発電機の動揺方程式

本記事では、電力系統の安定性を考える上で重要な式である「発電機の動揺方程式」を導出する。





回転子の運動方程式

回転子のモデルと速度・加速度の式

同期発電機の回転子を図1のように円筒モデルで表すとき、この回転子の運動方程式を考える。

 

図1 同期発電機の回転子

 

厚さ$\mathrm{d}r$の中空円筒部分が図1の向きに回転するとき、その角速度$\omega_\mathrm{m}$は、

$$\omega_\mathrm{m}=\frac{\mathrm{d}\theta_\mathrm{m}}{\mathrm{d}t} ・・・(1)$$

ここで、$\theta_\mathrm{m}$は固定子の静止基準軸に対する回転子の回転角である。

 

また、中空円筒の角加速度$\alpha_\mathrm{m}$は、$(1)$式の両辺を時間$t$で微分して、

$$\begin{align*}
\alpha_\mathrm{m}&=\frac{\mathrm{d}\omega_\mathrm{m}}{\mathrm{d}t}\\\\
&=\frac{\mathrm{d}^2\theta_\mathrm{m}}{\mathrm{d}t^2} ・・・(2)
\end{align*}$$

 

回転子の中心$\mathrm{O}$から中空円筒部分までの距離を$r$とすると、直線速度$v_\mathrm{m}$と角速度$\omega_\mathrm{m}$の関係$v_\mathrm{m}=r\omega_\mathrm{m}$および$(2)$式より、加速度$a_\mathrm{m}$は、

$$\begin{align*}
a_\mathrm{m}&=\frac{\mathrm{d}v_\mathrm{m}}{\mathrm{d}t}\\\\
&=r\frac{\mathrm{d}\omega_\mathrm{m}}{\mathrm{d}t}\\\\
&=r\frac{\mathrm{d}^2\theta_\mathrm{m}}{\mathrm{d}t^2} ・・・(3)
\end{align*}$$

 

加速トルクと運動方程式

次に、中空円筒の質量を$\mathrm{d}M$とすると、この中空円筒にはたらく接線方向への力$\mathrm{d}F$は、$(3)$式より、

$$\begin{align*}
\mathrm{d}F&=\mathrm{d}M\cdot a_\mathrm{m}\\\\
&=r\frac{\mathrm{d}^2\theta_\mathrm{m}}{\mathrm{d}t^2}\mathrm{d}M ・・・(4)
\end{align*}$$

 

したがって、この中空円筒の回転を加速させるためのトルク$\mathrm{d}T_\mathrm{a}$は、$(4)$式より

$$\begin{align*}
\mathrm{d}T_\mathrm{a}&=\mathrm{d}F\cdot r\\\\
&=r^2\frac{\mathrm{d}^2\theta_\mathrm{m}}{\mathrm{d}t^2}\mathrm{d}M\\\\
&=r^2\mathrm{d}M\cdot \frac{\mathrm{d}^2\theta_\mathrm{m}}{\mathrm{d}t^2} ・・・(5)
\end{align*}$$

 

ここで、回転子の半径を$R_0$とすると、質量$\mathrm{d}M$と中心$\mathrm{O}$からの距離の2乗$r^2$の積の部分に関して、$r$について積分したものを中心$\mathrm{O}$に対する慣性モーメントといい、次の式で表される。

$$J=\int^{R_0}_{0}r^2\mathrm{d}M ・・・(6)$$

 

したがって、回転子にはたらく加速トルク$T_\mathrm{a}$は、$(5)$式を$r$について$0\sim R_0$まで積分し、かつ$(6)$式も用いると、

$$\begin{align*}
T_\mathrm{a}&=\int^{R_0}_{0}\mathrm{d}T_\mathrm{a}\\\\
&=\left(\int^{R_0}_{0}r^2\mathrm{d}M\right)\cdot\frac{\mathrm{d}^2\theta_\mathrm{m}}{\mathrm{d}t^2}\\\\
&=J\frac{\mathrm{d}^2\theta_\mathrm{m}}{\mathrm{d}t^2} ・・・(7)
\end{align*}$$

 

ここで、発電機への機械的入力に伴う機械的トルクを$T_\mathrm{m}$,発電機から系統への電気的出力に伴うトルクを$T_\mathrm{e}$とすると、加速トルク$T_\mathrm{a}$はこれらの差で表されるので、$(7)$式より、

$$\begin{align*}
J\frac{\mathrm{d}^2\theta_\mathrm{m}}{\mathrm{d}t^2}=T_\mathrm{a}=T_\mathrm{m}-T_\mathrm{e} ・・・(8)
\end{align*}$$

 

$(8)$式が回転子の運動方程式となる。

 

回転体の全質量が回転軸から$R$の位置に集中しているとしたとき、この$R$を回転半径という。

この$R$は回転子の半径$R_0$とは異なる。

 

回転子の重量を$G$、質量を$M=\displaystyle{\int^{R_0}_{0}\mathrm{d}M}$とすると、標準の重力加速度の元では$G=M$となるため、慣性モーメント$J$は$G$および回転半径$R$を用いて、

$$J=GR^2 ・・・(9)$$

 

また、回転子の回転直径を$D=2R$とすると、$(9)$式は、

$$J=G\left(\frac{D}{2}\right)^2=\frac{GD^2}{4} ・・・(10)$$

 

$(10)$式の$GD^2$をはずみ車効果という。

 

加速力と慣性定数

加速力の式

図1の回転子の回転半径を$R$とすると、力$F$が加わったことによる加速トルク$T_\mathrm{a}$は、

$$T_\mathrm{a}=FR ・・・(11)$$

 

$(11)$式の両辺に回転子の角速度$\omega_\mathrm{m}=\displaystyle{\frac{\mathrm{d}\delta_\mathrm{m}}{\mathrm{d}t}}$をかけると、

$$\begin{align*}
\omega_\mathrm{m}T_\mathrm{a}&=\omega_\mathrm{m}FR\\\\
&=F\cdot R\frac{\mathrm{d}\theta_\mathrm{m}}{\mathrm{d}t}\\\\
&=F\cdot v_\mathrm{m} ・・・(12)
\end{align*}$$

 

ここで、直線速度$v_\mathrm{m}$は$v_\mathrm{m}=\displaystyle{\frac{\mathrm{d}x}{\mathrm{d}t}}$で表されるため、$(12)$式の右辺は$\displaystyle{\frac{F\mathrm{d}x}{\mathrm{d}t}}$,すなわち時間$\mathrm{d}t$間に$F\mathrm{d}x$の仕事をするという意味合いになる。

 

これは単位時間あたりにする仕事=仕事率(単位:$[\mathrm{J/s}]=[\mathrm{W}]$)を意味しており、これを$P_\mathrm{a}$とおくと、$(12)$式は、

$$P_\mathrm{a}=\omega_\mathrm{m}T_\mathrm{a} ・・・(13)$$

 

$(13)$式は、加速力(電力)が回転速度とトルクの積で表されるという、回転機ではおなじみの式である。

 

慣性定数

ここで、$(13)$式の$T_\mathrm{a}$に$(8)$式を代入すると、

$$\begin{align*}
P_\mathrm{a}&=\omega_\mathrm{m}T_\mathrm{a}\\\\
&=\omega_\mathrm{m}\cdot J\frac{\mathrm{d}^2\theta_\mathrm{m}}{\mathrm{d}t^2}\\\\
&=J\omega_\mathrm{m}\frac{\mathrm{d}\omega_\mathrm{m}}{\mathrm{d}t} ・・・(14)
\end{align*}$$

 

$(14)$式の係数$J\omega_\mathrm{m}\equiv M$は角運動量を表しており、これを同期発電機の慣性定数という。

 

ここで、加速力$P_\mathrm{a}$は、発電機への機械的入力$P_\mathrm{m}$と発電機から系統への電気的出力$P_\mathrm{e}$の差で表されるので、$(14)$式は、

$$M\frac{\mathrm{d}\omega_\mathrm{m}}{\mathrm{d}t}=P_\mathrm{a}=P_\mathrm{m}-P_\mathrm{e} ・・・(15)$$

 

回転子が$t=0$で静止状態であったとして、そこから回転速度$\omega_\mathrm{m}$まで加速したときの回転子に加わるエネルギー$W$は、$(14)$式の両辺を時間$t$で積分して、

$$\begin{align*}
W&=\int^{t}_{0}P_\mathrm{a}\mathrm{d}t\\\\
&=J\int^{t}_{0}\omega_\mathrm{m}\frac{\mathrm{d}\omega_\mathrm{m}}{\mathrm{d}t}\mathrm{d}t\\\\
&=J\int^{\omega_\mathrm{m}}_{0}\omega_\mathrm{m}\mathrm{d}\omega_\mathrm{m}\\\\
&=\frac{1}{2}J\omega^2_\mathrm{m} ・・・(16)
\end{align*}$$

 

$(16)$式は回転子のもつ運動エネルギーを表す式となる。

 

慣性定数を$M\equiv J\omega^2_\mathrm{m}$(=回転子の運動エネルギーの2倍)と定義している文献もある。

その場合、$(15)$式は次のような表記になる。

$$\frac{M}{\omega_\mathrm{m}}\frac{\mathrm{d}\omega_\mathrm{m}}{\mathrm{d}t}=P_\mathrm{m}-P_\mathrm{e}$$

 

 

動揺方程式の導出

回転軸と回転角

固定子の静止基準軸に対して、これまで回転子の回転角を$\theta_\mathrm{m}$で表してきた。

一方、同期速度$\omega_\mathrm{sm}$で回転する回転基準軸に対し、回転子の回転角を$\delta_\mathrm{m}$とすると、$\theta_\mathrm{m}$との関係式は次のようになる。

$$\theta_\mathrm{m}=\omega_\mathrm{sm}t+\delta_\mathrm{m} ・・・(17)$$

 

これらの回転角を図示すると、図2のようになる。

 

図2 回転軸と回転角の関係

 

$(17)$式の両辺を時間$t$で微分して、

$$\frac{\mathrm{d}\theta_\mathrm{m}}{\mathrm{d}t}=\omega_\mathrm{sm}+\frac{\mathrm{d}\delta_\mathrm{m}}{\mathrm{d}t} ・・・(18)$$

 

$(18)$式の両辺をさらに時間$t$で微分して、

$$\frac{\mathrm{d}^2\theta_\mathrm{m}}{\mathrm{d}t^2}=\frac{\mathrm{d}^2\delta_\mathrm{m}}{\mathrm{d}t^2} ・・・(19)$$

 

$(19)$式および$\omega_\mathrm{m}=\displaystyle{\frac{\mathrm{d}\theta_\mathrm{m}}{\mathrm{d}t}}\rightarrow\displaystyle{\frac{\mathrm{d}\omega_\mathrm{m}}{\mathrm{d}t}=\frac{\mathrm{d}^2\theta_\mathrm{m}}{\mathrm{d}t^2}}$の関係を利用して、$(15)$式を変形すると、

$$M\frac{\mathrm{d}^2\delta_\mathrm{m}}{\mathrm{d}t^2}=P_\mathrm{m}-P_\mathrm{e} ・・・(20)$$

 

単位慣性定数と動揺方程式

ここで、電気角速度$\omega=2\pi f$($f$は周波数)と回転子の(機械)回転角$\omega_\mathrm{m}$には、次の関係がある。

$$\begin{align*}
\omega&=\frac{p}{2}\omega_\mathrm{m}\\\\
\therefore \omega_\mathrm{m}&=\frac{2}{p}\omega ・・・(21)
\end{align*}$$

 

電気角速度$\omega=2\pi f$は発生する電圧(誘導起電力)のサイクル数を表している。

例えば$p=2$のとき、回転子を1回転させると、$\displaystyle{\frac{2}{2}}=1$サイクル分の電圧が現れる。

$p=4$のときは、$2$サイクルとなる。

 

$(21)$式より、$(20)$式の左辺を変形すると、

$$\begin{align*}
M\frac{\mathrm{d}^2\delta_\mathrm{m}}{\mathrm{d}t^2}&=M\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}\left(\frac{2}{p}\omega\right)\\\\
&=\frac{2M}{p}\frac{\mathrm{d}\omega}{\mathrm{d}t}
\end{align*}$$

 

変形後の$(20)$式の両辺の単位を$[\mathrm{p.u.}]$とするために、両辺を基準容量(発電機の定格皮相容量)$S_\mathrm{n}$で割ると、

$$\frac{2M}{pS_\mathrm{n}}\frac{\mathrm{d}\omega}{\mathrm{d}t}=P_\mathrm{m}-P_\mathrm{e}[\mathrm{p.u.}] ・・・(22)$$

 

ここで、回転子の運動エネルギー$W$を定格皮相容量$S_\mathrm{n}$で割った値

$$\begin{align*}
\frac{W}{S_\mathrm{n}}&=\frac{\displaystyle{\frac{1}{2}J\omega^2_\mathrm{m}}}{S_\mathrm{n}}\\\\
&=\frac{M\omega_\mathrm{m}}{2S_\mathrm{n}}\\\\
&=\frac{M\omega}{pS_\mathrm{n}}\equiv H ・・・(23)
\end{align*}$$

と定義される$H$を単位慣性定数(単位$[\mathrm{s}]$)という。

 

JEC規格には「単位慣性定数」という用語はなく、代わりに同じ定義式で「蓄積エネルギー定数」として記載されている。

これは「回転子が有する運動エネルギーをすべて電気エネルギーに換算した場合に、それが定格皮相容量に等しい出力だった時の何秒分か」を表している。

なお、加速トルクによって回転子から定格回転速度まで加速するのに要する時間を加速定数$T_\mathrm{j}$といい、発電機の定格出力$P_\mathrm{n}$を用いて、

$$T_\mathrm{j}=\frac{J\omega^2_\mathrm{mn}}{P_\mathrm{n}}$$

 

ただし、$\omega_\mathrm{mn}$は定格回転速度である。

 

$(23)$式の$H$を用いて、$(22)$式を変形すると、、

$$\frac{2H}{\omega}\frac{\mathrm{d}\omega}{\mathrm{d}t}=P_\mathrm{m}-P_\mathrm{e} ・・・(24)$$

 

または電気角を$\delta$として、$\omega=\displaystyle{\frac{\mathrm{d}\delta}{\mathrm{d}t}}$の関係より、

$$\frac{2H}{\omega}\frac{\mathrm{d}^2\delta}{\mathrm{d}t^2}=P_\mathrm{m}-P_\mathrm{e} ・・・(25)$$

 

$(24)$および$(25)$が発電機の動揺方程式となる。





関連する例題(「電験王」へのリンク)

電験一種

 

参考文献





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