二線断線故障計算の例題

本記事では、二線断線時の故障計算について、電験一種の過去問(改題)を解いていく。

二線断線故障計算:例題

出典:電験一種筆記試験(旧制度)「送配電」 昭和62年度問3改題

図1に示すような三相三線式架空配電線路の中間点において、$b$,$c$相二線断線故障が発生した。

断線点負荷側に発生する零相電圧を求めよ。

 

ただし、断線点から見た電源側の零相インピーダンスを${_A}\dot{Z_0}[\Omega]$, 正相・逆相インピーダンスは等しく${_A}\dot{Z_1}[\Omega]$,負荷側の零相・正相・逆相 インピーダンスはすべて等しく${_B}\dot{Z_1}[\Omega]$,配電電圧を$\dot{V}[\mathrm{V}]$とする。

 

図1 事故系統

 

相電圧の対称座標法変換

題意のように$b,\ c$相で断線事故が発生した場合、負荷側の各相対地電圧をそれぞれ${_B}\dot{V_a},\ {_B}\dot{V_b},\ {_B}\dot{V_c},$ 断線点$b_A-b_B$間、$c_A-c_B$間に発生する電圧をそれぞれ$3\dot{V_b},\ 3\dot{V_c}$とすれば、電源側の各相対地電圧${_A}\dot{V_a},\ {_A}\dot{V_b},\ {_A}\dot{V_c}$は、

$$\begin{cases}
{_A}\dot{V_a}={_B}\dot{V_a}\\\\
{_A}\dot{V_b}={_B}\dot{V_b}+3\dot{V_b}\\\\
{_A}\dot{V_c}={_B}\dot{V_c}+3\dot{V_c}
\end{cases} ・・・(1)$$

と表すことができる。

 

したがって、${_A}\dot{V_a},\ {_A}\dot{V_b},\ {_A}\dot{V_c}$を対称座標法変換すると、

$$\begin{align*}
\left(\begin{array}{c}\ {_A}\dot{V_0}\\{_A}\dot{V_1}\\{_A}\dot{V_2}\end{array}\right)&=\frac{1}{3}\left(\begin{array}{ccc}\ 1&1&1\\1&a&a^2\\1&a^2&a\end{array}\right)\left(\begin{array}{c}\ {_B}\dot{V_a}\\{_B}\dot{V_b}+3\dot{V_b}\\{_B}\dot{V_c}+3\dot{V_c}\end{array}\right)\\\\&=\left(\begin{array}{c}\ {_B}\dot{V_0}+\dot{V_b}+\dot{V_c}\\{_B}\dot{V_1}+a\dot{V_b}+a^2\dot{V_c}\\{_B}\dot{V_2}+a^2\dot{V_b}+a\dot{V_c}\end{array}\right) ・・・(2)
\end{align*}$$

 

対称分電圧・電流の関係式

題意より、事故点から見た電源側の零相インピーダンスは${_A}\dot{Z_0}$, 正相・逆相インピーダンスは共に${_A}\dot{Z_1}$で与えられるため、「発電機の基本式」より、電源側の対称分電圧${_A}\dot{V_0},\ {_A}\dot{V_1},\ {_A}\dot{V_2}$は、

$$\begin{cases}
{_A}\dot{V_0}=-{_A}\dot{Z_0}\dot{I_0}\\\\
{_A}\dot{V_1}=\dot{E_a}-{_A}\dot{Z_1}\dot{I_1}\\\\
{_A}\dot{V_2}=-{_A}\dot{Z_1}\dot{I_2}
\end{cases} ・・・(3)$$

 

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さらに、故障点からみた負荷側の零相・ 正相・逆相インピーダンスは、題意よりすべて${_B}\dot{Z_1}$で与えられていることより、負荷側の対称分電圧${_B}\dot{V_0},\ {_B}\dot{V_1},\ {_B}\dot{V_2}$は、

$$\begin{cases}
{_B}\dot{V_0}={_B}\dot{Z_1}\dot{I_0}\\\\
{_B}\dot{V_1}={_B}\dot{Z_1}\dot{I_1}\\\\
{_B}\dot{V_2}={_B}\dot{Z_1}\dot{I_2}
\end{cases} ・・・(4)$$

 

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ここで、$b$相および$c$相の電流はゼロであるから、

$$\begin{align*}
\dot{I_b}&=\dot{I_0}+a^2\dot{I_1}+a\dot{I_2}=0\\
\dot{I_c}&=\dot{I_0}+a\dot{I_1}+a^2\dot{I_2}=0\\\\
&\therefore\dot{I_0}=\dot{I_1}=\dot{I_2} ・・・(5)
\end{align*}$$

 

$(4),\ (5)$式より、

$${_B}\dot{V_0}={_B}\dot{V_1}={_B}\dot{V_2} ・・・(6)$$

 

 

負荷側の零相電圧の導出

$(2),\ (5),\ (6)$式から、$(3)$の${_A}\dot{V_1}$の式を書き換えていくと、

$$\begin{align*}
{_B}\dot{V_1}+a\dot{V_b}+a^2\dot{V_c}&=\dot{E_a}-{_A}\dot{Z_1}\dot{I_1}\\
&=\dot{E_a}+{_A}\dot{V_2}\\
&=\dot{E_a}+{_B}\dot{V_2}+a^2\dot{V_b}+a\dot{V_c}\\\\
\dot{E_a}&=(a-a^2)\left(\dot{V_b}-\dot{V_c}\right)\\\\
\therefore\dot{V_b}-\dot{V_c}&=\frac{\dot{E_a}}{a-a^2} ・・・(7)
\end{align*}$$

 

また、$(2),\ (3)$の${_A}\dot{V_0}$の式から、

$$\begin{align*}
\dot{V_b}+\dot{V_c}&=-{_B}\dot{V_0}-{_A}\dot{Z_0}\dot{I_0}\\\\
&=-{_B}\dot{V_0}-{_A}\dot{Z_0}\cdot\frac{{_B}\dot{V_0}}{{_B}\dot{Z_1}}  ・・・(8)
\end{align*}$$

 

したがって、$(7)+(8)$より、$\dot{V_c}$を消去して整理すると、

$$\dot{V_b}=\frac{1}{2}\left\{\frac{\dot{E_a}}{a-a^2}-\left(1+\frac{{_A}\dot{Z_0}}{{_B}\dot{Z_1}}\right){_B}\dot{V_0}\right\} ・・・(9)$$

 

$(9)$式を$(7)$式に代入して、

$$\dot{V_c}=\frac{1}{2}\left\{-\frac{\dot{E_a}}{a-a^2}-\left(1+\frac{{_A}\dot{Z_0}}{{_B}\dot{Z_1}}\right){_B}\dot{V_0}\right\} ・・・(10)$$

 

$(9),\ (10)$および$\dot{I_0}=\displaystyle{\frac{{_B}\dot{V_0}}{{_B}\dot{Z_1}}}$を$(2)$の${_A}\dot{V_2}$の式に代入すると、

$$\begin{align*}
{_B}\dot{V_0}+\frac{1}{2}\frac{a^2-a}{a-a^2}\dot{E_a}&-\frac{1}{2}(a^2+a)\left(1+\frac{{_A}\dot{Z_0}}{{_B}\dot{Z_1}}\right){_B}\dot{V_0}=-\frac{{_A}\dot{Z_1}}{{_B}\dot{Z_1}}{_B}\dot{V_0}\\\\
\therefore{_B}\dot{V_0}&=\frac{\displaystyle\frac{1}{2}}{\displaystyle\frac{3}{2}+\displaystyle\frac{1}{2}\frac{{_A}\dot{Z_0}}{{_B}\dot{Z_1}}+\frac{{_A}\dot{Z_1}}{{_B}\dot{Z_1}} }\dot{E_a}\\\\&= \frac{{_B}\dot{Z_1}}{{_A}\dot{Z_0}+2{_A}\dot{Z_1}+3{_B}\dot{Z_1}}\frac{\dot{V}}{\sqrt{3}}  ・・・(11)
\end{align*}$$

 

$(11)$式が求めるべき零相電圧である。

 

端子A-B間の零相電圧の式から求める方法

「二線断線時の故障計算」の$(25)$、端子A-B間の零相電圧$\dot{V_0}$の式

$$\dot{V_0}=-\frac{{_A}\dot{Z_0}+{_B}\dot{Z_0}}{{_A}\dot{Z_0}+{_B}\dot{Z_0}+{_A}\dot{Z_1}+{_B}\dot{Z_1}+{_A}\dot{Z_2}+{_B}\dot{Z_2}} \left({_A}\dot{E_a}-{_B}\dot{E_a}\right) ・・・(12)$$

から、${_B}\dot{V_0}$を直接求めてみる。

 

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$(3),\ (4)$の${_A}\dot{Z_0}$および${_B}\dot{Z_0}$の式から、$\dot{I_0}$を消去して、

$${_A}\dot{V_0}=-{_A}\dot{Z_0}\cdot\frac{{_B}\dot{V_0}}{{_B}\dot{Z_0}} ・・・(13)$$

 

$\dot{V_0}={_A}\dot{V_0}-{_B}\dot{V_0}$の式に$(13)$式を代入すると、

$$\begin{align*}
\dot{V_0}&=-{_A}\dot{Z_0}\cdot\frac{{_B}\dot{V_0}}{{_B}\dot{Z_0}}-{_B}\dot{V_0}\\\\
&=-\frac{{_A}\dot{Z_0}+{_B}\dot{Z_0}}{{_B}\dot{Z_0}}{_B}\dot{V_0}\\\\
\therefore{_B}\dot{V_0}&=-\frac{{_B}\dot{Z_0}}{{_A}\dot{Z_0}+{_B}\dot{Z_0}}\dot{V_0}  ・・・(14)
\end{align*}$$

 

$(14)$式に$(12)$式を代入して、

$$\begin{align*}
{_B}\dot{V_0}&=-\frac{{_B}\dot{Z_0}}{{_A}\dot{Z_0}+{_B}\dot{Z_0}}\dot{V_0}\\\\
&=\frac{{_B}\dot{Z_0}}{{_A}\dot{Z_0}+{_B}\dot{Z_0}+{_A}\dot{Z_1}+{_B}\dot{Z_1}+{_A}\dot{Z_2}+{_B}\dot{Z_2}} \left({_A}\dot{E_a}-{_B}\dot{E_a}\right) ・・・(15)
\end{align*}$$

 

$(15)$式で${_A}\dot{Z_1}={_A}\dot{Z_2},\ {_B}\dot{Z_0}={_B}\dot{Z_1}={_B}\dot{Z_2},\ {_A}\dot{E_a}-{_B}\dot{E_a}=\displaystyle{\frac{\dot{V}}{\sqrt{3}}}$とすれば、$(11)$式と同じ結果が得られる。

 

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