異地点同時故障時の計算

本記事では、故障計算時の基準相変換と、異地点同時故障時の計算について記載する。





基準相の変換方法

これまでの故障計算の記事では、電圧・電流の基準は基本的に$a$相となるよう考えてきた。

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しかし、現実には$b$相および$c$相における事故もあり、かつ多相にわたり同時に事故が発生する場合もある。

上記のような場合において、$b$相および$c$相基準でも計算が可能となるよう、基準相の変換の考え方を導入する。

 

基準相の変換行列

本項では、検討する電気量として電圧を用いているが、電流についても同様の考え方が成り立つ。

 

$a$相を基準として、$a-b-c$領域の電圧$\dot{V}_a,\ \dot{V}_b,\ \dot{V}_c$を$0-1-2$領域における成分で表すと、

$$\begin{cases}
\dot{V}_a&=\dot{V}_{0a}+\dot{V}_{1a}+\dot{V}_{2a}\\\\
\dot{V}_b&=\dot{V}_{0a}+a^2\dot{V}_{1a}+a\dot{V}_{2a}\\\\
\dot{V}_c&=\dot{V}_{0a}+a\dot{V}_{1a}+a^2\dot{V}_{2a}
\end{cases} ・・・(1)$$

ここで、$\dot{V}_{0a},\ \dot{V}_{1a},\ \dot{V}_{2a}$は、$a$相を基準とした$0-1-2$領域における電圧である。

 

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ここで、$b$相を基準とした場合、$\dot{V}_a,\ \dot{V}_b,\ \dot{V}_c$は、

$$\begin{cases}
\dot{V}_a&=\dot{V}_{0b}+a\dot{V}_{1b}+a^2\dot{V}_{2b}\\\\
\dot{V}_b&=\dot{V}_{0b}+\dot{V}_{1b}+\dot{V}_{2b}\\\\
\dot{V}_c&=\dot{V}_{0b}+a^2\dot{V}_{1b}+a\dot{V}_{2b}
\end{cases} ・・・(2)$$

ここで、$\dot{V}_{0b},\ \dot{V}_{1b},\ \dot{V}_{2b}$は、$b$相を基準とした$0-1-2$領域における電圧である。

 

同様に、$c$相を基準とした場合、$\dot{V}_a,\ \dot{V}_b,\ \dot{V}_c$は、

$$\begin{cases}
\dot{V}_a&=\dot{V}_{0c}+a^2\dot{V}_{1c}+a\dot{V}_{2c}\\\\
\dot{V}_b&=\dot{V}_{0c}+a\dot{V}_{1c}+a^2\dot{V}_{2c}\\\\
\dot{V}_c&=\dot{V}_{0c}+\dot{V}_{1c}+\dot{V}_{2c}
\end{cases} ・・・(3)$$

ここで、$\dot{V}_{0c},\ \dot{V}_{1c},\ \dot{V}_{2c}$は、$c$相を基準とした$0-1-2$領域における電圧である。

 

$(1)$~$(3)$式をそれぞれ比較すると、$0-1-2$領域における各電圧の関係は、

$$\begin{align*}
&\begin{cases}
\dot{V}_{0a}&=\dot{V}_{0b}&=\dot{V}_{0c}\\\\
a^2\dot{V}_{1a}&=\dot{V}_{1b}&=a\dot{V}_{1c}\\\\
a\dot{V}_{2a}&=\dot{V}_{2b}&=a^2\dot{V}_{2c}
\end{cases}\\\\
\Longleftrightarrow&\begin{cases}
\dot{V}_{0a}&=\dot{V}_{0b}&=\dot{V}_{0c}\\\\
\dot{V}_{1a}&=a\dot{V}_{1b}&=a^2\dot{V}_{1c}\\\\
\dot{V}_{2a}&=a^2\dot{V}_{2b}&=a\dot{V}_{2c}
\end{cases} ・・・(4.1)
\end{align*}$$

 

$(4.1)$式を行列表示にすると、

$$\begin{align*}
\left(\begin{array}{c} \dot{V}_{0a} \\ \dot{V}_{1a} \\ \dot{V}_{2a}\end{array}\right)&=\left(\begin{array}{ccc}1 & a & a^2 \end{array}\right)\left(\begin{array}{c} \dot{V}_{0b} \\ \dot{V}_{1b} \\ \dot{V}_{2b}\end{array}\right)\\\\
&=\left(\begin{array}{ccc}1 & a^2 & a \end{array}\right)\left(\begin{array}{c} \dot{V}_{0c} \\ \dot{V}_{1c} \\ \dot{V}_{2c}\end{array}\right) ・・・(4.2)
\end{align*}$$

 

$(4.2)$式より、電気量の基準相を$a$相から$b$相および$c$相に変換するためには、変換行列$\left(\begin{array}{ccc}1 & a & a^2 \end{array}\right)$および$\left(\begin{array}{ccc}1 & a^2 & a \end{array}\right)$に相当する回路要素を$0-1-2$回路に反映すればよいと考えられる。

 

基準相変換後の0-1-2成分回路

ベクトルオペレータ$a$および$a^2$は、大きさが$1$かつ位相を$\displaystyle{\frac{2}{3}\pi}$および$\displaystyle{\frac{4}{3}\pi}$進める作用をもつ。

 

ここで、基準相を変換する回路要素として、変圧比の大きさが$1$、かつ位相を$\displaystyle{\frac{2}{3}\pi}$または$\displaystyle{\frac{4}{3}\pi}$進める作用を持つ仮想的な変圧器を考える。

$(4.1)$および$(4.2)$式に基づき、これらの変圧器を$0-1-2$回路に反映させたものを図1および図2に示す。

(各回路で統一感を出すために、零相回路にも変圧比$1:1$の変圧器を接続してある)

 

図1 $0-1-2$成分回路($a$相→$b$相基準)

 

図2 $0-1-2$成分回路($a$相→$c$相基準)

 

なお、図1および図2において、ベクトルオペレータ$a$の性質$a^3=1$より、

$$\begin{cases}
a^2:1=1:a\\\\
a:1=1:a^2
\end{cases}$$

となるため、各位相変圧器の変圧比を考える際はどちらを用いてもよい。

 

以上より、基準相を変換するためには、変圧比の大きさが$1$、かつ位相を$\displaystyle{\frac{2}{3}\pi}$または$\displaystyle{\frac{4}{3}\pi}$進める作用を持つ仮想的な変圧器を各成分回路に接続することによって表現することができる。

 

 

異地点同時故障の計算

異地点同時故障の例として、ある三相電力系統において、図3のように故障点$F_1$で$a$相、故障点$F_2$で$b$相において2地点同時に一線地絡故障が発生した場合を考える。

(なお、各故障点で地絡抵抗は考慮しないこととする)

 

図3 三相電力系統の$a$相・$b$相同時一線地絡故障

 

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故障点F1における式

故障点$\mathrm{F_1}$において、一線地絡故障時の条件式は、

$$\begin{cases}
\dot{_{1}I_{0a}}=\dot{_{1}I_{1a}}=\dot{_{1}I_{2a}}\\\\
\dot{_{1}V_{0a}}+\dot{_{1}V_{1a}}+\dot{_{1}V_{2a}}=0
\end{cases} ・・・(5)$$

 

また、発電機の基本式より、

$$\begin{cases}
\dot{_{1}V_{0a}}=-\dot{_{1}Z_{0\ }}\cdot\dot{_{1}I_{0a}}-\dot{Z}_{0m}\cdot\dot{_{2}I_{0a}}\\\\
\dot{_{1}V_{1a}}=\dot{_{1}E_a}-\dot{_{1}Z_{1\ }}\cdot\dot{_{1}I_{1a}}-\dot{Z}_{1m}\cdot\dot{_{2}I_{1a}}\\\\
\dot{_{1}V_{2a}}=-\dot{_{1}Z_{2\ }}\cdot\dot{_{1}I_{2a}}-\dot{Z}_{2m}\cdot\dot{_{2}I_{2a}}
\end{cases} ・・・(6)$$

 

ここで、故障点$\mathrm{F_1}$において、

  • $\dot{_{1}I_{0a}},\ \dot{_{1}I_{1a}},\ \dot{_{1}I_{2a}}$:$a$相を基準とした$0-1-2$成分の電流
  • $\dot{_{1}V_{0a}},\ \dot{_{1}V_{1a}},\ \dot{_{1}V_{2a}}$:$a$相を基準とした$0-1-2$成分の電圧
  • $\dot{_{1}E_a}$:故障発生前の$a$相電圧
  • $\dot{_{1}Z_{0\ }},\ \dot{_{1}Z_{1\ }},\ \dot{_{1}Z_{2\ }}$:$0-1-2$回路の自己インピーダンス(駆動点インピーダンスともいう)
  • $\dot{Z}_{0m},\ \dot{Z}_{1m},\ \dot{Z}_{2m}$:故障点$\mathrm{F_2}$における$0-1-2$回路との相互インピーダンス(伝達インピーダンスともいう)

 

$(5),\ (6)$式に基づき構成した$0-1-2$成分回路を図4に示す。

図3 故障点$\mathrm{F_1}$における$0-1-2$成分回路

 

故障点F2における式

故障点$\mathrm{F_2}$において、一線地絡故障時の条件式は、

$$\begin{cases}
\dot{_{2}I_{0b}}=\dot{_{2}I_{1b}}=\dot{_{2}I_{2b}}\\\\
\dot{_{2}V_{0b}}+\dot{_{2}V_{1b}}+\dot{_{2}V_{2b}}=0
\end{cases} ・・・(7)$$

 

$(4.1)$および$(4.2)$式により、基準相を$b$相→$a$相に変換すると、

$$\begin{cases}
\dot{_{2}I_{0a}}=a^2\cdot\dot{_{2}I_{1a}}=a\cdot\dot{_{2}I_{2a}}\\\\
\dot{_{2}V_{0a}}+a^2\cdot\dot{_{2}V_{1a}}+a\cdot\dot{_{2}V_{2a}}=0
\end{cases} ・・・(8)$$

 

また、発電機の基本式より、

$$\begin{cases}
\dot{_{2}V_{0a}}=-\dot{_{2}Z_{0\ }}\cdot\dot{_{2}I_{0a}}-\dot{Z}_{0m}\cdot\dot{_{1}I_{0a}}\\\\
\dot{_{2}V_{1a}}=\dot{_{2}E_a}-\dot{_{2}Z_{1\ }}\cdot\dot{_{2}I_{1a}}-\dot{Z}_{1m}\cdot\dot{_{1}I_{1a}}\\\\
\dot{_{2}V_{2a}}=-\dot{_{2}Z_{2\ }}\cdot\dot{_{2}I_{2a}}-\dot{Z}_{2m}\cdot\dot{_{1}I_{2a}}
\end{cases} ・・・(9)$$

 

ここで、故障点$\mathrm{F_2}$において、

  • $\dot{_{2}I_{0a}},\ \dot{_{2}I_{1a}},\ \dot{_{2}I_{2a}}$:$a$相を基準とした$0-1-2$成分の電流
  • $\dot{_{2}I_{0b}},\ \dot{_{2}I_{1b}},\ \dot{_{2}I_{2b}}$:$b$相を基準とした$0-1-2$成分の電流
  • $\dot{_{2}V_{0a}},\ \dot{_{2}V_{1a}},\ \dot{_{2}V_{2a}}$:$a$相を基準とした$0-1-2$成分の電圧
  • $\dot{_{2}V_{0b}},\ \dot{_{2}V_{1b}},\ \dot{_{2}V_{2b}}$:$b$相を基準とした$0-1-2$成分の電圧
  • $\dot{_{2}E_a}$:故障発生前の$a$相電圧
  • $\dot{_{2}Z_{0\ }},\ \dot{_{2}Z_{1\ }},\ \dot{_{2}Z_{2\ }}$:$0-1-2$回路の自己インピーダンス(駆動点インピーダンス)
  • $\dot{Z}_{0m},\ \dot{Z}_{1m},\ \dot{Z}_{2m}$:故障点$\mathrm{F_1}$における$0-1-2$回路との相互インピーダンス(伝達インピーダンス、故障点$\mathrm{F_1}$の場合の値と同じ)

 

$(8),\ (9)$式に基づき構成した$0-1-2$成分回路を図5に示す。

図5 故障点$\mathrm{F_2}$における$0-1-2$成分回路

 

図5より、$(8)$式で$b$相→$a$相と基準相変換したため、各成分回路に位相変圧器が接続されている。

 

各故障点における計算式

$(5)$~$(9)$式をまとめ、行列表示にすると、

$$\left(\begin{array}{c} \dot{_{1}V_{0a}} \\ \dot{_{1}V_{1a}} \\ \dot{_{1}V_{2a}} \\ \dot{_{2}V_{0a}} \\ \dot{_{2}V_{1a}} \\ \dot{_{2}V_{2a}} \end{array}\right)=\left(\begin{array}{c} 0 \\ \dot{_{1}E_a} \\ 0 \\ 0 \\ \dot{_{2}E_a} \\ 0 \end{array}\right)-\left(\begin{array}{cccccc} \dot{_{1}Z_{0\ }} & 0 & 0 & \dot{Z}_{0m} & 0 & 0 \\ 0 & \dot{_{1}Z_{1\ }} & 0 & 0 & \dot{Z}_{1m} & 0 \\ 0 & 0 & \dot{_{1}Z_{2\ }} & 0 & 0 & \dot{Z}_{2m} \\ \dot{Z}_{0m} & 0 & 0 & \dot{_{2}Z_{0\ }} & 0 & 0 \\ 0 & \dot{Z}_{1m} & 0 & 0 & \dot{_{2}Z_{1\ }} & 0 \\ 0 & 0 & \dot{Z}_{2m} & 0 & 0 & \dot{_{2}Z_{2\ }}\end{array}\right)\left(\begin{array}{c} \dot{_{1}I_{0a}} \\ \dot{_{1}I_{1a}} \\ \dot{_{1}I_{2a}} \\ \dot{_{2}I_{0a}} \\ \dot{_{2}I_{1a}} \\ \dot{_{2}I_{2a}} \end{array}\right)$$

 

$$\begin{cases}
\dot{_{1}I_{0a}}=\dot{_{1}I_{1a}}=\dot{_{1}I_{2a}}\\\\
\dot{_{2}I_{0a}}=a^2\cdot\dot{_{2}I_{1a}}=a\cdot\dot{_{2}I_{2a}}\\\\
\dot{_{1}V_{0a}}+\dot{_{1}V_{1a}}+\dot{_{1}V_{2a}}=0\\\\
\dot{_{2}V_{0a}}+a^2\cdot\dot{_{2}V_{1a}}+a\cdot\dot{_{2}V_{2a}}=0
\end{cases}$$

 

未知数は合計12種類あり、かつ式も合計12個(電流の式は2つの式とカウントする)あるため、これらを連立して解くことにより、故障点$\mathrm{F_1}$および$\mathrm{F_2}$における電圧・電流を求めることができる。

 

なお、一線地絡故障以外の故障計算に関しても、各故障点において$0-1-2$成分回路を考え、各地点で組み合わせることによって同様に電圧・電流を計算することができる。

 

参考文献