本記事では、ジュールの法則に関する式の導出、および関連する項目として「最小発熱定理」について解説する。
本記事では、電気工学の基礎となる電気回路の法則・定理のうち、本サイトで解説したものについてまとめる。電気回路とは電気回路(electric(またはelectrical) circuit)とは「各々の性質をもつ回路素子を、それぞれ[…]
ジュールの法則の概要
ジュール熱
「導体中を電流が流れる」ということは、「その抵抗に逆らって電荷を高電位側から低電位側に移動させる」ことを意味する。
この電荷の移動は、導体に印加された電界が仕事をすることによってなされ、導体中の電子を加速させ運動エネルギーを与えることになる。
このとき、加速された電子が導体内で衝突を繰り返し、その運動エネルギーの一部を失う。
この失われた運動エネルギーが熱(ジュール熱)となり、導体内で消費されることになる。
ジュールの法則と電力の式
導体中で電荷$\mathrm{d}Q$を電位差$V$移動させるとき、電界がなす仕事は$V\mathrm{d}Q$で表される。
このことと電流の定義式$I=\displaystyle{\frac{\mathrm{d}Q}{\mathrm{d}t}}$より、単位時間あたりに電界がなす仕事$P$は、
$$P=V\frac{\mathrm{d}Q}{\mathrm{d}t}=VI ・・・(1)$$
$(1)$式の$P$が導体内で単位時間あたりに発生するジュール熱であり、(電位差(電圧))×(電流)で表される。
この関係がジュールの法則(Joule’s law,ジュールの第一法則)の基本式となる。
なお、$(1)$式の$P$は単位時間あたりの電気エネルギー、すなわち電力を表す。
本記事では、有効電力、無効電力および複素電力の定義式とその導出について解説する。有効電力の定義式電圧・電流の瞬時値の式時間$t$で値が変化する交流波形で表される電圧および電流の瞬時値を$v(t)$[…]
ジュールの法則の式の導出
ジュールの法則の微分形
図1のように、導体中の微小体積$\mathrm{d}v$の部分に電界が加わり、電流が流れる場合を考える。
(本記事および図1において、太字はベクトルを表す)
図1 導体中の微小体積$\mathrm{d}v$
図1において、微小部分の長さ(電界の方向に一致する線素ベクトル)を$\mathrm{d}\boldsymbol{l}$、電流が流れる面積(ベクトル)を$\mathrm{d}\boldsymbol{S}$とすると、この微小部分の体積は$\mathrm{d}v=\mathrm{d}\boldsymbol{l}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{S}$となる。
まず、電界$\boldsymbol{E}$中において、同図の$\mathrm{d}\boldsymbol{l}$間に発生する電位差$\mathrm{d}V$は、
$$\mathrm{d}V=\boldsymbol{E}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{l} ・・・(2)$$
また、導体内の電流密度を$\boldsymbol{J}$とすると、同図の面積$\mathrm{d}\boldsymbol{S}$を通過する電流$\mathrm{d}I$は、
$$\mathrm{d}I=\boldsymbol{J}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{S} ・・・(3)$$
したがって、微小体積$\mathrm{d}v$中の単位時間あたりのジュール熱$\mathrm{d}P$は、$(1)\sim(3)$式より、
$$\begin{align*}
\mathrm{d}P&=\mathrm{d}V\cdot\mathrm{d}I\\\\
&=\left(\boldsymbol{E}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{l}\right)\left(\boldsymbol{J}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{S}\right)\\\\
&=\boldsymbol{E}\cdot\boldsymbol{J}\mathrm{d}v ・・・(4)
\end{align*}$$
ここで、導体の導電率を$\sigma$とすると、オームの法則の微分形の式より、
$$\boldsymbol{J}=\sigma\boldsymbol{E} ・・・(5)$$
導体の抵抗率を$\rho=\displaystyle{\frac{1}{\sigma}}$とすると、単位体積・単位時間あたりのジュール熱$\displaystyle{\frac{\mathrm{d}P}{\mathrm{d}v}}$は、$(4),\ (5)$式より、
$$\frac{\mathrm{d}P}{\mathrm{d}v}=\boldsymbol{E}\cdot\boldsymbol{J}=\sigma E^2=\rho J^2 ・・・(6)$$
$(6)$式はジュールの法則の微分形の式となる。
本記事では、オームの法則の式の導出と、他分野における類似法則について解説する。[sitecard subtitle=関連記事 url=https://denki-no-shinzui.com/summary-electrical-l[…]
抵抗で発生するジュール熱の式
次に、$(6)$式を導体の体積$v=l\cdot S$で積分すると、導体内で単位時間あたりに発生するジュール熱$P$は、
$$\begin{align*}
P&=\int_{v}\mathrm{d}P\\\\
&=\int_{v}\boldsymbol{E}\cdot\boldsymbol{J}\mathrm{d}v\\\\
&=\rho\int_{v}J^2\mathrm{d}v ・・・(7)
\end{align*}$$
ここで、体積$v$中の電流密度は一様であるとして、電流と電流密度の関係を$I=JS\rightarrow J=\displaystyle{\frac{I}{S}}$,および導体の抵抗を$R=\displaystyle{\rho\frac{l}{S}}$とすると、
$$\begin{align*}
P&=\rho\int_{v}\left(\displaystyle{\frac{I}{S}}\right)^2\mathrm{d}v\\\\
&=\rho\left(\displaystyle{\frac{I}{S}}\right)^2S\times\int^{l}_{0}\mathrm{d}l\\\\
&=\rho\frac{l}{S}\cdot I^2\\\\
&=RI^2 ・・・(8)
\end{align*}$$
となり、(抵抗)×(電流の2乗)という抵抗で発生するジュール熱の式である$(8)$式が導かれる。
最小発熱定理
最小発熱定理の概要
電束密度を$\boldsymbol{D}$とすると、誘電体中の電界$\boldsymbol{E}$による静電エネルギー$W$の定義式は、
$$W=\frac{1}{2}\int_{v}\boldsymbol{E}\cdot\boldsymbol{D}\mathrm{d}v ・・・(9)$$
$(9)$式は前項の$(7)$式(式変形途中の2行目)とよく似ており、$(9)$式の電束密度$\boldsymbol{D}$と、$(7)$式の電流密度$\boldsymbol{J}$には対応関係がある。
ここで、「静電エネルギー$W$が最小となるような電界$\boldsymbol{E}$は静電界(時間的に変動しない電界)である」という定理をトムソンの定理(Thomson’s law)という。
$(9)$式の静電エネルギー$W$についてトムソンの定理が成り立つとすると、これと対応関係にある$(7)$式でも「ジュール熱$P$が最小となるような電流密度$\boldsymbol{J}$は定常電流(時間的に変動しない電流)である」と考えることができる。
これを最小発熱定理(最小ジュール熱の定理)という。
最小発熱定理と分流の式
最小発熱定理の具体的な事例を考えるために、図2のような抵抗$R_1$と$R_2$の並列回路に、定常電流$I$が流れる場合の回路全体のジュール熱を考える。
図2 並列抵抗に定常電流が流れる回路
図2において、抵抗$R_1$に流れる電流を$I_1$とすると、抵抗$R_2$には$\left(I-I_1\right)$の電流が流れる。
$(8)$式より、回路全体に発生するジュール熱$P$は、
$$P=R_1I^2_1+R_2\left(I-I_1\right)^2 ・・・(10)$$
$P$の最小値を求めるため、$(10)$式の両辺を$I_1$で微分すると、
$$\begin{align*}
\frac{\mathrm{d}P}{\mathrm{d}I_1}&=2R_1I_1-2R_2\left(I-I_1\right)\\\\
&=2\left(R_1+R_2\right)I_1-2R_2I ・・・(11)
\end{align*}$$
$(11)$式$=0$となるような$I_1$の値は、
$$\begin{align*}
2\left(R_1+R_2\right)I_1-2R_2I&=0\\\\
\therefore I_1&=\frac{R_2}{R_1+R_2}I ・・・(12)
\end{align*}$$
$(12)$式はまさに「並列回路における分流の式(ある抵抗に流れる電流は、抵抗の逆比で分流する)」を表しており、$(12)$式を満たすことは同時にジュール熱$P$も最小値をとることになる。
すなわち、電流が抵抗の逆比で分流しているということは、回路全体のジュール熱が最小となる(最小発熱定理を満たす)ようにも流れていることになる。
関連する例題(「電験王」へのリンク)
電験三種
参考文献
- 電気学会『電気工学ハンドブック 第7版』オーム社,2013
- 大久保ほか『電気磁気学』昭晃堂,1993
- 後藤憲一、山崎修一郎『詳解電磁気学演習』共立出版,1970
- 卯本重郎『電磁気学』昭晃堂,1975
- 砂川重信『電磁気学(物理テキストシリーズ 4)』岩波書店,1987
- 高校物理の備忘録「最小発熱の原理」
著書・製品のご紹介
『書籍×動画』が織り成す、未だかつてない最高の学習体験があなたを待っている!
※本ページはプロモーションが含まれています。―『書籍×動画』が織り成す、未だかつてない最高の学習体験があなたを待っている― 当サイト「電気の神髄」をいつもご利用ありがとうございます。管理人の摺り足の加藤です。[…]
この講座との出会いは、数学が苦手なあなたを救う!
電験アカデミアにテキストを書き下ろしてもらい、電験どうでしょうの川尻将先生により動画解説を行ない、電験3種受験予定者が電…
すべての電験二種受験生の方に向けて「最強の対策教材」作りました!
※本ページはプロモーションが含まれています。すべての電験二種受験生の方に向けて「最強の対策教材」作りました! 当サイト「電気の神髄」をいつもご愛読ありがとうございます。管理人の摺り足の加藤です。 […]
初学者が躓きがちなギモンを、電験アカデミアがスッキリ解決します!
※本ページはプロモーションが含まれています。 当サイト「電気の神髄」をいつもご利用ありがとうございます。管理人の摺り足の加藤です。 2022年5月18日、オーム社より「電験カフェへようこそ[…]