm{max}=\frac{EV}{X}$$

 

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参考文献