一線断線故障計算の例題

一線断線時の故障計算について、例題として電験一種の過去問を解いていく。
今回取り上げる問題は近年の一種二次試験の問題の中でも計算量はトップレベルであり、それゆえに完答するためには正確な理解が求められる。

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一線断線故障計算:例題

出典:電験一種二次試験「電力・管理」H26問3
(※問題の記述を一部変更しています)

図1は1回線送電線を介して同期発電機、中性点を直接接地した昇圧変圧器から三相平衡負荷へ送電している状況を示す。 送電線の送電端(昇圧変圧器高圧側母線$S$)近傍で発生した$a$相一線断線事故に関して、次の問に答えよ。

ただし、送電線の作用静電容量は無視できるものとする。また、数値はすべて$100\mathrm{MVA}$基準の単位法で表現するものし、事故発生前の送電端(母線$S$)電圧を$1.0\mathrm{p.u.}$,送電電力を$90\mathrm{MW}+j10\mathrm{Mvar}$とする。なお、添字$1,\ 2,\ 0$はそれぞれ正相・逆相・零相を表す。

図1 送電系統図

$(1)$
事故発生前の発電機内部電圧(図1に示した発電機正相リアクタンス背後電圧)の
大きさを計算せよ。

$(2)$
一線断線直後には発電機内部電圧(正相リアクタンス背後電圧)が変化しないものとして、正相電流$\dot{I_1}$を計算せよ。ただし,発電機内部電圧の位相を基準にすること。

$(3)$
一線断線直後の母線$S$の事故相電圧の大きさ${_S}V_a$を計算せよ。

事故発生前の背後電圧

$(1)$
「発電機の正相リアクタンス背後電圧」は、問題文にもある通り、基準点(本問の場合は負荷端)からみた発電機の内部誘導起電力の大きさである。

送電端の電圧$V_S=1.0\mathrm{p.u.}$としたときの発電機の背後電圧$V_G$を求めるために、事故前の各要素の正相インピーダンスを用いた正相分等価回路を描くと図2のようになる。

図2 事故前の系統の正相分等価回路(単位:$\mathrm{p.u.}$)

ここで、事故発生前の事故点からの送電電力$\dot{S_S}$(負荷の電力ではない。注意!)は、題意より$\dot{S_S}=0.90+j0.10\ \mathrm{p.u}@100\mathrm{MVA\ base}$であることから、事故発生前の事故点における$a$相の電流$\dot{I_a}$は、

$$\dot{I_a}=\frac{\overline{\dot{S_S}}}{\overline{\dot{V_S}}}=\frac{\overline{0.90+j0.10}}{1.0}=0.90-j0.10\ \mathrm{p.u.}$$

したがって、発電機の正相リアクタンス背後電圧$\dot{V_G}$は、

$$\begin{align*}
\dot{V_G}&=\dot{V_S}+j(XG_1+XT_{S1})\dot{I_a}\\\\
&=1.0+j(1.20+0.20)\times(0.90-j0.10)\\\\
&=1.14+j1.26\\\\
&\therefore|\dot{V_G}|=1.699→\boldsymbol{\underline{1.70}}
\end{align*}$$

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一線断線時の対称分回路

$(2)$
$a$相一線断線事故発生時の対称分回路を図3に示す。同図は図1の回路定数の値をすべて反映したものであり、かつ題意より変圧器の中性点は直接接地されているため、零相回路は$\Delta$結線以降は開放状態になっている。


変圧器の結線と零相回路についてはこちら↓

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図3 $a$相一線断線故障時の対称分回路

図3の回路で各リアクタンスを足し合わせ、さらに簡略化すると図4のようになる。

図4 $a$相一線断線故障時の対称分回路(簡略化)

なお、事故点から負荷側をみたインピーダンス$\dot{Z_S}$は、$\dot{V_S}$および$\dot{I_a}$をもちいて、

$$\dot{Z_S}=\frac{\dot{V_S}}{\dot{I_a}}=\frac{1.0}{0.9-j0.1}=1.0976+j0.1220\ \mathrm{p.u.}$$

この$\dot{Z_S}$と各インピーダンスの関係も図4に記載しており、各成分の回路をひとつの回路としてみなすことができる。

正相電流の計算

図4の正相電流$\dot{I_1}$は、

$$\begin{align*}
\dot{I_1}&=\frac{\dot{V_S}}{j{_S}\dot{X_1}+\frac{(j{_S}\dot{X_2}+\dot{Z_S})\cdot j({_S}\dot{X_0}+{_R}\dot{X_0})}{(j{_S}\dot{X_2}+\dot{Z_S})+j({_S}\dot{X_0}+{_R}\dot{X_0})}+\dot{Z_S}}\\\\&=\frac{1.699}{j1.4+\frac{(1.0976+j0.5220)\cdot j0.65}{(1.0976+j0.5220)+j0.65}+1.0976+j0.1220}\\\\&=\frac{1.699}{1.0976+j1.5220+\frac{-0.3393+j0.7134}{1.0976+j1.1720}}\\\\&=\frac{1.699}{1.0976+j1.5220+0.1798+j0.4579}\\\\&=\frac{1.699}{1.2774+j1.9799}\\\\&=0.3909-j0.6059\\\\&\therefore\left|\dot{I_1}\right|=0.7211→\boldsymbol{\underline{0.721\ \mathrm{p.u.}}}
\end{align*}$$

ちなみに、「一線断線時の故障計算」の$(26)$式

$$\dot{I_1}=\frac{ \dot{Z_2}+\dot{Z_0}}{\dot{Z_0}\dot{Z_1}+\dot{Z_1}\dot{Z_2}+ \dot{Z_2}\dot{Z_0}}({_A}\dot{E_a}-{_B}\dot{E_a})$$

により$\dot{I_1}$を求めてみる。


一線断線故障の詳細な解説はこちら↓

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図4より、

$$\begin{align*}
{_A}\dot{E_a}&=1.699,\ {_B}\dot{E_a}=0\\\\
\dot{Z_0}&=j({_S}\dot{X_0}+{_R}\dot{X_0})=j0.65\\\\
\dot{Z_1}&=j({_S}\dot{X_1}+{_R}\dot{X_1})+\dot{Z_L}=1.0976+j1.5220\\\\
\dot{Z_2}&=j({_S}\dot{X_2}+{_R}\dot{X_2})+\dot{Z_L}=1.0976+j0.5220
\end{align*}$$

以上より、$\dot{I_1}$は、

$$\begin{align*}
\dot{I_1}&=\frac{ \dot{Z_2}+\dot{Z_0}}{\dot{Z_0}\dot{Z_1}+\dot{Z_1}\dot{Z_2}+ \dot{Z_2}\dot{Z_0}}({_A}\dot{E_a}-{_B}\dot{E_a})\\\\
&=\scriptsize{\frac{j0.65+(1.0976+j0.5220)}{j0.65\{1.0976\times2+j(1.5220+0.5220)\}+(1.0976+j0.5220)(1.0976+j1.5220)}\times1.699}\\\\
&=\frac{1.0976+j1.1720}{(-1.3286+j1.4269)+(1.2047+j2.2435-0.79448)}\times1.699\\\\
&=\frac{1.0976+j1.1720}{-0.91838+j3.6704}\times1.699\\\\
&=\frac{(1.0976+j1.1720)(-0.91838-j3.6704)}{(-0.91838)^2+(3.6704)^2}\times1.699\\\\
&=0.3909-j0.6060\ \mathrm{p.u.}\\\\
&\therefore\left|\dot{I_1}\right|=0.7211→\boldsymbol{\underline{0.721\ \mathrm{p.u.}}}
\end{align*}$$

となり、同様の結果が得られる。

事故直後の事故相電圧

$(3)$
母線$S$側の$a$相電圧を求めるため、まずは回路の対称分電流$\dot{I_0},\ \dot{I_1},\ \dot{I_2}$を求める。

$\dot{I_1}$は$(2)$で求めた通りで、かつ図4より$\dot{I_1}=-\dot{I_2}-\dot{I_0}$であることから、$\dot{I_2}$および$\dot{I_0}$は、

$$\begin{align*}
\dot{I_2}&=-\frac{j({_S}\dot{X_0}+{_R}\dot{X_0})}{(j{_S}\dot{X_2}+\dot{Z_S})+j({_S}\dot{X_0}+{_R}\dot{X_0})}\dot{I_1}\\\\
&=-\frac{j0.65}{1.0976+j0.5220+j0.65}\dot{I_1}\\\\
&=-(0.2955+j0.2767)\dot{I_1}\\\\
&≡-C_2\dot{I_1}\\\\
\dot{I_0}&=-(1-C_2) \dot{I_1}
\end{align*}$$

したがって、事故相電圧${_S}\dot{V_a}$は、

$$\begin{align*}
{_S}\dot{V_a}&={_S}\dot{V_0}+{_S}\dot{V_1}+{_S}\dot{V_2}\\\\
&=-{_S}\dot{Z_0}\dot{I_0}+(\dot{V_G}-{_S}\dot{Z_1}\dot{I_1})-{_S}\dot{Z_2}\dot{I_2}\\\\
&=\dot{V_G}-\{-(1-C_2){_S}\dot{Z_0}+{_S}\dot{Z_1}-C_2\cdot{_S}\dot{Z_2}\}\dot{I_1}\\\\
&=1.699-\{(0.2955+j0.2767)(j0.2-j0.4)\\&+(-j0.2+j1.4)\}(0.3909-j0.6059)\\\\
&=1.699-(0.7129+j0.4124)\\\\&=0.9861-j0.4124\ \mathrm{p.u.}\\\\&\therefore\left|{_S}\dot{V_a}\right|=1.069→\boldsymbol{\underline{1.07\ \mathrm{p.u.}}}
\end{align*}$$

 

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