対称座標法における発電機の基本式

本記事では、対称座標法を用いた計算において重要な式である「発電機の基本式」を導入する。

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発電機の内部等価回路

図1は、発電機を「三相平衡した理想電圧源」で表した内部等価回路を示している。

 

図1 発電機の内部等価回路

 

図1に示す各電気量および定数の詳細は下記となる。

  • $\dot{E}_a,\ \dot{E}_b,\ \dot{E}_c$:発電機の内部誘導起電力、$\dot{E}_b=a^2\dot{E}_a,\ \dot{E}_c=a\dot{E}_a$の関係がある。 
  • $\dot{V}_a,\ \dot{V}_b,\ \dot{V}_c$:発電機の端子電圧(発電機以降の外部回路に印加される電圧)
  • $\dot{V}_n$:中性点発生電圧
  • $\dot{I}_a,\ \dot{I}_b,\ \dot{I}_c$:発電機端子間に流れる電流
  • $\dot{Z}_n$:中性点接地インピーダンス

 

ここで、図1では省略しているが、発電機内には「内部誘導起電力端子」と「外部端子」との間に、各相のインピーダンスが存在する。

これを回路内に表示したのが図2である。

 

図2 発電機の内部等価回路(各相のインピーダンス表示)

 

ここで、図2における定数の詳細は下記となる。

  • $\dot{Z}_s$:各相の自己インピーダンス
  • $\dot{Z}_m$:各相間の相互インピーダンス

 

なお、図2では各相のインピーダンスも三相平衡しているとみなし、$a-b-c$相で$\dot{Z}_s$および$\dot{Z}_m$はすべて等しいとする。

 

電圧・電流の式の対称座標法変換

図1および図2の回路において、電圧・電流の関係式は下記となる。

$$\begin{cases}
\dot{E}_a-\dot{V}_a&=\dot{Z}_s\dot{I}_a+\dot{Z}_m\dot{I}_b+\dot{Z}_m\dot{I}_c-\dot{V}_n\\\\
\dot{E}_b-\dot{V}_b&=\dot{Z}_m\dot{I}_a+\dot{Z}_s\dot{I}_b+\dot{Z}_m\dot{I}_c-\dot{V}_n\\\\
\dot{E}_c-\dot{V}_c&=\dot{Z}_m\dot{I}_a+\dot{Z}_m\dot{I}_b+\dot{Z}_s\dot{I}_c-\dot{V}_n
\end{cases} ・・・(1.1)$$

 

行列表示にすると、

$$\left(\begin{array}{c} \dot{E}_a \\ \dot{E}_b \\ \dot{E}_c \end{array} \right)-\left(\begin{array}{c} \dot{V}_a \\ \dot{V}_b \\ \dot{V}_c\end{array} \right)=\left( \begin{array}{ccc} \dot{Z}_s& \dot{Z}_m & \dot{Z}_m \\ \dot{Z}_m& \dot{Z}_s & \dot{Z}_m \\ \dot{Z}_m& \dot{Z}_m & \dot{Z}_s \end{array} \right) \left( \begin{array}{c} \dot{I}_a \\ \dot{I}_b \\ \dot{I}_c\end{array} \right)-\left(\begin{array}{c} \dot{V}_n \\ \dot{V}_n \\ \dot{V}_n\end{array} \right) ・・・(1.2)$$

 

$(1.2)$式を対称座標法変換($a-b-c\rightarrow 0-1-2$変換)する場合は、「対称座標法変換の基本式」で定義した変換行列$\displaystyle{\boldsymbol{a}=\frac{1}{3}\left( \begin{array}{ccc} 1 & 1 & 1 \\ 1 & a & a^2 \\ 1 & a^2 & a \end{array} \right)}$を$(1.2)$式の左から掛けて、

$$\boldsymbol{a}\left(\begin{array}{c} \dot{E}_a \\ \dot{E}_b \\ \dot{E}_c \end{array} \right)-\boldsymbol{a}\left(\begin{array}{c} \dot{V}_a \\ \dot{V}_b \\ \dot{V}_c\end{array} \right)= \boldsymbol{a}\left( \begin{array}{ccc} \dot{Z}_s & \dot{Z}_m & \dot{Z}_m \\ \dot{Z}_m& \dot{Z}_s & \dot{Z}_m \\ \dot{Z}_m& \dot{Z}_m & \dot{Z}_s \end{array} \right)\left( \begin{array}{c} \dot{I}_a \\ \dot{I}_b \\ \dot{I}_c\end{array} \right)- \boldsymbol{a}\left(\begin{array}{c} \dot{V}_n \\ \dot{V}_n \\ \dot{V}_n\end{array} \right) ・・・(1.3)$$

 

$(1.3)$式の計算を次項で行う。

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「零相成分」および「正相成分と逆相成分」の記事にて、任意の三相電気量の各相成分($a-b-c$領域における電気量)を、零相・正相・逆相の各成分($0-1-2$領域における電気量)へ変換するための考察を行った。本記事では、実際の計算で[…]

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変換式の計算

変換式の左辺の計算

$(1.3)$式の左辺第1項は、$\dot{E}_b=a^2\dot{E}_a,\ \dot{E}_c=a\dot{E}_a$であることに注意して、

$$\begin{align*}
\frac{1}{3}\left(\begin{array}{ccc} 1 & 1 & 1 \\ 1 & a & a^2 \\ 1 & a^2 & a \end{array} \right)\left(\begin{array}{c} \dot{E}_a \\ \dot{E}_b \\ \dot{E}_c \end{array} \right)= \frac {1}{3}\left(\begin{array}{ccc} 1 & 1 & 1 \\ 1 & a & a^2 \\ 1 & a^2 & a \end{array} \right) \left(\begin{array}{c} \dot{E}_a \\ a^2\dot{E}_a \\ a\dot{E}_a\end{array} \right)=\left(\begin{array}{c} 0 \\ \dot{E}_a \\ 0\end{array} \right)
\end{align*}$$

 

また、$(1.3)$式の左辺第2項は、

$$\frac{1}{3}\left(\begin{array}{ccc} 1 & 1 & 1 \\ 1 & a & a^2 \\ 1 & a^2 & a \end{array} \right)\left(\begin{array}{c} \dot{V}_a \\ \dot{V}_b \\ \dot{V}_c\end{array} \right)=\left(\begin{array}{c} \dot{V}_0 \\ \dot{V}_1 \\ \dot{V}_2 \end{array}\right)$$

 

変換式の右辺の計算

発電機の端子間に流れる各相電流$\left(\begin{array}{c} \dot{I}_a \\ \dot{I}_b \\ \dot{I}_c \end{array} \right)$について、逆変換行列 $\boldsymbol{a^{-1}}=\left( \begin{array}{ccc} 1& 1 & 1 \\ 1& a^2 & a \\ 1& a & a^2 \end{array} \right)$と$0-1-2$領域における電流$\left(\begin{array}{c} \dot{I}_0 \\ \dot{I}_1 \\ \dot{I}_2 \end{array} \right)$を用いて表すと、

$$\left( \begin{array}{c} \dot{I_a} \\ \dot{I_b} \\ \dot{I_c}\end{array} \right) = \boldsymbol{a^{-1}} \left( \begin{array}{c} \dot{I_0} \\ \dot{I_1} \\ \dot{I_2}\end{array} \right)$$

となることより、$(1.3)$式の右辺第1項は、

$$\begin{align*}
&\ \ \quad\frac{1}{3}\left( \begin{array}{ccc} 1 & 1 & 1 \\ 1 & a & a^2 \\ 1 & a^2 & a \end{array} \right)\left( \begin{array}{ccc} \dot{Z}_s & \dot{Z}_m & \dot{Z}_m \\ \dot{Z}_m& \dot{Z}_s & \dot{Z}_m \\ \dot{Z}_m& \dot{Z}_m & \dot{Z}_s \end{array} \right)\left(\begin{array}{ccc} 1 & 1 & 1 \\ 1 & a^2 & a \\ 1 & a & a^2 \end{array}\right) \left( \begin{array}{c} \dot{I}_0 \\ \dot{I}_1 \\ \dot{I}_2 \end{array}\right)\\\\
&=\frac{1}{3}\left(\begin{array}{ccc} \dot{Z}_s+2\dot{Z}_m & \dot{Z}_s+2\dot{Z}_m & \dot{Z}_s+2 \dot{Z}_m \\ \dot{Z}_s-\dot{Z}_m & a\left(\dot{Z}_s-\dot{Z}_m\right) & a^2\left(\dot{Z}_s-\dot{Z}_m\right) \\ \dot{Z}_s-\dot{Z}_m & a^2\left(\dot{Z}_s-\dot{Z}_m\right) & a\left(\dot{Z_s}-\dot{Z_m}\right) \end{array} \right) \left( \begin{array}{ccc} 1& 1 & 1 \\ 1& a^2 & a \\ 1& a & a^2 \end{array} \right) \left( \begin{array}{c} \dot{I}_0 \\ \dot{I}_1 \\ \dot{I}_2 \end{array} \right) \\\\
&=\left(\begin{array}{ccc} \dot{Z}_s+2\dot{Z}_m & 0 & 0 \\ 0& \dot{Z}_s-\dot{Z}_m & 0 \\ 0& 0 & \dot{Z}_s-\dot{Z}_m \end{array} \right) \left( \begin{array}{c} \dot{I}_0 \\ \dot{I}_1 \\ \dot{I}_2\end{array} \right)
\end{align*}$$

 

一方、大地を通って発電機の中性点に流入する電流は、図1より$\dot{I}_a+\dot{I}_b+\dot{I}_c$となるので、これと$\dot{I}_0$の定義式

$$\dot{I}_0=\frac{1}{3}\left(\dot{I}_a+\dot{I}_b+\dot{I}_c\right)$$

から、中性点発生電圧$\dot{V}_n$は、符号($\dot{E}_a$と向きが等しい)に注意して、

$$\dot{V}_n=-\dot{Z}_n\left(\dot{I}_a+\dot{I}_b+\dot{I}_c\right)=-3\dot{Z}_n\dot{I}_0$$

 

以上より、$(1.3)$式の右辺第2項は、

$$\frac{1}{3}\left(\begin{array}{ccc} 1& 1 & 1 \\ 1& a & a^2 \\ 1& a^2 & a \end{array} \right) \left( \begin{array}{c} \dot{V}_n \\ \dot{V}_n \\ \dot{V}_n \end{array} \right)=\left(\begin{array}{c} \dot{V}_n \\ 0 \\ 0\end{array} \right)=\left(\begin{array}{c} -3\dot{Z}_n\dot{I}_0 \\ 0 \\ 0\end{array} \right)$$

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発電機の基本式

零相・正相・逆相インピーダンス

以上の検討より、$(1.3)$式を書き換えると、

$$\left(\begin{array}{c} 0 \\ \dot{E}_a \\ 0\end{array}\right)-\left(\begin{array}{c} \dot{V}_0 \\ \dot{V}_1 \\ \dot{V}_2\end{array} \right)=\left( \begin{array}{ccc} \dot{Z}_s+2\dot{Z}_m & 0 & 0 \\ 0& \dot{Z}_s-\dot{Z}_m & 0 \\ 0 & 0 & \dot{Z}_s-\dot{Z}_m \end{array}\right)\left(\begin{array}{c} \dot{I}_0 \\ \dot{I}_1 \\ \dot{I}_2 \end{array}\right)+\left(\begin{array}{c} 3\dot{Z}_n\dot{I}_0 \\ 0 \\ 0\end{array}\right)$$

 

上式で、$\left(\begin{array}{ccc} \dot{Z}_s+2\dot{Z}_m & 0 & 0 \\ 0 & \dot{Z}_s-\dot{Z}_m & 0 \\ 0 & 0 & \dot{Z}_s-\dot{Z}_m \end{array}\right)\equiv\left(\begin{array}{ccc} \dot{Z}_0 & 0 & 0 \\ 0& \dot{Z}_1 & 0 \\ 0& 0 & \dot{Z}_2 \end{array}\right)$と置き換えると、

 

$$\left(\begin{array}{c} 0 \\ \dot{E}_a \\ 0 \end{array}\right)-\left(\begin{array}{c} \dot{V}_0 \\ \dot{V}_1 \\ \dot{V}_2 \end{array}\right)=\left(\begin{array}{ccc} \dot{Z}_0 & 0 & 0 \\ 0& \dot{Z}_1 & 0 \\ 0& 0 & \dot{Z}_2 \end{array}\right)\left(\begin{array}{c} \dot{I}_0 \\ \dot{I}_1 \\ \dot{I}_2 \end{array}\right)+\left(\begin{array}{c} 3\dot{Z}_n\dot{I}_0 \\ 0 \\ 0 \end{array} \right) ・・・(2)$$

 

$(2)$式において、$\dot{Z}_0,\ \dot{Z}_1,\ \dot{Z}_2$は、それぞれ発電機の零相・正相・逆相インピーダンスの定義である。

$$\begin{cases}
\dot{Z}_0=\dot{Z}_s+2\dot{Z}_m\\\\
\dot{Z}_1=\dot{Z}_s-\dot{Z}_m\\\\
\dot{Z}_2=\dot{Z}_s-\dot{Z}_m
\end{cases}$$

 

各成分のインピーダンスの式をみると、$\dot{Z}_s>0,\ \dot{Z}_m>0$であるから、$\dot{Z}_0>\dot{Z}_1=\dot{Z}_2$である。

厳密には、発電機の正相インピーダンス$\dot{Z}_1$は時間とともに変化するので、特に過渡安定度の解析等、数サイクル内の応答を考える場合は$\dot{Z}_1\neq \dot{Z}_2$としなければならない。

しかし、系統の商用周波数領域における故障計算等、数msオーダーの時間領域においては、本記事で計算した式としてよい場合が多い。

 

発電機の基本式の導出

$(2)$式において、零相・正相・逆相成分の式をそれぞれ記載すると、

$$\begin{cases}
-\dot{V}_0&=\left(\dot{Z}_0+3\dot{Z}_n\right)\dot{I}_0 &・・・(2\mathrm{a})\\\\
\dot{E}_a-\dot{V}_1&=\dot{Z}_1\dot{I}_1 &・・・(2\mathrm{b})\\\\
-\dot{V}_2&=\dot{Z}_2\dot{I}_2 &・・・(2\mathrm{c})
\end{cases}$$

 

$(2\mathrm{a})$〜$(2\mathrm{c})$が、対称座標法における発電機の基本式である。

 

0ー1ー2領域における等価回路(対称分回路)

$(2\mathrm{a})$〜$(2\mathrm{c})$式に基づき、$0-1-2$領域における各成分ごとの等価回路(対称分回路)を示すと、図3のようになる。

 

図3 対称分回路(上から零相、正相、逆相回路)

 

図3より、発電機の内部誘導起電力$\dot{E}_a$は正相回路にしか存在しないため、内部誘導起電力だけ考慮するならば、発電機は純粋な正相電圧源であるといえる。

 

また、中性点接地インピーダンス$3\dot{Z}_n$は零相回路に接続されるのみであるから、中性点に発生する電圧は純粋な零相電圧であり、中性点に流れる電流は純粋な零相電流であるといえる。

 

対称座標法による変換法の利点

本記事では、順を追って発電機の基本式である$(2\mathrm{a})$〜$(2\mathrm{c})$式を導出した。

 

しかし、そもそも元の$a-b-c$領域における電圧・電流の式を考える場合、図2のように各相の自己および相互インピーダンスを考慮しなければならず、非常に複雑な等価回路になる。当然、それらを用いた計算も複雑化する。

 

一方、対称座標法により$0-1-2$領域における電気量に変換された図3の等価回路は、各成分の回路が独立している。

すなわち「各成分間の相互インピーダンスが存在せず、回路計算上その成分自身のインピーダンスしか考慮しなくてよい」ということを意味している。

(このことは、$(2)$式のインピーダンス行列が対角行列となっていることからも分かる)

 

こうして、各成分の電圧・電流を個別に計算し、最後に$a-b-c$領域への逆変換を行うことにより、より簡素な回路および計算で各相電圧・電流を求めることができる。

これが対称座標法による変換法を使用する最大の利点である。

 

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参考文献

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